新たな日々

綿花

文字の大きさ
1 / 1

新たな日々

しおりを挟む
 今週からリアル・オフィスへの出社だった。
 いまの会社はパンデミックの最中に入社して、入社初日からフルリモートの勤務だった。同僚との仕事はインターネット越しでしかしたことがない。と言っても、前職はフルリモートではなかったから、はじめてのリアル・オフィス勤務でもなかった。それでも三年ぶりだ。
久しぶりに朝、早く起きて、寝間着からオフィスで見栄えがいいビジネスカジュアルに着替えた。数年ぶりにジャケットへ袖を通した。玄関のドアを開けて、外で出る時は緊張した。女性が久々にセックスする時はこんな感じかもしれない。この状況を受け入れるのにとまどった。身体がまだ、リモートモードのままだった。リモート勤務中にコンビニにランチを買いに行くのとは違う感覚だった。
駅について電車に乗る。あれ、こんなにも空いていたかと思った。座れるほどではないが、スマホを出せないほども混んでいない。肩や背中もぶつからなかった。パンデミック前より快適だった。
急行に乗り20分もするとオフィスについた。オフィスに着いて、マネージャーにLINEをした。マネージャーが受付へ来て。オフィスを案内してくれた。オフィスには固定座席がない。フリーアドレスだった。いつも使っているノートPCでそのまま仕事をすればいいということだった。今日は、マネージャーの隣の席に座った。
 一番、おどろいたのはマネージャーがよくしゃべることだった。リモートだと丸一日、チャットをしないこともあったが、リアルで隣にいるとよく話す。
 もちろん、ビジネスをやっているから仕事に関することが一番、多かったが。今年の夏は暑くなるよね??コーヒーはジョージアとボスのどっちが好き?このノートPCは使いづらいよね?とか、他愛のない話も多かった。この人がこんなに話好きとは思わなかった。だが心地いい。リモートより一緒に仕事している満足感があった。仕事自体もマネージャーと細かなところを詰められて順調に進んだ。
 ランチはマネージャーがおごるから一緒に食いに行こうと誘ってくれた。居酒屋ランチへ二人に行った。二人とも日替わりのポークジンジャーを食べた。久々のビジネス街でのランチ。リモートの時はコンビニ・ランチだったから、ご飯の多くみそ汁もついている居酒屋ランチは食べ応えがあった。できたての暖かい食料。おいしかった。
 マネージャーは日曜日、家族で出かけたアウトレットで子どもが迷子になって大変だったことを話してくれた。子どもが迷子になり、泣き止まないので、泣き止ますために遅い時間だったけど、子どもが好きな回転ずしへ行ったこと。子どもが好きなサーモンを家族であわせて10皿も食べて、みんな幸せになったと。
 ランチからオフィスへ戻ると、総務からチャットに経費精算で僕のミスがあったから、来てくれないかと入った。僕は総務部に行った。しかし、担当の女性が見当たらない。
 そんな僕に総務部の担当は気づいたのか、声をかけてくれた。一瞬、誰かがわからなかった。リモートのディスプレイ越しに会ったことがある同じ女性だが、輝きが違う。マスクを外して、きちんとした服を着て、薄い化粧をしていた。声もネットワーク越しより澄んでいた。なによりも黒々としたショートカットがモニターで見るよりうるわしかった。
 僕は彼女に見とれていた。それに彼女は気づいて。
「あの、手続きをしないと」と恥ずかし気に言った。
 僕は恋をしたかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

兄になった姉

廣瀬純七
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

カクヨムでアカウント抹消されました。

たかつき
エッセイ・ノンフィクション
カクヨムでアカウント抹消された話。

兄の悪戯

廣瀬純七
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...