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第34章 決死の夜
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主達は無事に白陸に帰還した。
そして休む事なく次の出陣が決まった。
大軍を率いて再度虎白は戦場に向かう。
「もういかないと。」
「そっか。」
「どうしたの?」
2人でベットに寝転がり天井を見ながら話している。
何やら元気のない健太をチラリと見る。
健太は何か言いたげにしていたが何も話さない。
リトには察しがついていた。
「行かないでくれ。」そう言いたいのだと。
「私は兵士だからね。 それも大将軍直轄の私兵。」
「知ってる。 何回も聞いた。」
「ねえどうしたの? 随分と素っ気ないのね。」
「なあリト。」
リトは横向きになって健太の顔を見ている。
健太は天井を見たまま寂しげな表情でリトの手をそっと握る。
「お前が惚れた相手は今まで亡くなったんだよな。 でもそれは兵士だからだよ。 俺は今日もこうして生きている。」
「ん、うん。 それでどうしてそんな表情なの?」
「俺はお前に死んでほしくない。 もちろん大将軍様を守るのがお前の仕事なんだよな。 でも。 お前も生きて帰ってきてほしいんだ。」
今にも泣き出しそう。
まるで1人で留守番ができない子供が出かける母親を引き止める様に。
振り絞る様な声で話している。
リトはただ悲しげに見ている。
手を握る健太の力は強くなっていく。
「絶対に死なないでくれ。」
「大丈夫よ。 今回もしっかり帰ってきたでしょ。」
健太の屈強な身体をその美しい手でリトは優しくなでる。
大きく息を吸ってリトは息を吐く。
リトはベットから起き上がり服を着始める。
「リト。」
「うん。」
「この戦争が終わったら結婚してくれ。」
「えっ!?」
下着を付けて服を着ているリトの背後から突然聞こえた信じ難い言葉。
背中を向けていたリトは振り返り健太を見る。
ベットの上で正座をしている健太の顔は真剣だった。
男が服も着ずに全てを晒して気持ちを伝えている。
リトは驚きのあまりに言葉を失う。
「まだ付き合って日は浅いけどな。 お前の事が本当に大好きなんだ。 お前の死のジンクスも俺がかき消す。 お前だって幸せになる権利があるんだ。 それを俺が証明する。 だからどうか。 こんな俺と。 こんな俺なんかとどうか一緒になってくれ!」
開いた口が塞がらない。
しかし確かに感じていた。
それは第六感なのか。
愛なのか。
リトの身体の中で駆け巡る「嬉しい」という感情。
全身が熱くなっているのを感じる。
瞳が潤んでいる事も感じている。
「ふ、服着なよ。」
リトは何とか気丈に振る舞おうとした。
裸の健太の真剣な眼差し。
お前が「はい。」と答えるまで服を着ないぞと言わんばかりに。
本来ならリトは笑ってしまう。
しかし何故だろうか。
笑顔になっているはずなのに。
リトの瞳から流れでるとてつもないほどの涙は。
「わかった。 必ず生きて帰ってくる。 この戦争がどれほど続くかわからないけど。 必ずね! そうしたらこんな私でよければ是非。 幸せにしてよね?」
健太は何も言わなかった。
裸のまま思い切り抱きしめた。
あまりに見すぼらしい健太の姿だがリトの心は幸福だった。
長い人生で一番。
「じゃあ行ってきます。 未来の旦那さん!」
「行ってらっしゃい! 未来の嫁さん!!」
そしてリトは健太の家を出る。
外には部下の兵士が車の前で立っている。
黙ってリトに敬礼をしている。
「さあ。 行こうか。」
「少尉。 何やら幸せそうな顔ですね!」
「まあね。 我ら白神。 竹子様と共にある。 今回も必ず生きて白陸の地を踏む。」
部下の表情は明るかった。
そして運転席に乗り基地へと向かう。
白陸軍の中央軍を担う大将軍竹子。
