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闇討ち返し
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「ハリー、アンヌ勝手にごめんなさい」
エミーが頭を下げた。
「いいえ、お二人の判断なら私たちに異存はございません」
作戦の遂行には主要なメンバーの協力と同時に安全の確保が重要だ。
「エミー殿の技はどこで研鑽なされたものか」
ガイゼルたちも同席している。
「師父東郷の技です、ただ私は絶対的な腕力がありません、私が使う技は基本的に騙し討ちや変則的なものになります、ガイゼルさんたちのような正当騎士の皆さんと正面から打ち合うことは不得手ですね」
嘘だとガイゼルたちは感じた、エミーの目は今も測っている。
並んで座る二人を見ても質問に答えるまでどちらが本物なのかガイゼルたちに見分けるのは容姿だけでは難しい、今は革パンツにブーツスタイルの戦闘服で見分けられている。
「ランドルトン領から出撃した騎馬隊は五十人程だ、全員が銃を持っている、指揮しているのは黒衣の二人、ムートンの森に到着するのは五日後だろう」
「直接仕掛けてくると思われるか?」
「領民を蹂躙するようなことは無いと思うけど、魔獣狩りのどさくさに紛れてフローラを狙ってくるでしょうね」
答えるエミーの手をフローラが握っている。
「ランドルトンの騎士団は荒っぽいが優秀だ、装備もいい、この人数で正面からやり合うのは骨が折れるぞ、王家の軍を呼ぶには時間が足りない」
エドが眉間に皺を作る。
「しかし奴らも他の諸侯への体面もある、この領主館にいきなり火をかけたりはできん、それでは盗賊だ」
「協力すると見せかけての闇討ち、討伐中の不幸でフローラ様に死んでもらうのが彼らのストーリー、そうはさせん」
「エドの言う通り、この国の威信をかけてもムートン領は私たちが守る」
ガイゼルも拳を固めた。
「それでどうする?夜間に俺とマンさんで奴らの数を減らしておこうか」
モリスのナイフ術は暗殺や局所的な戦闘に向いている、過去にも単身敵陣に侵入して要人の首を取ったこともある、マンさんも忍者であり暗闇に乗じるのは得意だ。
「いえ、先手はいけません、内戦の引き金になります」
フローラが首を振る。
「ううむっ、ならばどうする?」
腕を組んだマンさんが首を捻る、やはりエミーが言うようにフローラを連れてムートン領からの脱出が良策に思える。
「何かの策を講じる前に諸条件の情報が足りません、まずは魔獣ヤーヴルについて調査しましょう、必要な情報は行動範囲、数、戦力、痕跡からでもおおよそは測れます、上手く嵌めることが出来れば騎馬隊と魔獣をぶつけられます」
「しかし、それでラングルトンが魔獣を討伐してしまってはムートン領接収の口実を与えかねないぞ」
「人の首を取ろうと踏み込んできて、自分の首が安全だと思うのは愚か者です、殺されても文句は言えない」
首筋に手を当てているエミーの目は切れ長に細められて冷たく光る。
「闇討ち返しか……」
「街道を移動中に襲うよりもムートンの森の方がやりやすい、きっと森が隠してくれる」
フローラを横に演技していないエミーの声は低く落ち着きすぎている、その声には殺気も虚勢も驕りも無い、熱の無い声が真実味を深くする。
「五十人の騎馬兵全員をか?」
「当然だわ、一人も帰さない」
「むうう」エドたちもさすがに躊躇する、敵兵ではあっても家族もいれば恋人や友人もいる人間たち、詳しい状況など知らない者もいるだろう。
フローラという人格の模倣を止めたエミーの判断には情を挟む余地はない、例え結果は同じでも迷う事なく優先順位から即決する、イチかゼロかだ。
「どう殺る?騎馬隊五十人、全員が銃を持ち帯剣している鍛えられた軍人だ、個人でどうにか出来る戦いではないぞ」
ガイゼルがカマをかけるようにエミーに問いただした。
フレジィ・エミーが俯き加減の上目遣いに薄く笑う、影が落ちた表情はフローラにはないものだった。
ラクドトン公爵家禁軍騎馬隊、国同士の戦いには参加せず、公爵家防衛のための軍隊、国の組織から切り離された軍はミストレス・ブラックパールが最高指揮官になる。
例え王族であっても動かすことは出来ないから禁軍なのだ。
騎馬隊の名は真珠を守る貝殻に例えてバタフライシェルと命名されている、兵士たちは貴族とは限らない、銃の実力で見出された若者中心、本来なら赤揃えの制服だが今回は傭兵を偽装して装備はバラバラだ、だが鎧や盾を持つのは部隊の中では年寄り扱いの中年以降の者たちだ、近代戦を主眼に置いた部隊は遠距離からの狙撃や単発銃の速射に長けたスマートな戦い方を好む。
その一番隊隊長は今年三十歳になる痩身で褐色の肌を持つ奴隷階級出身の男、大きな目がギョロリと動く様はどこか爬虫類を連想させる、字名をバイパーと呼ばれている、バイパーとは巨大な毒蛇だ。
ムートンの森に向かって行軍中の禁軍バタフライシェルに与えられた任務は表向き森に跋扈するという魔獣の討伐、その正体が生物兵器として育てられたマンドリルという巨大猿ということもバイパーは知っている、また本命の裏任務がムートン領のバロネス・フローラの暗殺にあることも知らされていた。
たかが娘一人の暗殺に一隊出撃、単独で数名で行った方が暗殺なら容易い、回りくどい理由付けの作戦、その事に意義はない、禁軍は公爵家の利益になる事なら影の仕事であっても喜んで実行する、事実今までもそうしてきた。
騎馬隊は表向きだ、その中身は公爵家のために暗躍する荒事専門の集団、取り立てから暗殺まで影となり動いてきた、実行役には報酬と昇格が約束される。
その一次評価を任されているのがバイパーだ、依怙贔屓は許されない、完全な実力主義の公爵は紛い物を許さない、評価した者も同様に処分される。
今バイパーの前で隊を率いるように黒衣の2人が馬を走らせていることが我慢ならない、黒衣の2人はミストレスの近衛であることも承知している。
そして禁軍同様の任務を担い、よりミストレスに近い位置にいる。
黒衣のスタッフィード(剥製屋)の方が禁軍バタフライシェルよりも序列が上とされている事実。
「あの二人を始末してしまえばスタッフィ共は崩壊するだろう、見ていろよ……」
毒蛇隊長バイパーはその欲望を赤い舌で舐めとった。
エミーが頭を下げた。
「いいえ、お二人の判断なら私たちに異存はございません」
作戦の遂行には主要なメンバーの協力と同時に安全の確保が重要だ。
「エミー殿の技はどこで研鑽なされたものか」
ガイゼルたちも同席している。
「師父東郷の技です、ただ私は絶対的な腕力がありません、私が使う技は基本的に騙し討ちや変則的なものになります、ガイゼルさんたちのような正当騎士の皆さんと正面から打ち合うことは不得手ですね」
嘘だとガイゼルたちは感じた、エミーの目は今も測っている。
並んで座る二人を見ても質問に答えるまでどちらが本物なのかガイゼルたちに見分けるのは容姿だけでは難しい、今は革パンツにブーツスタイルの戦闘服で見分けられている。
「ランドルトン領から出撃した騎馬隊は五十人程だ、全員が銃を持っている、指揮しているのは黒衣の二人、ムートンの森に到着するのは五日後だろう」
「直接仕掛けてくると思われるか?」
「領民を蹂躙するようなことは無いと思うけど、魔獣狩りのどさくさに紛れてフローラを狙ってくるでしょうね」
答えるエミーの手をフローラが握っている。
「ランドルトンの騎士団は荒っぽいが優秀だ、装備もいい、この人数で正面からやり合うのは骨が折れるぞ、王家の軍を呼ぶには時間が足りない」
エドが眉間に皺を作る。
「しかし奴らも他の諸侯への体面もある、この領主館にいきなり火をかけたりはできん、それでは盗賊だ」
「協力すると見せかけての闇討ち、討伐中の不幸でフローラ様に死んでもらうのが彼らのストーリー、そうはさせん」
「エドの言う通り、この国の威信をかけてもムートン領は私たちが守る」
ガイゼルも拳を固めた。
「それでどうする?夜間に俺とマンさんで奴らの数を減らしておこうか」
モリスのナイフ術は暗殺や局所的な戦闘に向いている、過去にも単身敵陣に侵入して要人の首を取ったこともある、マンさんも忍者であり暗闇に乗じるのは得意だ。
「いえ、先手はいけません、内戦の引き金になります」
