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2部

132話 暴かれる素顔

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 満月の日が近づく頃、オクトはラコ村に向かって馬を走らせていた。
 ハロー達に手紙を送ってから、オクトは更に調査を続けた。その結果、怪物の正体が判明したのだ。
 先代をこれ以上、怪物と戦わせてはいけない。あの怪物は先代が生み出してしまった存在だ。

「くそ、間に合うか!?」

 どんなに飛ばしても、ラコ村に到着するのは夜になってしまう。怪物との衝突は避けられない。
 今回は最初から聖剣を使用して介入せざるを得ないな。

「聖剣に……魔剣」

 この剣にはリナルドの姉が封じられている。幼き命と引き換えに得た超人の力に、流石のオクトも思う所が無いわけではない。
 けど、今考えるべき事ではない。この剣が無ければハローを救えないのだから。

「私には剣の力が必要だ。だから、我慢して頂戴。シェリー」

 オクトは馬を更に急がせた。



 彼女の救援が間に合わぬまま、ラコ村に満月の夜が訪れる。ハローとエドウィンはラコ村の入り口で、怪物の出現を待ち構えていた。
 二人の立てた作戦は、ラコ村を背にして戦う事だ。怪物はハローとリナルド以外の人間を殺せない。村人達を盾にした作戦だ。
 魔剣と銃を確認し、ハローはため息を吐いた。

「もうすぐだな」
「ああ。非常事態とは言え、我ながら酷い作戦だよ。これじゃあどっちが悪人かわかりやしない」
「そうだね……責任重大だ。でも、多分怪物は攻撃できないはずだ。俺が同じ立場だったら、手出しできないからね」
「それについちゃ、同意見だよ」

 二人の目的は、怪物の討伐ではない。奴の正体を暴くのが最優先だ。そのためにも、戦闘ではなく対話に持ち込まなければならない。
 敵との対話か……ハローは若かりし頃の自分に戻ったような気がした。

「あいつとの会話は、僕がする。お前じゃ衝突するのが目に見えてるからな」
「ごめんよ。ナルガは大丈夫かな、リナルドと留守番してもらってるけど……」
「ミネバが付き添ってるから安心しろ。ったく、思ったような新婚生活が送れなくてやきもきするよ」
「ごめん、必ず埋め合わせするから」
「期待しないで待つとしようかね。さて、おいでなすったぞ」

 夜になり、ハローとエドウィンは身構えた。二人の前に、咆哮を挙げて怪物が現れた。
 怪物の出現に驚き、村人達が集まってくる。ラコ村を見やった怪物は、悔しそうに唸り声を上げた。
 予想通り、怪物は攻撃できないようだ。奴は、ハローとリナルド以外を殺せない。

『ひきょうだぞハロー! みんかんじんをひとじちにとるなんて!!』
「こうでもしないと、お前は俺達と話さないだろう。俺は戦う前に、話がしたいんだ」
『おまえとはなすひつようなんてない!!! ばしょをうつせハロー!!!』
「じゃあ、僕となら話せるだろう。お前、親友の申し出を断るってのかい?」

 怪物は『うっ』と怯んだ。エドウィンは怪物に歩み寄り、手を伸ばした。

『やめろエド、おれにさわるな!!! エドのてがけがれる! おれは、おまえがさわっていいやつじゃない……!』
「んなもん気にしないよ、一緒に返り血を被ってきたんだ。お前の正体だって分かってる。この僕が、十八年も付き合ってる相棒を見間違えるはずがないだろ」
『う、うぅ……!』
「兜を外すぞ。格好いいデザインだけど、人と話す時はちゃんと、顔を見せろ」

 エドウィンは怪物の兜に手を掛けた。怪物は観念したように、素顔を晒した。
 黒い兜の下に隠れていた顔は、二人の予想通り……。
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