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133話 回り行く希望
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上空で激しく吹きすさぶ強風に乗り、我は懸命に気球を操っていた。
主達が魂を込めて作り上げた、希望の風船だ。何としてもシラヌイの下へ届けねばならん、ならんのだが……気球とは、操作が難しい物だな。
船と違って舵が無いため、少しでも気を抜けばあっという間に明後日の方角へ流れてしまう。もし我が乗っていなければ、見当違いの場所に向かっていただろう。
『危ない所であったな……むむっ』
また突風が来た。念動力で進路を調整し、必死に大陸を目指す。
飛び立ってから何時間たっただろうか。集中力もそろそろ危うくなっている、頼む、陸地よ見えてくれ。
やがて、空が夜明けを迎えた頃である。
『なんだ? この空飛ぶゴミは』
こんな上空で声だと? 主の気球をゴミと抜かすのはどこのどいつだ。
そう思い見てみると、そこに居たのは、ドラゴンだった。
『龍王様、なんでしょうか。このような物は初めてみますが』
『ばっはっは! なんだなんだぁ? 見せてみるがいいばっはっは!』
この特徴的な笑い声、忘れるはずがない。青ざめた直後、下から巨影が飛び出した!
山のような巨躯の持ち主、ドラゴン族の王ディアボロスだ。こやつめ、龍の領域から出てきて、何をしているのだ?
『くんくん……む? この匂い、嗅ぎ覚えがあるぞ。それに何やら、異質な気配もするではないか。まさか、フェイスか。そして気配の正体はディックが持っていた籠手! そうだろう!』
『なんと、よくぞ見抜いたものだ』
ドラゴンの頂点に立っているのは伊達ではないか。ディアボロスはまた笑うと、
『ばっはっは! フェイスを探して海を飛んでいれば、こんな物と出会えるとはな! 早起きは三文の徳とはよく言ったものよ! それにここは例のリゾートに近いか、ならば! おい! そのごみを持ってついて来い!』
『はっ』
ドラゴンが我を掴み、ディアボロスと並んで飛んでいく。まさかこやつら、フェイスを探していたのか?
『勇者の捜索に当たっていたのか』
『ばっはっは! 四星龍が全滅した今、我が渇きを癒せるのは勇者だけだからな。それに奴は鍛えがいがある、叩けば叩くほど強くなる、最高の人間だ! あんな逸材を逃すのは我が龍生の損失! 勇者を退けたディックとも手合わせしたい所だし、なんとしても二人を魔女から奪い返さねばなぁばっはっは!』
二人と戦いたいから探すか。戦闘狂らしい理由だが、龍王が味方なのは大きい。魔女との戦いにも参戦してくれそうだ。
やがてディアボロスがやってきたのは、妖怪リゾート。イン・ドレカーの治める地域ではないか。
ディアボロスを見るなり、妖怪達が大騒ぎする。おい、街中に降りるつもりではないだろうな。
『ばっはっは! 奴らを何より渇望している奴に届けねばならんだろう! ウィンディア人の居住区に降りるぞばっはっは!』
創造主たちに我を渡すつもりか。意外と思慮深いドラゴンだな。
ディアボロスはリゾートの外れに作られた、創造主の住処へ降り立つ。創造主たちは皆驚き、最大の警戒をしてディアボロスを出迎えた。
「なんだなんだ! 龍王ディアボロス!? 朝っぱらからどうしてここへ!」
創造主の長、ケイが出てくる。ナイフを持ち、煌力モードを発動している。
その後ろではアスラが、我が主最愛の人物を抱えていた。
ポルカ・クリード。かつて勇者と戦い守り抜いた、主の大切な少女だ。
寝起きなのか、突然の来訪者にポルカはきょとんとしていたが、やがて気球を見るなり、気付いたように駆け寄ってきた。
