ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

文字の大きさ
146 / 181

145話 その頃フェイスはというと。

しおりを挟む
『オマエガコロシタ。イミモナクコロシタ』

 俺の周りを、ぼんやりとした人影が囲っている。
 そいつらはしきりに俺を睨んで、そうつぶやいていた。

『ナンデコロシタ。ナニモシテイナイノニ、ドウシテコロシタ』

 言葉だけで分かる。こいつらは、俺が今まで無意味に殺めてきた連中だ。
 胸にのしかかるような重みがかかって、吐き気がこみ上げてくる。人影は増え続けて、やがて逃げ道がなくなった。

『オシエロ。ナンデコロシタ。ナンデ、ナンデナンデナンデナンデナンデ』
「やめろ……やめてくれ……!」

 俺が取り返しのつかない事をしたのは分かっている、謝ったって、作った罪が消えないのだって。
 だけど、謝るから……! どんな形でも、必ず謝るから……頼む、静かにしてくれ!

「ああああああっ!?」

 ようやく俺は悪夢から解放された。呼吸を落ち着け、周囲を見てみる。
 竜の領域に作られた俺の部屋だ。俺を囲っていた人影はいなくなっている。代わりに、

「フェイス、汗凄いよ」

 無垢な目で俺を見つめる、アプサラスが居た。

「凄くダメな顔で寝てたよ、タオル貸す?」
「うなされていたと言え。タオルは、貰おうか」

 全く、こいつの語彙力のなさは相変わらずか。
 監獄からアプサラスを助けて一ヶ月、こいつは俺の傍にずっとついていた。
 ドラゴン達を使って調べてみたが、アプサラスの故郷は水害でとっくになくなっている。帰る場所が無いから俺の傍に居るようだ。

 まぁ、俺も人の事は言えないか。

 人間領じゃ俺は指名手配犯だ。聖剣エンディミオンを悪用した偽物の勇者として挙げ連ねているようじゃないか。
 だから俺も帰る場所がない。居所のない者同士、傷をなめあっているってわけだ。

「今昼頃か、寝過ごしたな」
「あたしも同じだよ。フェイスはなんの夢を見たの? あたしの夢?」
「なんでお前の夢でうなされなきゃならねぇんだ?」
「だってあたし、人形の魔女で酷いことしたから」
「それはもういいっつってんだろうが。……俺の仕出かした事のせい、だよ」

 心がすり減っていたせいか、俺はアプサラスに、勇者の名を借りてしていた非道を話していた。
 最近は、あの悪夢をよく見る。俺が殺した奴らが迫ってきて、圧力をかけてくるんだ。
 当時は何も思わなかったのに、悪夢を見るたび心がひび割れる。殺人に対する罪悪感が、俺の頭を狂わせる。

「なんで今になってこんな感情になるんだかな。殺してきた奴の顔すら覚えていないってのに……」
「うーん、そっか」
「なんだよ、したり顔で」
「えっとね、確かお母さんが昔やってくれたんだ」

 話の脈絡ねぇなこいつ。とか思っていたら、急に俺に抱き着いてきた。足まで腰に回して、コアラかお前は。

「……なんだこの状況」
「元気出た?」
「出るかこんな意味わからん行動で。お前の母親は子供にコアラごっこかます奇特な奴だったのかよ」
「ううん、お母さんはあたしが悲しい時、抱きしめてくれたんだ。やり方違うかな」
「だから俺はお前の母親を知らないんだっての」

 そもそも、自分の母親の顔も知らないんだがな。んな事はどうでもいいか。
 アプサラスにされるがままになっていると、急にこんな事を言い出した。

「フェイスはね、優しいんだよ。だからシクシクするんだと思うよ」
「俺が優しい? 人殺しをするような奴が優しいわけないだろう」
「ううん、優しいよ。だってあたしの勇者になってくれたから。約束通りあたしを監獄から出してくれたし、優しいよ。フェイスは勇者だよ」
「それ以上優しいとか言うんじゃねぇ、俺にはそう言われる資格なんかないんだ」
「でも、言われた事はあるでしょ?」

 アプサラスがじっと俺を見上げてくる。あるにはあるが……随分昔の話だ。

『あんたは優しい子だね』

 イザヨイと出会い、抱きしめられた、最初で最後の日。イザヨイから言われた一言だ。
 俺にはもう、そんなことを言われる資格はない。俺は優しくない、優しいってのは、ディックのような奴に言うべきなんだ。

「でも、フェイスは優しいもん。あたしと一緒に居てくれるし、世話もしてくれるよ。この服だって、フェイスが洗濯してくれたでしょ」
「お前があまりにへたくそ過ぎて見ていられなかったんだよ」

 ったく、貴族出身の俺に何やらせてんだ。家事の類いなんざ初めてやったぞ?
 こいつと居ると落ち込んでいる自分が馬鹿らしくなってくる。ぽややんとしていて掴み所がないと言うか。
 悪い気分ではないんだがな。

『ばっはっは! 起きたか勇者よ! ならば早く出てくるがいい!』
「うるせっ、起きがけにデカい声あげんじゃねぇ」

 部屋ん中がビリビリすんだろうが。龍王剣を持って出れば、すぐにディアボロスの居る広間に出る。この野郎、嫌な所に部屋作りやがって。
 ディアボロスの前に座るなり、カモシカの生肉が置かれる。クソジジィは上機嫌にカモシカを丸呑みしてやがった。

『ばっはっは! 今日も元気だカモシカが美味い! 貴様もはやく飯を食え!』
「あのな、せめて火を通せ」

 あん時は意地で食い散らかしたが、生肉食うのは正直きついぞ。アプサラスが食ったら腹下すだろうが。

「ついでに野菜も寄越せ、俺はともかく、こいつの栄養偏るだろうが」
『随分所帯じみたな勇者よ、アプサラスの健康を考えるとは感心だ。ばっはっは!』
「やかましい」

 アプサラスは自活能力がない。長い事人形に閉じ込められていたからだろうな、人間としての生活習慣を忘れている。
 とっとと思い出させねぇと面倒くさいんだよ、いつまでこいつの服を俺が洗えばいいんだって話だ。

「フェイスのご飯好きだよあたし」
『ばっはっは! 飯を食ったら早速喧嘩をするぞ勇者よ! ばっはっは!』
「お前ら一度に喋んな!」

 くそったれ、こいつらと居ると頭がぐわんぐわんしてくるぜ。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~

チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。 「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。 「……お前の声だけが、うるさくない」 心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。 ----- 感想送っていただいている皆様へ たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。 成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...