27 / 111
27 職人
しおりを挟む
「例のボウガンってやつなんですけれど、機構のところが難しいです」
「俺たちの技術と手持ちの木だけでは壊れるんですよね」
我が家に仕事に来る親方と助手の二人だ。応接室に通して茶を飲んでもらった。羊皮紙を広げて図面を説明してくれている。
「こないだの連弩も相当に厳しいですよ。特にあの大岩を止めるからくりのところは強度的にギリギリです」
うーん、やはり機構が複雑になると壊れやすくなるか。仕事で車に使う部品を扱っていた時に、設計者の人に話を聞いたことがある。どんな機械であっても可能な限りシンプルに、それでいて必要な機能だけを作れば壊れにくくなるのだそうだ。考えてみれば当たり前なのだが、指摘されるまで気づきづらい。
木でギヤや減速機を作るのは難しいのだろうか?ましてやあれを実戦投入する事を考えると、もっと簡単な仕組みの方がいいのかな。しかしこの国で使える素材は木と石だけだしなぁ。
「ギヤはやはり難しいんですか?」
「難しいですね。熱も出ちゃいますし、摩耗しますし、軸も折れますし・・・」
「それでですね。俺たちでは難しいんですが、こういうものでも作れそうな人がいるんですよ。外部に情報を出したらマズいという話だったんですが、図面通りのものを作る必要があるんでしたらその人を頼るしか無いので。俺らでは無理です」
・・・ん?逆に言えば壊れないギヤや減速機を作れるレベルの職人がいるということなのか?
「その職人さんの名前は?」
「ユーリさんです。木を扱う仕事をさせたらこの国一番です」
「この家にある机や椅子もユーリさんの仕事っすね。他の国でも売れる最高級品ですよ」
あれ。
「家具職人さん、ですか?」
「ユーリさんはなんでも作りますよ」
「ただ武器を作ったという話は聞いたことが無いんで・・・作ってもらえるかどうかまではちょっと分からないです」
ふーむ。この国一番の木工職人か。会ってみたいし、できれば力を貸してもらいたいな。
「サーシャ。うちで作っているものをそのユーリさんに見せても大丈夫か?」
「外部に漏れなければなんの問題もありませんが・・・ユーリ様はかなり気難しい方だと聞いていますよ?それに人嫌いでほとんど誰とも会っていないようですし、王宮からの要請すら突っぱねると聞いています」
相当のへそ曲がりのようだ。
「なんでも作っちゃうような人なんだろう?それほどの好奇心がある人なら、異世界人にも興味があるんじゃないのか?協力してもらえるかどうかは別にして、そんな凄い人がいるなら俺も会ってみたいよ」
「それでしたら明日にでも訪ねてみましょうか?」
連絡取らなくて大丈夫なのかと思ったが、この世界ではアポイントの取りようが無い。とりあえず行ってみるしかないか。
「あのっ!俺らも行ってみていいっすか?」
「やっぱり憧れなんですよ、ユーリさんは!」
二人ともスポーツ選手に憧れる少年のような顔つきになっているが・・・
「人嫌いの相手に大勢で押しかける気は無いよ。俺とサーシャだけで行ってくる」
「ああ・・・そうっすよね・・・」
そんなにしょんぼりしないで欲しいなぁ。
「まぁ会えるかどうかも分からない人だし。二人が会いたがっていたということはちゃんと伝えるよ」
うちに来ている職人たちも決して腕が悪いワケでは無い。連弩をそれなりの完成度で作り、木製鎧のたたき台を作ったのは彼らなのだ。その彼らが憧れるほどの職人なら是非とも会ってみたい。
馬を飛ばして三時間ほどで小さな村へ到着した。慣れてくると馬もなかなかいいものだな。バイクとは違う楽しさがある。世話が大変だけれど俺がするわけじゃないし。ただ、まだ遠乗りをすると腰が痛くなるな。
