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第20章 高い高い壁
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「第六感!」
シュッシュッ!
飛んでくる銃弾がどこに来るかわかっている様に華麗に避ける。
避けきれない銃弾は剣で弾いている。
メテオ海戦から半年。
ハンナは苦しみながらも何とか第六感を使いこなしつつあった。
そんなある日。
「私兵の成長具合はどうかな。」
ふらっと基地の中に入ってきては尻尾をフリフリとさせて上機嫌。
純白の肌に頭の上から生える耳。
鋭い目つきに少し上がる口角。
両腰に立派な刀を差している。
「虎白様に敬礼!!」
ハンナ含め白神隊は慌てて敬礼する。
白陸国の国主。
鞍馬虎白の視察だった。
緊張した顔でハンナは虎白をじっと見ている。
そのただならぬ威圧感。
当の本人はニコニコして尻尾をフリフリ動かしている。
「おーい竹子。 俺が連中の相手でもしてやろうか?」
「え? 虎白が? うーん。 せっかくだしいい機会だしね!」
楽しげに話す2人。
顔の青ざめる兵士達。
「おーお前ら。 一個分隊ずつかかってこい。 さすがに全部は相手してやれねえけどな。 竹子が選んでくれ!」
周囲を見て兵士を選ぶ竹子。
そしてふとハンナと目が合う。
ハンナは「私には無理です」と首を振る。
すると竹子がハンナに近寄ってくる。
「せっかくだし虎白で第六感試してみたら? 遠慮しなくていいよ。 虎白は優しいから!」
「いやあ。 そう言われても・・・虎白様ですよ? 無理無理・・・」
竹子は遠くを見て悲しそうな顔をする。
「もう虎白が私を殺そうとしたら守ってくれないの・・・?」
上目遣いでハンナを見る。
これで誘惑してないと言う方が無理がある。
同じ女性のハンナでさえも赤面してしまう。
その可愛さに。
自分より小柄な竹子が上目遣いでハンナを頼っている。
「い、いや。 それは決して。 私達は竹子様の私兵ですからね。 国家よりも竹子様に忠誠を誓います。」
「ふふ。 嬉しいよ。 じゃあ虎白とも全力で戦って。」
「わ、わかりました。 リト軍曹! あなたの分隊で行こう!」
ハンナは自分の中隊から信頼する分隊を選んで共に虎白の元へ向かう。
2本の刀を華麗にクルクル回している虎白。
早く来いよと言わんばかりに。
「で、では。 よろしくお願いします!」
「おー。 お前ら。 俺を気絶させても怪我させても全く悪びれるなよ? むしろ竹子から褒めてもらえるぞ。 お前らは私兵なんだ。 竹子が俺を殺せって言うなら殺せ。」
そのあまりにも余裕の言動と不敵に笑う笑みにハンナもリトも飲まれる。
不死隊とも対峙した。
獣王隊とも。
しかし11人の白神隊の前に立つ神族の狐。
それは今まで対峙した誰よりも恐ろしい殺気を放っている。
これが自分達の国の主。
愛する竹子が心から信頼する存在。
それでも今日まで苦しい訓練をやってきた。
仲間の死だって乗り越えてきた。
戦ってみたい。
我らの皇帝と。
「分隊突撃ー!!!」
『うわあああ!!!』
ハンナ達は全員で虎白に向かっていった。
キリッとこちらを睨みつけて回していた刀を構える。
そしてスッと前に飛んできた。
最初の1人の顔に手をついて逆立ちしている。
そのままかかと落としで2人目が一瞬で気絶する。
まるで落石でも当たったかの様に。
1人目の兵士の襟を掴んで3人目、4人目の兵士に向かって投げる。
まとめて尻もちをつく。
しかしその間に5人目、6人目、7人目と束になって虎白に向かう。
虎白は不敵な笑みを浮かべて5人目の腹部を蹴る。
吹き飛ぶ兵士。
そして6人目の兵士を刀で攻撃してその流れで7人目も一刀で気絶する。
その動きの速さ。
どう動けばいいのかわかっている様に迷いのない動き。
兵士達はおもちゃの様に遊ばれている。
5人目の兵士が立ち上がる前に兵士の腹部をジャンプ台の様に踏みつけて更に前に飛ぶ。
気絶する兵士を見向きもせず最初に吹き飛ばした3人の兵士に向かう。
「横陣」
2本の刀を持つ虎白は両手を横に伸ばす。
そして前に飛んだ勢いのまま横回転で3人の兵士に向かっていく。
まるでプロペラの様に。
兵士は剣で防ごうとした。
しかしその回転力の前に剣は吹き飛び、瞬きほどの早さで3人が気絶する。
その光景に後退りする兵士達。
数秒で半数が倒された。
虎白は呼吸が上がるどころか何もしてないかの様に涼しい顔をしている。
