kings field 蝶の森 

祥々奈々

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バロネス・フローラ

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 鏡の前を自分が通り過ぎた、そう思わせるほど似ていた。
 自分には疎ましいブロンズの髪も、怒りに染まるピンクの肌も彼女のためのものだった。
 
 この地を収めていた男爵が怪物に襲われて亡くなったのが一月前。
 嫡男ちゃくなんのいない家系、十七歳の一人娘が仮の当主としてその責務を負うことになったと聞いていた。

 バロネス(男爵令嬢)、フローラ・ムートンは怪物討伐の依頼のためギルドを訪れていたのだろう、激しい音を発てて開け放たれたドアからギルド長のニヤケた顔がのぞいた、いやな奴だ。
 フローラの剣幕から依頼は受諾されなかったようだ、昔気質に国王に忠誠を誓うムートン家に対して、ギルドは反国王派のランドルトン公爵派閥、雲の上から一声あってもおかしくはない。
 さらに公爵家と男爵家の軋轢あつれきを深くする事案が持ち上がっていた。
 王家皇太子エドワードからフローラに対して一方的な婚約を求められていたのだった、貴族とはいえ男爵家は序列最下級、戦禍で武功を立てて成り上がったのがフローラの父、その娘を皇太子妃に向かえることは通常ありえない、   公爵家か伯爵家、または国外の王家から迎えるのは本来だ。
 王家の取り巻きや、この機会に取り入ろうと考えていた有力諸侯からの僻み嫉みをムートン家は受けることになってしまった。

 若く美しいバロネスに対してギルドのホールにたむろしていた冒険者たちの羨望せんぼう嫉妬しっとねたみ、卑猥ひわい、様々な視線が追いかける。
 卑しい視線に気づいたヴァレットメイド(近侍従)が眼鏡越しに睨みを返すが効果はない。
「冒険者の皆さん!聞いてください!!」
 突然振り返ったフローラが大声を張り上げた。
「今、ムートンの森に正体不明の怪物が跋扈ばっこして村人たちを襲っている!放ってはおけません、どうか力を貸してください!!」
 フローラの熱い声にも冒険者たちはシラケた視線と嘲笑ちょうしょうを返すのみだ、冒険者はギルドの社員同然、すでに非協力の指示が出されている。
 ヒヒヒッ クックックッ テーブルの各所から嫌味な敵意が漏れている。
「くっ、人の命がかかっているのよ!あなたたちの親戚が犠牲になるかもしれないのに黙って見ているつもりなの!!」
「生憎だな、俺たちは流れ者でね、この土地に家族なんていやしねぇのさ」
「既に公爵様の騎馬隊が出立の準備が出来てるそうだぜ、任せておけばいいんじゃないのかぁ」
「皇太子様の兵じゃなくて残念だったな、バロネス様よ」
 ひゃっはっはっはっ 下品な爆笑がギルドに湧きあがった
「無礼者!!お嬢様に失礼な発言は許しませんよ!」
 ヴァレットメイドのアンヌ・マリが背中のマスケット銃に手を伸ばした。
「やめて!アンヌ!」
「フローラ様・・・」
 フローラはその目に涙を溜めてはいるが冒険者たち全員に掴みかかりそうな形相で睨んでいる、相当気は強そうだ。
 面倒な展開だ、私は席を立ってギルドの外に出る、どうせ用はない、この町に仕事はなかった。
 馬の準備をしているとフローラたちと隣り合わせてしまった、珍しい者を見たように話しかけてきた。
「あなたも冒険者?」
 覗き込むような視線を感じる。
「そうだが流れ者だ、この町へは立ち寄っただけだ」
「女性の冒険者なんて珍しいわ」
「・・・」この勘違いは正さないでおく。
「何かこまったことがあればムートンの領主館を訪ねてね」
 フローラの表情はさっきとは違い柔らかだ、こっちが素なのだろう。
「ここから見えるムートンの森、あそこには入らないで、魔獣がでるの」
「魔獣?狼か熊か」
「わからない、でも危険よ、もう何人も殺されている」
「それでギルドに討伐依頼にきたのか」
「予想通り駄目だったけどね・・・」
「忠告ありがとう、そうしよう」
「じゃあ、気をつけて」
 二人が自ら馬の鞍に跨りムートン領に向けて走り出したのを見送る。
 朝、嫌なものを見ていた、ギルド長が頭を下げていたのは黒装束の兵士、ムートンの森に向かって馬を駆って行ったのを思い出した、彼らの意図がフローラたちと結びつく。

 どうしたものか、悪い娘には見えないが関わるべきではないだろう。
普通なら思案するまでもない事だ、いくら疎ましい顔でも同じ顔が泥水の中に転がっているのを見過ごすのは気分が悪い。

 エミーはそのまま馬に跨り鐙に靴を通した。
 いたずらな風が馬桶の水鏡にベールの下の顔を映す。
 ブロンズの髪に深緑の瞳、一瞥しただけでは違いを見分けるのは難しいだろう。

 しかし、決定的に違うことがある。

 エミーは男だということだ。
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