虎白から一番の信頼があり竹子はそれに応え続けてきた。
それは竹子1人の力ではない。
共に戦う兵士達に押し上げられて竹子は今の地位にいる。
想いは一つ。
必ず生きて白陸に帰る。
「我ら無敵の白神。 いかなる敵でもこの鉄壁の守りを破る事はない。 守護神竹子様と鬼神と化す我ら将兵の力を思い知れ。」
これは白神隊で語られる詩だ。
いよいよ天上史に残る伝説の戦い。
アーム戦役の本格的な戦闘が始まろうとしていた。
夕暮れの南側領土前衛。
太陽の神が職務を終えて月の神が職務を始める。
そんな中、白陸軍は到着した。
布陣を開始して野営の準備をする。
虎白の予想だと明日には接敵して戦闘になると。
今夜はそれに向けて覚悟を決めなくてはならない。
「いよいよですね。」
「うん。 虎白様。 どうやって戦うのかしら。」
やや不安げな表情でハンナは天上門を見つめる。
冥府へと繋がる巨大な門。
その大きさのあまりに開いているのかわからない。
そもそも誰が創ってどうやって開いているのか。
ハンナはそんな疑問を持ちながらも敵を待ち構える。
不安でならなかった。
見えない場所からの砲撃。
見た事もない大きさの爆撃機。
あの勇猛な南軍前衛が何もできずに崩壊した。
ボロボロの南軍前衛の前に布陣して彼らを守る様にしている白陸軍。
果たして守れるのか。
ハンナの手は少し震える。
そして太陽は沈み辺りは暗くなる。
暗闇で吹く心地よい夜風。
ハンナは野営用テントに入って夕食を食べ始める。
「では大尉。 私の小隊が歩哨に出る時間なのでこれで。」
「わかった。 何か異変があったら直ぐに教えて。」
「わかりました。」
リトは自分の小隊60人を連れて白陸の一般兵と共に周囲の警戒に出る。
暗闇での歩哨任務は非常に危険だ。
ライトを持っているがそんなに遠くは見えない。
天上門までは照らせない。
その暗闇に紛れて何かが迫っているのかもしれない。
考えるだけで気が狂いそうだ。
「お待たせ。 じゃあ各自警戒態勢。 必ず3人以上で動いてね。 一般兵の事も気にかけてあげてね。」
60人の白神隊と100人からなる白陸軍の一般兵部隊。
警戒しながら白陸軍の野営地を左手に沿って歩く。
右手には見えないが天上門がある。
警戒するのは右手だ。
「白神の少尉。 敵は来ると思うか?」
「さあね少尉。 とにかく警戒してね。」
一般兵部隊の少尉がリトに話しかけてくる。
ライフルを構えたままリトは歩いている。
辺りは草木もない。
何か迫ってくればわかるはず。
しかしその距離まで迫られて自分達は無事でいられるのか。
そんな不安を胸にリトは必死に平常心を保つ。
「この辺りは。」
「おおご苦労様。 白神隊だな? じゃあこの辺りが中央軍との境目か。」
暗闇から灯りが見えた。
リトはいつでも発砲できる様にトリガーに指を当てていたが現れたのは見慣れた制服だった。
半獣族の兵士が笑顔で話しかけてくる。
白陸左翼軍を率いる大将軍夜叉子の私兵。
獣王隊と左翼軍の一般兵達だ。
「よかった。 味方に会えるとホッとする。 ご苦労様獣王隊。」
「敵はいないし騒ぎもないね。 ただ何か火薬の匂いがするんだよなあ。」
「それは人間の私達でもわかるよ。 白陸軍がみんな銃を持っているんだから。 半獣族も大変なのね。」
半獣族の発達した嗅覚。
そこら中から匂う火薬の匂い。
獣王隊の兵士は鼻をシクシクと指で擦りあくびをしている。
「じゃあ俺達は折り返すよ。 右翼軍も近くまで来ているんじゃないか?」
「そうだね。 私達も右翼軍の方まで見たら帰る。 じゃあお疲れ様!」
「おうお疲れ様! ガルルッ」
そう言ってリトは獣王隊と別れて右翼軍との境目に向かって歩き出した。
左手に天上門。
右手には白陸軍野営地。
「火薬かあ。 まさかね。」
リトは左手の方角をチラリと見た。
その時だった。
一斉に何かが光った。
ババババーンッ!!