「つ、強すぎる。 虎白様・・・」
「おいおい。 目の前で仲間が倒されてるのに逃げるのか? お前ら何のために私兵になったんだよ。」
荒々しくも的確で鋭い攻撃。
そして恐ろしいほどに冷静。
この状況でもハンナ達を鼓舞する言葉をかけてくる。
愛情すら感じる。
動けるのはハンナとリトと2人の兵士のみ。
「リト軍曹! 行くよっ!」
「は、はいっ!」
『うわああああああ!!!』
4人同時に虎白へ向かう。
兵士2人が先に攻撃をする。
すっと避けて回し蹴りを繰り出す。
兵士の首に虎白のかかとが直撃して崩れる様に倒れる。
もう一人が剣で虎白に斬りかかるとその立派な刀で受け止める。
兵士は腕が折れそうになる。
刀の重み。
それは重量なのか。
恐ろしいほど鋭い目で兵士を見る。
兵士に負けじとリトとハンナが剣で虎白に斬りかかる。
するとすっと後ろに下がり距離を取ったかと思えば前に飛んだ。
「縦陣」
身体を丸めて小さくなる。
1つの刃物の様に。
そして縦回転で向かってくる。
兵士とリトは吹き飛ばされて兵士は気絶してリトは衝撃と激痛で悶絶している。
しかしハンナだけは。
「第六感硬化・・・」
「やるな。 不死隊でも止められないぞ縦陣は。」
「腕が折れそうです。 それに不死隊に繰り出す力の半分も出されていないのも十分に承知しています。」
確かにこれでも虎白は十二分に手を抜いている。
しかしハンナ達には精一杯。
虎白はそんな事よりハンナが縦陣を止めた事に喜んでいる。
「いいぞ。 お前は確か冥府に捕まった彼氏を探していた女だな?」
「お、覚えていてくださったんですか?」
「ああ。 気の毒だったな。 もう誰も失いたくないか?」
「は、はい・・・」
虎白と対峙している。
手足の震えは止まっている。
虎白の言葉。
誰かを失う事は強敵と対峙する事より怖い。
例え相手が虎白であっても。
「じゃあ強くなれ。 弱いままじゃ誰かを失う。 シクシク泣いて同情されているだけで満足か?」
「いやあああああああ!!!」
ハンナは虎白の腹部を蹴って距離を取ると剣を突き続ける。
フェンシングの選手の様に。
しかし虎白は全て読み切っている。
ハンナの渾身の速い突きを刀で的確に弾いている。
歯が立たない。
そんな事はわかっている。
ハンナは挫けなかった。
突きがダメならとなで斬りにする様に剣を振る。
すっと下がった虎白はハンナの顔を蹴る。
崩れる様に倒れ込んだハンナの頭に虎白の刀が振り下ろされる。
「だ、第六感・・・中隊長・・・」
虎白の刀を間一髪で止める。
ハンナの前に立ち虎白と対峙している。
「リト軍曹!?」
「不死隊なんか比べ物にならない・・・触られるだけでこっちが倒れてしまう。 これが神族。 これが私達の主。 でも。 ハンナ中隊長や竹子様を守るのが我ら白神隊・・・」
押したら気絶しそうなフラフラのリトが虎白を睨みつける。
虎白は嬉しそうに笑う。
「ああ。 竹子の私兵はいいな。 兵士の鑑だな。 ほらもっと来い。 全てを俺にぶつけろ。」
リトがハンナに手を伸ばす。
「軍曹。 第六感が発現したの?」
「ど、どうやらその様で・・・神通力が・・・」
よろめき倒れそうになるリトの腕を掴む。
「せめて虎白様に攻撃して気絶しよう!」
「も、もちろん・・・ま、負けるなんて言ってませんよ・・・」
虎白はまるで成長した娘でも見ているかの様に微笑んでいる。
「敬意を表するぞ。 皇国の礼儀だ。 全力で倒してやる。」
そして。
虎白と武器を交えた瞬間リトはその衝撃で気絶する。
ハンナはたった1人になっても果敢に虎白に挑んだ。
もはや一騎討ち。
こんな事誰が予想したか。
虎白に一瞬で倒されると仲間の白神隊でさえ思っていた。
竹子は両手の拳を強く握りハンナを凝視している。
「ハンナ負けんじゃねえ!! 行けー!!」
同じ中隊長のグリートが叫ぶ。
「頑張れ中隊長! せめて一撃!!」
「ハンナ! ハンナ! ハンナ!」
『ハンナ!! ハンナ!! ハンナ!!』
やがて声は一つになる。
その場にいる誰もが虎白に一撃当てる事を願った。
「想像以上に素晴らしい私兵だ。 いいかハンナ。 失った仲間も目の前にいる仲間も。 皆等しく素晴らしい。 帰らぬ英雄を想うのは大事だがそれ以上に目の前にいる仲間を想え。 さあ来いよ!」
対峙する2人。
そしてお互いに向かっていく。
虎白は2本の刀を右上に上げて振り下ろす。
ハンナは防ぐ事もせず虎白の胸元に飛び込む。
差し違えるつもりで剣を突き立てて虎白の腹部を目指す。
ガコンッ!
