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53話 対災害用人型重機、クェーサー、出る!

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 羽山工業の社員は、予想以上に早く駆けつけてくれた。クェーサーから連絡が入って、大慌てで出てきてくれたのだ。
 森の前には、クェーサーの巨体を積んだトラックが止まっている。クェーサーはすぐさま意識を巨体に移すと、

「今回は私が運転するよ! 救は現場の方が役に立つ!」
『了解! アシストします!』

 白瀬と共に立ち上がった。アテンドパックを使い、被害に遭ったあやかし達を助けに向かう。社員達もそれぞれ、あやかし達の救援に励んでいた。

「あやかし達の救出と避難を急げ!」
「怪我した人は僕達の所へ来てください! 手当しますから!」

 犬養の指揮の下、次々にあやかし達が避難していく。怪我をしたあやかしは麻山と羽村が応急処置を施していた。

「私の方はこの子で最後だ! 先輩は!」
「こっちも大方避難させた! 俺達もずらかるぞ!」
『待ってください! サヨリヒメがまだなんです!』

 クェーサーは事情を説明した。早く彼女を助けに行きたい、だが。

「悔しいだろうが、一旦退却するよ。この場に居ては僕達が危ない、一度体制を整えよう」
『わかりました……!』

 犬養の判断により、無念の撤退を開始する。救が動かす車の中で、カムスサはうずくまっていた。

「……お前達は、どうしてあやかしを助けた?」
「目の前で困ってる奴が居るのに黙ってられるかよ」
「先輩の言う通りだ。特にここのあやかし達とは仲良くなった、なおさら見捨てていられない」
「……やはり我は、間違っていたのか……なんと愚かな事を……!」

「神様でも間違いくらいするだろ、そんな後悔するよりも、起こった事を解決するのに集中しな」
「あの蛇に弱点はないのか? 知っていたら教えてくれ」

「……奴は、サヨを核に力を増幅している。それによって、過去を凌駕する力を得ているのだ……だが、それは逆に核が心臓の代わりを果たしているような物。サヨを取り返せば力を制御できず、自壊するはずだ……」

 カムスサの推測は当たっている。サヨリヒメは、力と引き換えの弱点なのだ。

「だが、どうすればいい……あれだけ巨大化したヤマタノオロチを倒す手段などあるはずがない……!」
「あります、ここに、奴に対抗できる力が」

 クェーサーの力強い返事に、カムスサは驚愕した。
 羽山工業に戻るなり、社員達は白瀬の指揮の下、作業を開始した。

「だいだらは水素を補充しろ! 鬼! 各部チェックどうだい!」
「問題なしだ! すぐにでも動ける!」
「こちら雪女! 電装系も特に異常なし!」
「水素も満タンだ、途中でばてる事もあるまい。装備はワイヤーパックでいいかの」
「射出機構も付けといたよぉ、アマビエ印の特殊合金製だから切れたりはしないはずさぁ」

 人間もあやかしも関係なく、サヨリヒメを助けるため一丸となって行動している。カムスサは口をぱくつかせ、

「まさか、その黒鉄の巨人で向かうつもりなのか? 無謀だ! 死にに行くようなものだぞ! なぜ誰も止めぬ!? 一般人が、なぜさも当然のように、分不相応な事に立ち向かおうとしているのだ!?」
「貴方の言う事も、もっともです。本来なら、社長である私が止めるべきなのでしょうけど」

「そしたら俺達は勝手に行く。仲間がピンチなのに、こんな所でぐだぐだしてられるかよ」
「あれだけの怪物が相手では、警察も消防も役に立たない。自衛隊だっていつ来るか」
『ならば、私達が行くまでです。サヨリヒメが囚われているのならば、なおさら私達がやらねばならないのです』

 救と御堂、そしてクェーサーは、ヤマタノオロチを見据えていた。

『救、御堂、羽山の皆さん。私は、サヨリヒメを何としても、救いたい……そのために、貴方達の力を、貸してください!』
『応!』

 クェーサーの演説に全員が拳を突き上げた。羽山は苦笑し、頬を掻いた。

「彼らの事は、重々理解しています。ならば社長の私が出来る事は、彼らが安心して戦えるよう、全ての責任を抱くまで。はぁ……こんな危険な仕事、労基に抵触しないかなぁ……」
「僕も一緒に責任を背負いますよ。今は、祈りましょう。サヨリヒメが無事に戻ってこれるように」

 社員が命を賭す以上、羽山と犬養は責任者として腹を決めていた。

「この状況下ならパイロットは先輩しかありえない。でも先輩の反応速度はクェーサーでも対応できない可能性があるから、私も同乗させてくれ」
『遠隔ではラグが出ますからね。御堂が補助してくれれば、救の操縦にも追従できます』
「お前ら2人が居れば百人力だ、よろしくな!」

「ケガするんじゃないよ、あんたたち!」
「信じてるから、必ず帰ってきてくれるって!」

 白瀬と麻山から激を受け、救と御堂はクェーサーに乗り込んだ。
 あやかしのために、命を賭して戦おうとする人間達を目の当たりにし、カムスサは涙を流した。
 どうやら、娘の方が賢かったようだ……我は、いつから見誤っていた……。

「……恥を承知で、頼みを、聞いてくれないか……どうか、どうかサヨを……助けてくれ……!」
『任せろ!』

 羽山工業の社員一同が、一斉に答えた。

『サヨリヒメ……必ず、貴方を助けます……! クェーサー! 出撃する!』

 愛する者を救うため、クェーサーは災害に立ち向かった。
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