物凄い発砲音が聞こえリトは目を見開く。
そして次の瞬間。
「被弾っ!」
「ああああああああ!! 撃たれたっ!」
「敵襲! 小隊長! 全軍に知らせを!」
リトは慌てて右手の白陸軍へ向けて赤い発煙筒を投げた。
しかし今の爆音は白陸軍にも聞こえている。
白陸軍も慌てて戦闘配置についている。
「全員中央軍まで戻るよ! 撃たれた人は?」
「8人死亡。 20人以上が負傷しています。」
「戦死者は残念だけれどこの場に置いていく。 負傷者を連れて急いで撤退!」
リトの判断は正しかった。
戦死者の遺体を運んでいる余裕はない。
今は1人でも戦死者が増えない様に撤退する必要があった。
「あいつ俺の友達なんだよ! せめて遺体だけでも! なあ頼むよ!!!」
一般兵が倒れて動かなくなる仲間の遺体へと駆け寄ろうとする。
白神隊が彼を必死に止めている。
「気持ちはわかるがダメだ! お前まで撃たれるぞ!」
「うるせえ離せ! あいつの親に一緒に帰還するって言ったんだよっ! せめて遺体だけでも持って帰らないと!」
バチンッ!
「いい加減にしなさい! 私の兄弟達だって撃たれているの! 悲しいのはあなただけじゃないの! 今はこれ以上家族が撃たれて死なないためにも撤退と言ったら撤退!」
リトが一般兵に思い切り平手打ちをする。
頬を赤くした一般兵は落ち着きを取り戻して撤退を始める。
2人の白神隊も今の銃撃で倒れた。
全く動かずに眠った様に目を閉じている。
ただ気絶しているだけかも。
当たりどころが良くて生きているかも。
リトはそんな本心を押し殺して目の前でまだ動いている仲間の命を優先した。
目を覚ました白陸軍の援護射撃でリト達は何とか中央軍の元へ辿り着けそうだった。
「早く入って!」
「痛い・・・痛い・・・」
中央軍の陣の中へ駆け込む様にして戻っていく。
リトは最後の兵士が入るまでその場でライフルを暗闇に向けて発砲し続けた。
中央軍や白神隊がリトの近くまで来て援護射撃をしている。
負傷が酷くフラフラと歩いている一般兵が1人。
彼が最後だった。
彼を支えて共に歩いていた仲間はその直ぐ後ろで倒れて動かなくなっている。
それでも彼は懸命に生きようと陣へ向かっている。
リトが彼に駆け寄っていく。
「大丈夫だからね。」
「すいません少尉殿。」
ピシッ!
リトの近くで聞こえた甲高い音。
そして物凄い寒気を感じた。
身体が動かない。
リトはその場に両膝をついた。
ピシピシッ!
また同じ音が聞こえると隣にいた一般兵が白目を向いて地面に倒れる。
リトは自分の腹部を触ると物凄い量の血が出ていた。
「う、撃たれた・・・」
夜間にも関わらず物凄い銃声と怒号。
冥府軍からの突然の銃撃に混乱する白陸軍だったが現場の大将軍達が速やかに兵士を落ち着かせる。
白陸軍の中央軍も竹子と優子の冷静な対応で最初の銃撃以降犠牲者は出ていない。
そしてその銃撃の中。
どの兵士よりも前で両膝をついて敵に背を向けている兵士がいる。
白神隊少尉。
リト。
青ざめた顔で腹部から流れ出る大量の血を手で抑えている。
「少尉が撃たれましたっ!!」
白陸兵が叫ぶ。
援護射撃をしながらリトの元へ向かっていく。
先頭は盾兵。
銃撃を防ぎながら少しずつリトの元へ。
しかしリトから流れ出る血の量からしてそんなにモタモタはしていられない。
「少尉待っていてください!」
「兵士の方々は下がってください! ハンナ、又三郎行きますよ!」
兵士の背後から香る良い匂い。
汗と火薬と血の匂いが充満する戦場からは匂うはずのない匂いに兵士は振り返る。
透き通る様に美しい声が聞こえる。
しかし兵士が振り返るよりも早く彼女は兵士の前に出ていた。
薙刀をプロペラの様に回転させて銃撃を防いでいる。
その隣で強面の男も負けじと防いでいる。
白陸の大将軍にして第1軍の軍長。
竹子とその私兵隊の隊長又三郎。
「リト!!」
「は・・・ハンナ大尉・・・た、竹子様や・・・ま、又三郎様まで・・・」
静かに目をつぶって倒れ込む。
ハンナはリトを抱きしめる様にして受け止める。
その間も竹子と又三郎は銃撃を防ぎ続けていた。
「死なせないからね!」
「わ・・・悪くありませんよ・・・大尉の顔を見て死ねるのも・・・」
「馬鹿な事言わないの!! 竹子様! 大丈夫です下がりましょう!」
銃撃を防ぎながら竹子と又三郎は少しずつ下がっていく。
ハンナを手伝うために数人の白神隊が担架を持ってリトを乗せる。
そして無事にリトが下がる。
「又三郎。 先に行ってください。 私は第七感で下がりますのでお気になさらずに。」
「御意!!」
竹子をその場に置いて又三郎も走って下がる。
そして竹子はギリギリまで銃撃を防ぐと囁く様な声で「第七感」とつぶやいた。
気がつくと竹子は中央軍の盾兵の後ろにいる。
まさに目にも止まらぬ速さ。
竹子はそのまま急いで何処かへと走って行った。
リトの意識は朦朧としてハンナの手を握っている。
その力の無さ。
「生きて帰るんでしょ! 彼氏にまた会わないの?」
「そ・・・そうですね・・・健太・・・会いたいよお・・・」
口からも血が流れ出る。
リトの目は焦点を捉えていない。
今にも消えてしまいそうな命の灯火。
「リト私を見なさい!」
「大尉・・・これでも懸命に生きようと・・・頑張ってます・・・どうか・・・怒らないでください・・・でも一応言っておきます・・・幸せでした。」
「そこをどいてください! 連れてきましたよ! リト少尉を救えます!」
女性の手を引っ張って汗だくで竹子が戻ってくる。
人間なのか。
半獣族なのか。
モデルの様に細く美しいスタイル。
人間と同じ位置に耳があるが横に長く伸びていてその耳は獣の様にモフモフの毛が生えている。
お尻からはまん丸の尻尾。
クリっと丸い瞳は少し赤くも見える。
リトを見て泣き出す女性。
大きく開いているリトの腹部に女性は優しく手を当てる。
驚くほどの速さでリトの傷口は塞がっていく。
青ざめた顔色も戻っていく。
目の焦点は合い、ハンナの目をじっと見ている。
「ハンナ大尉。」
「よかったああああああ!!!」
ハンナはその場で泣き叫ぶ。
リトはムクっと立ち上がってその奇妙な女性を見る。
女性は安堵のあまりハンナに負けないほど泣いている。
彼女の名はシーナ。
白陸軍の軍医。
エルフ族と半獣族のハーフ。
不思議な魔法を使い傷を癒す。
その代わり自分の神通力を減らしてしまう。