ハンナは倒れ込み動かなくなる。
虎白の刀はハンナが瞬時に飛び込んだ事で当たらなかった。
しかし虎白の鋭い肘打ちがハンナの背中を強打する。
静かになるその場は不思議な空気に包まれる。
「み、皆さん! 見てください!」
竹子が指差す先。
それは虎白の腹部。
そこには火傷の跡が治癒して治っていくのが見える。
虎白達神族は驚異的な治癒能力を持つ。
受けた攻撃は軽度なら数秒で治る。
模擬演習用の剣。
それは微量の電気が走っている。
死なない程度に感電する。
その剣が虎白の腹部に当たり続けて虎白の腹は火傷していた。
威力によって電流の流れ方が変わる。
ハンナは触れる程度しか虎白に剣を当てられなかった。
虎白は気絶はしていない。
しかし確実に電流が流れている。
ハンナの捨て身の一撃は虎白の腹部を捉えた。
『おおおおおおおおー!!!!』
歓声に包まれる中ハンナは眠った様に気絶している。
「竹子。 本当に立派な私兵だ。 驚いたよ。 俺もこれなら安心して中央軍を任せられる。」
「ふふ。 私は何もしてないよ。 皆さんが毎日頑張ってくださっているたまものだよ。」
虎白の腹部の火傷はもう消えている。
そして上機嫌で尻尾をフリフリさせている虎白。
「お前ら。 これからも白陸の中央軍を頼むぞ。 お前らがいれば竹子は倒れない。 そして中央軍も崩れないな。」
『おおおおおおおおおおー!!!!』
虎白は嬉しそうに倒れる11人の白神隊を見ている。
そして一人一人の前に行って手当てをしている。
「こいつらにも声をかけたい。 もうしばらく邪魔するぞ。」
「わかった。 じゃあ声かけてあげて! 他の兵士は訓練しましょう! 白神隊が有能なのは彼女ら11人だけではありませんよね?」
『おおおおおおおおおお!!!!』
虎白は気絶するハンナの横で座っている。
他の兵士は意識を戻して休んでいる。
「う。 うう・・・」
「ハンナ。」
「虎白様・・・?」
「ああ。 大したやつだな。 彼氏のために単身で入隊してくるだけの事はあるな。」
徐々に視界が回復してくる。
ボヤける視界からでもわかる純白の肌。
どこか心地良い匂いがハンナを包む。
神族特有の体臭だ。
木の様な草の様な。
大自然の中にいる様な落ち着く匂いがハンナを包む。
虎白の尻尾がハンナの頭を撫でる様に当たる。
これもまたモフモフで心地良い。
「く、悔しい・・・」
意識が戻るとハンナは泣き出した。
虎白は驚き耳を立てる。
「俺に負けた事がか?」
「何も・・・できませんでした・・・」
大の字で横たわり顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくる。
虎白は美しい空を見ている。
その安堵した様な虎白の穏やかな表情。
「先に逝った仲間に顔向けできねえか?」
「はい・・・」
「俺と戦ったぐらいで顔向けできるほど安い仲間じゃねえだろ? もっと強くなれ。 そしていつか自慢してやれ。 これからお前があげる手柄の話を。」
その言葉はハンナの胸に突き刺さる。
厳しくも優しい。
虎白の言葉には色んな意味がある様にハンナは思えた。
たかが模擬演習。
虎白様は手を抜いてくださった。
そんな事で顔向けも何もない。
でも虎白様はそうは言わなかった。
これからあげる手柄。
それは私の実力を評価してくださったの。
それとも慰め。
いや。
虎白様を良くは知らないけど。
そんな回りくどい事を言う様な方には思えないなあ。
