物理最強筋肉おっさん冒険者、吸血鬼を拾う~貴方の血ぃくっそまじぃですわ!?仕方ぬぇーから私がお世話して美味しい血にして差し上げますわよ!~

歩く、歩く。

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1話 物理最強筋肉おっさん冒険者、吸血鬼を拾う

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 宵闇の中、男達は逃げていた。四台の馬車を走らせ、森へ侵入する。
 ちら、と後ろを見れば、馬車以上の速度で走る大男が、ニコニコ笑顔で迫ってきていた。

「おい! もっと飛ばせ!」
「これ以上は無理ですよ! なんなんですかあいつ!? う、馬より速く走るとか……人間じゃないですよぉ!」
「ちくしょう、やばい奴に見つかっちまった……最強のSランク冒険者、鋼鬼のマルク!」



「呼んだかな?」



 直後、馬車を追い抜いて、男が躍り出た。
 鍛え抜かれた、屈強な肉体の格闘家だ。丸太のように太い腕には、分厚い装甲を使ったガントレットを装備している。自信に満ちた精悍な面立ちで、目には力強い光が宿っていた。

 男の名はマルク、三十八歳。とある大陸の国ロザリア最強の男で、「鋼鬼」の二つ名を持つSランク冒険者だ。
 マルクは馬車の前に回り込み、豪快に地面を殴りつけた。途端、大地震が発生し、馬達が委縮して止まってしまう。拳圧で大気が揺れて嵐が起き、雷が発生し、雨まで降り注いだ。

 拳一つで超常現象を起こしやがった。途方もない力の差を感じ、男達は青ざめた。

「お前達が通報にあった、違法ブローカーで間違いないな?」
「だったらどうしたぁ! 野郎ども、こいつをのしちまえ!」

 馬車から仲間達が現れ、マルクに一斉攻撃を開始する。無数の魔法を飛ばし、剣で襲い掛かり、ボウガンで鉄の矢を放った。
 全部直撃するも、マルクにゃ傷一つ付いていない。魔法は皮膚すら焦がせず、剣は体を斬るどころか逆に折れ、鉄の矢は目や体に当たったけども、全部ひしゃげて墜落していた。

「いやせめて目には刺されよ!?」
「矢の方が脆かったんだから仕方なかろう」
「鉄だよこれ!? ええい、一度でダメならもう一回……」

 ブローカーはさらなる抵抗をしようとしたが、素早く動く影により全員気絶させられる。
 マントを羽織った、二刀流の若い男剣士だ。目深に被っていたフードを取ると幼い顔が露になる。彼はウィード、二十三歳。マルクの弟子であるAランク冒険者で、腕の立つ剣士だ。

「旦那ぁ、弟子の役目まで取らないでくださいよ。雑魚の露払いは俺達の仕事っすよ?」
「すまんなウィード、ちょっと張り切って仕事を奪ってしまったよ。はっはっは!」

 マルクは豪胆に笑った。弟子ですらこの実力、マルクは育成する力も高いようだ。
 仲間がやられ、窮地に陥った男達は、切り札を出した。
 指笛を吹くなり、後列の馬車から鋼の巨人が現れる。オリハルコン製の装甲を纏った人造兵器、全長四メートルにも及ぶゴーレムだ。頭部には水晶玉のような単眼が備えられ、マルクをぎろりと捉えた。

「どうだクソ野郎! とっておきのルートで仕入れた、最強の兵器だ!」
「ほぉ、隣国で開発されていたブツか」

「その通り! 一体で一個旅団を壊滅させる、最新鋭のゴーレムよ! 知ってるぞ、てめぇが打撃しか使えない脳筋野郎だってな! オリハルコンはこの世で最硬の物質! 打撃は無効だ! てめぇじゃどう足掻こうが倒せっこねぇんだよ!」

「解説どうも。高価な玩具を仕入れたもんだが、無駄遣いはほどほどにした方がいいぞ?」
「余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ! やっちまえ!」

 ゴーレムは単眼から、魔力を凝縮した砲撃を放った。
 光速のビームがマルクを襲う……のだが。マルクはビームを掴んでゴーレムに投げ返してしまった。
 オリハルコンは魔力をはじく性質があるためダメージは入らないが、素手で光速の魔力を掴むなど人間業ではない。つーか鉄も溶かす熱持ってたんだけど。

「購入資金、老後に備えて貯金に回しておくべきだったんじゃないか?」
「ち、ちくしょう……殴れゴーレム!」

 ゴーレムはすさまじい瞬発力でマルクに迫り、打ち下ろしの右を叩きつける。対してマルクはにかっと笑い、腕を組んだ。

「そうらっ!」

 頭突きで拳を迎え撃つと、なんとゴーレムの右半身が吹っ飛んだ。打撃を無効にするはずのオリハルコンが壊され、男達は唖然とする。

「少しだけ勉強不足だったな。オリハルコンは確かに打撃も魔法も無力化する、なら対策は簡単だ。オリハルコンが無効にできない一撃をぶち込めばいい、だろ?」
「いや打撃無効の物質が無効にできない打撃って何!?」
「ば、ば、ば……バケモンかてめぇはぁ!?」
「ご名答、マッスル怪獣きんに君とは俺の事さ」

