ち○○で楽しむ異世界生活

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6 王妃

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 窓が無い屋内の部屋。おそらく密談に使われるような部屋なのだろう。
 「よく眠れたかな?アラヒト殿」
 「おかげさまで」
 サーシャの顔を見て王妃は言った。
 「ふむ・・・サーシャを抱いたのか。王はこれを抱かないと思っていたのだがな」
 やはりこの世界でアラサーは行き遅れなのか。もっとも成熟しつつ若さを残した一番抱きやすい年頃だと思うんだけれども、まぁこれは俺の主観だ。
 「さて。短い時間ではあるが、サーシャからこの国の現状は聞いたであろう。亡命でもするのであれば、隣国に連絡のひとつでもしてやろうぞ」 
 そこまで読んでいたか。まぁそう言いつつも美しい顔の眉ひとつ動かさずに、俺を毒殺でもするかもしれない。他国に渡すよりは殺すという発想があってもおかしくはない。
 「亡命する気はありません」
 「この国に留まるのはそなたに利が無いであろう」
 「ここは女性が美しいです。国が消えたら女性たちがどうなるか。想像するだけでも恐ろしいです」
 王妃は扇で顔を隠しながら大笑いした。
 「女のために国を守るか。だが戦えるほどの力はペテルグには無いぞ」
 「戦をするだけが国防ではありません。追い払えれば良いのです」
 「ほう・・・たった一晩で妙案でも思いついたか?」
 俺は手帳をポケットから取り出した。
 「これをご覧になってください」
 「・・・まったく分からん。これは?」
 「異世界の秘儀のようなものです。最低でも土地の測量を早く簡素に行うことができます」
 王妃の目の色が変わった。
 「・・・最低でも?」
 「私自身、これを長らく使っていないので忘れているのです。使いようによっては巨大な軍事力をこのペテルグ一国だけで身につけることができます」
 「この呪文が?にわかには信じがたいな」
 「測量に10人ほど人をお借りできないでしょうか。それに長いロープとできるだけ丸い車輪をいくつか貸していただきたい」
 「ふーむ・・・まぁ害は無いだろう。午後にでもやってみるがいい」
 とりあえずは土地の測量、それに地形を理解することはできそうだ。詳細な地図があれば物流も理解できる。最終的には兵站の概念自体が変わるだろう。国内を自由に動き回る許可も欲しいのだが、それは信用を得てからということだな。

 「ああ、アラヒト殿が我が国に残ると決められたのなら手配しておくことがあるな。アラヒト殿のための屋敷は数日中に用意する。工房も好きにのぞいてもらって構わん。自由にできるだけの金銭も出そう」
 しばらくは俺の品定めというわけか。
 「サーシャ。この手帳を預かってくれ。俺が持っているよりは安全だろう」
 サーシャは王妃の顔を伺い、王妃は目を閉じて黙って頷いた。
 「お預かりします」
 今日の分の話はこれで終わったのだろう。解散という雰囲気だな。
 「私からも質問してよろしいでしょうか?」
 「構わん。なんだ?」
 聞き方を間違えたら首が飛ぶな。
 「王妃様がなぜ直接に政治をなさっているのでしょうか?」
 「・・・夫が殺されたからだよ。今の夫はその弟にあたる。ペテルグの民であるなら皆知っていることだ」
 戦争に負けて統治能力が弱い王をあてがわれたというあたりか。
 「あれも悪い男では無い。たんに為政者としてはあまり期待できぬというだけだ。戦士としては優秀なのだがな」
 王妃の表情を見るに、先代の王はそれなりに優秀だったと見える。いい夫婦だったのだろうな。その優秀な先代王であっても他国を追い払えなかったか。俺に期待されているのは、その先代王以上の手腕というわけか。なかなかハードルが高い。

 自国の底上げ以上に、相手国との力量差が分からない。
 現状の軍事力と外交で侵略さえ防ぐことができれば、あとは内政によってしっかりと強くすればいい。でもその内政の状況もよく分からないんだよな。国民全員が食えているのか?働けているのか?浮浪者は?
 「良い目をしておる。先代も民のことを考えている時はそういう顔付きだった」
 「負けない国にするには、私はあまりにも知らないことが多すぎて困ります」
 「夜には部屋に宰相を送ってやろう。我が国の現状を理解してもらった方がいい」
 顔付きだけで品定めをされた、ということでは無さそうだ。この国の宰相なら俺に教えていい知識と、教えてはダメな知識を選べるということだろう。
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