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5話 クェーサーの制作秘話
「社長はなぜ、二足歩行ロボットを造ろうと思ったのですか」
オフィスのパソコンにて人間観察の最中、クェーサーは羽山に尋ねた。
救に教わってからずっと悩んでいた。二足歩行ロボットなんて非効率的な物など存在価値などない。にも拘らず、社員と共に夢へと突き進む彼の考えが理解できなかった。
何度もネット検索しても答えは見つからず、仕方なく直接聞く事にしたのだ。
「災害時に強い、新しい重機を造りたくてね。災害時だと、孤立した村落や、道が崩れて救助が困難になった現場には中々支援しに迎えない。でも二足歩行ロボットがあれば、場所を問わず活動できる。支援物資を背負って運んだり、道具を装備すればその場で救助活動が出来る。私達はね、そんな人助けのための、ヒーローみたいな重機を造りたいんだ」
「そうですか」
「それにねぇ、元々羽山工業を興した理由でもあるんだよ。ねぇ犬養君」
「おや、昔語りですか」
専務の犬養泰は、懐かしそうに目を細めた。
羽山とは正反対の、非常にハンサムな中年男性だ。トレンディドラマにでも出てきそうな、80年代に居そうなイケメンである。
スマホの待ち受けに家族写真を載せ、妻娘とも仕事中にLINEをするなど、非常に家族想いなナイスミドルである。
「この羽山工業は、社長と僕で興した企業なんだ。お互いの目標が一致してね」
「目標とは」
『二足歩行ロボットを造る』
三人分の声が重なった。見れば、羽山と犬養の間に女性が挟まっている。
「犬養君は前職は自衛官でね、沢山の被災現場に行って命を救ってきた立派な人なんだよ」
「止めてください社長、買いかぶりすぎです。僕はそんなに立派な人間じゃない、目の前で多くの人を、見殺しにしてしまいましたから……濁流に吞まれたり、孤立した山村でそのまま亡くなってしまったり……多くの悲惨な現場を前に、何も出来なかった」
「仕方のない事です。被災地の環境下では人の動きは制限されますので」
「そこなんだ。四輪車やキャタピラ、果てはヘリコプターでも、稼働できる環境は限られてしまう。救う側の動きが強制的に止められてしまうんだ。車で走破できない悪路、立ってられない程深い浸水、そうした場を見る度に何度も思ったよ、二足歩行ロボットが居れば突破できるのにって」
犬養は悔しそうにカップを握りしめた。
「二足歩行ロボットの汎用性は群を抜いている、車やヘリでは到達できない場所へ迎えて、なおかつ重機の代わりも出来るから即座に救助活動が出来る。それに救助隊は人手がとにかく足りないから、避難所や本部との連携をAIが担ってくれれば、現場の負担も大きく軽減できる。そう思って、AI搭載型ロボットの設計図を、何度も描いたものさ」
「理想論です。ロボットにそんな事は出来ません」
「やってみなければ分からないだろう? もしも実現すれば、災害時に非常に有用な装備になりうる。そう思っていた時に、羽山さんと会ったんだよ」
『こやつの後悔は、わらわの後悔でもあっての。災害によって、多くのあやかし達の生命も脅かされたのじゃ……』
女性も俯いた。今、「あやかし」と言う言葉が出てきた。
「私がロボットを造ろうと思ったのは、弟の夢を叶えてあげたからなんだ。もう、亡くなっているけどね」
「弟の死とロボットがなぜ繋がるのですか」
「……私はね、18の頃に両親を失ったんだ。残されたのは、年の離れた弟だけ。とても賢くて、自慢の弟だったんだよ。私は高校を中退して、弟を養うために必死になって働いてね。でも弟のためには、なっていなかったんだ」
羽山はため息を吐いた。