シーナはそんな事お構いなしに治癒を始める。
かつて大将軍のお初を救った事もある。
リトはシーナに敬礼するとシーナはニコリと笑ってお辞儀をする。
そして戦闘は夜通し続いてやがて朝焼けが戦場を照らす。
一睡も出来ずに朝を迎えた白陸軍は愕然とする。
眼前には白陸軍の3倍近くの冥府軍が布陣していた。
そして休む事なく次の出陣が決まった。
大軍を率いて再度虎白は戦場に向かう。
「もういかないと。」
「そっか。」
「どうしたの?」
2人でベットに寝転がり天井を見ながら話している。
何やら元気のない健太をチラリと見る。
健太は何か言いたげにしていたが何も話さない。
リトには察しがついていた。
「行かないでくれ。」そう言いたいのだと。
「私は兵士だからね。 それも大将軍直轄の私兵。」
「知ってる。 何回も聞いた。」
「ねえどうしたの? 随分と素っ気ないのね。」
「なあリト。」
リトは横向きになって健太の顔を見ている。
健太は天井を見たまま寂しげな表情でリトの手をそっと握る。
「お前が惚れた相手は今まで亡くなったんだよな。 でもそれは兵士だからだよ。 俺は今日もこうして生きている。」
「ん、うん。 それでどうしてそんな表情なの?」
「俺はお前に死んでほしくない。 もちろん大将軍様を守るのがお前の仕事なんだよな。 でも。 お前も生きて帰ってきてほしいんだ。」
今にも泣き出しそう。
まるで1人で留守番ができない子供が出かける母親を引き止める様に。
振り絞る様な声で話している。
リトはただ悲しげに見ている。
手を握る健太の力は強くなっていく。
「絶対に死なないでくれ。」
「大丈夫よ。 今回もしっかり帰ってきたでしょ。」
健太の屈強な身体をその美しい手でリトは優しくなでる。
大きく息を吸ってリトは息を吐く。
リトはベットから起き上がり服を着始める。
「リト。」
「うん。」
「この戦争が終わったら結婚してくれ。」
「えっ!?」
下着を付けて服を着ているリトの背後から突然聞こえた信じ難い言葉。
背中を向けていたリトは振り返り健太を見る。
ベットの上で正座をしている健太の顔は真剣だった。
男が服も着ずに全てを晒して気持ちを伝えている。
リトは驚きのあまりに言葉を失う。
「まだ付き合って日は浅いけどな。 お前の事が本当に大好きなんだ。 お前の死のジンクスも俺がかき消す。 お前だって幸せになる権利があるんだ。 それを俺が証明する。 だからどうか。 こんな俺と。 こんな俺なんかとどうか一緒になってくれ!」
開いた口が塞がらない。
しかし確かに感じていた。
それは第六感なのか。
愛なのか。
リトの身体の中で駆け巡る「嬉しい」という感情。
全身が熱くなっているのを感じる。
瞳が潤んでいる事も感じている。
「ふ、服着なよ。」
リトは何とか気丈に振る舞おうとした。
裸の健太の真剣な眼差し。
お前が「はい。」と答えるまで服を着ないぞと言わんばかりに。
本来ならリトは笑ってしまう。
しかし何故だろうか。
笑顔になっているはずなのに。
リトの瞳から流れでるとてつもないほどの涙は。
「わかった。 必ず生きて帰ってくる。 この戦争がどれほど続くかわからないけど。 必ずね! そうしたらこんな私でよければ是非。 幸せにしてよね?」
健太は何も言わなかった。
裸のまま思い切り抱きしめた。
あまりに見すぼらしい健太の姿だがリトの心は幸福だった。
長い人生で一番。
「じゃあ行ってきます。 未来の旦那さん!」
「行ってらっしゃい! 未来の嫁さん!!」
そしてリトは健太の家を出る。
外には部下の兵士が車の前で立っている。
黙ってリトに敬礼をしている。
「さあ。 行こうか。」
「少尉。 何やら幸せそうな顔ですね!」
「まあね。 我ら白神。 竹子様と共にある。 今回も必ず生きて白陸の地を踏む。」
部下の表情は明るかった。
そして運転席に乗り基地へと向かう。
