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149話 不可解な病
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四天王ともども呼びつけられ、僕は固唾をのんで魔王の言葉を待っていた。
魔王は長々と息を吐くと、重苦しい口調で話し始めた。
『魔王領全域に、得体のしれない病魔が広がっているんだ。症状は結核に似ているけど、空気感染にしたって、病気の広がり方があまりにも早すぎる。過去遡ってみても、こんな病気が発生した記録は一度もないんだ』
「つまり……可能性は二つか」
ソユーズが指を出し、
「一つは、突然発生した新種の病。もう一つは……何者かが作り出し、意図的に蔓延させた人造の病。合っていますか?」
『その通りだよ。実はこの病、昨日から人間領でも急に発生し出してね、それも超広域に。嫌な予感がしてバルドフに戻ってきたら』
「たった一日でこの有様、って訳ですねぇ……ちょっと病気の広がり方が爆発的すぎるわねぇ。新種の病って線は考えにくいわぁ」
「僕も同じ意見だ。となると、人工の病って可能性がより高くなる」
勿論、早計な考えだという自覚はある。けれども、病気も自然の理の一つだ。今回の広がり方は、それからあまりにもかけ離れすぎている。
病気の発生源を様々な角度で考えても、自然発生した物とは考えられない。となると、自然と可能性は絞られる。
リージョンに目配せすると、彼は頷いた。
「どれだけ荒唐無稽な結論でも、それ以外に答えが無ければそれが正答となる、だな。人間領と魔王領、双方を狙った規模のでかいバイオテロ。それがこの事件だ」
「一体どこのどいつよ、こんな事仕出かしたのは。人間領と魔王領同時に攻撃するなんて、個人じゃ絶対無理だわ。この停戦に乗じて二つの領土を奪おうって魂胆かしら」
『にしては、行動があまりに無作為すぎるがな。別の目的が隠れている危険もあるぞ』
シラヌイとシルフィが眉間に皴を寄せた。だけど魔王は首を振った。
『目的や敵の正体はこれから調査する段階だから何とも言えない。けど相当危ない状況なのに変わりないよ。なにしろ、特効薬は当然、進行を遅らせる薬も無いんだ。人造のせいか、従来の病気と性質が大きく異なっている。ワシが就任して以来、一番の大事件だよ』
魔王はそう言うと、僕らに辞令を下した。
『事は一刻を争う状況だ、なので四天王と英雄ディックの五名に命じる。バイオテロの主格犯を早急に対処しなさい。規模からして一般兵では無理だ、君達の活躍に期待する』
『はっ!』
僕らは敬礼してから、一旦会議室から出た。
バイオテロを目論んだ犯人を捜す、それが最終的な目的となるけど……それより前にやらなきゃならない事がある。
「まずはこの病気の対処からしないと危険だ。仮に敵を探し出せても、特効薬が手に入るとは限らない。万一に備えて、特効薬の確保から始めるべきだと思う」
「それも私達が動けるうちにね。今は大丈夫だけど、私達も下手すりゃ感染する危険がある。勿論魔王様だって。そうなればおしまいよ」
まずは僕達が安心して動けるよう、土台作りをすべきだろう。病気の特効薬を手に入れて、バイオテロの応急処置をしなければ。
「なんとしても、この病気だけは駆除しなくちゃ……肺の病気は、僕が一番嫌いな病気だから……どんな手を使っても、駆除しなくちゃ!」
「ディック……ちょっと、恐いわよ」
「……無理もなかろう。最愛の母を奪った病だ、ムキになって当然だ」
「そっか、イザヨイさんは、この病気で……」
「うん、だから、許せないんだ。肺の病気を使って人を苦しめるような奴が。相手が誰であろうと、そいつは……僕の刀で、切り捨てる!」
僕と母さんのような別れを、他の人にも味わせるわけにはいかない。病気で大事な人を喪う悲しみを受けるのは、僕だけで充分だ!
