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29話 弟子対弟子のガチンコバトル。

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「それは、本当ですか師匠」
「ああ、それがUAの復活させようとしていた魔王の正体だ」

 俺様が掴んだ情報を話すなり、カインの表情が崩れた。
 ま、だろうな。何しろそいつは以前、俺様が唯一苦戦した魔王だからだ。

「とっととぶちのめしに行くぞ、コハクに探知させて居所を突き止める。野郎の口ぶりからして準備はとうに出来てるっぽいしな、悠長に構えてられねぇぜ」
「ええ、今日の内に行動しましょう。ただ、コハクがどれだけ頑張っても結果は午後になるでしょう。急いては事を仕損じます、今は演習試験に集中すべきです」
「そうだな、下手に俺らが動いてんのを見せればガキどもが混乱しちまう。今は姿見せて安心させておくのがいいか」

 特に、ディジェとレヴィが不安がるだろう。あいつら察しがいい癖に、顔芸へたくそだからな。俺らが居ないとなると、魔王絡みで何かあったと察するだろう。でもってその不安を表に出しちまう。

「ちっ、最初からありえない物として扱っていたからな。懸念を出さなかった俺のミスだ。すまねぇな、こいつは必ず取り返す」
「師匠を出し抜く程の相手です、責められませんよ。ヨハンとブレイズにも連絡をお願いできますか? 俺はコハクと国王、その他各所へ連絡を飛ばしてきます」
「おうよ」

 俺らが見えない裏で、散々動き回っていたようだな。腹立たしいが、強い奴の登場に心躍っちまったのは確かだ。困った性だぜ、シット。

「また、てめぇと踊れるとはな……右腕がまた、疼いてきやがる」

 ビリビリ来てるぜ、やばい感覚がよ。へへ……ワクワクしてくるじゃねぇか。

  ◇◇◇

 演習試験は午前中に終わるようプログラムされている。魔王退治に行くのは午後だから、今は目先の仕事をやっとかねぇとな。

 んじゃ、読者諸君に演習試験の形式を教えておくか。

 クラス対抗、かつツーマンセルで対戦する模擬戦形式の試験だ。制限時間は二十分、対戦カードの組み合わせは教師陣の裁量で決めてあってな、勝敗よりもその中でどう立ち回り、どう動いたのかが評価に繋がっていくんだ。

 魔法に得物は使い放題。怪我に関しちゃ心配いらねぇよ、模擬戦用の保護魔法をかけているから、死ぬような技喰らっても気絶程度で済むご都合設定だ。

 んで、これは個々の実力は勿論、協調性、判断力、連携の仕方と言ったチームアップ力も見る試験でもある。勇者ってのは時にチームアップで動く事もあるもんだ、見知らぬ相手、知古の相手、そいつら相手にどれだけ合わせて動けるか。これが評価基準になってんのよ。

 んでまぁ、前の話でネタバレしてるかもしんねぇけどよ。ディジェとレヴィが居るDは、ネロの居るAとバトる。でもって、その対戦カードは俺が決めさせてもらったよ。

「これより演習試験を開始する! 第一グループ、前へ! Dクラス、ディジェとレヴィ! Aクラス、ネロとメリッサ!」

 そ、俺の馬鹿弟子二人と、ネロをぶつけるよう仕向けたのさ。
 ディジェはネロと対等に立ちてぇようだからな。それなら、直接殴り合う場を作らにゃならんだろ。互いに納得いくまで合法的に殴り合える場をな。

「先生、親父……」

 おいこらディジェ、不安げにこっち見んな。レヴィが恐がるだろうが。パートナーを不安がらせたら減点するぞ。
 ……しゃあねぇなぁ。

「Good Lack, Kid」

 楽しんでいけ、ライバルと競えるこの時をな。

「ふん、未だに先生へ頼らないと、まともに立てないようだね」
「まぁな。お前に比べて俺は弱い、それは確かだ。でも、それでも……それでも! 俺はお前に近づかなくちゃならないんだよ!」
「なら、僕は突き放してあげるよ。君を、僕の手の届かない場所へ!」

「はじめっ!」

「せやっ!」

 開幕直後、レヴィがいきなりかましやがった。

 ネロ組とは七メートルの間合いがあったんだが、それを一瞬で潰す、驚異的なダッシュを見せたんだ。

 当然、いきなり目の前に出てきたレヴィにゃ、ネロも驚いたようでな。勿論モブ生徒のメリッサなんかは反応しきれるわけがねぇ。

「く、っ!?」
「待つんだメリッサ!」

 制止してもおせぇよネロ。今のレヴィは、めっちゃ早いぜ。
 メリッサが振り下ろした剣をギリギリまで引きつけた所で、横にスライド。最短距離を一瞬で移動する、超高速機動。

 こいつが俺の教えた技術、ホッパー。行動する一瞬だけ、肉体強化術をかけて移動する技術よ。
 魔法は発動直後の0,5秒が最も効果がある、だけど人間の脳が判断して体を動かすまで、0,5秒の間がある。その最高に効果が高い一瞬を、人間は使いこなせねぇんだ。

 だからレヴィに教え込んだのさ、脳が反応するよりも早く動けと。魔法を考えるんじゃなく、感覚で使う訓練を続けたんだ。

 それで見事に背後を取るが、ネロの援護もあってメリッサは反応してきやがる。だが、その程度じゃついて行くのは無理だ。
 二人が振り向いた瞬間、レヴィはジャンプした。二人の頭上に飛ぶが、ネロはすぐさま剣を突き出して対応してきた。

 ま、あいつの判断は間違っちゃねーよ。普通人間は、空中では動けない。足場がないからな。

 だが、足場があれば自在に動けるだろ。

「今だ……エアライド!」

 魔力で足場を作りゃあ、そいつを蹴って空中での高速移動が可能になる。それがレヴィに教えた技術、エアライドだ。
 でもってエアライドとホッパーを組み合わせて、縦横無尽の立体機動を披露する。試合開始からわずか三秒。あまりの速度にネロ達は反応できてねぇ、見事に翻弄してるぜ。

 俺とカインが考え、編み出した機動力重視の戦闘スタイル……スピードスターの真骨頂だ。

「ハワードさん、何てもの教えてるんだよ。あのスタイルは学生が使う物じゃないぞ」
「だろうな。あんだけの速度で、しかも無意識に近い状態で立体機動をやるんだ。体が出来てない十代じゃ当然負担がかかるわな。実際Gが強すぎて、あいつは何度もゲロ吐いたよ」

 だが、ゲロ吐いた分だけあいつは強くなった。今なら多少の負荷程度でやられねぇよ。
 でもって開幕スタートダッシュが、俺の出した秘策よ。

 人間はパニックに陥ると、二十秒の間思考力が落ちる。その間に最低でも一人、相手の駒を落とせ。

「ええいっ!」

 トンファーを地面に打ち鳴らすなり、甲高い音が響く。そいつに驚いて、メリッサが竦み上がった。必殺技をぶち込むなら、今だ!

「行け、レヴィ!」
「OK!」

 メリッサの左胸に斜め下、スリークォーターから繰り出されるアッパーが叩き込まれた。
 敵の心臓を的確に撃ち抜く一撃だ。そいつを受ければどうなるか分かるかい、読者諸君。
 一瞬だが、生物は活動を停止する。その僅かな時間は、ボコり放題だ。

「先生直伝、必殺技っ!」

 スピードスターを教えた今なら、最大限に活かせる。超速で相手の周囲を駆け回って、全方位から人体急所全てをぶち抜いていく。
 でもってボコってる間、レヴィはずっと加速し続けている。体の動きを連動させながら、溜めを作っているんだ。

