ち○○で楽しむ異世界生活

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63 星辰

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 数学の一部を教えるとして・・・どこまで教えたらいいんだろうなぁ?無理数と代数幾何と微積分も教えてみるか。対数も教えたいけれど、これはデカい商売をしている人間か、国しか使わないものだからなぁ。あとはグラフかな。棒グラフや円グラフのような一般的なグラフは、数学が苦手な人でも分かりやすい。
 カリキュラムを練っていると、来客があった。宰相のカラシフだ。
 
 「アラヒトさん、酷いじゃないですか!」
 理由は分からないが、やたら興奮して怒っている。
 「なにを怒っているんですか?」
 「学校の内容ですよ!私のような国の人間よりも先に教えてどうするんですか?」
 ・・・あぁ、そういう事か。子どもたちのやる気に触発されて、まったくカラシフたちの事が頭に無かった。たしかに情報漏れとかマズいよな。
 「配慮が足りませんでした。すみません」
 「分かっていただければいいです。学校で教えるのは良くないと思いますよ」
 カラシフの言う通りだな。
 「王城の一部を借りて、優秀な子どもたちだけに教えましょうか?」
 「そうしてください。あと私より先にものを誰かに教えないでくださいよ!」
 カラシフの知識欲はちょっと恐ろしさすら感じるな。うーん・・・
 「先にカラシフ宰相とその部下の方々に教えて、その後に彼らに学校で教えてもらうというかたちでどうでしょうか?」
 「それでいきましょう。で、今書いているものはその教える内容ですよね?」
 「ええ。ちょっと見てみますか?」

 食い入るようにカラシフが読んでいる。
 「文字は特殊で分からないが、これは円の面積か。こちらは・・・まったく分かりませんね。足したり掛けたりしているのは理解できるんですが・・・」
 ブツブツと紙に話しかけているうちに、カラシフの機嫌が直ってきたようだ。
 「より高度な方法で面積や体積を求めるために必要なものです。この数式が下地になって、ようやく理解できます」
 初見で二次関数まで理解されたら教える事が無い。
 俺はその辺の紙に適当なグラフを書いた。
 「例えばこういうかたちがあるとすると、この軸二つに対しての角度が分かります。角度が分かるということは、その変化量も分かるということなんですよ」
 「まったく分かりません・・・いや・・・どこかで似たようなものを見た気がします・・・」
 「星辰の話ではありませんか?」
 サーシャが助け船を出した。星辰ってなんだ?
 「ああ!そうです!預言者様に仕える人たちが似たような問題で考え込んでいたのを見たんですよ」
 「預言者様とその従者様は、星の動きで暦を作ったり運命を読んだりするんです」
 ああそうか。もとの世界と物理法則が同じってことは、星が動く仕組みも同じってことだ。
 一瞬物理学も知っていることを教えた方がいいのかと思ったけれど、こちらは軍事とか技術者の方に教えた方がいいな。この世界では建築物の強度とか、天気の仕組みとか、風力水力の効率化のようなものばかりになるだろうけれど。

 それにしても運命を読むのか・・・精霊と話せるんだから星占いなんかとは次元が違うだろうな。
 「変化量・・・そうか・・・アラヒトさん、この前にリーベリの貨幣鋳造量についてサーシャに聞いていましたね?・・・ああ、なるほど。そうやって使うのか・・・」
 この男、どれだけカンがいいんだ。
 「一年に10%貨幣が増えるとしたら、ざっと10年で価値が半分になっちゃうんですよ」
 雑な説明だが、この間まで数字すら無かった世界ではこういう説明しかできない。カラシフは噛みしめるように納得している。
 「あとは物の増減ですね。一年でどれくらい増えるのか、とか」
 俺は線グラフでざっくりと説明した。10年でだいたい4倍くらいに増えるのが現実的だろう。新年度の作付計画も既に預言者様と王妃の承認が済んでいる。
 「・・・こんなに増えますかね?」
 「増えると思いますよ。十年もかからないかもしれません」

 ・・・カラシフと話していて気づいたけれど、普通の授業形式でやらない方がいいな。
 具体例を挙げつつ、ゼミ形式で教えた方が効率がいい気がしてきた。
 オッサンなので人にものを教えた経験もあるが、大学の先生の真似事をするとは思わなかった。さすがにゼミなどという単語が頭に浮かぶと恩師の顔が浮かぶ。
 先生、俺は異世界に飛ばされてもなんとかやってます。
 というかけっこううまくやれている方だと思います。毎晩のように美女を抱けるし。
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