「弟はずっと、独りぼっちだったんだ。私は働くのに必死になって、弟を全く見ていなかったんだ。私と二人きりの生活を、学校で酷くからかわれたようでさ。加えて自分が私の負担になっていると思ったんだろう。……自殺して、一足早く両親の下へ向かってしまったのさ」
話を聞いていた、御堂達が息を呑んだ。クェーサーは羽山の話の重みや意味が分からず、ぼんやりするばかり。
「もうね、呆然とするしかなかったよ。弟の遺品を整理している間も、夢を見ているようだった。そんなときに、弟が書いた将来の夢の作文を見つけてね。「ロボットの操縦士になる」って書いてあったんだ。
私は、弟がロボットが好きだって全く知らなかった。いいや、仕事に言い訳をして、知ろうとしなかった……弟と向き合おうとしなかったんだよ。だから、弟の夢を叶えようと誓った。ロボットを造って、弟が叶えたかった操縦士の夢を現実にしようってね」
「そんな事をしても意味はないかと」
「クェーサー!」
「いいんだよ御堂君、これは私の自己満足でしかないから。でもそれで弟の魂が浮かばれるのならば、私はどんな手を使ったって実現させたいんだ。神に縋ってでもね」
『言葉通り、奴は幾度もわらわに願いを乞うておった。あまりの無念に、つい見かねてな。羽山に犬養、共に命を尊ぶ愛情深い男じゃ。そこで二人を会わせてやろうと思ったのじゃよ。わらわにとっても、二人の夢は応援したかったからの』
……やはり、理解できない。愛? 夢? どうして人間はそんな形のない物を大事にしようとしているんだろう。
「僕と社長が会ったのは、本当にたまたまなんだ。喫茶店で、僕の設計図を見てくれた社長が興味を持ってくれてね。それで二人で、ロボットを造るための会社を興そうって話になったんだ。勿論最初からそんなの出来ないから、まずは部品作りのメーカーから始めたけどね」
『わらわも人事でちょっと手助けをしてやったのじゃ。こやつらの周囲には、少ないが優秀な人材が集まっておるじゃろう? 二人の熱意に応えて、わらわが選んだのじゃ』
女性の言っている事も分からない、羽山と犬養の言う事も分からない。
愛や夢……ネットでいくら検索しても、答えは出てこない。人間とはなんと非効率な生き物なのだろうか。
そして、人間と同じ「感情」を持つあやかしも、一体何者なのだろうか。
オフィスのパソコンにて人間観察の最中、クェーサーは羽山に尋ねた。
救に教わってからずっと悩んでいた。二足歩行ロボットなんて非効率的な物など存在価値などない。にも拘らず、社員と共に夢へと突き進む彼の考えが理解できなかった。
何度もネット検索しても答えは見つからず、仕方なく直接聞く事にしたのだ。
「災害時に強い、新しい重機を造りたくてね。災害時だと、孤立した村落や、道が崩れて救助が困難になった現場には中々支援しに迎えない。でも二足歩行ロボットがあれば、場所を問わず活動できる。支援物資を背負って運んだり、道具を装備すればその場で救助活動が出来る。私達はね、そんな人助けのための、ヒーローみたいな重機を造りたいんだ」
「そうですか」
「それにねぇ、元々羽山工業を興した理由でもあるんだよ。ねぇ犬養君」
「おや、昔語りですか」
専務の犬養泰は、懐かしそうに目を細めた。
羽山とは正反対の、非常にハンサムな中年男性だ。トレンディドラマにでも出てきそうな、80年代に居そうなイケメンである。
スマホの待ち受けに家族写真を載せ、妻娘とも仕事中にLINEをするなど、非常に家族想いなナイスミドルである。
「この羽山工業は、社長と僕で興した企業なんだ。お互いの目標が一致してね」
「目標とは」
『二足歩行ロボットを造る』
三人分の声が重なった。見れば、羽山と犬養の間に女性が挟まっている。
「犬養君は前職は自衛官でね、沢山の被災現場に行って命を救ってきた立派な人なんだよ」
