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時間がない
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「フィーゴ子爵が魔獣ヤーヴルに殺されたぞ!」
その日の夕暮れ近くに自警団マックスが走り込んできた。
「ムートンの森で殺されたの?魔獣討伐の連絡はなかったわよ」
馬鹿なチビッコが勝手に始めたのか。
「いや、例の陣を張っていた場所が襲われたらしい、俺も現場を見たわけじゃないのだが被害は子爵一人だそうだ」
「子爵ひとり?」偽フローラの片眉が上がる。
「行方不明じゃないってことは死体が残されていたってことね」
「そうらしい」
「おかしいわ」フローラの指が首筋に伸びている。
「フローラ様、何か疑義が御有りなのですか?」同席していたエドが興味深そうに身を乗り出す、フローラの推理を期待している。
「お父様や羊飼いの時とは違う、魔獣ヤーヴルの群れは灰色熊を食い尽くす程に大きくなっている、陣を襲ったなら被害者が一人なのも獲物を置いて行くのも変だわ」
「なるほど、確かにそうだ」エドが膝を叩いた。
「じゃあ、また自作自演か、本人が死んじまったぞ」
「ラングルトン公爵に見限られたのよ、黒幕は公爵家」
「まさか、殺すまでするのか……」エドとマックスは顔を見合わせる。
「ミストレス・ブラックパール、噂通り容赦ないようね」
「子爵に任命しているのは国王だ、それを勝手に制裁する権限など公爵にはないぞ、許しがたい反逆だ」エドの顔が怒りに赤く染まる。
「……まずいわ」フローラの顔が曇る。
「公爵家が表に出てくるということか」マックスも同意した。
「犯人の問題ではなく子爵殺害の意味は大きい、今よりも大きな規模で制圧にくるわ」
「ならば本格的に我々の出番だな、公爵家より早く魔獣ヤーヴルを討伐してしまえばムートン領に手出しは出来なくなる、フローラ様、討伐を我々にご命令ください」
「もう時間がない……」自信満々に胸を叩いたエドの啖呵を聞いてもフローラの顔は晴れなかった。
「二人にお願いがあります」
「おう、なんでも言ってくれ」あらたまったフローラに二人は決戦の予感を感じて背筋を伸ばす。
「マックスには自警団の皆に伝えてほしい、今後侯爵家が領内に入ってくる、でも極力争わないで、奴らはきっと一線を越えてくる、いざとなった岩人の里まで疎開して」
「疎開?なにを言うフローラ、俺達はお前の盾となって戦う、例えそれで死んでも悔いなどない」
「そうね、フローラの為に貴方たちは死んではいけないの」
「?」
「二人とも一緒に来てほしい」フローラはエドの手を取った。
「フローラ様?」
手を引かれるまま後に続いて離れの小屋の前まで来る。
振り返ったフローラの顔には何か別な決意があった、その真意を測りかねて二人の男は戸惑った。
「少しここで待っていて……」浅く扉を開けるとフローラはその薄い身体を室内に滑り込ませ再び扉は閉じられた。
「この小屋は……誰かいるのか?」エドが見上げた低い屋根には根付いた草が葉を伸ばしている。
「確かここは先代の奥方様が療養のために使っていた部屋、今は誰も住んでいないはず」
何やら中がバタバタと騒がしい、数人の気配がある。
「おかしい、彼女がフローラの為になんて意味がわからん」
「やはりそうですか、フローラの為にとは……まるで別人のような言い方だ」
「どうも魔獣騒ぎ以降のフローラはらしくない、冷静過ぎるくらい冷静だ、どちらかと言えば感情が表に出やすい女だったのだが」
「そうなのですか、男爵様を亡くし領地を背負う責任がそうさせているのでしょう」
「それにしても……いや悪い事ではないのだ、優しく聡明な事は変わらない、それにこの町一番の美人だ」
「マックスさん、それは違う、この国一番の美人だ」
「ハッハッハ、それはちと言い過ぎだろう、一般的な定義から言えばフローラは貧乳だからな、世の男の評価からは外れることも多い」
「そんなことはない、王都にも彼女のような女はいない」
「そう言われると同郷の者としても鼻が高い、皇太子も見る目があると俺は思っているんだ」
「彼女のような女が国母となれば国も一段と栄えるだろう」
「エドさんもフローラを随分と評価しているようだな」
「当然だ、悔しいが彼女の洞察力は我々を凌ぐ、尊敬の念を抱かざるを得ない」
「うーん、そこなんだ、前までは短気でお転婆なおっちょこちょいだったんだがなぁ」
