20 / 20
20話 脳筋おっさんとポンコツ吸血鬼
しおりを挟む
ヘイズ騒動が終わった翌日、エストはマルクと一緒に、再び故郷の跡地を訪れていた。仇を討った事や、自分は大丈夫だと、両親や友人達に報告するためだ。
マルクと共に両手を合わせ、石碑に祈りを捧げる。お父様、お母様、皆様の無念を、この方が晴らしてくださいましたわ。
「話せたかい?」
「ええ、沢山。また時々、ここへ運んでもらっても?」
「任せておけ、いつでもひとっ跳びだ。はっはっは!」
マルクは豪快に笑った。思えば彼の笑い声には、かなり助けられたっけ。
帰り道もマルクのジャンプ力であっという間だ。無論顔が風圧でなまはげみたいになってしまったけど。
いい人なのは分かってるけど、この有り余るパワー……どうにかならんもんか。やる事成す事脳筋すぎんだよこいつ。
「なんでも筋肉任せに解決する、鋼鬼の異名も納得ですわね」
「褒められて悪い気はせんな、はっはっは!」
「皮肉ですわよ皮肉。マジで無敵ですわね貴方」
エストはため息を吐いて、空を仰いだ。
復讐が終わった後って、こんなに虚しいものなんだな。
何とも言えない喪失感だった。あれほどヘイズに怒りや憎しみを抱いていたのに、それが解決すると胸に大きな穴が空いたような虚無感があった。
でもいつまでも呆けていてはいけない。ぼんやりしていても、過去は戻れないし戻ってこない。次に自分が何をするべきなのか、今一度見つめ直さないと。
「冒険者ねぇ……復讐のために始めた仕事ですけど、目的を果たした今となってはやる理由、無くなっちゃいましたわ」
「確かにそうだな。何かやりたい事は? 転職を希望するなら協力するぞ」
「んー……いえ、もう少し冒険者を続けてみますわ。悪人とか魔物とかを合法的にぶちのめしていい仕事ですから、ストレス解消になりますし。誰かの役に立つのも、嫌いじゃありませんわ」
それにエストは、幼き頃読んだ童話で、冒険者に対しちょっぴり憧れていた。
危険なクエストを華麗に解決した、物語の主人公のような生き方。危険で不安定で、お嬢様とは真逆の生活だが、長い人生の一時くらい、そんなスリルに身を投じてみてもいいだろう。
「何より貴方への報酬の支払いもありますし、お金を稼がなくては」
「支払いなんぞいいさ、生活指導などで報酬分以上の働きをしてくれたからな。これ以上もらっては罰が当たる」
「そうはいきませんわよ、高位種族であるヴァンパイアの誇りが許しませんわ。必ずお支払いいたしますから、無理やりにでも貰ってもらいますわよ」
「分かった、それならば受け取るしかあるまい。冒険者を続けるのなら、まだ俺の隊に入ってくれるのか?」
「じゃねーと私血が飲めねーですわよ。まだ呪いが解けてないの、分かってるでしょうに」
自爆でかけてしまった従属の呪いは、未だエストを蝕んでいる。もうしばらくの間は、この男のくっそ不味い血を分けてもらわねばならないのだ。
「ならば、君の呪いが解けるまで、それと君がやりたい事を見つけるまで、俺が師事を施そう。俺の知っている事、教えられる事を、出来る限り君に伝えよう」
「Sランクの弟子……まぁ、特に断る理由もありませんし、鋼鬼のマルクの弟子の肩書も何かと便利でしょう。どうか、お願いしますわ」
なんて話していたら、血を摂取する時間だ。エストはものっすごくいやーな顔をして、マルクに血を要求した。
一滴、一滴飲み下せばいいんだ。これに耐えればいいんだ。念仏のように言い聞かせ、一滴舐めた。
「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?!?!?」
奇怪な悲鳴と共にどっからともなく帽子を出してつま先立ち! ビートを刻んで華麗なスピンからゼログラビティを披露! ムーンウォークからパントマイムに繋げるムーヴはまさしくキング・オブ・ポップのパフォーマンスだ!