「止めてください社長、買いかぶりすぎです。僕はそんなに立派な人間じゃない、目の前で多くの人を、見殺しにしてしまいましたから……濁流に吞まれたり、孤立した山村でそのまま亡くなってしまったり……多くの悲惨な現場を前に、何も出来なかった」
「仕方のない事です。被災地の環境下では人の動きは制限されますので」
「そこなんだ。四輪車やキャタピラ、果てはヘリコプターでも、稼働できる環境は限られてしまう。救う側の動きが強制的に止められてしまうんだ。車で走破できない悪路、立ってられない程深い浸水、そうした場を見る度に何度も思ったよ、二足歩行ロボットが居れば突破できるのにって」
犬養は悔しそうにカップを握りしめた。
「二足歩行ロボットの汎用性は群を抜いている、車やヘリでは到達できない場所へ迎えて、なおかつ重機の代わりも出来るから即座に救助活動が出来る。それに救助隊は人手がとにかく足りないから、避難所や本部との連携をAIが担ってくれれば、現場の負担も大きく軽減できる。そう思って、AI搭載型ロボットの設計図を、何度も描いたものさ」
「理想論です。ロボットにそんな事は出来ません」
「やってみなければ分からないだろう? もしも実現すれば、災害時に非常に有用な装備になりうる。そう思っていた時に、羽山さんと会ったんだよ」
『こやつの後悔は、わらわの後悔でもあっての。災害によって、多くのあやかし達の生命も脅かされたのじゃ……』
女性も俯いた。今、「あやかし」と言う言葉が出てきた。
「私がロボットを造ろうと思ったのは、弟の夢を叶えてあげたからなんだ。もう、亡くなっているけどね」
「弟の死とロボットがなぜ繋がるのですか」
「……私はね、18の頃に両親を失ったんだ。残されたのは、年の離れた弟だけ。とても賢くて、自慢の弟だったんだよ。私は高校を中退して、弟を養うために必死になって働いてね。でも弟のためには、なっていなかったんだ」
羽山はため息を吐いた。
「弟はずっと、独りぼっちだったんだ。私は働くのに必死になって、弟を全く見ていなかったんだ。私と二人きりの生活を、学校で酷くからかわれたようでさ。加えて自分が私の負担になっていると思ったんだろう。……自殺して、一足早く両親の下へ向かってしまったのさ」
話を聞いていた、御堂達が息を呑んだ。クェーサーは羽山の話の重みや意味が分からず、ぼんやりするばかり。
「もうね、呆然とするしかなかったよ。弟の遺品を整理している間も、夢を見ているようだった。そんなときに、弟が書いた将来の夢の作文を見つけてね。「ロボットの操縦士になる」って書いてあったんだ。
私は、弟がロボットが好きだって全く知らなかった。いいや、仕事に言い訳をして、知ろうとしなかった……弟と向き合おうとしなかったんだよ。だから、弟の夢を叶えようと誓った。ロボットを造って、弟が叶えたかった操縦士の夢を現実にしようってね」
「そんな事をしても意味はないかと」
「クェーサー!」
「いいんだよ御堂君、これは私の自己満足でしかないから。でもそれで弟の魂が浮かばれるのならば、私はどんな手を使ったって実現させたいんだ。神に縋ってでもね」
『言葉通り、奴は幾度もわらわに願いを乞うておった。あまりの無念に、つい見かねてな。羽山に犬養、共に命を尊ぶ愛情深い男じゃ。そこで二人を会わせてやろうと思ったのじゃよ。わらわにとっても、二人の夢は応援したかったからの』
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『わらわも人事でちょっと手助けをしてやったのじゃ。こやつらの周囲には、少ないが優秀な人材が集まっておるじゃろう? 二人の熱意に応えて、わらわが選んだのじゃ』
女性の言っている事も分からない、羽山と犬養の言う事も分からない。
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