白陸軍の中央軍を担う大将軍竹子。
虎白から一番の信頼があり竹子はそれに応え続けてきた。
それは竹子1人の力ではない。
共に戦う兵士達に押し上げられて竹子は今の地位にいる。
想いは一つ。
必ず生きて白陸に帰る。
「我ら無敵の白神。 いかなる敵でもこの鉄壁の守りを破る事はない。 守護神竹子様と鬼神と化す我ら将兵の力を思い知れ。」
これは白神隊で語られる詩だ。
いよいよ天上史に残る伝説の戦い。
アーム戦役の本格的な戦闘が始まろうとしていた。
夕暮れの南側領土前衛。
太陽の神が職務を終えて月の神が職務を始める。
そんな中、白陸軍は到着した。
布陣を開始して野営の準備をする。
虎白の予想だと明日には接敵して戦闘になると。
今夜はそれに向けて覚悟を決めなくてはならない。
「いよいよですね。」
「うん。 虎白様。 どうやって戦うのかしら。」
やや不安げな表情でハンナは天上門を見つめる。
冥府へと繋がる巨大な門。
その大きさのあまりに開いているのかわからない。
そもそも誰が創ってどうやって開いているのか。
ハンナはそんな疑問を持ちながらも敵を待ち構える。
不安でならなかった。
見えない場所からの砲撃。
見た事もない大きさの爆撃機。
あの勇猛な南軍前衛が何もできずに崩壊した。
ボロボロの南軍前衛の前に布陣して彼らを守る様にしている白陸軍。
果たして守れるのか。
ハンナの手は少し震える。
そして太陽は沈み辺りは暗くなる。
暗闇で吹く心地よい夜風。
ハンナは野営用テントに入って夕食を食べ始める。
「では大尉。 私の小隊が歩哨に出る時間なのでこれで。」
「わかった。 何か異変があったら直ぐに教えて。」
「わかりました。」
リトは自分の小隊60人を連れて白陸の一般兵と共に周囲の警戒に出る。
暗闇での歩哨任務は非常に危険だ。
ライトを持っているがそんなに遠くは見えない。
天上門までは照らせない。
その暗闇に紛れて何かが迫っているのかもしれない。
考えるだけで気が狂いそうだ。
「お待たせ。 じゃあ各自警戒態勢。 必ず3人以上で動いてね。 一般兵の事も気にかけてあげてね。」
60人の白神隊と100人からなる白陸軍の一般兵部隊。
警戒しながら白陸軍の野営地を左手に沿って歩く。
右手には見えないが天上門がある。
警戒するのは右手だ。
「白神の少尉。 敵は来ると思うか?」
「さあね少尉。 とにかく警戒してね。」
一般兵部隊の少尉がリトに話しかけてくる。
ライフルを構えたままリトは歩いている。
辺りは草木もない。
何か迫ってくればわかるはず。
しかしその距離まで迫られて自分達は無事でいられるのか。
そんな不安を胸にリトは必死に平常心を保つ。
「この辺りは。」
「おおご苦労様。 白神隊だな? じゃあこの辺りが中央軍との境目か。」
暗闇から灯りが見えた。
リトはいつでも発砲できる様にトリガーに指を当てていたが現れたのは見慣れた制服だった。
半獣族の兵士が笑顔で話しかけてくる。
白陸左翼軍を率いる大将軍夜叉子の私兵。
獣王隊と左翼軍の一般兵達だ。
「よかった。 味方に会えるとホッとする。 ご苦労様獣王隊。」
「敵はいないし騒ぎもないね。 ただ何か火薬の匂いがするんだよなあ。」
「それは人間の私達でもわかるよ。 白陸軍がみんな銃を持っているんだから。 半獣族も大変なのね。」
半獣族の発達した嗅覚。
そこら中から匂う火薬の匂い。
獣王隊の兵士は鼻をシクシクと指で擦りあくびをしている。
「じゃあ俺達は折り返すよ。 右翼軍も近くまで来ているんじゃないか?」
「そうだね。 私達も右翼軍の方まで見たら帰る。 じゃあお疲れ様!」
「おうお疲れ様! ガルルッ」
そう言ってリトは獣王隊と別れて右翼軍との境目に向かって歩き出した。
左手に天上門。
右手には白陸軍野営地。
「火薬かあ。 まさかね。」
リトは左手の方角をチラリと見た。
その時だった。
一斉に何かが光った。
ババババーンッ!!