光栄だなあ。
でも。
そんなんじゃ誰も守れないとも聞こえた。
戦いながら言ってたし。
それも本心。
竹子様が大好きになるのもわかる。
強く賢くそして厳しくも優しい。
思いやりがあり愛がある。
虎白様の刀はすっごい重かったなあ。
でもなんかわかった気がする。
あの刀の重さ。
神通力が桁違いなのは言うまでもないけどそれだけじゃないんだよね。
きっと私達に出会うよりも前から。
白陸を作るよりも前から虎白様は大勢の者との出会いと別れを繰り返して来たんだろうなあ。
失った仲間の数も覚えているのかな。
そしてその方々全員の想いがあの刀に込められているのかな。
私の彼氏の想いも。
じゃないとあの重さは説明がつかない。
第六感でも防ぎきれなかった。
仲間の想いは重さ。
虎白様ほどには到底なれなくても私だって。
カイン。
平蔵さん。
太吉さん。
同期のみんな。
そして。
不死隊。
死ぬ者も生きる者も。
天上軍も冥府軍も。
みんな必死。
虎白様はそれを誰よりも知っている。
だからあんなに強い。
怖かったけど人生で一番勉強になった。
心の中でハンナは気持ちを整理した。
しばらくの沈黙を破りハンナは虎白の顔を見る。
「ありがとうございましたっ!!!」
「ヒヒッ。 スッキリした顔してるな。 頑張れよ。 気高く偉大であれ。 まあこの言葉は俺の友の言葉だ。 勇者であれ!」
ニヤリとした虎白は立ち上がり竹子の元へ歩いていく。
ハンナも立ち上がり訓練へと戻っていった。
二度の生涯で最高の数分間。
シュッシュッ!
飛んでくる銃弾がどこに来るかわかっている様に華麗に避ける。
避けきれない銃弾は剣で弾いている。
メテオ海戦から半年。
ハンナは苦しみながらも何とか第六感を使いこなしつつあった。
そんなある日。
「私兵の成長具合はどうかな。」
ふらっと基地の中に入ってきては尻尾をフリフリとさせて上機嫌。
純白の肌に頭の上から生える耳。
鋭い目つきに少し上がる口角。
両腰に立派な刀を差している。
「虎白様に敬礼!!」
ハンナ含め白神隊は慌てて敬礼する。
白陸国の国主。
鞍馬虎白の視察だった。
緊張した顔でハンナは虎白をじっと見ている。
そのただならぬ威圧感。
当の本人はニコニコして尻尾をフリフリ動かしている。
「おーい竹子。 俺が連中の相手でもしてやろうか?」
「え? 虎白が? うーん。 せっかくだしいい機会だしね!」
楽しげに話す2人。
顔の青ざめる兵士達。
「おーお前ら。 一個分隊ずつかかってこい。 さすがに全部は相手してやれねえけどな。 竹子が選んでくれ!」
周囲を見て兵士を選ぶ竹子。
そしてふとハンナと目が合う。
ハンナは「私には無理です」と首を振る。
すると竹子がハンナに近寄ってくる。
「せっかくだし虎白で第六感試してみたら? 遠慮しなくていいよ。 虎白は優しいから!」
「いやあ。 そう言われても・・・虎白様ですよ? 無理無理・・・」
竹子は遠くを見て悲しそうな顔をする。
「もう虎白が私を殺そうとしたら守ってくれないの・・・?」
上目遣いでハンナを見る。
これで誘惑してないと言う方が無理がある。
同じ女性のハンナでさえも赤面してしまう。
その可愛さに。
自分より小柄な竹子が上目遣いでハンナを頼っている。
「い、いや。 それは決して。 私達は竹子様の私兵ですからね。 国家よりも竹子様に忠誠を誓います。」
「ふふ。 嬉しいよ。 じゃあ虎白とも全力で戦って。」
