kings field 蝶の森 

祥々奈々

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忠誠

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 族長たちが待つ岩穴の議場は外光が少ないせいもあり薄暗い、油が焚かれてオレンジ色の炎が族長たちに影を落としていた。
 フローラとエドたち五人が議場に入ると静まり返った空気がさらに重くなる。
 使者として訪れたアオギリが言っていた弔意だけではないと感じた、あの後に何かが起こったのだ。
 「バロネス・フローラ様、本来なら此方から出向かねばならぬところおいで頂き、誠にありがとうございます」
 フローラの祖父にもあたる年齢の族長が床に頭を付けて謝意を表す、ついで後ろに控えた副族長たちも同様に頭を下げた。
 族長たちの顔に苦い思いがこびり付いている。
 「族長様、どうか頭をお上げ下さい、このような機会を与えてくださった事、父に代わり感謝いたします」
  フローラの頭も地に着くところまで下げられる、エドは再び驚かされる、貴族が領民や現地人に頭を下げることなどないと思っていた。
 貴族は、命令はすれど礼や謝意、ましてや頭を下げるなど聞いたことがない。
 対等な人間として付き合いながら税収も上げる、お互いが豊かになる世界などあり得ないと思っていた。
「こちらの皆様は王家が派遣してくださった魔獣討伐隊の皆様です、本日は護衛も兼ねて同行頂きました、同席することをお許しください」
 「王家の……」
  王家の派遣と聞いて族長たちの顔がますます暗くなる。
 「フローラ様、我々は許されない罪を犯してしまったかもしれません」
 族長は固く拳を握ったままそれでも背筋を伸ばして視線をフローラに向ける。
 「罪……ですか!?」
 「先日、行方不明であった里の者の惨殺体がムートンの森で見つかりました、その死体は腹を裂かれ臓物はすっかりなく、高い枝からぶら下げられていました」
 「それは!きっと魔猿熊ヤーグルに襲われたに違いありません」
 「そうかも知れません、いえきっとそうなのでしょう、人が出来る事ではありません」
 「ならば謝らなければならないのはこちらの方です、討伐が遅くなっているために岩人に被害者を出してしまったのですから」
 フローラは下を向いて目を固く閉じて悔しがるように肩を窄める、演技だ。
 「違うのです、木にぶら下げ内臓を抜いたのはヤーグルでしょう、しかし殺したのは人間です、致命傷は細い刃物で刺された首の傷でした、さらに目には毒も浴びせられていたのです」
 「!!」
 あいつだ、最初にフローラとアンヌを襲った男たちだ、岩人だったのか。
 驚きはしたが演技以上の変化は起きない、偽フローラはどうしてそれが謝る事なのかと疑問の演技を崩さない。
 「ヤーグルは刃物も使うことが分かっています、やはり犯人はヤーグルではないでしょうか」
 「そうなのですか……しかし問題なのは殺された者が所持していたこれです」
 ガチャリと数枚の金貨が重い音を立ててフローラの前に置かれた。
 「これは……!?」
 表に家紋、裏には帆船のロゴが刻まれている。
 「失礼」後ろからガイゼルが手を伸ばすとコインを取り上げエドに見せた。
 「なるほど、これはラングルトン公爵家発行の金貨、庶民なら五年は遊んで暮らせる」
 「そうです、岩人が持つはずがないものです」
 「族長は殺された岩人がラングルトン公爵家と繋がりを持ち、その金貨を代償に父上を暗殺したのではないかと疑っておられるのですね」
 フローラの右手が首筋に伸びる、やや煽った向きに傾いた表情が薄暗い議場で妖艶だ。
 「関連はあったかも知れませんが直接手を下したとは言い難いでしょう、なぜなら父上の致命傷は腹部の裂傷、岩人で言われるような刀傷はありませんでした、それに父上は鬼神と謳われた武人、人の技で簡単には殺せません」
 分かっていた、その金貨はフローラの暗殺の代償に支払われたものだ。
 「だとしても岩人の中にムートン家に背を向けラングルトンに寝返った者が居たことは明白、お詫びのしようもございません」
 再び族長たち全員が頭を床に擦りつけた。
 「……」
 偽フローラは前の族長たちよりも後ろのエドたちの気配を伺う、ムートン家への裏切りは即ち王家に対する敵対だ、硝酸を手に入れ内戦を起こし国家転覆を狙うのがラングルトン公爵家の策略だ。
 怒り狂ったエドたちが剣を抜いて族長たちの首を飛ばすこともありえる、事実中央に座っているエド以外の四人からは殺気が露になっている、背筋が寒くなる。
 取り除くには岩人が王家側だと信じさせなければならない。
 目を閉じて深く息を一つ。
 「族長、率直に聞きます、ラングルトン公爵家より硝酸の採掘について接触があったのでしょうか」
 ビクッと身体を揺らした後、族長は重い口を開いた。
 「実は……法外な金額で土を買い取らせてほしいと申し出が来ているのですじゃ、もちろん売るつもりはありません……しかし岩人全てが同意見とはいいがたい」
 声は尻窄みに小さくなった。
 「その異端分子が殺されたひとり」
 「全部で四人いました、ですが後三人は死体もありません」
 「正直に打ち明けて頂いた事感謝いたします、この件と父上の件は別と断定していいと思いますが硝酸採掘についてはムートン家としても認めることは出来ません、いくら公爵家とはいえ、この地を収めるのはあくまでムートン男爵家、今は私がバロネス、黙って見過ごせない」
 はっきりと通る声が議場に響いた、その響きには曖昧さはない、言葉は柔らかくとも絶対の命令だ。
 「ムートン家はラングルトン公爵家に寝返ることは絶対にありません、父上もその覚悟を持って散ったと思います、私は父上の躯を踏みつけるような真似は絶対にしないしさせない」
 「ははっ、勿論ですバロネス様!我々はムートン家の温情により助けられ生きながらえた者、恩を忘れず義に報いバロネス様に従います」
 ビシリとその場を収めると同時にムートン領の結束を皇太子一行に知らしめた。
 「ありがとうございます、族長様、今の言葉を聞いたら父上は涙を流し喜んだでしょう」
 偽フローラは濡れていない目じりを指で拭い、エドたちに向けて身体を回した。
 「討伐隊の皆様、そう言うことですので今後とも岩人の皆さんとも情報交換しながらヤーグルの討伐にご協力くださいますようお願いいたします」
 族長同様に頭を床に付けようと下げた時、フローラの目に大粒の涙を滝のように流す皇太子エドワードの姿が映った。
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