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27話 旧友からのラブレター

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 UAをぶっ殺してから、早いもんで五日が経過した。
 出来ればとっとと魔王の居所掴んで喧嘩を売りに行きてぇところなんだが、どこにいるか分かんねぇ以上、各地の警戒態勢を整えなくちゃならなくてな。

 カインとコハクが国と教会に掛け合って、万一に備えての支度をしている所なのさ。ま、確かにおしゃれもしないで魔王とデート、ってわけにもいかねぇか。

 今はランデブー前のおめかしタイムってわけさ。準備が整うのは丁度、試験が終わった頃合いになりそうだぜ。

「ってわけなんで、てめぇらはきちんと試験に集中しとけよ。赤点なんか取ったら俺様がブレイズちゃんにお仕置き受けるんだからな。あ、でもそれはそれでありか?」
「真面目な顔で不真面目な事考えないでよ変態」

 そいつは残念、是非立場リバスっていけない大人の授業をしようと思ったのに。画面の前の女性読者諸君はどうだい? 俺との特別授業、一発受ける気はないかな?

「勉強は先生んおかげでどげんにばりそーたい、ばってん……問題は演習試験やね」
「ああ。先生、俺達はAクラスを相手にするって、本当なのか?」
「ノーコメントって事で」

 いやまぁ、その通りではあるんだがな。立場上明言できねぇんだよ。
 子供ってのは恐いねぇ、一体どっからそんな情報仕入れてくるんだか。確かにこいつらの相手はAクラス、ネロのいる成績上位組だ。
 別に勝ち負けが試験結果に繋がるわけじゃねぇけど、委縮したり意識したりすりゃ当然、普段の力は出せねぇわな。

「俺だって、やれば出来るんだ……先週の魔物騒ぎの時だって、ネロと互角に立ち回れたんだから」
「凄かったちゃね、ディジェ君。ちかっぱかっこちゃかったちゃ」
「私も何度か助けられたわね。と言うより、自分にタゲを取らせる技使って、敵を引き寄せてたわねよね」
「先生にタンク役が向いてるって言われたからさ。親父に頼んで、教えてもらったんだよ」

 へぇ、そうかい。いい具合に親子関係直ってきてんじゃねぇかヨハン。どっかの馬鹿弟子も見習ってもらいたいもんだぜ。

 それはともかく、俺もここまで指導してきた以上、やっぱ勝たせてぇな。必殺技も不格好だが形には出来ている。並の奴なら大丈夫だと思うんだが……念には念を、ってな。

「よし、んじゃお前らにダメ押しのテクニックを教えてやろう。必殺技を確実に直撃させるためのテクニックをな」

 かつて俺とヨハンが使っていた武器だ、学生が使うにはまだ、大振り過ぎて当てるのは難しいだろう。だから軽く難易度の低い技を覚えて、コンボに組み込めばいい。

「魔力コントロールもまぁ、及第点だしな。ついでにブレイズちゃんも覚えてく?」
「そうね、手ほどきを願えるかしら」
「おりょ、随分素直な事」
「真面目な話であれば付きあうの。不真面目なのは嫌いなんだから」
「いやだねぇ、俺様いつでも真面目よ?」

 基本俺様は真面目な正直者さ、ここまで物語追ってきている読者諸君なら分かってくれるよな。な? な?? ……な??? ……おい、頷けよお前ら。

「必殺技より魔力制御は簡単だが、それでも難しい事には変わりねぇ。しっかりついて来いよ」
『はい!』

 返事だけは威勢がいいねぇ。ま、すぐゲロ吐かせてやるけどな!