「わ、わかりました。 リト軍曹! あなたの分隊で行こう!」
ハンナは自分の中隊から信頼する分隊を選んで共に虎白の元へ向かう。
2本の刀を華麗にクルクル回している虎白。
早く来いよと言わんばかりに。
「で、では。 よろしくお願いします!」
「おー。 お前ら。 俺を気絶させても怪我させても全く悪びれるなよ? むしろ竹子から褒めてもらえるぞ。 お前らは私兵なんだ。 竹子が俺を殺せって言うなら殺せ。」
そのあまりにも余裕の言動と不敵に笑う笑みにハンナもリトも飲まれる。
不死隊とも対峙した。
獣王隊とも。
しかし11人の白神隊の前に立つ神族の狐。
それは今まで対峙した誰よりも恐ろしい殺気を放っている。
これが自分達の国の主。
愛する竹子が心から信頼する存在。
それでも今日まで苦しい訓練をやってきた。
仲間の死だって乗り越えてきた。
戦ってみたい。
我らの皇帝と。
「分隊突撃ー!!!」
『うわあああ!!!』
ハンナ達は全員で虎白に向かっていった。
キリッとこちらを睨みつけて回していた刀を構える。
そしてスッと前に飛んできた。
最初の1人の顔に手をついて逆立ちしている。
そのままかかと落としで2人目が一瞬で気絶する。
まるで落石でも当たったかの様に。
1人目の兵士の襟を掴んで3人目、4人目の兵士に向かって投げる。
まとめて尻もちをつく。
しかしその間に5人目、6人目、7人目と束になって虎白に向かう。
虎白は不敵な笑みを浮かべて5人目の腹部を蹴る。
吹き飛ぶ兵士。
そして6人目の兵士を刀で攻撃してその流れで7人目も一刀で気絶する。
その動きの速さ。
どう動けばいいのかわかっている様に迷いのない動き。
兵士達はおもちゃの様に遊ばれている。
5人目の兵士が立ち上がる前に兵士の腹部をジャンプ台の様に踏みつけて更に前に飛ぶ。
気絶する兵士を見向きもせず最初に吹き飛ばした3人の兵士に向かう。
「横陣」
2本の刀を持つ虎白は両手を横に伸ばす。
そして前に飛んだ勢いのまま横回転で3人の兵士に向かっていく。
まるでプロペラの様に。
兵士は剣で防ごうとした。
しかしその回転力の前に剣は吹き飛び、瞬きほどの早さで3人が気絶する。
その光景に後退りする兵士達。
数秒で半数が倒された。
虎白は呼吸が上がるどころか何もしてないかの様に涼しい顔をしている。
「つ、強すぎる。 虎白様・・・」
「おいおい。 目の前で仲間が倒されてるのに逃げるのか? お前ら何のために私兵になったんだよ。」
荒々しくも的確で鋭い攻撃。
そして恐ろしいほどに冷静。
この状況でもハンナ達を鼓舞する言葉をかけてくる。
愛情すら感じる。
動けるのはハンナとリトと2人の兵士のみ。
「リト軍曹! 行くよっ!」
「は、はいっ!」
『うわああああああ!!!』
4人同時に虎白へ向かう。
兵士2人が先に攻撃をする。
すっと避けて回し蹴りを繰り出す。
兵士の首に虎白のかかとが直撃して崩れる様に倒れる。
もう一人が剣で虎白に斬りかかるとその立派な刀で受け止める。
兵士は腕が折れそうになる。
刀の重み。
それは重量なのか。
恐ろしいほど鋭い目で兵士を見る。
兵士に負けじとリトとハンナが剣で虎白に斬りかかる。
するとすっと後ろに下がり距離を取ったかと思えば前に飛んだ。
「縦陣」
身体を丸めて小さくなる。
1つの刃物の様に。
そして縦回転で向かってくる。
兵士とリトは吹き飛ばされて兵士は気絶してリトは衝撃と激痛で悶絶している。
