366日の奇跡

夏目とろ

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[第5章]ラブレター

02

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「わー、もう真っ暗」

 今日は初めて生徒会のメンバーと一緒に帰った。いつも最後まで残っているのは俺だけなんだけど、今日は会計の日向が手伝うと言ってくれたのだ。

「これ、番号順に並べればいいの?」
「ああ。頼む」

 日向に頼める仕事と言っても書類の整理ぐらいしかないんだけど、それでも。それだけでも随分助かった。

「鷹司、先帰っちゃったねー」
「ああ、うん」
「けど、鷹司。いつもあの時間まで残ってるんだ?」
「まあ。今日は特に大詰めだったから遅いしな」
「そうなんだ?」
「うん」

 日向はメンバーの中で唯一同じクラスだし、何かと一緒にいる機会が増えた。日向はいい意味でおバカでセレブ特有のプライドもなくて、話の内容も殆どないから話しやすい。
 庶務の二人にはまだ少し人見知りしてしまうが、日向や聞き上手な椿野とは普通に話せるようになった。佐倉はもともと一方的に話すから会話は殆ど成り立たないし、鷹司は相変わらずだし。それを考えると、日向は生徒会メンバーの中で一番気楽に話せる相手かも知れない。

「あ。羽柴、夕食どうするの?」
「あ、やば。注文するの忘れてた」
「注文?」
「あー、と。食材の。いつもまとめてネット注文しとくんだけど……」
「え?! もしかして鍋の他にも料理出来るの?!」
「あ、ああ。一通りのものは一応な。日向はやっぱ食って帰るのか?」
「うん。すげーね、羽柴。羽柴ってなんでも出来るんだー」
「出来るってか趣味だからな」
「え、料理が?」
「そ」

 日向と話していると気が抜けるって言うか。いい意味で肩の力が抜けて、不思議と槙村や他のクラスメートと同じように自然体でいられる。

「あ。俺、コンビニで買い物して行くから。じゃあな、日向」

 忙しい時に随分お世話になったコンビニの前を通る時に、ふと思い立ってそう言うと、

「コンビニ……、俺も行く!」

 わんこみたいに尻尾を振りつつ、日向が着いて来た。
 

「いらっしゃいませー」

 学生寮の一番手前の棟は様々な商業施設が入っていて、一階の一番目立つところには全国チェーンの某コンビニの柴咲学園支店がある。このコンビニは高等部からうちに通っている一般生徒の外部生が主に利用していて、取り扱い商品は基本的に全国展開しているものと同じものだ。

「コンビニ、初めて来た」
「マジか」

 いや、なんとなくそんな気はしてたけど。エリート組の行きつけの高級レストランではデザート付きのディナーがあり、大半はそれを夕御飯として食べているんだと思う。
 デザート付きだからお菓子やアイスの買い食いもしないだろうし、なんなら高級レストランで手土産にデザートを買って帰ったり、自分の部屋にメイン料理と一緒にデリバリーして貰ったりしているはずだ。

 特別棟の部屋にはもれなく高級レストランのメニュー表が置いてあり、ホテルのルームサービスのようにデリバリーも頼めるからわざわざお菓子を買う必要がないんだろう。なんなら高級フレンチの隣には、有名パティシェがプロデュースする高級洋菓子店もあるし。

「すげえね。生ハムやマスクメロンもあるんだ」
「いや、そこのエリアのはこの店にしかないよ」
「え、そうなの?」

 この店に入って直ぐのエリアは他の店にはない比較的高値の商品のコーナーになっていて、キャビアの缶詰やトリュフ、高級食材のフカヒレやインスタント(チンするだけ)のフカヒレスープまで置いてあるんだよな。
 デザートコーナーにも一口大の一切れが二千円とかのレアチーズケーキがあるし、このエリアだけは柴咲学園支店特有のものだったりする。

「こっから先は全国展開してるのと一緒」
「わ、CMやドラマで見たことある!」

 その向こうのお馴染みのエリアに足を踏み入れた途端、日向の目の色が変わった。

「ね、チップスってどれ?」
「チップス? ポテチのことか?」
「そうそう! それそれ」

 恐らくシェフの手作りだろうけどポテトチップスは食べたことがあるようで、日向は既製品の袋を見てはしゃいでいる。

「お会計して来るね!」
「ちょっと待った!」

 どうやら日向は一つ一つ会計すると思っているようで、

「このカゴを使うんだよ」
「あ! スーパーとかにある買い物カゴでしょ! テレビで見たことある。コンビニにもあるんだー」

 大喜びで俺から買い物カゴを受け取った。

「これなに?」

 駄菓子やスナック菓子、アイスキャンディーなんかもあまり食べたことがないらしく、日向は手にしたものを手当たり次第カゴに入れて行く。

「あ! ポッキーだ! この箱のはCMで見たことある」

 ポッキーはパフェなんかのデザートの飾りに使われることがあるから、食べたことがあるようだ。

「おいおい。そんなに食えるのか?」
「大丈夫。お菓子は日もちするよね?」

 因みに、ペットボトルで飲んでみたかったんだよねと日向が手に取ったのはコーラだった。さすがはお坊ちゃま。コーラもグラスに注がれたものしか飲んだことがなかったらしい。
 結局、日向は何種類かのおにぎりにコンビニ弁当、とどめにカップ麺まで買っていた。
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