「こちらのお宅のはずですね」
家、というよりも大型倉庫に近いな。こんな大きな作業場でなにを作っているのだろう。
「どちら様でしょうか?」
呼び鈴を鳴らすと小間使いらしき少女が出てきた。金髪ばかりのこの世界には珍しい栗色の髪に青い目。キッチュという雰囲気が良く似合う顔つきの少女だ。
「私はアラヒトと申します。ユーリさんにお会いしたくて本日は伺ったのですが、ご在宅でしょうか?」
「ユーリさんは居ますけれど、今日もよく分からないことを言ってますよ。お話ができるかどうかは分かりませんが、まずはおあがりください」
小間使いの方に導かれて、家の中に入る。
大型の作業所の中に、生活空間用のプレハブ住宅のような部屋を作っている。
「なん・・・ですかこれは・・・」
目の前にあるこれは・・・フォルムが独特だが大型のグライダーみたいだな。木と石しかないような世界で、空を飛ぶことを想像できる人間がいるのか。まぁサーシャが驚くのも無理は無い。この時代にこれはかなり突飛だ。
「従者を連れているということは王宮か貴族の人かね?」
鼻の下は刈り取られているが、頬からアゴにかけて立派なヒゲの持ち主だ。時間をかけて身に着けた熟練の渋さというものを身に纏っている。年齢は俺より上だろうが、立派な体つきだな。彼がユーリという名の職人か。
「私がいま作っているこれで、いったいなにをしたいのか当てられたら話を聞こう」
「誰も当てられませんよ。私が聞いても意味が分かりませんもの」
こういう時は現代知識のありがたみを感じるな。
「空を飛びたいんですか?」
「えっ、なんで分かったんですか?」
小間使いの少女が、ユーリさんの考えが分かる変人が来たという顔で見ている。
「ほう・・・いや、よく見るとあなたは・・・異世界から来たという噂の方ですかな?」
また顔で判断されたな。自分では格別にブサイクな顔だとは思わないが、いちいちこういう事があると少しハラが立つな。
「アラヒトと言います。おっしゃる通り異世界人です」
「客人を試すような真似をして済まなかった。どうにも本質の分からぬ愚か者ばかりが私の工房を見たがってね。私がユーリだ」
俺とサーシャだけで来て良かったな。うちの職人を連れてきてたら追い返されていたかもしれない。
「俺たちの技術と手持ちの木だけでは壊れるんですよね」
我が家に仕事に来る親方と助手の二人だ。応接室に通して茶を飲んでもらった。羊皮紙を広げて図面を説明してくれている。
「こないだの連弩も相当に厳しいですよ。特にあの大岩を止めるからくりのところは強度的にギリギリです」
うーん、やはり機構が複雑になると壊れやすくなるか。仕事で車に使う部品を扱っていた時に、設計者の人に話を聞いたことがある。どんな機械であっても可能な限りシンプルに、それでいて必要な機能だけを作れば壊れにくくなるのだそうだ。考えてみれば当たり前なのだが、指摘されるまで気づきづらい。
木でギヤや減速機を作るのは難しいのだろうか?ましてやあれを実戦投入する事を考えると、もっと簡単な仕組みの方がいいのかな。しかしこの国で使える素材は木と石だけだしなぁ。
「ギヤはやはり難しいんですか?」
「難しいですね。熱も出ちゃいますし、摩耗しますし、軸も折れますし・・・」
「それでですね。俺たちでは難しいんですが、こういうものでも作れそうな人がいるんですよ。外部に情報を出したらマズいという話だったんですが、図面通りのものを作る必要があるんでしたらその人を頼るしか無いので。俺らでは無理です」
・・・ん?逆に言えば壊れないギヤや減速機を作れるレベルの職人がいるということなのか?