ガチャッ 扉が開くとそこにいたのはハウスメイドのロゼだった。
「話声!中に聞こえていますよ」ムッとした少女は貧乳に怒っているようだ。
「あれ?ロゼちゃん、ここで何をしているんだい」
「準備が出来ました!フローラ様たちがお待ちです、どうぞお入りください!」
「フローラたち?他に誰かいるのか」
マックスが苦笑いで頭をかきながら先にドアをくぐった。
「えっ……!?」
「どうかしましたか?マックスさん」
入口を入ったところで立ち止まっているマックスにつっかえてエドは肩口から部屋の中を覗き込んだ。
「なっ……!?」
まるで鏡に映したような二人のフローラが驚いて固まるエドとマックスを見ていた。
その日の夕暮れ近くに自警団マックスが走り込んできた。
「ムートンの森で殺されたの?魔獣討伐の連絡はなかったわよ」
馬鹿なチビッコが勝手に始めたのか。
「いや、例の陣を張っていた場所が襲われたらしい、俺も現場を見たわけじゃないのだが被害は子爵一人だそうだ」
「子爵ひとり?」偽フローラの片眉が上がる。
「行方不明じゃないってことは死体が残されていたってことね」
「そうらしい」
「おかしいわ」フローラの指が首筋に伸びている。
「フローラ様、何か疑義が御有りなのですか?」同席していたエドが興味深そうに身を乗り出す、フローラの推理を期待している。
「お父様や羊飼いの時とは違う、魔獣ヤーヴルの群れは灰色熊を食い尽くす程に大きくなっている、陣を襲ったなら被害者が一人なのも獲物を置いて行くのも変だわ」
「なるほど、確かにそうだ」エドが膝を叩いた。
「じゃあ、また自作自演か、本人が死んじまったぞ」
「ラングルトン公爵に見限られたのよ、黒幕は公爵家」
「まさか、殺すまでするのか……」エドとマックスは顔を見合わせる。
「ミストレス・ブラックパール、噂通り容赦ないようね」
「子爵に任命しているのは国王だ、それを勝手に制裁する権限など公爵にはないぞ、許しがたい反逆だ」エドの顔が怒りに赤く染まる。
「……まずいわ」フローラの顔が曇る。
「公爵家が表に出てくるということか」マックスも同意した。
「犯人の問題ではなく子爵殺害の意味は大きい、今よりも大きな規模で制圧にくるわ」
「ならば本格的に我々の出番だな、公爵家より早く魔獣ヤーヴルを討伐してしまえばムートン領に手出しは出来なくなる、フローラ様、討伐を我々にご命令ください」
「もう時間がない……」自信満々に胸を叩いたエドの啖呵を聞いてもフローラの顔は晴れなかった。
「二人にお願いがあります」
「おう、なんでも言ってくれ」あらたまったフローラに二人は決戦の予感を感じて背筋を伸ばす。
「マックスには自警団の皆に伝えてほしい、今後侯爵家が領内に入ってくる、でも極力争わないで、奴らはきっと一線を越えてくる、いざとなった岩人の里まで疎開して」
「疎開?なにを言うフローラ、俺達はお前の盾となって戦う、例えそれで死んでも悔いなどない」
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「?」
「二人とも一緒に来てほしい」フローラはエドの手を取った。
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手を引かれるまま後に続いて離れの小屋の前まで来る。
振り返ったフローラの顔には何か別な決意があった、その真意を測りかねて二人の男は戸惑った。
「少しここで待っていて……」浅く扉を開けるとフローラはその薄い身体を室内に滑り込ませ再び扉は閉じられた。
「この小屋は……誰かいるのか?」エドが見上げた低い屋根には根付いた草が葉を伸ばしている。
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何やら中がバタバタと騒がしい、数人の気配がある。
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「それにしても……いや悪い事ではないのだ、優しく聡明な事は変わらない、それにこの町一番の美人だ」
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「あれ?ロゼちゃん、ここで何をしているんだい」
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