「意気込むのはいいがな、ディック、特効薬の当てはあるのか? 人造の病気となると対応する薬がないはずだぞ」
「そうねぇ……風邪薬で肺炎は治らないし、きちんとしたお薬が無いと」
「それに関しては一つ、心当たりがある。エルフの国だ」
エルフの国は秘術や秘薬を多く所有している。彼らを頼れば、何かしらの知恵を貸してくれるはずだ。
僕は弱い、一人では何もできないくらいに。だから誰かを頼るんだ。
「エルフの国か。成程、同盟を組んだ今なら技術提供をしてくれそうだな」
「お薬の素材さえわかれば、私の創造の力で増産できるわぁ。行く前にきちんと消毒してから行かないとねぇ」
「……医療部門から、病原体のサンプルを借りておこう。その方が対処もしやすかろう」
「ありがとう皆、必ず、この病気を駆逐しよう!」
胸に手を当て、シラヌイを見やる。母さんに瓜二つの彼女が肺の病気で苦しむ姿を想像するだけで、胸が張り裂けそうになる。
もう、あんな思いをするのは嫌だ。絶対、絶対君を守る! 母さん、どうか力を貸してくれ!
『…………』
「どうしたのよシルフィ、黙りこくって」
『うむ……ディックよ、イザヨイが結核にかかった場所と時期は分かるか?』
「なんだい、急にかしこまって」
『よいから答えろ』
「ん……確か、二つの領域の境にある街だったかな。そこでの依頼から帰ってすぐに、結核に……それが、何か?」
『いいや、確証のない話をして混乱させるわけにはいかん。戯言だと思って気にするな』
妙に含みのある言葉だな、気にするなと言われても気になってしまう。
「……ん?」
……母さんの病気と、今回の病気……確かに、似てはいる。それに人造の病気って可能性があるって事は……
「まさか、な……」
僕の頭に、ある予感がよぎる。そっとそれをしまい込んで、僕はエルフの国へ急ぐ事にした。
魔王は長々と息を吐くと、重苦しい口調で話し始めた。
『魔王領全域に、得体のしれない病魔が広がっているんだ。症状は結核に似ているけど、空気感染にしたって、病気の広がり方があまりにも早すぎる。過去遡ってみても、こんな病気が発生した記録は一度もないんだ』
「つまり……可能性は二つか」
ソユーズが指を出し、
「一つは、突然発生した新種の病。もう一つは……何者かが作り出し、意図的に蔓延させた人造の病。合っていますか?」
『その通りだよ。実はこの病、昨日から人間領でも急に発生し出してね、それも超広域に。嫌な予感がしてバルドフに戻ってきたら』
「たった一日でこの有様、って訳ですねぇ……ちょっと病気の広がり方が爆発的すぎるわねぇ。新種の病って線は考えにくいわぁ」
「僕も同じ意見だ。となると、人工の病って可能性がより高くなる」
勿論、早計な考えだという自覚はある。けれども、病気も自然の理の一つだ。今回の広がり方は、それからあまりにもかけ離れすぎている。
病気の発生源を様々な角度で考えても、自然発生した物とは考えられない。となると、自然と可能性は絞られる。
リージョンに目配せすると、彼は頷いた。
「どれだけ荒唐無稽な結論でも、それ以外に答えが無ければそれが正答となる、だな。人間領と魔王領、双方を狙った規模のでかいバイオテロ。それがこの事件だ」
「一体どこのどいつよ、こんな事仕出かしたのは。人間領と魔王領同時に攻撃するなんて、個人じゃ絶対無理だわ。この停戦に乗じて二つの領土を奪おうって魂胆かしら」
『にしては、行動があまりに無作為すぎるがな。別の目的が隠れている危険もあるぞ』
シラヌイとシルフィが眉間に皴を寄せた。だけど魔王は首を振った。