周りの人達拍手喝采! おひねりがあちこちから飛んできた! この道でも十分食っていけるぞこのお嬢様。
「ってぇ! 見せもんじゃねーですわよクソがっ! なんじゃあああこりゃああああ!!! 味が出会った当初に逆もどりんぐじゃねーかですわよっ!?」
「昨日久しぶりに本気を出したもんだから、流石に疲れが出ててなぁ。加えて久方ぶりに暴飲暴食したのも相まって、一晩で不健康に逆戻りだ。はっはっは!」
「歳ですのっ! やっぱ歳だから無理が体にダイレクトアタックしますのっ!? ふざけんじゃねーですわよこれまでの私の努力を返しやがれですわやっぱダメな奴はいくら頑張った所でダメなんですわこんちくしょうがああああああああ!!」
エストは激怒した。同時に号泣した。このオッサン、どんだけ健康にしようとも、それを上回る速度で不健康になりやがる。
こんな調子じゃ、美味しい血が飲めるようになるのはいつになる事やら……その前に殺されてまうわ!
「千里の道も一歩からと言うからな、また健康になるべく努力していくとしよう! はっはっは!」
「三歩進んだ所で百歩下がってんですわよ! 貴方って人はぁほんとにもぉぉぉぉぉ!」
エストは頭を抱えて地団太を踏んだ。復讐の後の感傷に浸る間もなく、エストに次の試練が訪れていた。
マルクの健康状態を見直して、血を美味しくする。それと同時にこのこんがらがった呪いを解除する方法を探し出す。彼女の命が掛かった、最大のミッションだ。
「む、伝書鳩か」
なんて折に舞い降りた、ギルドからの伝令。エストは嫌な予感がした。
「ふむ、緊急クエストだ。俺達でなければ片付けられない案件が出たから、早速行くとしよう」
「あーくそまたまた不健康の元がぁー……キターーーーーー!(ヤケクソ) ええいこうなったらとっとと終わらせますわよ! さっさと終わらせりゃーいーんですわよくそったらぁ!」
「元気が良くていい事だ、はっはっはっはっは!」
どったんばったんしながらも、エストとマルクはクエストへ向かった。
脳筋おっさんとポンコツ吸血鬼の冒険者ライフは、まだまだ続くようである。
マルクと共に両手を合わせ、石碑に祈りを捧げる。お父様、お母様、皆様の無念を、この方が晴らしてくださいましたわ。
「話せたかい?」
「ええ、沢山。また時々、ここへ運んでもらっても?」
「任せておけ、いつでもひとっ跳びだ。はっはっは!」
マルクは豪快に笑った。思えば彼の笑い声には、かなり助けられたっけ。
帰り道もマルクのジャンプ力であっという間だ。無論顔が風圧でなまはげみたいになってしまったけど。
いい人なのは分かってるけど、この有り余るパワー……どうにかならんもんか。やる事成す事脳筋すぎんだよこいつ。
「なんでも筋肉任せに解決する、鋼鬼の異名も納得ですわね」
「褒められて悪い気はせんな、はっはっは!」
「皮肉ですわよ皮肉。マジで無敵ですわね貴方」
エストはため息を吐いて、空を仰いだ。
復讐が終わった後って、こんなに虚しいものなんだな。
何とも言えない喪失感だった。あれほどヘイズに怒りや憎しみを抱いていたのに、それが解決すると胸に大きな穴が空いたような虚無感があった。
でもいつまでも呆けていてはいけない。ぼんやりしていても、過去は戻れないし戻ってこない。次に自分が何をするべきなのか、今一度見つめ直さないと。
「冒険者ねぇ……復讐のために始めた仕事ですけど、目的を果たした今となってはやる理由、無くなっちゃいましたわ」
「確かにそうだな。何かやりたい事は? 転職を希望するなら協力するぞ」
「んー……いえ、もう少し冒険者を続けてみますわ。悪人とか魔物とかを合法的にぶちのめしていい仕事ですから、ストレス解消になりますし。誰かの役に立つのも、嫌いじゃありませんわ」
それにエストは、幼き頃読んだ童話で、冒険者に対しちょっぴり憧れていた。
危険なクエストを華麗に解決した、物語の主人公のような生き方。危険で不安定で、お嬢様とは真逆の生活だが、長い人生の一時くらい、そんなスリルに身を投じてみてもいいだろう。