物凄い発砲音が聞こえリトは目を見開く。
そして次の瞬間。
「被弾っ!」
「ああああああああ!! 撃たれたっ!」
「敵襲! 小隊長! 全軍に知らせを!」
リトは慌てて右手の白陸軍へ向けて赤い発煙筒を投げた。
しかし今の爆音は白陸軍にも聞こえている。
白陸軍も慌てて戦闘配置についている。
「全員中央軍まで戻るよ! 撃たれた人は?」
「8人死亡。 20人以上が負傷しています。」
「戦死者は残念だけれどこの場に置いていく。 負傷者を連れて急いで撤退!」
リトの判断は正しかった。
戦死者の遺体を運んでいる余裕はない。
今は1人でも戦死者が増えない様に撤退する必要があった。
「あいつ俺の友達なんだよ! せめて遺体だけでも! なあ頼むよ!!!」
一般兵が倒れて動かなくなる仲間の遺体へと駆け寄ろうとする。
白神隊が彼を必死に止めている。
「気持ちはわかるがダメだ! お前まで撃たれるぞ!」
「うるせえ離せ! あいつの親に一緒に帰還するって言ったんだよっ! せめて遺体だけでも持って帰らないと!」
バチンッ!
「いい加減にしなさい! 私の兄弟達だって撃たれているの! 悲しいのはあなただけじゃないの! 今はこれ以上家族が撃たれて死なないためにも撤退と言ったら撤退!」
リトが一般兵に思い切り平手打ちをする。
頬を赤くした一般兵は落ち着きを取り戻して撤退を始める。
2人の白神隊も今の銃撃で倒れた。
全く動かずに眠った様に目を閉じている。
ただ気絶しているだけかも。
当たりどころが良くて生きているかも。
リトはそんな本心を押し殺して目の前でまだ動いている仲間の命を優先した。
目を覚ました白陸軍の援護射撃でリト達は何とか中央軍の元へ辿り着けそうだった。
「早く入って!」
「痛い・・・痛い・・・」
中央軍の陣の中へ駆け込む様にして戻っていく。
リトは最後の兵士が入るまでその場でライフルを暗闇に向けて発砲し続けた。
中央軍や白神隊がリトの近くまで来て援護射撃をしている。
負傷が酷くフラフラと歩いている一般兵が1人。
彼が最後だった。
彼を支えて共に歩いていた仲間はその直ぐ後ろで倒れて動かなくなっている。
それでも彼は懸命に生きようと陣へ向かっている。
リトが彼に駆け寄っていく。
「大丈夫だからね。」
「すいません少尉殿。」
ピシッ!
リトの近くで聞こえた甲高い音。
そして物凄い寒気を感じた。
身体が動かない。
リトはその場に両膝をついた。
ピシピシッ!