 溜めが最大になった瞬間に、相手の正面に立つ。同時に体を螺旋回転させて、全身の力を逃すことなく、一撃に込める。
 これが俺の教えた必殺技。確実に敵をぶっ壊す、七曜教団の殺人技。

「デビルっ、ブレイカー!」

 全荷重を乗っけた、トドメの一撃を人中に叩き込み、見事メリッサをKO。へっ、俺様の教えを見事に活かしきりやがったな、てめぇ。

「だからなんて物教えてるんだよあんた!? メリッサ生きてるよな、大丈夫だよな!?」
「安全対策の保護魔法かけてるから大丈夫だろ、気絶しただけだ。それに俺は、出来ねぇ事を無理強いしねぇよ」

 レヴィなら出来る、そう信じて教えただけだ。

「先生の、必殺技……出来たったい!」

 ただし、俺が教えたってのを大々的に広告すんな。
 ともあれこれで、数的有利は出来た。スピードスターは奇襲性に特化した戦闘スタイル、意表を突くのにこれほど適したもんはねぇさ。
 ま、そいつが通用すんのも極短時間だがな。

「気を抜くなレヴィ!」
「へ? うわっ!?」

 間一髪、ディジェがレヴィを引っ張って救助。ネロが剣振り下ろしてきてたんだ。
 流石だな、ほんの十秒で思考を立て直しやがった。

「やるね、まさかこんな奇策を考えていたとは。いや、吹き込まれたと言った方が正しいかな?」

 おーれちゃーんしーらないっと。

「僕と君達の実力差は明白、それなら数的有利を取って戦うのが得策か。しかも勇者パーティの技を使う事で相手に威圧を与え、思考力を奪う。大賢者様らしい意地悪さだ」

 つーか、それしか勝ち筋が思いつかねぇのが正解なんだが。
 ぶっちゃけ俺がモブを蹴落とさせたのは、戦力差を五分にするためだ。ネロは強ぇよ、多分、ディジェとレヴィが束になろうが勝てるわけがねぇ。
 こっから先は、てめぇらでどうにかするしかねぇぞ。

「でもね、勇者パーティの技を使えるのは、君達だけじゃないんだよ」

 言うなりネロの奴、左手に光球を作り出しやがった。あれは、コハクの使っていた必殺魔法じゃねぇか。

「まずっ……! ネロ止めろ!」

 ヨハン、止めようとしても遅いぞ。もうモーション入っちまった。
 ネロが光球を投げるなり、大爆発が起こった。試験会場が悲鳴を上げる程の一撃、保護魔法がかかってなかったら肉片すら残らねぇな。

 あれはコハクが使っていた聖属性の究極魔法、アルテマバーストだ。自分の魔力を実体化させて、直接相手にぶち込む大技。当たった瞬間中性子反応を起こして大爆発させる、超必殺技だ。
 カインが吹き込みやがったな、コハクが奥の手として使っていた、究極魔法を。

「どうやら、初撃は耐えたようだね。褒めてあげるよ」
「ネ……ロっ!」

 ディジェが盾になってレヴィを守ったか。タンク役らしい体の張り方だぜ。
 だが気を抜くなよ、ネロはカインからアレを教わっている。

「さぁ、どこまで僕についてこれるかな? 試してごらんよディジェ」

 言うなりネロは二人に襲い掛かる。詠唱しながらな。魔法を使うには本来、立ち止まりながら詠唱する必要があるんだが、カインが教えた戦闘スタイルは、行動しながら詠唱し、魔法を使えるようにしたものだ。

「コットンスワンプ! ネットハンガー!」

 二人の足元に大量の綿を出現させた後、頭上から網を降らせる。範囲こそ狭いが、相手の動きを止めるのに特化した魔法だ。
 そいつを連続して使われたら、たまんねぇな。しかも二人が動けねぇ間に、

「ファイアボール!」

 普通の物より半分程度の、ちっこい火球を飛ばしやがる。威力は半減している初級魔法だが、綿と網はよく燃える、当たった瞬間火の海だ。えげつねぇコンボ叩き込むもんだぜ。
 これが魔法特化の戦闘スタイル、マギスレイヤー。威力と引き換えに詠唱速度を上げる事で、魔法の速射を可能にしたスタイルだ。

