ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

文字の大きさ
115 / 181

114話 会話のできない木偶人形

しおりを挟む
 魚は腐りかけていて、食べられるところがあまりなかった。
 なので傷んだ部分を切り落とし、酢につけてから焼くことにした。あとはレモンを乗せて香りづけをしておこう、保存が悪くてちょっと臭いしな。
 相手は人形だから味が分かるか知らないけど、できるだけ丁寧に仕上げないと。

 母さんが僕に料理は愛情と叩き込んだんだ、食べさせる相手がなんであれ、ブレてはいけない心がけだ。

「おいおい、魔女相手に何手間暇かけてんだ? あの木偶のためにそんな力込めて料理する必要あんのかよ」
「相手が敵であろうと、料理だけは手を抜きたくないんだ。心無き料理を作るのは、僕のプライドが許せない」
「発言が剣士というより板前じゃねぇかてめぇ。つーか食い物の殆どが痛んでんだ、これじゃ美味い飯なんざ作れるわけねぇよ」

 フェイスは鼻で笑いながらも、慣れた手つきできのこと玉ねぎを刻んでいる。貴族出身なのにやるもんだ。

「ってそのキノコ、ベニテングダケじゃないか、毒キノコだぞ」
「知ってるよ、だが食材の中に混ざってたんだ、あいつにとっちゃ大好物なんじゃねぇの?」
「悪い笑顔で言うなよ……」

 よく見たら、あいつが使ってる食材、全部野菜に似ている有毒植物じゃないか。確かに乱雑に混ざっていたけど、確信犯だろお前。

 こいつは普通に調理できないのか……フェイスだもんな、無理か。

 フェイスが作ろうとしているのは、ホッケのパイ包みみたいだな。使う食材に目を瞑れば美味しそうなんだけど、中身は毒物ばかりのごみ箱だ。パンドラの箱でももっとマシな物が入っているぞ。
 あいつが料理を仕上げると同時に、僕のも完成だ。タラのムニエル、オレンジソース添え。監視人形がせかすから、これしかできなかったよ。

「ま、こんなもんでいいだろ。さっさとあいつに持っていくぞ」
「一品だけでいいのかな。魔女の事だし、怒り狂って襲い掛かりそうだけど」
「それに関しちゃ否定できねぇな」

 ともあれ、魔女の下へ向かう。魔女は部屋の中央にぼんやりと立っていて、時々首を一回転させている。

「来た ちゃんと できた? 私のための 料理 作ってきた?」
「へいへい、渋々作ってきてやったよ」

 だぁから一言余計なんだっての。機嫌損ねたら面倒だろうが。
 僕の安全なムニエルと、フェイスの危険なパイ包みが並ぶ。なんだろう、この罰ゲーム感。天国か地獄かの選択じゃないか。

「ああ 空腹だ 私は今 空腹だ 食べさせろ それをお前達 食べさせなさい」
「って俺らが食わせるのかよ、なんでそんな召使みたいなことしなきゃならねぇんだ」

「私が 命じたなら 従え ここでは 私が法 私が秩序 私が世界 私が中心 私が 私が私が 私が私が私が私がががががががががががががっががががががっががががががっがががががっががががががががががっがっががが」

 魔女は顎をがくがくさせ、壊れたように声を出した。
 傲慢の性格に支配されているな、下手に拒否すれば襲い掛かってくるかもしれない。ここは大人しく従った方がいい。

「けっ、そんなに食いたきゃ、そらよっ!」

 だってのにフェイスが魔女の顔面に料理を投げつける。お前自殺志願者か何かかよ。
 けど魔女は動じる事なく、顔にへばりついた料理を犬のように食べていく。お前もお前で顔にぶつけられるのはありなのか、食べさせるって事になっているのか。

「次 お前の料理 食べさせろ 早く来い 近くへ来い」

 顔をパイ塗れにしながら言うな、気になるな……。
 仕方ないので顔を拭いてから、一口食べさせてやる。フェイスが俺にもしろみたいな顔でこっちを見ていたので、顔面にグーを叩き込んでおいた。

「ムニエル パイ包み どちらも昔 食べた事がある 食べさせてくれた 優しさ 感じた事もある 懐かしい感じが する」

 顔面にパイを投げつけられても、魔女は怒った様子がない。むしろ好感触だ。
 僕に食べさせられても機嫌がよさそうだし……口に入れば何してもいいのか?