「ダメよポルカ! 危ないわ!」
アスラが急いで捕まえるが、ポルカは構わずドラゴンを見上げ、一言。
「……お兄ちゃん? ねぇ、その布、お兄ちゃんの?」
『おうおう、小童よ、ワシが持ってきた物が分かるようだな』
「うん。ポルカと一緒の時、あの色の服着てたよ。それ、お兄ちゃんの? お兄ちゃんのだよね?」
『子供の目は純粋だのぉ、愛い奴だ。おい、渡してやれ』
ドラゴンからポルカに、我が手渡される。ポルカは袋に気付くと、我をそっと取り出した。
『久しいな、創造主の娘よ。息災だったか』
「この声、ポルカを助けてくれた……はぬまーん、さん?」
『左様。覚えていてくれたのか、とても嬉しいぞ』
「うん……! はぬまーんさんもポルカ、守ってくれたから。ちゃんと覚えてたよ」
『ふふ、そうか。ならば、言わずともわかるであろう。我がどうしてここまで来たのか』
「うん! お兄ちゃんが助けてって言ってるんだね!」
聡明な少女だ。ポルカは我を抱えると、ケイに叫んだ。
「お兄ちゃんのだ。お父さん、これお兄ちゃんのだ! お兄ちゃんのだよ!」
「お兄ちゃん? ……ディックか! その球体もしかして、ハヌマーン!?」
「うん! 急いでお姉ちゃんに届けないと!」
「分かった、すぐにドレカーに連絡して」
『ばっはっは! その必要はなかろう、目の前に空飛ぶ存在がいるのを忘れたか? ばっはっは!』
ディアボロスはポルカをつまみ上げ、手に乗せた。ケイとアスラが青ざめ悲鳴を上げたが、ポルカは全く動じていない。
「危ないから降りてきなさいポルカ! ディアボロス、ポルカをどうするつもり!?」
『魔王領へ運ぶだけだ、貴様らはドレカーとやらに話をつけておけ。すぐに出られるようにな! ばっはっは! 行くぞ小童!』
「うん! お父さん、お母さん、ポルカ先に行ってるから!」
「ダメだって! やめろポルカ、待てディアボロス!」
両親の制止を振り切り、ディアボロスが飛び立つ。妖怪リゾートが瞬く間に消えて、魔王領へまっすぐに飛んでいく。
ポルカは我をしっかり握りしめ、まっすぐ前を見ている。ディアボロスは意外にも、ポルカを優しく包み、落ちないよう揺れを少なくして飛んでいた。
「ありがと、ドラゴンのおじちゃん。ポルカをお姉ちゃんの所まで連れてってくれるんだね」
『子供は好きなのでなぁ。将来ワシを楽しませる戦士に育ってくれるかもしれんからなぁばっはっは! しかし臆せずワシに付いてくるとは、大した胆力よ』
「あのね、ポルカね、お兄ちゃんに恩返しがしたいの。お兄ちゃんはポルカを助けてくれたから、今度はポルカがお兄ちゃんを助けたいの。でもポルカは小さいから、できる事が無くて。お父さんとお母さんに任せてばかりで、悔しかった。だから、ポルカは行くんだ。はぬまーんさんをお姉ちゃんに届けて、お兄ちゃんを見つけるの! 絶対ポルカ、お兄ちゃんを助けるの!」
『よき心がけだ、ならばワシもそれに全力で応えてやろう! ほら見ろ、魔王城だ!』
ディアボロスの飛行速度は段違いで、あっという間に魔王城へ到着してしまった。龍王の来訪に兵達がどよめいているが、かまわずに着地し、ポルカを優しく下ろしてやる。
と同時に、ディアボロスはポルカへ飴玉を与えた。
『ここまで泣きもせず付いてきた褒美だ、受け取れ。はちみつで作った飴だぞ』
「ありがとうおじちゃん! ポルカ、行ってくるね!」
『ここで吉報を待っているぞ、ばっはっは!』
ポルカは走り出した。その足が向かう先は、シラヌイの事務室。一緒に出勤していた事を覚えていたようだ。
早朝ともあって、兵の数が少ない。止められる事なく確実に、シラヌイの下へ近づいている。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん! 今行くから、お兄ちゃん!」
『……助かるぞ、ポルカよ』
主よ、勇気ある少女のおかげで、無事に到着できたぞ。
待っていろ、我が主ディックよ。必ずや主を救い出し、再びシラヌイと会わせてみせる。主ほど人との繋がりを重んじ、絆を貴ぶ者はいない。だから我は、主が大好きになったのだ。
大好きな主のために、このハヌマーン、無事任務達成だ。
◇◇◇
「できた……やっと、やっと……できたぁぁぁ……!」
どれだけ時間がかかっただろうか。沢山の人の力を得て、私はようやく新しい人探しの魔法を完成させた。
イザヨイさんのアドバイスを基に起動条件を切り替え、幾度も実験を重ねた結果、満足のいく魔法が仕上がった。ここまで大変だった……日中は通常業務、夜は魔法の開発と、殺人的なスケジュールだったわ……。
『シラヌイ、生きているか?』
「らいひょうふ……ちょっと頭がガンガンして、目が痛いだけだから……」
『半死半生ではないか』
「ははは……でも、ありがと、シルフィ……貴方のおかげで、わたし、ここ、ま、で……」
『おいしっかりしろ! こんな所で寝たら風邪引くぞ!』
ごめんシルフィ、私もう、限界みたい。立ってられなくて、デスクに手を付き膝立ちになる。
ちょっと眠って、それからみんなを集めて、ディックを見つけないと……。
「お姉ちゃん! お姉ちゃあん!」
その時だった、私のオフィスに誰かが飛び込んできたのは。
振り返るなり、女の子が抱き着いてきた。このふわふわした感触と抱き心地、もしかしなくても、もしかして!
「ポルカ? ポルカ! ポルカだ! どうしてここに? え? なんで!?」
「お姉ちゃん! あのねあのね、はぬまーんさんが来たの! ポルカ届けにね、ドラゴンのおじちゃんに連れてきてもらったの!」
「ごめん、何言ってるのか分からないんだけど……ってハヌマーン!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。ポルカが持ってきた不格好な袋を受け取ると、小石に髪の毛、そして光る球体が入っている。
球体を取り出すなり、籠手に変化する。ハヌマーンの、右籠手だわ。
『久しいなシラヌイ、心配をかけてすまなかった』
「ハヌ、マーン……ハヌマーン……! ちょっと待って、頭が追い付かない。貴方が来たって事は、この髪って、ディックの……!」
『左様。我が主、ディックの物だ。彼は生きている、シラヌイの下へ戻るために、懸命に戦っているのだ』
「生きてる……ディック……ディック!!」
涙がこぼれ、私はポルカを抱きしめた。
よかった、無事だった、生きていてくれた! 魔女から、逃げてくれていた!
「ありがとうポルカ……私にディックを、届けてくれて……! 貴方は天使よ、私の天使だわ!」
「きゃん! 痛いよお姉ちゃん」
あっと、強く抱きしめすぎちゃった。
でも、こうしちゃいられない。眠気なんか吹っ飛んだ。今何時? 六時! よし!
「シルフィ、動ける兵を集めてきて! それから魔王様と四天王に連絡を! 今からディックを助けに行くわ! 急いで!」
『おいおい、その前にちょっと寝ろ! 貴様今日で何日寝てないと』
「私はどうなったっていい! だからお願い、言う通りにして!」
『ぐ、この馬鹿者が!』
シルフィは怒りながらも、急いで魔王様の所へ飛んでいった。
ハヌマーンがあれば、新しい魔法の精度も大きく上がる。私とディックは絆の魔導具で繋がっている、彼を通せば、絶対上手く行く。
待っていなさい人形の魔女、あんたをぶっ飛ばして、私のディックを返してもらうから!
主達が魂を込めて作り上げた、希望の風船だ。何としてもシラヌイの下へ届けねばならん、ならんのだが……気球とは、操作が難しい物だな。
船と違って舵が無いため、少しでも気を抜けばあっという間に明後日の方角へ流れてしまう。もし我が乗っていなければ、見当違いの場所に向かっていただろう。
『危ない所であったな……むむっ』
また突風が来た。念動力で進路を調整し、必死に大陸を目指す。
飛び立ってから何時間たっただろうか。集中力もそろそろ危うくなっている、頼む、陸地よ見えてくれ。
やがて、空が夜明けを迎えた頃である。
『なんだ? この空飛ぶゴミは』
こんな上空で声だと? 主の気球をゴミと抜かすのはどこのどいつだ。
そう思い見てみると、そこに居たのは、ドラゴンだった。
『龍王様、なんでしょうか。このような物は初めてみますが』
『ばっはっは! なんだなんだぁ? 見せてみるがいいばっはっは!』
この特徴的な笑い声、忘れるはずがない。青ざめた直後、下から巨影が飛び出した!
山のような巨躯の持ち主、ドラゴン族の王ディアボロスだ。こやつめ、龍の領域から出てきて、何をしているのだ?
『くんくん……む? この匂い、嗅ぎ覚えがあるぞ。それに何やら、異質な気配もするではないか。まさか、フェイスか。そして気配の正体はディックが持っていた籠手! そうだろう!』
『なんと、よくぞ見抜いたものだ』
ドラゴンの頂点に立っているのは伊達ではないか。ディアボロスはまた笑うと、
『ばっはっは! フェイスを探して海を飛んでいれば、こんな物と出会えるとはな! 早起きは三文の徳とはよく言ったものよ! それにここは例のリゾートに近いか、ならば! おい! そのごみを持ってついて来い!』
『はっ』
ドラゴンが我を掴み、ディアボロスと並んで飛んでいく。まさかこやつら、フェイスを探していたのか?
『勇者の捜索に当たっていたのか』
『ばっはっは! 四星龍が全滅した今、我が渇きを癒せるのは勇者だけだからな。それに奴は鍛えがいがある、叩けば叩くほど強くなる、最高の人間だ! あんな逸材を逃すのは我が龍生の損失! 勇者を退けたディックとも手合わせしたい所だし、なんとしても二人を魔女から奪い返さねばなぁばっはっは!』
二人と戦いたいから探すか。戦闘狂らしい理由だが、龍王が味方なのは大きい。魔女との戦いにも参戦してくれそうだ。
やがてディアボロスがやってきたのは、妖怪リゾート。イン・ドレカーの治める地域ではないか。
ディアボロスを見るなり、妖怪達が大騒ぎする。おい、街中に降りるつもりではないだろうな。
『ばっはっは! 奴らを何より渇望している奴に届けねばならんだろう! ウィンディア人の居住区に降りるぞばっはっは!』
創造主たちに我を渡すつもりか。意外と思慮深いドラゴンだな。
ディアボロスはリゾートの外れに作られた、創造主の住処へ降り立つ。創造主たちは皆驚き、最大の警戒をしてディアボロスを出迎えた。
「なんだなんだ! 龍王ディアボロス!? 朝っぱらからどうしてここへ!」
創造主の長、ケイが出てくる。ナイフを持ち、煌力モードを発動している。
その後ろではアスラが、我が主最愛の人物を抱えていた。
ポルカ・クリード。かつて勇者と戦い守り抜いた、主の大切な少女だ。
寝起きなのか、突然の来訪者にポルカはきょとんとしていたが、やがて気球を見るなり、気付いたように駆け寄ってきた。
「ダメよポルカ! 危ないわ!」
アスラが急いで捕まえるが、ポルカは構わずドラゴンを見上げ、一言。
「……お兄ちゃん? ねぇ、その布、お兄ちゃんの?」
『おうおう、小童よ、ワシが持ってきた物が分かるようだな』
「うん。ポルカと一緒の時、あの色の服着てたよ。それ、お兄ちゃんの? お兄ちゃんのだよね?」
『子供の目は純粋だのぉ、愛い奴だ。おい、渡してやれ』
ドラゴンからポルカに、我が手渡される。ポルカは袋に気付くと、我をそっと取り出した。
『久しいな、創造主の娘よ。息災だったか』
「この声、ポルカを助けてくれた……はぬまーん、さん?」
『左様。覚えていてくれたのか、とても嬉しいぞ』
「うん……! はぬまーんさんもポルカ、守ってくれたから。ちゃんと覚えてたよ」
『ふふ、そうか。ならば、言わずともわかるであろう。我がどうしてここまで来たのか』
「うん! お兄ちゃんが助けてって言ってるんだね!」
聡明な少女だ。ポルカは我を抱えると、ケイに叫んだ。
「お兄ちゃんのだ。お父さん、これお兄ちゃんのだ! お兄ちゃんのだよ!」
「お兄ちゃん? ……ディックか! その球体もしかして、ハヌマーン!?」
「うん! 急いでお姉ちゃんに届けないと!」
「分かった、すぐにドレカーに連絡して」
『ばっはっは! その必要はなかろう、目の前に空飛ぶ存在がいるのを忘れたか? ばっはっは!』
ディアボロスはポルカをつまみ上げ、手に乗せた。ケイとアスラが青ざめ悲鳴を上げたが、ポルカは全く動じていない。
「危ないから降りてきなさいポルカ! ディアボロス、ポルカをどうするつもり!?」
『魔王領へ運ぶだけだ、貴様らはドレカーとやらに話をつけておけ。すぐに出られるようにな! ばっはっは! 行くぞ小童!』
「うん! お父さん、お母さん、ポルカ先に行ってるから!」
「ダメだって! やめろポルカ、待てディアボロス!」
両親の制止を振り切り、ディアボロスが飛び立つ。妖怪リゾートが瞬く間に消えて、魔王領へまっすぐに飛んでいく。
ポルカは我をしっかり握りしめ、まっすぐ前を見ている。ディアボロスは意外にも、ポルカを優しく包み、落ちないよう揺れを少なくして飛んでいた。
「ありがと、ドラゴンのおじちゃん。ポルカをお姉ちゃんの所まで連れてってくれるんだね」
『子供は好きなのでなぁ。将来ワシを楽しませる戦士に育ってくれるかもしれんからなぁばっはっは! しかし臆せずワシに付いてくるとは、大した胆力よ』
「あのね、ポルカね、お兄ちゃんに恩返しがしたいの。お兄ちゃんはポルカを助けてくれたから、今度はポルカがお兄ちゃんを助けたいの。でもポルカは小さいから、できる事が無くて。お父さんとお母さんに任せてばかりで、悔しかった。だから、ポルカは行くんだ。はぬまーんさんをお姉ちゃんに届けて、お兄ちゃんを見つけるの! 絶対ポルカ、お兄ちゃんを助けるの!」
『よき心がけだ、ならばワシもそれに全力で応えてやろう! ほら見ろ、魔王城だ!』
ディアボロスの飛行速度は段違いで、あっという間に魔王城へ到着してしまった。龍王の来訪に兵達がどよめいているが、かまわずに着地し、ポルカを優しく下ろしてやる。
と同時に、ディアボロスはポルカへ飴玉を与えた。
『ここまで泣きもせず付いてきた褒美だ、受け取れ。はちみつで作った飴だぞ』
「ありがとうおじちゃん! ポルカ、行ってくるね!」
『ここで吉報を待っているぞ、ばっはっは!』
ポルカは走り出した。その足が向かう先は、シラヌイの事務室。一緒に出勤していた事を覚えていたようだ。
早朝ともあって、兵の数が少ない。止められる事なく確実に、シラヌイの下へ近づいている。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん! 今行くから、お兄ちゃん!」
『……助かるぞ、ポルカよ』
主よ、勇気ある少女のおかげで、無事に到着できたぞ。
待っていろ、我が主ディックよ。必ずや主を救い出し、再びシラヌイと会わせてみせる。主ほど人との繋がりを重んじ、絆を貴ぶ者はいない。だから我は、主が大好きになったのだ。
大好きな主のために、このハヌマーン、無事任務達成だ。
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「できた……やっと、やっと……できたぁぁぁ……!」
どれだけ時間がかかっただろうか。沢山の人の力を得て、私はようやく新しい人探しの魔法を完成させた。
イザヨイさんのアドバイスを基に起動条件を切り替え、幾度も実験を重ねた結果、満足のいく魔法が仕上がった。ここまで大変だった……日中は通常業務、夜は魔法の開発と、殺人的なスケジュールだったわ……。
『シラヌイ、生きているか?』
「らいひょうふ……ちょっと頭がガンガンして、目が痛いだけだから……」
『半死半生ではないか』
「ははは……でも、ありがと、シルフィ……貴方のおかげで、わたし、ここ、ま、で……」
『おいしっかりしろ! こんな所で寝たら風邪引くぞ!』
ごめんシルフィ、私もう、限界みたい。立ってられなくて、デスクに手を付き膝立ちになる。
ちょっと眠って、それからみんなを集めて、ディックを見つけないと……。
「お姉ちゃん! お姉ちゃあん!」
その時だった、私のオフィスに誰かが飛び込んできたのは。
振り返るなり、女の子が抱き着いてきた。このふわふわした感触と抱き心地、もしかしなくても、もしかして!
「ポルカ? ポルカ! ポルカだ! どうしてここに? え? なんで!?」
「お姉ちゃん! あのねあのね、はぬまーんさんが来たの! ポルカ届けにね、ドラゴンのおじちゃんに連れてきてもらったの!」
「ごめん、何言ってるのか分からないんだけど……ってハヌマーン!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。ポルカが持ってきた不格好な袋を受け取ると、小石に髪の毛、そして光る球体が入っている。
球体を取り出すなり、籠手に変化する。ハヌマーンの、右籠手だわ。
『久しいなシラヌイ、心配をかけてすまなかった』
「ハヌ、マーン……ハヌマーン……! ちょっと待って、頭が追い付かない。貴方が来たって事は、この髪って、ディックの……!」
『左様。我が主、ディックの物だ。彼は生きている、シラヌイの下へ戻るために、懸命に戦っているのだ』
「生きてる……ディック……ディック!!」
涙がこぼれ、私はポルカを抱きしめた。
よかった、無事だった、生きていてくれた! 魔女から、逃げてくれていた!
「ありがとうポルカ……私にディックを、届けてくれて……! 貴方は天使よ、私の天使だわ!」
「きゃん! 痛いよお姉ちゃん」
あっと、強く抱きしめすぎちゃった。
でも、こうしちゃいられない。眠気なんか吹っ飛んだ。今何時? 六時! よし!
「シルフィ、動ける兵を集めてきて! それから魔王様と四天王に連絡を! 今からディックを助けに行くわ! 急いで!」
『おいおい、その前にちょっと寝ろ! 貴様今日で何日寝てないと』
「私はどうなったっていい! だからお願い、言う通りにして!」
『ぐ、この馬鹿者が!』
シルフィは怒りながらも、急いで魔王様の所へ飛んでいった。
ハヌマーンがあれば、新しい魔法の精度も大きく上がる。私とディックは絆の魔導具で繋がっている、彼を通せば、絶対上手く行く。
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