 マルクの右アッパーがゴーレムに直撃するなり、オリハルコンの体がゴム毬のように大きくたわみ、パァン! と音を立てて粉微塵になる。余波でマルクが起こした嵐も霧散した。
 男達はへたり込んだ。こんな怪物に勝てる駒は、彼らにはない。

「大人しく投降すれば、優しく送迎してやるぞ」
「は、はひぃ……」

 会敵から僅か五十秒。マルクは依頼を達成した。

  ☆☆☆

 違法な取引をしているブローカーが居る。冒険者ギルドにそんな通報があった。
 調査した所、国がらみで指名手配されている犯罪組織だと判明し、ギルドは緊急に対処すべきと判断した。そこで最高位の冒険者であるSランクのマルクに緊急クエストとして要請したのだ。

 Sランクは冒険者として最高到達点だ。
 冒険者はC・B・A・Sの順にランク付けされているのだが、Sランクはその中でも逸脱した実力を持った者にのみ与えられる、人外の証明である。

 最高位に昇格する方法は一つ、たった一人で国を滅ぼす力を持つ事。

 その条件から、Sランクの地位は国と個人による友好条約とも言われており、文字通り一国の最高戦力として君臨する存在なのだ。
 現在ロザリアに所属するSランクは四人。中でもマルクは最年少の十五でSランクになってから、拳一つで歴代最長となる二十三年もの間活躍し続けるベテランだ。

 解決してきたクエストは数知れず。数多の人々から畏敬を集め、犯罪者達には畏怖を与え、同業者達から憧れの眼差しを向けられる、冒険者の頂点に立つ男なのだ。
 マルクはウィードと、もう一人の仲間である女冒険者と共に馬車の荷を調べた。

「うっひゃあ、シャブに違法兵器に密猟した動物に……罪状の数え役満っすね」
「オリハルコンのゴーレムも裏取引した物だろうな、あれの出所も探らなければ。そうだセラ、動物達に回復魔法を頼む」
「分かりました」

 セラは頷いた。彼女もマルクの弟子の一人、Aランク冒険者の魔法使いだ。
 見目麗しい二十五歳の女性で、大きな帽子に露出の多いローブを纏っている。セラはあらゆる魔法に精通しており、治療から荒事まで何でもこなす頼りになる人物だ。

 マルクはウィードとセラの二人を伴いクエストをこなしている。二人はマルクの直弟子でもあり、将来有望な若者だ。
 マルクは最後の馬車を調べた。この馬車にも違法な品々が山と積まれている、全くこういった手合いは、どんな手を使って集めているのやら。

 と、積み荷の隙間に、人影が見えた。マルクが覗き込むと、ボロ布を纏った女性が蹲っている。

 生気を感じない真っ白な肌をした、紅い瞳の女性だ。容姿は魂まで奪われそうなほど美しく、白銀の長い髪が薄く輝いている。首輪と手枷を繋がれ、酷く怯えている様子だ。
 人身売買……奴隷の取引は法で強く規制を掛けているが、裏社会では当たり前のように行われている。特に、人ならざる存在は高値が付く傾向にあった。出回る数が少なければ、なおさらだ。

「成程、君がヴァンパイアだな」

 マルクは目線を合わせると、上着をかぶせた。
 ヴァンパイアの奴隷は、エルフに並んで高値で取引されている。この女性は、その被害者だった。

  ☆☆☆

 マルクを見た時、ヴァンパイアは驚いていた。
 一目見た瞬間から分かった、この男は恐ろしいほど強い。人でありながら、人を超越した力を持っている。

「君、名前は?」
「エスト、エスト・X・マフテア。貴方は?」
「マルクだ。もう大丈夫だぞ、悪い奴は全員倒した」

 マルクはそう言うと、エストの枷を握り壊した。この枷は魔封じの枷で、人間では壊すどころかヒビすら入れられないほど硬い。なのにマルクは、まるで紙細工のように壊してしまった。
 なんて馬鹿力だ、それにこいつの名は聞いた事がある。最強のSランク冒険者、鋼鬼のマルク。ヴァンパイアの間でも名を轟かせる高名な冒険者だ。

 エストはにやりとした。こいつを眷属にすれば、最高の戦力になる。我が目的のために、何としても手に入れなければ。
 マルクは仲間達と今後について話している。エストは目を細めて、マルクの腰を突いた。

「あの……血を、血を恵んでくださりませんか……? ずっと、血を飲めなくて……とても辛いのです……」
「ふむ、ヴァンパイアは定期的に血を摂取せねば、その体を保てないと聞くな」

 流石はマルク、ヴァンパイアを理解している。
 ヴァンパイアは生き血を飲まねば魔力が枯渇し、体が砂となって死んでしまう。その代わり、生命を思うがままに操る力を持った、人々から恐怖の目を向けられる存在だ。

 その恐怖をマルク程の男が知らぬわけがない。血を貰えるか賭けだが、エストは弱ったふりをして、マルクの同情を誘った。
 仮病を使えば、マルクの血を分けてくれるかもしれない。奴が無理でも、他の仲間から接種できれば……。

「いいだろう、俺の血でよければ分けてやるぞ」

 計略を練る必要もなく、マルクは快く応じてくれた。エストは心の中で、凶悪な笑みを浮かべた。

「止めときなよ旦那、魔封じの枷壊したんだろ? ヴァンパイアに血を与えたらどうなるか、知らないわけないよな」
「私も同意見です。不用意な行動をしては危険です」
「問題ない、俺が信じられないか?」

 マルクは掌を切り、血を垂らした。
 エストは早速、従属の呪いを仕掛けた。これは対象の血を摂取する事で、その者をヴァンパイアのしもべにしてしまう呪いだ。
 ヴァンパイアはアンデットの中でも最上位の種族で、血を利用した呪術に長けている。不用意に血を与えてはならないのだ。

 さぁ、私のしもべとなるがいい!

 エストはマルクの血を飲み下した。この瞬間マルクは呪われ、エストの眷属となる……はずだった。

「!!!???」

 エストは声にならない悲鳴を上げて悶絶し、もんどりうってぶっ倒れた。びくんびくんと痙攣が止まらず、打ち上げられた魚のように跳ね回っては、ヘッドバンキングして木に頭を打ち付ける。

「あなたの血ぃ……くっそまじぃですわぁ!?」
「へ?」

「なんなんですのこれ!? うえっぷ……く、くっせぇくっせぇですわ!? 舌がぶっ壊れちまいますわぁ!? ドブ水しみ込ませて煮詰めた後しっかり干した雑巾を更に焼いたみてぇな味がしますわぁ!?」

 無駄な語彙力である。エストはげろを吐き散らかし、あまりの不味さに発狂しそうになっていた。
 き、木に頭ぶつけてないと……頭がおかしくなりそうですわ……!

「そんなに酷いのか? 俺の血の味」
「酷いなんてもんじゃありませんわ! 殺戮兵器ですわよこんなの! 私がヴァンパイアでも即死ですわぁ!」
「ちゃんと生きてるけどな。それより、胸元に何か紋章が浮かんでいるが」

 エストははっとし、胸元に触れた。
 そこには、従属の呪いを受けた文様が浮かんでいる。マルクに掛けたはずの呪いが、なぜかエストにかかっていたのだ。

「言っておくが、俺に呪いは通用せんぞ。生まれつきオカルト的な物に強くてな、あらゆる呪いを無力化出来る体質なんだ」
「な、なんちゅう雑な理由なんですの……というかそれならなぜ呪いが反射したんですの!? 無効化だけならリフレクションしないですわよね!?」

「ふむ……セラ、どう見る?」
「恐らく、マルク様の体質に加えて、血の不味さに混乱した結果、呪いが逆流したんだと思います」
「な、な、な……なんて事ですのぉーーーーっ!!!!????」

 エストは「オーマイガー!」と号泣し、頭を抱えて転がった。バシバシ地面を叩いては、発狂して叫び散らかし、「うきゃー!」と悲鳴を上げてブリッジする。感情表現豊かなお嬢様である。

「あー、なんかすまんな」
「すまんで済んだらポリ公はいらねーですわよ! 貴方この状況が分かっていますの!? 従属の呪いがかかった私は、貴方の血でしか命を繋げられなくなったんですのよ! つまり! 血を飲む度に死の恐怖を味わわねばならなくなったんですのよ!」

「ならば自分で解けばいいだろうに」
「さっきからやってますけどなぜか出来ないんですの! あーもうあなたのせいで最悪ですわ!」
「おいおい落ち着けって、旦那に当たり散らすなよ。第一あんたが旦那に呪いをかけようとしたからそうなったんだろ? 自業自得だよ」
「それは……そうですけれども……」

 ウィードの正論に対し、ぐうの音も出なかった。

「悲観するな、俺の弟子は優秀だぞ。セラ、お前なら解呪出来るだろう?」
「そうですわ、貴方見た所Aランク冒険者ですわよね? この呪いを外すなんてお茶の子さいさい賽の河原ですわよね!?」

「無駄に語彙力高いなあんた。ともあれセラ姉、解放してやってよ。喧しくてたまんないや」
「ええと、大変言いにくいのですが……どうもこの呪い、思いっきり失敗してるっぽいんですよね。術式がこんがらがった糸みたいに絡まってて、どう手を付ければいいのか分からないくらい滅茶苦茶になってて……」
「……つまり?」

「解呪、できないです」

 残酷な宣告だった。エストは立ったまま失神し、ばたんと直立不動でぶっ倒れた。
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