kings field 蝶の森 

祥々奈々

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赤霧

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 ニースの港は浅い、喫水の深いガレオン船は入港することが出来ない。
 しかしミストレス・ブラックパールの新造蒸気動力戦艦は高い帆を張る必要がないため喫水が浅い、座礁の心配なく入港することが出来た。
 ミストレスと騎馬隊が出撃してから三日が過ぎ船には陸上戦力も含めて二百人が乗員して船を守っている、ブラックローズ号が出航したことは王家側にも知られているだろう、反逆行為とみなされるのも時間の問題だと艦長は緊張していた。
 「王軍のガレオン船が追って来るだろうな」
 艦長は黒い煙を吐き続ける煙突を見上げる、ガレオン船が見えたら急いで出航しなければならない、敵の船は入港できないが遠洋で囲まれては面倒だ。
 大砲の射程、威力、船の速力もこちらが上回っている、しかし砲弾の数には限りがある、ここで虎の子の新造艦を失う訳にはいかない、これからのラングドトンを背負う大切な戦力、船を失うことは自分の死だ、ミストレス・ブラックパールの元で艦長を務めるとはそういうことなのだ。
 ピィーッ ピイィーッ
 艦橋から双眼鏡で海を睨んでいる水兵が笛を響かせた。
 「敵船影多数確認!港に突っ込んできます!!」
 水兵が驚きの声を上げた。
 「なにぃ!どういうつもりだ、この港の水位を分かっておらんのか!?」
 帽子を取って禿げあがった頭に汗を光らせながら覗き込んだ双眼鏡の中に、王家禁軍
の帆をいっぱいに張ったガレオン船が横一列となって全速力で突っ込んでくるのを捉えた。

 王家海上禁軍 ガレオン船一番艦は最低人数の船員を乗せて海上を走る。
 「艦長、もうじき浅瀬に入ります!」
 「よし、いいぞ、そのまま突っ込め!!総員衝撃に備えろ!!」
 艦長は近くの柱にしがみ付いた。
 ザアアアアッ 浅い海の底が見え始まる、航跡に白い砂が舞い上がり、海を濁らせた。
 ギィキキキキッ ゴンゴンゴンッ ゴォギャアアアアッ
 船底が海の底を擦り、岩を削る。
 ドオォォォンッ 船体を揺るがす衝撃と共にガレオン船は海底の岩場に乗り上げて停止した。
 ゴゴゴゴゴゴッ ゆっくりと船体を傾けていく、岩場に乗り上げた船体が破壊されて浸水が始まった。
 「沈没するぞ!総員退艦!退艦せよ!!」
 小舟が降ろされ船員たちが海に飛び込んでいく脇を二番艦、三番艦と同じように座礁コースに全速で突っ込んでいく。

 港から壮絶な自沈ショーを見据えていたブラックローズの艦長は王家海上禁軍の意図を理解して絶望した。
 「こ・・・これは、港を封鎖したのか!?」
 禁軍はガレオン船を故意に座礁させることにより、ブラックローズを出港させないように閉じ込めたのだ。
 座礁させたガレオン船は十隻を超えている。
 「ぬぬぬぬぬ!!王は狂ったのか、自軍の半数の船を捨て駒にするとは!!」
 艦長は拳を握り締め、禿げ頭の汗は冷や汗に変わった、十隻のガレオン船から零れ落ちた何百という小舟が水兵を乗せて群がる様に押し寄せてきていた。
 「艦長!砲撃しますか!?」
 兵長が慌ててデッキに降りてくる。
 座礁船を盾にして帆を収め横腹の大砲を見せているガレオン船が確認できた、こちらの砲も届くが敵の砲も届く距離だ。
 港から出られなくなったところで既に勝負は決していた。
 「白旗だ・・・」 蚊の鳴くような声が大粒の汗と共に鉄の甲板に落ちた。
 ミストレスが離艦出撃してから三日、最新鋭蒸気動力戦艦ブラックローズ号は無傷で王家禁軍に接収されることになった。
 
 籠罠の戦いは再び魔猿熊ヤーグルの軍団が勢いを盛り返していた、樹上からの槍攻撃に盾を持たない騎馬兵は苦戦していた。
 銃での攻撃は密生する木々に阻まれて通らないが、猿たちは木々の枝を自由に行き来しながら真上から槍を降らせてくる。
 「くそおっ、射角がとれない!」
 「引け、森からでるのだ!」
 「副隊長ダメです!退路を塞がれました」
 「なにぃ!?」
 入るに容易く、出る事は出来ないのが籠罠だ、騎馬兵はまんまと嵌められたのだ。
 ギャースッ オッオッオー 興奮した猿たちの雄叫びが頭上を渦巻く。
 ザスッ ドスッ 「ぐわっ」「ぎゃあっ」 雨のように降り注ぐ木杭の槍の前に騎馬兵は徐々に戦力を削られていく。
 「まずい!これでは全滅する!!」
 副隊長は自分の迂闊さに唇を噛んだが遅い、頭上の制空権は猿たちに奪われていた。
 バンッ ヒュルルルルー 花火の打ち上げ音が聞こえた。
 ドオーンッ 木々を超えて爆発すると赤い粉が降り注いでくる。
 ヒュルルルー ドォーン ドォーン 二発、三発と続く。
 たちまち猿たちのいる領域は赤い霧に包まれていく。
 「副隊長、今だ、離脱しろ!」
 「バクラリ殿!」
 ギャワワワッ ギャーッ 樹上の猿たちがパニックを起こしている。
 赤い霧はトウガラシの中でも特に絡み成分の強い種類を粉末にしたものだ、毒ではないが目に入れば数日は視界を奪う。
 「赤霧が降りてくる前に移動しろ、猿共より危ないぞ」
 地上に設置した発射筒を片付けながらバクラリが手を振る。
 「撤退!撤退だ!!」
 騎馬兵の馬が一斉に走り出す、赤霧に触れた猿たちが槍の代わりに落ちてくる、落ちた猿たちは顔を掻きむしりながら悶え苦しんでいた、もはや脅威ではない。
 「すまないバクラリ殿、助かりました!」
 「!!」
 籠罠を抜けた副隊長がバクラリの前で馬を止めた瞬間、樹上の枝を飛び移りながら迫る巨大な影をバクラリは捉えて脇に飛び避けた。
 ザアザザザッ ギャアァァスッ 俊敏な熊が空中を駆けてくる様は現実離れしている。
 ガスンッ 振り下ろされた大鎌が副隊長の首を人形のように落とした。
 一瞬だった、襲い掛かる影を見逃していればバクラリも大鎌の間合いに入っていた、バクラリは腰の短剣に手を伸ばしたが副隊長の首を狩った勢いのままヤーグルは森を抜けて走り去っていく。
 ヤーグルのターゲットは最初から違っていたのだ、嵌められたのはバクラリも一緒だった、ヤーグルが向かったのは残されたミストレスの馬車だ、護衛は最小限しか残っていない。
 「しまった!!」
 後を追って走り出すが百メートルを七秒で走るヤーグルに追いつくはずはない。
 森から走り出たバクラリが目にしたのは既に首を切られた護衛とヤーグルと対峙している執事リブローの姿だった。
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