しかしハンナだけは。
「第六感硬化・・・」
「やるな。 不死隊でも止められないぞ縦陣は。」
「腕が折れそうです。 それに不死隊に繰り出す力の半分も出されていないのも十分に承知しています。」
確かにこれでも虎白は十二分に手を抜いている。
しかしハンナ達には精一杯。
虎白はそんな事よりハンナが縦陣を止めた事に喜んでいる。
「いいぞ。 お前は確か冥府に捕まった彼氏を探していた女だな?」
「お、覚えていてくださったんですか?」
「ああ。 気の毒だったな。 もう誰も失いたくないか?」
「は、はい・・・」
虎白と対峙している。
手足の震えは止まっている。
虎白の言葉。
誰かを失う事は強敵と対峙する事より怖い。
例え相手が虎白であっても。
「じゃあ強くなれ。 弱いままじゃ誰かを失う。 シクシク泣いて同情されているだけで満足か?」
「いやあああああああ!!!」
ハンナは虎白の腹部を蹴って距離を取ると剣を突き続ける。
フェンシングの選手の様に。
しかし虎白は全て読み切っている。
ハンナの渾身の速い突きを刀で的確に弾いている。
歯が立たない。
そんな事はわかっている。
ハンナは挫けなかった。
突きがダメならとなで斬りにする様に剣を振る。
すっと下がった虎白はハンナの顔を蹴る。
崩れる様に倒れ込んだハンナの頭に虎白の刀が振り下ろされる。
「だ、第六感・・・中隊長・・・」
虎白の刀を間一髪で止める。
ハンナの前に立ち虎白と対峙している。
「リト軍曹!?」
「不死隊なんか比べ物にならない・・・触られるだけでこっちが倒れてしまう。 これが神族。 これが私達の主。 でも。 ハンナ中隊長や竹子様を守るのが我ら白神隊・・・」
押したら気絶しそうなフラフラのリトが虎白を睨みつける。
虎白は嬉しそうに笑う。
「ああ。 竹子の私兵はいいな。 兵士の鑑だな。 ほらもっと来い。 全てを俺にぶつけろ。」
リトがハンナに手を伸ばす。
「軍曹。 第六感が発現したの?」
「ど、どうやらその様で・・・神通力が・・・」
よろめき倒れそうになるリトの腕を掴む。
「せめて虎白様に攻撃して気絶しよう!」
「も、もちろん・・・ま、負けるなんて言ってませんよ・・・」
虎白はまるで成長した娘でも見ているかの様に微笑んでいる。
「敬意を表するぞ。 皇国の礼儀だ。 全力で倒してやる。」
そして。
虎白と武器を交えた瞬間リトはその衝撃で気絶する。
ハンナはたった1人になっても果敢に虎白に挑んだ。
もはや一騎討ち。
こんな事誰が予想したか。
虎白に一瞬で倒されると仲間の白神隊でさえ思っていた。
竹子は両手の拳を強く握りハンナを凝視している。
「ハンナ負けんじゃねえ!! 行けー!!」
同じ中隊長のグリートが叫ぶ。
「頑張れ中隊長! せめて一撃!!」
「ハンナ! ハンナ! ハンナ!」
『ハンナ!! ハンナ!! ハンナ!!』
やがて声は一つになる。
その場にいる誰もが虎白に一撃当てる事を願った。
「想像以上に素晴らしい私兵だ。 いいかハンナ。 失った仲間も目の前にいる仲間も。 皆等しく素晴らしい。 帰らぬ英雄を想うのは大事だがそれ以上に目の前にいる仲間を想え。 さあ来いよ!」
対峙する2人。
そしてお互いに向かっていく。
虎白は2本の刀を右上に上げて振り下ろす。
ハンナは防ぐ事もせず虎白の胸元に飛び込む。
差し違えるつもりで剣を突き立てて虎白の腹部を目指す。
ガコンッ!