「なのに なのに なのになのになのになのになんでなんでなんでなんで何も感じないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 だけどやっぱり、魔女が壊れ始めた。
 がくがくと頭を揺らし、腕をぐるぐる回したかと思うと、監視人形を掴んで壁に叩きつけた。

「食べても味を感じない優しく食べさせられても胸が震えない酷い事をされても怒りを感じない何も感じない私には心がないから何にも感じない誰かへの怒りも悲しみも喜びもああああああああなんでなんでなんでなんで私は何にも感じないいいいいいいいい憎い憎い憎い私が憎い心を持たない人形が憎い憎い憎い憎いいいいいいいいいい!!!!!!」

 今度は憤怒の形相だ。人形を殴り続けながら叫び、左手を掲げた。

「嫉妬の左手ぇ 『悶えろ』ぉぉぉ!!!」

 五感を奪うあの力か! 途端僕は聴覚を奪われ、耳が聞こえなくなった。

『案ずるな主、我が居る』

 だけどハヌマーンのおかげで、数秒で戻る。フェイスはハヌマーンの影響を受けていないから、まともに効果を受け、口を押えている。

「…! …………、……!(ちっ! あの木偶人形、味覚を奪いやがった!)」

 味覚を奪われると話せなくなるのか。これじゃフェイスは魔法が使えないな。
 けど触角が奪われるよりいい。なにしろ体が動かなくなれば、次の攻撃を防げないから。

「暴食の右手! 『貪れ』ぇ!」

 右手から即死のオーラが襲い掛かってくる。さっきよりも動きが速くて鋭い!
 ゾーンに入り、狭い室内を飛び回って回避した。大蛇のようにのたうち迫るオーラが服をかすめると、生地が食いちぎられてしまう。
 ハヌマーンの防御を無視してくるなんて、これはまずいな!

「当たったら血を吸われるどころじゃない、骨まで食われるぞ!」
「………! ……………!(くそったれ! エンディミオンさえありゃあな!)」

 フェイスもゾーンに入って駆け回っている。ハヌマーンの効果が薄い以上、戦っても勝ち目がない!

「……………!(こうなりゃ煌力モードでぶっ壊してやる!)」
「だめだフェイス! 煌力モードは使った後、反動で動けなくなる! それに効果時間も短い、能力の全容が分からない以上、未知の力で対応されたらお前が死ぬぞ!」
「……………!(ならどうしろってんだよ!)」
「ゾーンでどうにか凌ぐしかない! 今は耐えろ!」

 唇の動きでフェイスの言葉を読み取り、指示を出す。流石のフェイスも素直に従っていた。
 やがて僕らは部屋の角に追い詰められる。万事休すか……!

「……はぁ 面倒だ」

 だけど、魔女は急に攻撃を止めた。憤怒に変わって怠惰の性格が出たみたいだ。

「どうして 誰も私に 心をくれないんだろう ああ面倒くさい 苦労したくない 努力したくない 動きたくない こんなに頑張ってるのに どうして誰も 私に心と体をくれないの ああ嫌々嫌もう嫌だ こんな思いをするのなら もう一ミリも 動きたくない 誰とも話したくない もう私を 放っといてくれ」

 ……物凄い堕落ぶりだ、地べたに寝そべって、ごろごろ転がっている。
 けど助かった。あと一歩遅かったら、僕らが魔女の食事になっていたところだ。

「っと、ようやく声が戻ったか。しっかし、クソ面倒なガラクタだぜ、この野郎」
「ああ……唯一無害な怠惰ですら、まともにコミュニケーションを取れそうにないな」

 フェイスですら人語が通じるのに、魔女には会話の余地がない。彼女には交渉や説得と言った、心を持った相手に通用する手段が使えないんだ。
 まさしく心を失った人形……七つの大罪の呪縛を受けた魔女って所か。

「もういい こいつらを戻せ 監視人形」
『わわ かかかかりま したたたたた……』

 魔女に殴られたせいで、監視人形は壊れかけている。人形はおぼつかない手つきで僕らに枷と目隠しを付けると、再び独房へと連れ戻していった。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

処理中です...