「何より貴方への報酬の支払いもありますし、お金を稼がなくては」
「支払いなんぞいいさ、生活指導などで報酬分以上の働きをしてくれたからな。これ以上もらっては罰が当たる」
「そうはいきませんわよ、高位種族であるヴァンパイアの誇りが許しませんわ。必ずお支払いいたしますから、無理やりにでも貰ってもらいますわよ」
「分かった、それならば受け取るしかあるまい。冒険者を続けるのなら、まだ俺の隊に入ってくれるのか?」
「じゃねーと私血が飲めねーですわよ。まだ呪いが解けてないの、分かってるでしょうに」
自爆でかけてしまった従属の呪いは、未だエストを蝕んでいる。もうしばらくの間は、この男のくっそ不味い血を分けてもらわねばならないのだ。
「ならば、君の呪いが解けるまで、それと君がやりたい事を見つけるまで、俺が師事を施そう。俺の知っている事、教えられる事を、出来る限り君に伝えよう」
「Sランクの弟子……まぁ、特に断る理由もありませんし、鋼鬼のマルクの弟子の肩書も何かと便利でしょう。どうか、お願いしますわ」
なんて話していたら、血を摂取する時間だ。エストはものっすごくいやーな顔をして、マルクに血を要求した。
一滴、一滴飲み下せばいいんだ。これに耐えればいいんだ。念仏のように言い聞かせ、一滴舐めた。
「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?!?!?」
奇怪な悲鳴と共にどっからともなく帽子を出してつま先立ち! ビートを刻んで華麗なスピンからゼログラビティを披露! ムーンウォークからパントマイムに繋げるムーヴはまさしくキング・オブ・ポップのパフォーマンスだ!
周りの人達拍手喝采! おひねりがあちこちから飛んできた! この道でも十分食っていけるぞこのお嬢様。
「ってぇ! 見せもんじゃねーですわよクソがっ! なんじゃあああこりゃああああ!!! 味が出会った当初に逆もどりんぐじゃねーかですわよっ!?」
「昨日久しぶりに本気を出したもんだから、流石に疲れが出ててなぁ。加えて久方ぶりに暴飲暴食したのも相まって、一晩で不健康に逆戻りだ。はっはっは!」
「歳ですのっ! やっぱ歳だから無理が体にダイレクトアタックしますのっ!? ふざけんじゃねーですわよこれまでの私の努力を返しやがれですわやっぱダメな奴はいくら頑張った所でダメなんですわこんちくしょうがああああああああ!!」
エストは激怒した。同時に号泣した。このオッサン、どんだけ健康にしようとも、それを上回る速度で不健康になりやがる。
こんな調子じゃ、美味しい血が飲めるようになるのはいつになる事やら……その前に殺されてまうわ!
「千里の道も一歩からと言うからな、また健康になるべく努力していくとしよう! はっはっは!」
「三歩進んだ所で百歩下がってんですわよ! 貴方って人はぁほんとにもぉぉぉぉぉ!」
エストは頭を抱えて地団太を踏んだ。復讐の後の感傷に浸る間もなく、エストに次の試練が訪れていた。
マルクの健康状態を見直して、血を美味しくする。それと同時にこのこんがらがった呪いを解除する方法を探し出す。彼女の命が掛かった、最大のミッションだ。
「む、伝書鳩か」
なんて折に舞い降りた、ギルドからの伝令。エストは嫌な予感がした。
「ふむ、緊急クエストだ。俺達でなければ片付けられない案件が出たから、早速行くとしよう」
「あーくそまたまた不健康の元がぁー……キターーーーーー!(ヤケクソ) ええいこうなったらとっとと終わらせますわよ! さっさと終わらせりゃーいーんですわよくそったらぁ!」
「元気が良くていい事だ、はっはっはっはっは!」
どったんばったんしながらも、エストとマルクはクエストへ向かった。
脳筋おっさんとポンコツ吸血鬼の冒険者ライフは、まだまだ続くようである。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる