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141話 リージョン曰く、「ブラックコーヒーが激甘で舌が曲がった」

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 エンディミオンが消えた事で、人間軍の動きは止まっていた。
 エルフの国での戦闘以来大きな事件は無く、脱獄してから一ヶ月、平穏な時間が過ぎている。この時間がずっと続けばいいのだけど。

「ディック、どうした? 呆けていたようだが」
「このまま戦争が終わってくれればと思ってね」

 今僕は、リージョンと仕事の打ち合わせをしている。リージョンも頷いて、ため息をついた。

「確かに、俺達は暇な位が丁度いいからな。このまま何事もなく事が済んでくれればいいのだが」
「うん。けどエンディミオンが行方をくらませてから、何の動きもないのが気になるな」

 人間領に忍ばせている草からの情報では、エンディミオンは人間領に戻っていないらしい。フェイス同様行方をくらまし、人間側では混乱状態が続いているようだ。
 そのフェイスは龍の領域に、アプサラス共々身を隠している。ディアボロスからの交流は途絶えているから、彼らが今どうしているのかは分からない。

「色々分からない事が多すぎて、平穏なのに不安が尽きないや」
「そうだなぁ、だが起こってもいない事に不安を感じていても仕方あるまい、今俺達に出来る事は、目の前の仕事に集中する事だろう」
「それしかないか」
「うむ……それで、ディック。その付属品はどうにかならんのか?」
「付属品?」
「こらぁ、私をこいつの付属品呼ばわりするとは何事よ。私は四天王シラヌイよ? こいつは副官、むしろこいつが付属品でしょ?」
「……男の背中にへばりついてるサキュバスに言われてもな」

 リージョンが呆れたような顔をした。
 仕事の最中だけど、シラヌイは僕に抱き着いて離れない。しきりに髪や首筋に顔を埋めて甘えてきている。

「シラヌイ、俺達仕事中なんだが。お前自分の仕事は?」
「やるべきことはやったわよ、文句言われる筋合いはない」
『……私も監督してやらせたから、問題はないぞ。というかもうこいつは放っておけ、私が何を言おうがこの通り、完全に腑抜けになっているからな』
「シルフィまで匙を投げているのか、もうこりゃどうしようもないな」
「あんたね、なんでそんな目を向けんのよ。燃やすわよ」
「おいこら、パワハラするな。それ俺の持ちネタだ」

 ハラスメントを持ちネタにするなよダメ上司。

「ははは……とりあえず、話はこの辺でいいだろう。また何か修正点があったら連絡してくれ」
「そうしよう。ディック、シラヌイを甘やかすのはほどほどにな」
「甘やかしているつもりはないんだけど、気を付けておくよ」

  ◇◇◇

 脱獄して以来、シラヌイは僕から離れなくなった。
 隙があればずっと抱き着いていて、移動するときは腕にしがみついたまま。少しでも離れるとパニックを起こし、衝動的に炎魔法をぶっ放してしまうようになっていた。
 僕が囚われている間、よほど寂しかったみたいだ。もう誰にも奪われたくないから、常に私が見張るんだ。それがシラヌイの言い分だけど、リージョンの言う通り、ちょっと行き過ぎな気がしないでもない。

「ディック……私のディック……私だけの男……♡」

 目にハートを浮かべ、トリップしている。最初に出会った頃のツンケンな空気はすっかり失われ、デレデレドロドロなサキュバスへ変貌していた。
 彼女をよく知る部下達は、シラヌイを見て驚いている。仕事一筋のサキュバスが、一人の男に溺れているのだから。

 いやまぁ、サキュバスとしては正しい姿なんだろうけど、初期のシラヌイを知っているだけに、この変化には僕も驚きだ。
 それに僕としても、シラヌイがくっついてくれるのは嬉しいから、つい甘やかしてしまう。
 監獄に囚われている間、何度も彼女に会えないと諦めかけたからな。そのせいか、彼女が前よりも愛しくてたまらない。僕もシラヌイと居ないと胸がざわめいて止まらなくなる。

「もう離れちゃダメ、ずっと一緒に居て、傍に居て? じゃないと私、死んじゃうかも」
「大丈夫、何があろうと僕は離れないから」
「じゃあ証拠を見せて?」

 シラヌイが目を閉じたので、頬にキスをする。十分に一回こうするよう、何度も言われているんだ。

『このバカップルめ、一応私が居るのだぞ? 場所くらい考えろ』
「場所を考えてたらノルマを達成できないでしょうが。言っとくけど、ノルマ逃す度にペナルティ追加だかんね」
『……おい、そのペナルティやり続けたらディックが死ぬぞ? 貴様サキュバスである事忘れるな?』
「問題ないわよ、ちゃんと加減してるから。言っとくけど、他の女に色目使ったら追加ペナルティだからね」

 彼女の言うペナルティとは、その……まぁ彼女がサキュバスって時点で察してほしい。
 時々マッサージを受けて回復しているけど、この調子じゃいつか僕の腰が壊れてしまうかもしれないな。

『全く、イザヨイがこれを見たら何を言う事か……』
「多分喜ぶだけだと思うよ? 母さんべたべたな恋愛小説好きだったから」
『子も子なら親も親かっ。最早愛情深いで済まないぞ』
「褒め言葉、ありがとう」
『褒めとらん! 全く、一時は貴様の愛が重いとか言っていた奴が、すっかり重い女になりおってからに』

 確かにシラヌイの愛情表現は僕より重いかもしれないね。けど僕はそう感じない、愛されるのが嬉しくて、むしろ心地いいくらいだ。

「ほらディック、ノルマ」
「わかったよ」

 約束の十分が来て、また彼女にキスをする。平穏な今だからこそ、彼女との時間は大切に過ごしたいな。
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