『目的や敵の正体はこれから調査する段階だから何とも言えない。けど相当危ない状況なのに変わりないよ。なにしろ、特効薬は当然、進行を遅らせる薬も無いんだ。人造のせいか、従来の病気と性質が大きく異なっている。ワシが就任して以来、一番の大事件だよ』
魔王はそう言うと、僕らに辞令を下した。
『事は一刻を争う状況だ、なので四天王と英雄ディックの五名に命じる。バイオテロの主格犯を早急に対処しなさい。規模からして一般兵では無理だ、君達の活躍に期待する』
『はっ!』
僕らは敬礼してから、一旦会議室から出た。
バイオテロを目論んだ犯人を捜す、それが最終的な目的となるけど……それより前にやらなきゃならない事がある。
「まずはこの病気の対処からしないと危険だ。仮に敵を探し出せても、特効薬が手に入るとは限らない。万一に備えて、特効薬の確保から始めるべきだと思う」
「それも私達が動けるうちにね。今は大丈夫だけど、私達も下手すりゃ感染する危険がある。勿論魔王様だって。そうなればおしまいよ」
まずは僕達が安心して動けるよう、土台作りをすべきだろう。病気の特効薬を手に入れて、バイオテロの応急処置をしなければ。
「なんとしても、この病気だけは駆除しなくちゃ……肺の病気は、僕が一番嫌いな病気だから……どんな手を使っても、駆除しなくちゃ!」
「ディック……ちょっと、恐いわよ」
「……無理もなかろう。最愛の母を奪った病だ、ムキになって当然だ」
「そっか、イザヨイさんは、この病気で……」
「うん、だから、許せないんだ。肺の病気を使って人を苦しめるような奴が。相手が誰であろうと、そいつは……僕の刀で、切り捨てる!」
僕と母さんのような別れを、他の人にも味わせるわけにはいかない。病気で大事な人を喪う悲しみを受けるのは、僕だけで充分だ!
「意気込むのはいいがな、ディック、特効薬の当てはあるのか? 人造の病気となると対応する薬がないはずだぞ」
「そうねぇ……風邪薬で肺炎は治らないし、きちんとしたお薬が無いと」
「それに関しては一つ、心当たりがある。エルフの国だ」
エルフの国は秘術や秘薬を多く所有している。彼らを頼れば、何かしらの知恵を貸してくれるはずだ。
僕は弱い、一人では何もできないくらいに。だから誰かを頼るんだ。
「エルフの国か。成程、同盟を組んだ今なら技術提供をしてくれそうだな」
「お薬の素材さえわかれば、私の創造の力で増産できるわぁ。行く前にきちんと消毒してから行かないとねぇ」
「……医療部門から、病原体のサンプルを借りておこう。その方が対処もしやすかろう」
「ありがとう皆、必ず、この病気を駆逐しよう!」
胸に手を当て、シラヌイを見やる。母さんに瓜二つの彼女が肺の病気で苦しむ姿を想像するだけで、胸が張り裂けそうになる。
もう、あんな思いをするのは嫌だ。絶対、絶対君を守る! 母さん、どうか力を貸してくれ!
『…………』
「どうしたのよシルフィ、黙りこくって」
『うむ……ディックよ、イザヨイが結核にかかった場所と時期は分かるか?』
「なんだい、急にかしこまって」
『よいから答えろ』
「ん……確か、二つの領域の境にある街だったかな。そこでの依頼から帰ってすぐに、結核に……それが、何か?」
『いいや、確証のない話をして混乱させるわけにはいかん。戯言だと思って気にするな』
妙に含みのある言葉だな、気にするなと言われても気になってしまう。
「……ん?」
……母さんの病気と、今回の病気……確かに、似てはいる。それに人造の病気って可能性があるって事は……
「まさか、な……」
僕の頭に、ある予感がよぎる。そっとそれをしまい込んで、僕はエルフの国へ急ぐ事にした。
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