 だが威力を下げたとは言え、さっきみたいに補助魔法を組み合わせる事でそれを補う事は可能だ。しかも威力を下げるって事は消費魔力と使用難度が低くなるメリットもある。

「もう一度、アルテマバースト!」

 コハクの大技を気軽な飛び道具感覚で連射、連射! 連射!! すげぇや、才能あるとは思っていたが……試験会場が絨毯爆撃に見舞われてるぜ。
 絶え間ない手数で敵を圧倒する、継続的な火力が特色のスタイル。ネロにとことん合ってたみたいだな。

「あんたといい、カインといい……学生になんて大技教えてるんだよ! 止めないと、こんなの試験じゃない!」
「いいや、試験だ。つかやらせてやれよ。折角あいつらが、全力でぶつかり合ってんだ」

 もしネロが二人を見下していたら、マギスレイヤーにアルテマバーストを使ったりしねぇだろう。つまりネロも本気でディジェとぶつかろうとしているんだ。

「その場を教師が取り上げちゃダメだろう。本当にヤバくなったら、俺が止めてやる」
「……あんた、結構甘いよな。けど、ディジェはネロみたいな技は……」
「教えてあるよ、あと一つ、戦闘スタイルと必殺技が残ってんだろ。俺達勇者パーティが使っていたもんが、な」

 ネロにマギスレイヤーが合っているように、ディジェにもあのスタイルが合っている。

 相手が誰だろうと引かねぇド根性、攻撃をいくら受けようが怯まねぇ体の強さ、そして目標へ努力し続ける精神力。

「これらを兼ね備えているなら、使う資格がある。防御特化の戦闘スタイル、メテオガードナーがな」
 魔力を体の一部にのみ集約する事で、極限まで防御力を高めるスタイルだ。その証拠に、あんだけの攻撃を受けたのにディジェは、
「……っぶねー! ネロ、お前殺す気かよ!」

 ほらな? 文句言えるくらい元気だろ。
 背中に魔力を集中させて、懸命にレヴィを庇っていたんだ。あいつはヨハンの息子、天性のタンク役。だったらこの鉄壁の防御力を誇る戦闘スタイルはおあつらえ向きってわけだ。

 ま、俺とカインの戦闘スタイルの中じゃ一番地味でやれる事も少ねぇんだけどな。

「へぇ、驚いたな。僕の魔法をこれだけ受けても、心が折れていないなんて」
「ああ。先生に、言われたんだ。俺の、最大の長所をな。どれだけ困難にぶつかっても突き進む、ド根性! それが俺の、お前に勝つための武器だ!」

 そうだ、突き進め。てめぇははっきり言って、ド凡人だ。
 だからこそ、俺はメテオガードナーを教えた。愚直に真っ直ぐ進む力があると見込んだからな。
 でもって、お前のその根性はよ、人を動かすんだ。

「うちも、パワー全開で行くばい! ディジェ君の頑張っちるなら、うちも雁原んけんっち!」
「反撃だレヴィ! チームガッツの底力を、ネロに見せてやるぞ!」
「おー!」

 レヴィの士気が上がってきたな。そう、お前らとネロの間にある差を埋めるには、精神力で追い上げるしかねぇ。
 くくっ、やっぱ面白いねぇ。こういう、弱い奴が強い奴を食おうとする様はよ。それに、個人的な事を言えば負けてほしくねぇ。

「カイン」
「師匠」

 言いたい事は分かるな?

「勝つのは俺の馬鹿弟子だ」
「勝つのは俺の馬鹿息子だ」

 ここまで育ててきた、次世代の弟子だ。それを弟子の弟子にやられちゃ、こっちもむかつくんでね。
 だから死ぬ気で勝てよ、てめぇら!
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