kings field 蝶の森 

祥々奈々

文字の大きさ
49 / 76

時間がない

しおりを挟む
 「フィーゴ子爵が魔獣ヤーヴルに殺されたぞ!」
 その日の夕暮れ近くに自警団マックスが走り込んできた。
 「ムートンの森で殺されたの?魔獣討伐の連絡はなかったわよ」
 馬鹿なチビッコが勝手に始めたのか。
 「いや、例の陣を張っていた場所が襲われたらしい、俺も現場を見たわけじゃないのだが被害は子爵一人だそうだ」
 「子爵ひとり?」偽フローラの片眉が上がる。
 「行方不明じゃないってことは死体が残されていたってことね」
 「そうらしい」
 「おかしいわ」フローラの指が首筋に伸びている。
 「フローラ様、何か疑義が御有りなのですか?」同席していたエドが興味深そうに身を乗り出す、フローラの推理を期待している。
 「お父様や羊飼いの時とは違う、魔獣ヤーヴルの群れは灰色熊を食い尽くす程に大きくなっている、陣を襲ったなら被害者が一人なのも獲物を置いて行くのも変だわ」
 「なるほど、確かにそうだ」エドが膝を叩いた。
 「じゃあ、また自作自演か、本人が死んじまったぞ」
 「ラングルトン公爵に見限られたのよ、黒幕は公爵家」
 「まさか、殺すまでするのか……」エドとマックスは顔を見合わせる。
 「ミストレス・ブラックパール、噂通り容赦ないようね」
 「子爵に任命しているのは国王だ、それを勝手に制裁する権限など公爵にはないぞ、許しがたい反逆だ」エドの顔が怒りに赤く染まる。
 「……まずいわ」フローラの顔が曇る。
 「公爵家が表に出てくるということか」マックスも同意した。
 「犯人の問題ではなく子爵殺害の意味は大きい、今よりも大きな規模で制圧にくるわ」
 「ならば本格的に我々の出番だな、公爵家より早く魔獣ヤーヴルを討伐してしまえばムートン領に手出しは出来なくなる、フローラ様、討伐を我々にご命令ください」
 「もう時間がない……」自信満々に胸を叩いたエドの啖呵を聞いてもフローラの顔は晴れなかった。
 「二人にお願いがあります」
 「おう、なんでも言ってくれ」あらたまったフローラに二人は決戦の予感を感じて背筋を伸ばす。
 「マックスには自警団の皆に伝えてほしい、今後侯爵家が領内に入ってくる、でも極力争わないで、奴らはきっと一線を越えてくる、いざとなった岩人の里まで疎開して」
 「疎開?なにを言うフローラ、俺達はお前の盾となって戦う、例えそれで死んでも悔いなどない」
 「そうね、フローラの為に貴方たちは死んではいけないの」
 「?」
 「二人とも一緒に来てほしい」フローラはエドの手を取った。
 「フローラ様?」
 手を引かれるまま後に続いて離れの小屋の前まで来る。
 振り返ったフローラの顔には何か別な決意があった、その真意を測りかねて二人の男は戸惑った。
 「少しここで待っていて……」浅く扉を開けるとフローラはその薄い身体を室内に滑り込ませ再び扉は閉じられた。
 「この小屋は……誰かいるのか?」エドが見上げた低い屋根には根付いた草が葉を伸ばしている。
 「確かここは先代の奥方様が療養のために使っていた部屋、今は誰も住んでいないはず」
 何やら中がバタバタと騒がしい、数人の気配がある。
 「おかしい、彼女がフローラの為になんて意味がわからん」
 「やはりそうですか、フローラの為にとは……まるで別人のような言い方だ」
 「どうも魔獣騒ぎ以降のフローラはらしくない、冷静過ぎるくらい冷静だ、どちらかと言えば感情が表に出やすい女だったのだが」
 「そうなのですか、男爵様を亡くし領地を背負う責任がそうさせているのでしょう」
 「それにしても……いや悪い事ではないのだ、優しく聡明な事は変わらない、それにこの町一番の美人だ」
 「マックスさん、それは違う、この国一番の美人だ」
 「ハッハッハ、それはちと言い過ぎだろう、一般的な定義から言えばフローラは貧乳だからな、世の男の評価からは外れることも多い」
 「そんなことはない、王都にも彼女のような女はいない」
 「そう言われると同郷の者としても鼻が高い、皇太子も見る目があると俺は思っているんだ」
 「彼女のような女が国母となれば国も一段と栄えるだろう」
 「エドさんもフローラを随分と評価しているようだな」
 「当然だ、悔しいが彼女の洞察力は我々を凌ぐ、尊敬の念を抱かざるを得ない」
 「うーん、そこなんだ、前までは短気でお転婆なおっちょこちょいだったんだがなぁ」
 ガチャッ 扉が開くとそこにいたのはハウスメイドのロゼだった。
 「話声!中に聞こえていますよ」ムッとした少女は貧乳に怒っているようだ。
 「あれ?ロゼちゃん、ここで何をしているんだい」
 「準備が出来ました!フローラ様たちがお待ちです、どうぞお入りください!」
 「フローラたち?他に誰かいるのか」
 マックスが苦笑いで頭をかきながら先にドアをくぐった。
 「えっ……!?」
 「どうかしましたか?マックスさん」
 入口を入ったところで立ち止まっているマックスにつっかえてエドは肩口から部屋の中を覗き込んだ。
 「なっ……!?」
 
 まるで鏡に映したような二人のフローラが驚いて固まるエドとマックスを見ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。

処理中です...