また同じ音が聞こえると隣にいた一般兵が白目を向いて地面に倒れる。
リトは自分の腹部を触ると物凄い量の血が出ていた。
「う、撃たれた・・・」
夜間にも関わらず物凄い銃声と怒号。
冥府軍からの突然の銃撃に混乱する白陸軍だったが現場の大将軍達が速やかに兵士を落ち着かせる。
白陸軍の中央軍も竹子と優子の冷静な対応で最初の銃撃以降犠牲者は出ていない。
そしてその銃撃の中。
どの兵士よりも前で両膝をついて敵に背を向けている兵士がいる。
白神隊少尉。
リト。
青ざめた顔で腹部から流れ出る大量の血を手で抑えている。
「少尉が撃たれましたっ!!」
白陸兵が叫ぶ。
援護射撃をしながらリトの元へ向かっていく。
先頭は盾兵。
銃撃を防ぎながら少しずつリトの元へ。
しかしリトから流れ出る血の量からしてそんなにモタモタはしていられない。
「少尉待っていてください!」
「兵士の方々は下がってください! ハンナ、又三郎行きますよ!」
兵士の背後から香る良い匂い。
汗と火薬と血の匂いが充満する戦場からは匂うはずのない匂いに兵士は振り返る。
透き通る様に美しい声が聞こえる。
しかし兵士が振り返るよりも早く彼女は兵士の前に出ていた。
薙刀をプロペラの様に回転させて銃撃を防いでいる。
その隣で強面の男も負けじと防いでいる。
白陸の大将軍にして第1軍の軍長。
竹子とその私兵隊の隊長又三郎。
「リト!!」
「は・・・ハンナ大尉・・・た、竹子様や・・・ま、又三郎様まで・・・」
静かに目をつぶって倒れ込む。
ハンナはリトを抱きしめる様にして受け止める。
その間も竹子と又三郎は銃撃を防ぎ続けていた。
「死なせないからね!」
「わ・・・悪くありませんよ・・・大尉の顔を見て死ねるのも・・・」
「馬鹿な事言わないの!! 竹子様! 大丈夫です下がりましょう!」
銃撃を防ぎながら竹子と又三郎は少しずつ下がっていく。
ハンナを手伝うために数人の白神隊が担架を持ってリトを乗せる。
そして無事にリトが下がる。
「又三郎。 先に行ってください。 私は第七感で下がりますのでお気になさらずに。」
「御意!!」
竹子をその場に置いて又三郎も走って下がる。
そして竹子はギリギリまで銃撃を防ぐと囁く様な声で「第七感」とつぶやいた。
気がつくと竹子は中央軍の盾兵の後ろにいる。
まさに目にも止まらぬ速さ。
竹子はそのまま急いで何処かへと走って行った。
リトの意識は朦朧としてハンナの手を握っている。
その力の無さ。
「生きて帰るんでしょ! 彼氏にまた会わないの?」
「そ・・・そうですね・・・健太・・・会いたいよお・・・」
口からも血が流れ出る。
リトの目は焦点を捉えていない。
今にも消えてしまいそうな命の灯火。
「リト私を見なさい!」
「大尉・・・これでも懸命に生きようと・・・頑張ってます・・・どうか・・・怒らないでください・・・でも一応言っておきます・・・幸せでした。」
「そこをどいてください! 連れてきましたよ! リト少尉を救えます!」
女性の手を引っ張って汗だくで竹子が戻ってくる。
人間なのか。
半獣族なのか。
モデルの様に細く美しいスタイル。
人間と同じ位置に耳があるが横に長く伸びていてその耳は獣の様にモフモフの毛が生えている。
お尻からはまん丸の尻尾。
クリっと丸い瞳は少し赤くも見える。
リトを見て泣き出す女性。
大きく開いているリトの腹部に女性は優しく手を当てる。
驚くほどの速さでリトの傷口は塞がっていく。
青ざめた顔色も戻っていく。
目の焦点は合い、ハンナの目をじっと見ている。
「ハンナ大尉。」
「よかったああああああ!!!」
ハンナはその場で泣き叫ぶ。
リトはムクっと立ち上がってその奇妙な女性を見る。
女性は安堵のあまりハンナに負けないほど泣いている。
彼女の名はシーナ。
白陸軍の軍医。
エルフ族と半獣族のハーフ。
不思議な魔法を使い傷を癒す。
その代わり自分の神通力を減らしてしまう。
シーナはそんな事お構いなしに治癒を始める。
かつて大将軍のお初を救った事もある。
リトはシーナに敬礼するとシーナはニコリと笑ってお辞儀をする。
そして戦闘は夜通し続いてやがて朝焼けが戦場を照らす。
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眼前には白陸軍の3倍近くの冥府軍が布陣していた。
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