フローラが首を振る。
「ううむっ、ならばどうする?」
腕を組んだマンさんが首を捻る、やはりエミーが言うようにフローラを連れてムートン領からの脱出が良策に思える。
「何かの策を講じる前に諸条件の情報が足りません、まずは魔獣ヤーヴルについて調査しましょう、必要な情報は行動範囲、数、戦力、痕跡からでもおおよそは測れます、上手く嵌めることが出来れば騎馬隊と魔獣をぶつけられます」
「しかし、それでラングルトンが魔獣を討伐してしまってはムートン領接収の口実を与えかねないぞ」
「人の首を取ろうと踏み込んできて、自分の首が安全だと思うのは愚か者です、殺されても文句は言えない」
首筋に手を当てているエミーの目は切れ長に細められて冷たく光る。
「闇討ち返しか……」
「街道を移動中に襲うよりもムートンの森の方がやりやすい、きっと森が隠してくれる」
フローラを横に演技していないエミーの声は低く落ち着きすぎている、その声には殺気も虚勢も驕りも無い、熱の無い声が真実味を深くする。
「五十人の騎馬兵全員をか?」
「当然だわ、一人も帰さない」
「むうう」エドたちもさすがに躊躇する、敵兵ではあっても家族もいれば恋人や友人もいる人間たち、詳しい状況など知らない者もいるだろう。
フローラという人格の模倣を止めたエミーの判断には情を挟む余地はない、例え結果は同じでも迷う事なく優先順位から即決する、イチかゼロかだ。
「どう殺る?騎馬隊五十人、全員が銃を持ち帯剣している鍛えられた軍人だ、個人でどうにか出来る戦いではないぞ」
ガイゼルがカマをかけるようにエミーに問いただした。
フレジィ・エミーが俯き加減の上目遣いに薄く笑う、影が落ちた表情はフローラにはないものだった。
ラクドトン公爵家禁軍騎馬隊、国同士の戦いには参加せず、公爵家防衛のための軍隊、国の組織から切り離された軍はミストレス・ブラックパールが最高指揮官になる。
例え王族であっても動かすことは出来ないから禁軍なのだ。
騎馬隊の名は真珠を守る貝殻に例えてバタフライシェルと命名されている、兵士たちは貴族とは限らない、銃の実力で見出された若者中心、本来なら赤揃えの制服だが今回は傭兵を偽装して装備はバラバラだ、だが鎧や盾を持つのは部隊の中では年寄り扱いの中年以降の者たちだ、近代戦を主眼に置いた部隊は遠距離からの狙撃や単発銃の速射に長けたスマートな戦い方を好む。
その一番隊隊長は今年三十歳になる痩身で褐色の肌を持つ奴隷階級出身の男、大きな目がギョロリと動く様はどこか爬虫類を連想させる、字名をバイパーと呼ばれている、バイパーとは巨大な毒蛇だ。
ムートンの森に向かって行軍中の禁軍バタフライシェルに与えられた任務は表向き森に跋扈するという魔獣の討伐、その正体が生物兵器として育てられたマンドリルという巨大猿ということもバイパーは知っている、また本命の裏任務がムートン領のバロネス・フローラの暗殺にあることも知らされていた。
たかが娘一人の暗殺に一隊出撃、単独で数名で行った方が暗殺なら容易い、回りくどい理由付けの作戦、その事に意義はない、禁軍は公爵家の利益になる事なら影の仕事であっても喜んで実行する、事実今までもそうしてきた。
騎馬隊は表向きだ、その中身は公爵家のために暗躍する荒事専門の集団、取り立てから暗殺まで影となり動いてきた、実行役には報酬と昇格が約束される。
その一次評価を任されているのがバイパーだ、依怙贔屓は許されない、完全な実力主義の公爵は紛い物を許さない、評価した者も同様に処分される。
今バイパーの前で隊を率いるように黒衣の2人が馬を走らせていることが我慢ならない、黒衣の2人はミストレスの近衛であることも承知している。
そして禁軍同様の任務を担い、よりミストレスに近い位置にいる。
黒衣のスタッフィード(剥製屋)の方が禁軍バタフライシェルよりも序列が上とされている事実。
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毒蛇隊長バイパーはその欲望を赤い舌で舐めとった。
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