 って事で十分後、案の定ゲロ吐きダウン。即落ち一行とか斬新すぎるだろお前ら。

「ぎ、ぎもぢわるいぃぃ……荷重、きつかたぃぃぃ……」
「ひ、ひでぇ……! 魔力、込めてねぇ所、右腕で殴んなよぉぉぉぉ……」
「わ、私も……関節が悲鳴上げてる……体への負担が大きすぎない?」

「そりゃそーだろ、俺様とカインが独自に作り出した戦い方だからな。いわばこいつは、平和の象徴が作り出した技術なんだ」

 へへ、目の色変わりやがって。現金な連中だぜ。
 あいつの修行時代、あまりに弱っちかったもんだから、頭悩ませて造り出した物だ。
 そしたらカインが横やり入れてきやがってよ。より俺達に特化させた、尖りに尖った技術を編み出しちまったってわけさ。普段の戦闘じゃ使うまでもない雑魚ばかりで、読者諸君には披露した事はねぇけどな。

「カインの使う技をそっくりそのまま教えてるわけだから、そりゃ体に負担もかかるだろ。あいつは俺ちゃんには劣るが、化け物だ。それを学生と新米勇者のお前らがあっさり使いこなせるわけねぇさ」
「……カイン様の技術……ネロと戦うには、この上ない物だな……!」

 へっ、やっぱ立ったかディジェ。てめぇのそういう、ガッツ溢れる部分。好きだぜ。

「ネロには、絶対勝つ。勝たなきゃならないんだ……俺はあいつより、才能が無い。だったら、努力で補わないと、結果なんかついてこないだろ!」
「うちも、勇者になっちお父しゃんっちお母しゃんば、楽にしゃしぇるんだ。カイン様使うお力、ちょこっとばってん使いこなしゃなかっち!」

 そうこねぇとな。鍛えがいがあるってもんよ、チームガッツ。

「んで、ブレイズちゃんはどーすんだい」
「勿論、やるわ。カイン様の技術って聞いて、燃えない奴なんかいないでしょ」
「そうこなくっちゃな。さ、かかってきな。存分に可愛がって、あと五回はゲロ吐いてもらうからな♡」

 前に言ったろ、俺ちゃん超が付く程のドSなのよ。
 たぁっぷりイって、テクノブレイクしてもらおうか!

  ◇◇◇

 試験までのこり一週間弱で、俺とカインお手製の戦闘術を身に着ける。考えてみりゃ、かなり無茶なもんだ。
 ただ、あいつらの目標を考えるんなら、多少の無茶ぶりは通さにゃならねぇだろ。意気消沈のDクラスを盛り上げる、それなら派手な演出は必要不可欠。

「勇者パーティの技使いこなせりゃ、そりゃいいパフォーマンスになんだろ」
「でしょうね。全く、そんな大きな力を使ってまで僕に勝ちたいのでしょうか。彼らは」

 ネロかよ。神出鬼没すぎんだろ。つか、あの特訓も見ていたのか。

「全く、ブレイズまで無様に吐しゃ物を吐いて、情けない姿でしたね。僕なら貴方の教えについていけますよ、先生」
「別に。むしろ不格好な奴の方が指導してて燃える口でね、最初から完成されたもんを育ててもなんの楽しみもないさ」

 おっと、つい本音が。あいつらには黙っててくれよ、読者諸君。

「それに言ったろ、俺様は赤いガッツの持ち主しか指導しねぇって。確かにお前にもあるようだが、やっぱ指導するには至らねぇ。お袋と妹を大事にする気概自体は、買ってやるがな」
「では、教えていただけませんか。先生の言う、赤いガッツとは? なぜディジェのような出来損ないを指導できて、僕のような才覚溢れる者を指導しないのか、理解に苦しみます」
「ディジェとレヴィ、でもってブレイズちゃん。あいつらが努力する理由を聞き出してみろ」

 前に読者諸君には、感覚的なもんで伝えられねぇって言ったよな。最近、やっと分かってきたんだ。あいつらの持つ赤いガッツの正体をな。
 それを今のこいつに言った所で、反抗されるだけだ。自分で理解して、認めねぇ限り、心が乱れたまま。そんな状態で俺様の指導を受けられるわきゃねーさ。

「あいつが、ディジェが僕より優れていると? そう、言いたいのですか」
「好きに解釈しろ。ともかく、俺は俺自身のハートが揺れない限り動かない。お前にはそれが出来ないだけの事。俺をナンパしたいなら、もっとてめぇを見つめ直してこい。なぁ、カインよ」

