366日の奇跡

夏目とろ

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[第6章]親衛隊と新メンバー

03 庵side (風紀)

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 全くもって学習しないやつだ。

「やっぱここにいたか、バカ司」

 馬鹿の一つ覚えのように、鷹司は何かある度にここに来たがる。煙となんとやらは高い所に昇りたがると言うが、この辺りで一番空に近いこの場所は本来は立入禁止の場所なのに、だ。
 カードキーは公共の場を覗いて廃止されたが、鷹司始め羽柴以外の生徒会役員はこの生徒会室が見える屋上の鍵をセキュリティ管理している腕時計に登録しているらしい。かくいう俺も登録しているが、俺の場合は校内に限っては殆どの場所の鍵の開け閉めが出来るようになっている。

 プライベートも何もあったもんじゃないと思われるかも知れないが、鍵の掛かる場所に連れ込んで悪さをするやつが少なからずいるのだから仕方ない。学生寮までは力が及ばないが、校内に限っては生徒会以上の力を持っているのが風紀委員だ。鷹司は忌ま忌ましげに舌打ちをすると、誰もいない生徒会室から視線を外した。

「……なんの用だ」

 なんやかんや言って、鷹司は俺を否定しない。去年までの鷹司は権力を傘にしてやりたい放題だったが、生徒会役員に就いてそれなりに自覚も出て来た。風紀と生徒会は犬猿の仲だと言われてはいるが、お互いに協力し合わないと成り立たないからだ。

「別に。動揺してるだろう馬鹿の顔を見てやろうと思ってさ」
「……っっ」

 鷹司の隣に立ち、心を見透かすようにそう言うと、鷹司は悔しげに唇を噛みながら屋上から出て行った。

「んー、ちょーっと虐めすぎたかなあ」

 と言いつつ滅多に顔色を変えないやつが動揺している様は端から見ていて面白い。鷹司は羽柴と和解してからこちら、羽柴の一挙一動にいちいち反応するようになった。

(やっぱ、あれかな。二度も羽柴が倒れた場面に居合わせたからか)

 実は俺がこの場所から鷹司と一緒にその場面に遭遇した後にも、鷹司は羽柴が倒れた場面に遭遇していた。

『橘、今すぐ生徒会室に来い!』

 鷹司から初めて電話が来たのは羽柴が二度目に倒れたその時で、命令口調ながら慌てている気配に急行したら鷹司が生徒会室の前で待っていた。ボイコットの真っ最中だった鷹司はあらかじめ登録されていた生徒会室の鍵を削除してしまったらしく、苦汁くじゅうの思いで俺に電話を寄越したのだ。
 仕事の相互関係もあり、生徒会役員と風紀委員会の役員はお互いに連絡先を交換している。面倒臭いという理由で鷹司が俺の電話番号を削除しなかったことが幸いし、羽柴が倒れている生徒会室の鍵を開けることが出来た。

『羽柴!』

 それから鷹司は羽柴を横抱きに抱き上げ、保健室に駆け込んだ。その後、前回倒れた時からさほど間が空いていなかったこともあり、羽柴は近くの病院に入院することになり。

「……んとに。意地っ張りにも程があるだろ」

 あの時の鷹司の必死な顔が忘れられない。入院してからも心配だっただろうに、結局は一度もお見舞いには行かなかった。その間に羽柴はリコールされ、鷹司が会長になった。結局、羽柴は鷹司が自分を保健室に運んでくれたことも知らないままだ。
 その時の鷹司の気持ちを思うと複雑な気分になる。その羽柴が会長に戻り生徒会が正常に動き始めたばかりなのに、羽柴に恋愛問題が持ち上がったのだ。

 新入生からラブレターを貰った羽柴。そのラブレターがことほか真剣なものだったから、羽柴は俺達に相談を持ち掛けて来た。
 相談と言ってもそれぞれの今までの恋愛事情を聞くだけのものだったが、まだ誰とも真剣に付き合ったことがなく、男女ともにセフレが何人もいる鷹司にとっては苦い出来事になっただろう。秘密にしている古傷を暴かれたようで、俺もそれなりの苦いものになったけど。

「羽柴がそいつと付き合うことはなさそうだけど……」

 俺のことは置いといて、羽柴に親衛隊が出来たことだし、これからはもっと惚れた晴れたのあれこれに触れる機会が増えるだろう。生徒会は週末までに新入生の中から会長補佐を選ばなきゃならなくて、羽柴にまつわる人間が増えることになるし。

「多分、『あいつ』を任命するだろうしな」

 その結果、鷹司の置かれる立場も変わることになるだろう。

「羽柴に恋人、か。異性に限らず選択肢は多い方がいいんだろうけど……」

 複雑なのは俺も同じだ。

 鷹司が出て行った昇降口に向かいながら、思わず溜息をつく。今日は久しぶりの晴天で、あまりの眩しさに制服の袖で太陽を隠して空を見上げた。
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