ハンナは倒れ込み動かなくなる。
虎白の刀はハンナが瞬時に飛び込んだ事で当たらなかった。
しかし虎白の鋭い肘打ちがハンナの背中を強打する。
静かになるその場は不思議な空気に包まれる。
「み、皆さん! 見てください!」
竹子が指差す先。
それは虎白の腹部。
そこには火傷の跡が治癒して治っていくのが見える。
虎白達神族は驚異的な治癒能力を持つ。
受けた攻撃は軽度なら数秒で治る。
模擬演習用の剣。
それは微量の電気が走っている。
死なない程度に感電する。
その剣が虎白の腹部に当たり続けて虎白の腹は火傷していた。
威力によって電流の流れ方が変わる。
ハンナは触れる程度しか虎白に剣を当てられなかった。
虎白は気絶はしていない。
しかし確実に電流が流れている。
ハンナの捨て身の一撃は虎白の腹部を捉えた。
『おおおおおおおおー!!!!』
歓声に包まれる中ハンナは眠った様に気絶している。
「竹子。 本当に立派な私兵だ。 驚いたよ。 俺もこれなら安心して中央軍を任せられる。」
「ふふ。 私は何もしてないよ。 皆さんが毎日頑張ってくださっているたまものだよ。」
虎白の腹部の火傷はもう消えている。
そして上機嫌で尻尾をフリフリさせている虎白。
「お前ら。 これからも白陸の中央軍を頼むぞ。 お前らがいれば竹子は倒れない。 そして中央軍も崩れないな。」
『おおおおおおおおおおー!!!!』
虎白は嬉しそうに倒れる11人の白神隊を見ている。
そして一人一人の前に行って手当てをしている。
「こいつらにも声をかけたい。 もうしばらく邪魔するぞ。」
「わかった。 じゃあ声かけてあげて! 他の兵士は訓練しましょう! 白神隊が有能なのは彼女ら11人だけではありませんよね?」
『おおおおおおおおおお!!!!』
虎白は気絶するハンナの横で座っている。
他の兵士は意識を戻して休んでいる。
「う。 うう・・・」
「ハンナ。」
「虎白様・・・?」
「ああ。 大したやつだな。 彼氏のために単身で入隊してくるだけの事はあるな。」
徐々に視界が回復してくる。
ボヤける視界からでもわかる純白の肌。
どこか心地良い匂いがハンナを包む。
神族特有の体臭だ。
木の様な草の様な。
大自然の中にいる様な落ち着く匂いがハンナを包む。
虎白の尻尾がハンナの頭を撫でる様に当たる。
これもまたモフモフで心地良い。
「く、悔しい・・・」
意識が戻るとハンナは泣き出した。
虎白は驚き耳を立てる。
「俺に負けた事がか?」
「何も・・・できませんでした・・・」
大の字で横たわり顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくる。
虎白は美しい空を見ている。
その安堵した様な虎白の穏やかな表情。
「先に逝った仲間に顔向けできねえか?」
「はい・・・」
「俺と戦ったぐらいで顔向けできるほど安い仲間じゃねえだろ? もっと強くなれ。 そしていつか自慢してやれ。 これからお前があげる手柄の話を。」
その言葉はハンナの胸に突き刺さる。
厳しくも優しい。
虎白の言葉には色んな意味がある様にハンナは思えた。
たかが模擬演習。
虎白様は手を抜いてくださった。
そんな事で顔向けも何もない。
でも虎白様はそうは言わなかった。
これからあげる手柄。
それは私の実力を評価してくださったの。
それとも慰め。
いや。
虎白様を良くは知らないけど。
そんな回りくどい事を言う様な方には思えないなあ。
光栄だなあ。
でも。
そんなんじゃ誰も守れないとも聞こえた。
戦いながら言ってたし。
それも本心。
竹子様が大好きになるのもわかる。
強く賢くそして厳しくも優しい。
思いやりがあり愛がある。
虎白様の刀はすっごい重かったなあ。
でもなんかわかった気がする。
あの刀の重さ。
神通力が桁違いなのは言うまでもないけどそれだけじゃないんだよね。
きっと私達に出会うよりも前から。
白陸を作るよりも前から虎白様は大勢の者との出会いと別れを繰り返して来たんだろうなあ。
失った仲間の数も覚えているのかな。
そしてその方々全員の想いがあの刀に込められているのかな。
私の彼氏の想いも。
じゃないとあの重さは説明がつかない。
第六感でも防ぎきれなかった。
仲間の想いは重さ。
虎白様ほどには到底なれなくても私だって。
カイン。
平蔵さん。
太吉さん。
同期のみんな。
そして。
不死隊。
死ぬ者も生きる者も。
天上軍も冥府軍も。
みんな必死。
虎白様はそれを誰よりも知っている。
だからあんなに強い。
怖かったけど人生で一番勉強になった。
心の中でハンナは気持ちを整理した。
しばらくの沈黙を破りハンナは虎白の顔を見る。
「ありがとうございましたっ!!!」
「ヒヒッ。 スッキリした顔してるな。 頑張れよ。 気高く偉大であれ。 まあこの言葉は俺の友の言葉だ。 勇者であれ!」
ニヤリとした虎白は立ち上がり竹子の元へ歩いていく。
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