 やり口が本当に親子だな。てめぇも廊下の角でちらちら様子見してんじゃねぇってんだよ。

「父上、また来ていらしたようですね」
「試験が近いから、ちょくちょく様子をな。師匠と彼らについて話していたようだけど、お前自身はどうなんだ? あまり相手を見下していると、思わぬ足払いを受ける事になるぞ」
「御心配には及びません。貴方の息子として、恥じない成績を約束しますよ」

 相変わらず、冷戦状態だなこいつら……しょうがねぇ、なぁ。

「おいカイン、時間はどんだけ取れるんだ」
「師匠? そうですね、今日は比較的余裕があるので、一時間は」
「あっそ、ならネロにあれ教えてやれ。ついでにコハクが使ってた魔法もな」

 ディジェとレヴィに教えてやっているのとは、また違う奴だ。ネロなら使いこなせるだろうよ。
 それに、やっぱ勝負ってのは対等だからこそ面白いもんだ。俺らの技術を、こいつに教えないってのもなんかな。俺は教えたくねぇけど、こいつなら出来るだろうさ。

「しかし、俺は理事長です。子供だからと特別扱いするのは」
「つべこべ言わずにやれ! 師匠命令だ! 今なら戦闘訓練室空いてるから、行ってこい」
「いでっ!? 蹴っ飛ばさないでくださいよ、軽くトラウマになってるんですから、師匠の足蹴り」

 あー、そういや魔界に行くとき、こいつを蹴り飛ばして押しとどめたんだっけか。
 なら、丁度いいな。

「おいネロ、カインの奴蹴り飛ばされるのが苦手だそうだ。精々鍛えられている間、好きなように蹴り飛ばしてやれ」
「いいですねそれ。父上の師匠からの命であるなら、従いましょう」
「なんで師匠の言う事は素直に聞くんだよ!?」

 てめーのせいだ馬鹿弟子が。これを機に少しは親子関係修復してこい。

「……じゃあ、いくかネロ。これから教えるのは、俺と師匠がかつて編み出した技術。いわば平和の象徴が使う技だ」
「へぇ、父上にしては珍しく、まともな事を教えてくれそうですね」
「まともかどうかは、自分で判断してくれ」

 親子の会話とは思えねぇな……まじで大丈夫かよカイン。
 ただ、こればっかりは俺様じゃどうしようもできねぇ。機会は与えた、後はてめぇ次第だぞ。
 ……戦闘訓練室へ行く後姿の威圧感がパネェなおい……。

「……ま、これ以上考えるのは無意味か。行こ行こ」

 って事で、去ろうとした時だ。

『見つけた、ハワード・ロック』

 耳元で、うざってぇ声が聞こえたんだ。
 老若男女がまざった、気持ち悪い声だ。ボイスチェンジで声色を変えてやがるな。

「誰だ? どっから俺に念話を飛ばしている」
『ご挨拶だな。かつて長きに渡るロンドを踊り合った仲ではないか』
「生憎、どこの馬の骨とも分からん奴と踊る時間も趣味もねぇんだが」

 ……ま、心当たりはあるんだがな。

『素直になっては、くれないようだね。実に残念だよ。ただ、もうじき君に会える。それが嬉しくて、仕方なくて、たまらないんだ。最高のディナーショーを披露してあげる。どうか、楽しみにしておいてくれ』
「あ、そ。精々期待しない程度には楽しみにしておいてやる」

 最後にふっ、とか言った後、通信はキレちまった。
 試しに逆探仕掛けてみたが、反応はなかった。いいや、探れなかったと言っていい。

「……やっぱ、あいつしかいねぇよな」

 人間界へ迷い込む程弱り切った魔王、俺の探知にひっかからない魔王、そしてヘカトンケイルとUAが見せた、魔王の右腕に対する反応。うっすらとした伏線が繋がりつつある。

「いいぜ、リベンジしかけるってんならかかってこい。今更死に戻ってきた魔王様に何ができるか、せいぜい拝見させてもらおうか」
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