「その職人さんの名前は?」
「ユーリさんです。木を扱う仕事をさせたらこの国一番です」
「この家にある机や椅子もユーリさんの仕事っすね。他の国でも売れる最高級品ですよ」
あれ。
「家具職人さん、ですか?」
「ユーリさんはなんでも作りますよ」
「ただ武器を作ったという話は聞いたことが無いんで・・・作ってもらえるかどうかまではちょっと分からないです」
ふーむ。この国一番の木工職人か。会ってみたいし、できれば力を貸してもらいたいな。
「サーシャ。うちで作っているものをそのユーリさんに見せても大丈夫か?」
「外部に漏れなければなんの問題もありませんが・・・ユーリ様はかなり気難しい方だと聞いていますよ?それに人嫌いでほとんど誰とも会っていないようですし、王宮からの要請すら突っぱねると聞いています」
相当のへそ曲がりのようだ。
「なんでも作っちゃうような人なんだろう?それほどの好奇心がある人なら、異世界人にも興味があるんじゃないのか?協力してもらえるかどうかは別にして、そんな凄い人がいるなら俺も会ってみたいよ」
「それでしたら明日にでも訪ねてみましょうか?」
連絡取らなくて大丈夫なのかと思ったが、この世界ではアポイントの取りようが無い。とりあえず行ってみるしかないか。
「あのっ!俺らも行ってみていいっすか?」
「やっぱり憧れなんですよ、ユーリさんは!」
二人ともスポーツ選手に憧れる少年のような顔つきになっているが・・・
「人嫌いの相手に大勢で押しかける気は無いよ。俺とサーシャだけで行ってくる」
「ああ・・・そうっすよね・・・」
そんなにしょんぼりしないで欲しいなぁ。
「まぁ会えるかどうかも分からない人だし。二人が会いたがっていたということはちゃんと伝えるよ」
うちに来ている職人たちも決して腕が悪いワケでは無い。連弩をそれなりの完成度で作り、木製鎧のたたき台を作ったのは彼らなのだ。その彼らが憧れるほどの職人なら是非とも会ってみたい。
馬を飛ばして三時間ほどで小さな村へ到着した。慣れてくると馬もなかなかいいものだな。バイクとは違う楽しさがある。世話が大変だけれど俺がするわけじゃないし。ただ、まだ遠乗りをすると腰が痛くなるな。
「こちらのお宅のはずですね」
家、というよりも大型倉庫に近いな。こんな大きな作業場でなにを作っているのだろう。
「どちら様でしょうか?」
呼び鈴を鳴らすと小間使いらしき少女が出てきた。金髪ばかりのこの世界には珍しい栗色の髪に青い目。キッチュという雰囲気が良く似合う顔つきの少女だ。
「私はアラヒトと申します。ユーリさんにお会いしたくて本日は伺ったのですが、ご在宅でしょうか?」
「ユーリさんは居ますけれど、今日もよく分からないことを言ってますよ。お話ができるかどうかは分かりませんが、まずはおあがりください」
小間使いの方に導かれて、家の中に入る。
大型の作業所の中に、生活空間用のプレハブ住宅のような部屋を作っている。
「なん・・・ですかこれは・・・」
目の前にあるこれは・・・フォルムが独特だが大型のグライダーみたいだな。木と石しかないような世界で、空を飛ぶことを想像できる人間がいるのか。まぁサーシャが驚くのも無理は無い。この時代にこれはかなり突飛だ。
「従者を連れているということは王宮か貴族の人かね?」
鼻の下は刈り取られているが、頬からアゴにかけて立派なヒゲの持ち主だ。時間をかけて身に着けた熟練の渋さというものを身に纏っている。年齢は俺より上だろうが、立派な体つきだな。彼がユーリという名の職人か。
「私がいま作っているこれで、いったいなにをしたいのか当てられたら話を聞こう」
「誰も当てられませんよ。私が聞いても意味が分かりませんもの」
こういう時は現代知識のありがたみを感じるな。
「空を飛びたいんですか?」
「えっ、なんで分かったんですか?」
小間使いの少女が、ユーリさんの考えが分かる変人が来たという顔で見ている。
「ほう・・・いや、よく見るとあなたは・・・異世界から来たという噂の方ですかな?」
また顔で判断されたな。自分では格別にブサイクな顔だとは思わないが、いちいちこういう事があると少しハラが立つな。
「アラヒトと言います。おっしゃる通り異世界人です」
「客人を試すような真似をして済まなかった。どうにも本質の分からぬ愚か者ばかりが私の工房を見たがってね。私がユーリだ」
俺とサーシャだけで来て良かったな。うちの職人を連れてきてたら追い返されていたかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる