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75 開戦
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さんざんユーリさんとの議論に付き合わされてからユーリさんの家で寝かせてもらって、ようやく昼には屋敷に戻ってくれた。
どうにも引っかかることがあって、自室で色々と次についての考えを練っている。
以前にユーリさんの家を訪ねた時には、孤児について示唆されて学校を作った。
孤児ほど数は多くは無いが、この世界では何をしてどうやって生きているのか一見して分からない大人の人間がわりと多い。定時に働いている人間が少ないというのもあるが、単純に仕事が少ないのだろうか?
いや、仕事自体はある。子どもを労働力に組み込むくらいなのだから。
仕事と人間をマッチングさせるための組織や組合というものが無いだけだ。
貨幣の流通を前にそういう仕組みを作ってしまう、というのも考え方としてはアリだな。草むしりから野生動物の狩りに子守から傭兵まで、仕事と人間をマッチングさせる仕組みがあってもいい。対価は食料や酒で払い、貨幣の流通とともに貨幣で対価を支払うようにすれば、貨幣というものにも馴染みが出てくるかもしれない。
ついでにその組織で身分保障ができたら、依頼される仕事のやりがいもあるだろう。対価と罰則についての詳細な検討が必要になるか。
・・・ん?
これ、ギルドだな。ゲームとかで見たことがあるやつだ。
うまいこと機能してくれれば、貨幣流通と社会生産性と失業の問題が解決する妙手のような気がする。
さてと。
まずは水道橋が先か。城には井戸があるが、城下町には水が無い。せめて上水道だけでも通せば、水汲みの手間がずいぶんとラクになるし、一般庶民も風呂に入れる。こういう世界では流行り病が怖いから、銭湯や風呂による予防医学はマストだ。公共事業だから失業者対策と治安維持の両方が期待できるかな。
次にギルドだな。
いちおうカラシフにギルドの仕組みで不備が無いのか考えてもらって、どの程度の予算で実行できるのか考えてもらわなくてもいけない。
第三段として戸籍かな。少なくとも城下町に住む人たちには住所があったほうがいい。税の徴収もスムーズになるし、困った時に備蓄を出すにしてもある程度は数を把握できた方が動きやすい。
ドワーフたちに作ってもらうものも多いな。
爆発はしたが、水力ふいごで空気を圧縮するという発想は面白かった。さらなる高温窯が作れるならば、手に入る金属すべての純度が上がる。面白い合金とかも作れるかもな。
金属加工が一段落したら金属製の歯車も作れるだろう。減速機が作れたら現在の水力風力で作られる自然エネルギーがより効率的になる。
ゼンマイが作れるようになったら、時計も作れるようになるかもしれない。時計があったら預言者様の預言の精度も上がるかもな。・・・そういや預言者様って天地の障り以外にもなにか預言ができるのかな?
既に針金は作れるようになっているのだから、ばねを作ってもらって、マットレスも作ってもらうか。どうにも床が固いと、布団を敷いていてもあちこち痛い。
圧縮できる金属筒が作れたら、熱交換器は意外とどうにかできちゃうかもしれないな。なによりもエンジンが作れる。風力や水力に頼らないエネルギー源は魅力的だ。
いや待て。金属筒が作れるのであれば、多くのものが精錬できてしまうな。石油が発見できたなら、化学的に作れるものも増えるんじゃないだろうか・・・いや、その前に金属加工用の工作機械か。
ドワーフに頼む優先順位としては、実験用の高温窯が先。次に歯車かな。差し油も必要になるが、植物油でどうにかならないかな。獣脂は思っていたよりも粘性が高くて使えないんだよな。
技術的に可能になりそうな部分をカラシフとムサエフ、それにハリスと検討した上でロードマップを作るべきか。とりあえず整理しておいて三人で詰めてから上奏してみよう。
「失礼します」
考え事を紙に書きながらまとめていたら、ノックをしてサーシャが入ってきた。
「吉報が入りました。狼煙の色は黒。軍部の読み通りでしたね」
よっしゃ。読みが当たったか。
「俺も砦まで行った方がいいかな?」
「ムサエフ将軍ができれば砦まで来てほしいとのことです」
戦場近くにまで俺が出るのも、最後になるかもしれないな。そもそも戦の前準備こそが俺の仕事で、実際に血を流す戦いはこの世界の人たちにやってもらうしかない。俺は戦えないしな。
