kings field 蝶の森 

祥々奈々

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王都移転

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 「プッププ!プロポーズ!!皇太子がフローラにプロポーズ!?」
 マックスが再び腰を抜かした。
 直立不動のロゼは誇らしげに胸を張っている。
 「この流れでどうして妻になってくれとかいうわけ!バカじゃないの!?」
 「バッ、バカ!?」エドに自分に向けられた初めての言葉だろう、ハリーが聞いていたら慙死していたかもしれない。
 「フ、フローラ!!や、やめろ、いくらなんでも皇太子にバカはまずいだろ」
 マックスが止めるが顔を紅潮させたフローラの熱は下がらない、後先考えず駆け出すのがフローラだ。
 「そうです!私は愚か者だ、だからこそ貴方の手助けが必要なのだ、何と言われようと私は貴方を妻に娶る!!」
 後先考えないのはエドも一緒だった、基本的に二人は似ている。
 「冗談じゃないわ!私はムートンを離れない!」
 「ならば王都をムートンに移転させる!!」
 「なっ、王都の移転!?そんなこと出来るわけ訳ないじゃない、出鱈目にも程があるわよ」
 「出鱈目ではありません!貴方のためなら容易いことだ!」
 引くことを知らない二人はやはり属した世界が同じだ。
 「フローラ……落ち着いて」寄り添ったエミーが優しく彼女の指を首元まで誘導する。
 「自分の音を聞いて……視界を広く、一点だけを見ないで」
 「エミー……」見上げた先の微笑みは優しかった。
 「大丈夫、道は必ずあるわ」
 手を重ねている二人は姉妹のように自然に寄り添っている。 
 フゥーッと静かにフローラが息を吐くと、そこにはエミーそっくりのフローラがいた。
 「エドも落ち着いて、感情に任せてはいけないわ、フローラはまだ病床の身、激しい言葉は控えてあげて」
 「それは!……いやエミー殿の言うとおりだ、申し訳ない」
 エミーの静かな声が過熱した二人を冷却する。
 「婚約、結婚の話はこれからでいいと思う、まずはムートンの魔獣、そして公爵家との内戦問題、地方の弱小男爵家が生き残るためには全戦力を投じても足らない、優先順位を間違えてはいけない」
 「そうね……」「うむ、その通りだ」
 「なるほど……」マックスは急に大人びたと感じたことの理由に納得した。
 「そう言えば、エミー殿は先ほど時間がない、私にも頼みがあると言っておられたな、その頼みとはなんだ」
 「そうなの?私聞いてないわ」フローラが座ったまま首を捻ってエミーを見上げた。
 フローラの肩に手を置いたまま皇太子を正面に真っすぐに見る。
 「エドへのお願いは他でもない、フローラの事よ」
 「私!?」
 「この後ムートンの森は主戦場になる、私も剣を抜かざるを得ない、抜けば影武者であることが露見して本物への刺客が再びくるわ、ここでフローラを完全にガードすることは難しくなる」
 「確かに!」「まさか!?エミーあなた……」
 エドは膝を叩き、フローラの顔色は再び曇った。
 「フィーゴ子爵を見限った公爵はもう間接的ではなく直接手練れを送ってくる、子爵と一緒にいた黒衣の男は簡単じゃない、あのレベルが数人来れば無事では済まないわ」
 「エド、貴方にフローラを任せたいの、このままフローラを連れて王都に戻って」
 「!!」
 「ちょっと待ってよ、それはどういう事なの、私だけ逃げろというの!」
 「エミー殿、貴方はどうするつもりだ」
 「勘違いしないで、男爵家を存続させる絶対条件はフローラが生き残る事、優先順位は明確だわ」
 「嫌よ!エミーだけ置いていけるわけない」
 「わかっている、貴方ならこういう判断はしない、これは影武者エミーの判断」
 「雇い主は私よ、この案は却下します」
 「お二人の気持ちはどちらも理解できる、私たちのチームを分けて対処してはどうだろう、メンバーはそれぞれ国内最高の戦士ばかりだ、それにマックスさんたちの自警団もいるではないか、千や万の軍勢が来るわけではない、いいところ百人単位だ、対処可能だ」
 エドが勝算を目論む、作戦次第ではあり得ないわけではない。
 「いいえ、駄目です」エミーは首を横に振る。
 「何故だ、エミー殿は私たちの実力では無理だというのか」
 「そうではありません、エド、貴方はこの国の皇太子であることを忘れてはいけないわ、貴方の命はフローラと同等に守らなければいけないもの、貴方の命をこの戦いに賭けるべきではない」
 「じゃあ、どうするの、エミーひとりで闘って勝算はあるの?」
 「今のところは確実な名案は無いわね」
 「俺達がいる、自警団がともに戦う、岩人のアオギリたちも協力してくれるだろう、皇太子のチームに比較すれば素人だがそこそこには戦えるぞ」
 「それは避けたい、戦えば死人がでる、偽物の為に命を捨てるような事はさせたくない」
 「むうっ、我々はこの土地の為に戦うのだ、見くびらないでくれ」
 農民も気位が高い、自分の畑を守ることを他人には任せない。
 「私が影武者であることは公表できない、知られれば刃が本物へ向くことになる、知っている者は極力少数にしたいの、情報は必ず洩れるものだから」
 「関係ない、ムートンの領地は我々の土地だ、硝酸だけを狙う公爵には渡さん、皆フローラの事は好きだし大事に思っているが戦う理由はそれだけじゃない、自分のための戦いなのだ」
 ムートン男爵の背中を見て育ったマックスたちもまた忠義に厚く、誇り高い、予備役として国を背負う気概をもっている。
 「待て、自分でも言ったように戦えば貴方が本物でない事が敵にも味方にも知られる、ほんの少しの時間稼ぎにしかならないだろう、ひとりで闘う意味はないぞ」
 「そうね、でも一人で闘えばその時間は少しだけ長くなるわ」
 「何故だ?」
 エドが首を傾げた。

 「私は人殺しを躊躇できない、全員殺すから」
 気負うでも脅しでもないゾッとする冷たい声が部屋の温度を下げる、その目がフレジィ・エミーに変わった。
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