「よし。今の仕事をすぐに片づける、馬の用意をしておいてくれ」
黒い狼煙が上がったということは、チュノス軍はペテルグ軍部と俺が考えた罠にきちんと引っかかったということになる。
秋の間にやっておいた会議を思い出す。
次にチュノスが攻めてくる場合、防御力を捨てて機動力で一気にペテルグの北へと侵攻してくるのではないか、というのが大方の予想だった。つまり騎馬による一撃離脱により、交戦を減らして食糧だけを狙ってくるのではないかと。仮に狙った食糧が無ければ拠点を潰して、お家芸の重装歩兵が出てくるのではないかと。
「食糧が足りていない場合、撃退後のチュノスどう動くのかが分かりません。追い詰められればネズミも猫に噛みつきますから」
「我が軍の練度も気がかりです。捕虜交換でかなりの捕虜が戻ってきましたが、秋に帰って来ても春に軍人として動くとなると、練兵は間に合わないかもしれません」
数と武器で勝っているとしても、気を抜くことなどできない。
というわけで、捕虜生活で特に肉体的なダメージが回復しきっていない兵に、工兵という科目を提案してみた。座学も多いのであまり肉体的にはキツくは無い。彼らは衝車や連弩といった複雑な機械や道具を扱う科目だ。
ドワーフたちのおかげでそれなりの強度のある針金を作る事ができた。工兵たちにはチュノスとペテルグを結ぶ隘路にこっそり針金で罠をしかけてもらった。ロープよりも細く、頑丈で、設置撤収も迅速に行える。
機動力を封じられた馬から敵兵が叩き落とされて、そこを弓兵とボウガン兵で叩く。
狼煙が黒かったということは、隘路でチュノスの奇襲を叩き、工兵が罠を撤去し、以前奪還した砦までの進軍まで成功したことを意味する。
ここからが本番だ。
難攻不落の城攻め。
現地に行ってみないことには、野戦になるのか攻城戦になるのか兵站戦になるのか、まるで分からない。
どうにも引っかかることがあって、自室で色々と次についての考えを練っている。
以前にユーリさんの家を訪ねた時には、孤児について示唆されて学校を作った。
孤児ほど数は多くは無いが、この世界では何をしてどうやって生きているのか一見して分からない大人の人間がわりと多い。定時に働いている人間が少ないというのもあるが、単純に仕事が少ないのだろうか?
いや、仕事自体はある。子どもを労働力に組み込むくらいなのだから。
仕事と人間をマッチングさせるための組織や組合というものが無いだけだ。
貨幣の流通を前にそういう仕組みを作ってしまう、というのも考え方としてはアリだな。草むしりから野生動物の狩りに子守から傭兵まで、仕事と人間をマッチングさせる仕組みがあってもいい。対価は食料や酒で払い、貨幣の流通とともに貨幣で対価を支払うようにすれば、貨幣というものにも馴染みが出てくるかもしれない。
ついでにその組織で身分保障ができたら、依頼される仕事のやりがいもあるだろう。対価と罰則についての詳細な検討が必要になるか。
・・・ん?
これ、ギルドだな。ゲームとかで見たことがあるやつだ。
うまいこと機能してくれれば、貨幣流通と社会生産性と失業の問題が解決する妙手のような気がする。
さてと。
まずは水道橋が先か。城には井戸があるが、城下町には水が無い。せめて上水道だけでも通せば、水汲みの手間がずいぶんとラクになるし、一般庶民も風呂に入れる。こういう世界では流行り病が怖いから、銭湯や風呂による予防医学はマストだ。公共事業だから失業者対策と治安維持の両方が期待できるかな。
次にギルドだな。
いちおうカラシフにギルドの仕組みで不備が無いのか考えてもらって、どの程度の予算で実行できるのか考えてもらわなくてもいけない。
第三段として戸籍かな。少なくとも城下町に住む人たちには住所があったほうがいい。税の徴収もスムーズになるし、困った時に備蓄を出すにしてもある程度は数を把握できた方が動きやすい。
ドワーフたちに作ってもらうものも多いな。
爆発はしたが、水力ふいごで空気を圧縮するという発想は面白かった。さらなる高温窯が作れるならば、手に入る金属すべての純度が上がる。面白い合金とかも作れるかもな。
金属加工が一段落したら金属製の歯車も作れるだろう。減速機が作れたら現在の水力風力で作られる自然エネルギーがより効率的になる。
ゼンマイが作れるようになったら、時計も作れるようになるかもしれない。時計があったら預言者様の預言の精度も上がるかもな。・・・そういや預言者様って天地の障り以外にもなにか預言ができるのかな?
既に針金は作れるようになっているのだから、ばねを作ってもらって、マットレスも作ってもらうか。どうにも床が固いと、布団を敷いていてもあちこち痛い。
圧縮できる金属筒が作れたら、熱交換器は意外とどうにかできちゃうかもしれないな。なによりもエンジンが作れる。風力や水力に頼らないエネルギー源は魅力的だ。
いや待て。金属筒が作れるのであれば、多くのものが精錬できてしまうな。石油が発見できたなら、化学的に作れるものも増えるんじゃないだろうか・・・いや、その前に金属加工用の工作機械か。
ドワーフに頼む優先順位としては、実験用の高温窯が先。次に歯車かな。差し油も必要になるが、植物油でどうにかならないかな。獣脂は思っていたよりも粘性が高くて使えないんだよな。
技術的に可能になりそうな部分をカラシフとムサエフ、それにハリスと検討した上でロードマップを作るべきか。とりあえず整理しておいて三人で詰めてから上奏してみよう。
「失礼します」
考え事を紙に書きながらまとめていたら、ノックをしてサーシャが入ってきた。
「吉報が入りました。狼煙の色は黒。軍部の読み通りでしたね」
よっしゃ。読みが当たったか。
「俺も砦まで行った方がいいかな?」
「ムサエフ将軍ができれば砦まで来てほしいとのことです」
戦場近くにまで俺が出るのも、最後になるかもしれないな。そもそも戦の前準備こそが俺の仕事で、実際に血を流す戦いはこの世界の人たちにやってもらうしかない。俺は戦えないしな。
「よし。今の仕事をすぐに片づける、馬の用意をしておいてくれ」
黒い狼煙が上がったということは、チュノス軍はペテルグ軍部と俺が考えた罠にきちんと引っかかったということになる。
秋の間にやっておいた会議を思い出す。
次にチュノスが攻めてくる場合、防御力を捨てて機動力で一気にペテルグの北へと侵攻してくるのではないか、というのが大方の予想だった。つまり騎馬による一撃離脱により、交戦を減らして食糧だけを狙ってくるのではないかと。仮に狙った食糧が無ければ拠点を潰して、お家芸の重装歩兵が出てくるのではないかと。
「食糧が足りていない場合、撃退後のチュノスどう動くのかが分かりません。追い詰められればネズミも猫に噛みつきますから」
「我が軍の練度も気がかりです。捕虜交換でかなりの捕虜が戻ってきましたが、秋に帰って来ても春に軍人として動くとなると、練兵は間に合わないかもしれません」
数と武器で勝っているとしても、気を抜くことなどできない。
というわけで、捕虜生活で特に肉体的なダメージが回復しきっていない兵に、工兵という科目を提案してみた。座学も多いのであまり肉体的にはキツくは無い。彼らは衝車や連弩といった複雑な機械や道具を扱う科目だ。
ドワーフたちのおかげでそれなりの強度のある針金を作る事ができた。工兵たちにはチュノスとペテルグを結ぶ隘路にこっそり針金で罠をしかけてもらった。ロープよりも細く、頑丈で、設置撤収も迅速に行える。
機動力を封じられた馬から敵兵が叩き落とされて、そこを弓兵とボウガン兵で叩く。
狼煙が黒かったということは、隘路でチュノスの奇襲を叩き、工兵が罠を撤去し、以前奪還した砦までの進軍まで成功したことを意味する。
ここからが本番だ。
難攻不落の城攻め。
現地に行ってみないことには、野戦になるのか攻城戦になるのか兵站戦になるのか、まるで分からない。
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