天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄達

くらまゆうき

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第47章 白陸軍出征

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ある日、虎白は白王隊の大軍を連れて白陸へ帰ってきた。


何をしていたのか白陸には続々と南側領土の兵士達が集結していた。


そして涼しい顔で虎白は帰ってくると大将軍達を集めた。




「本部へ出陣するぞ。」




それだけ言うと直ぐに出陣の支度を始めた。


この男は休む事を知らないのか。


家族との時間を過ごさずに長期間留守にしたと思えば突然帰ってきて出陣。


夜叉子と竹子はその姿に疑問を感じている。


各大将軍の側近も集められて虎白を見ている。


ハンナも又三郎と顔を見合わせて不思議そうにしている。




「本部に出陣・・・いよいよ内乱に加わるって事ですよね。」
「何を言う。 虎白様はずっと加わっておられた。」




虎白は白王隊と共に南側領土の内乱の最前線にいた。


アーム戦役に出陣しなかった魏国の曹操が南側領土中を攻撃していた。


虎白はそれを鎮圧して南軍をまとめるために長期間留守にしていたのだ。


南側の話がまとまりいよいよ本部の内乱終結に動き出すというわけだ。




「ハンナ。 虎白が何を考えているのかまだわからないけれど。 とにかく行こう。 先頭は私達だよ。」




竹子が不安げな顔で近寄ってくる。


その隣で煙管を咥えて不機嫌そうな表情の夜叉子。


ハンナ達だけでなく大将軍にも虎白は本心を話していなかった。




「ちっ。 うちの子達に砲撃の訓練やらせていたのに。 思惑ぐらい話せって感じだよ。」
「そうだね・・・でも虎白が何も言わない時って大体凄い事が起きるんだよね・・・」




虎白と一番付き合いの長い竹子は何となく察している。


何か大きな事件が起きると。


ハンナは竹子の顔を見て心配そうにしている。


夜叉子は変わらず不機嫌にしている。


煙管を吸い終わるとタイロンに渡してタイロンは懐にしまう。




「まあ。 どうなるか知らないけど。 行こうか。」
「そうだね。 ハンナ。 又三郎。 出陣の支度を。」




虎白と距離の近い大将軍でもわからない。


ハンナは考える事を止めた。


1つだけ言えるのは虎白はいつだって天上界の平和のために動いている。


領土を広げたいだとか。


美しい女性を近くに置きたいだとか。


人間らしい欲は全くない。


ただ平和のために戦っている。


それは既に虎白の周りにいる美しい女性のためか。


今日までに命を落とした多くの兵士達のためか。


虎白の真意は考えだすときりがない。


ハンナはただ信じる事にした。


大好きな竹子も虎白を信じている。


部屋を出て待機する白神隊の元へ向かった。


集結する白陸軍を見てハンナは驚いた。


総勢10万ほどからなる白陸軍。


確かに大軍だがもっと多くの兵士を召集できたはず。





「夜叉子様の第4軍なんて数千ほどしかいない。」




最大兵力となったのは竹子の第1軍と優子の第2軍。


他の軍団は数千ほどで少なかった。


ハンナはそれに驚いた。


天上界の内乱を終わらせる大事な戦い。


それなのにたった10万。




「ハンナ。 何か私わかるかも。 集めた南側領土の諸将の方々に活躍させたいんじゃない?」
「なるほど。 じゃあ私達は後方支援かな?」
「そうかもね。 でも不安だよね。 相手は虫や奇妙な化け物達よ。 メテオ海戦やアーム戦役とは違うもの。」




天上界本部都市を蹂躙していたのは蛾王国の虫軍団。


そして最大の逆賊ガイアが率いる一つ目の兵士。


凶暴で容赦のない虫。


本部都市の兵士や国民は大勢食われた。


さすがの竹子でも不安だった。




「む、虫に食べられるのは嫌だね・・・」
「止めてよ竹子。 私まで不安になるわ。」
「ごめんね。 とにかく行こう!」




しかし最初に行軍を始めたのは南軍からだった。


白陸は最後尾。


やはり竹子の言う通り南軍諸将に手柄を上げさせるのが狙いか。


何もかもわからない。


虎白や白王隊は全てを理解している様な顔をしている。


しかし竹子までわからない。


本当に恐ろしい狐だ。


ハンナは虎白に恐怖まで覚えたがとにかく信じるしかなかった。


辛い時寄り添ってくれた。


自分を見ると優しく微笑んでフワフワの尻尾をフリフリとさせてくれる。


素晴らしい主だ。


だから怖いけどハンナは信じて本部都市へと向かった。


ハンナ達は本部都市へと着くがそこで見た光景に言葉を失った。


煙を上げる街が並び空を飛ぶ虫の軍団。


しかし街へ突入する事はなかった。


虎白は夜叉子に命じた。




「訓練中の砲兵隊連れてきたんだろ? 撃ってみろよ。」




夜叉子が訓練に力を入れている砲兵隊。


弾薬を殺虫弾に替えて砲撃を始める。




ボンッ!



ヒューッ!



爆音の後に弾が風を切る音が聞こえ、しばらく沈黙が続く。


そして数秒後には遠くで爆発音がすると白い煙が立ち込めて空を飛ぶ虫達は落下していく。


夜叉子の砲兵隊は何発も何発も撃ち込んだ。


しばらく撃つと眼前は白い煙に覆われた。


上空にまで立ち込める煙は虫達を無力化したのか。





「全軍ガスマスクつけて前進。」




虎白の指示で兵士達はガスマスクをつけて本部都市へと入って行く。


白陸軍は後方だったが煙の中から虫が飛び出してくるかもという恐怖は当然あった。


ハンナは巨大な虫の死体を見て絶句する。


竹子の隣で歩いているが2人とも言葉が出ない。





「全軍は野営地を作って待機。」




都市は砲撃で無力化できている。


しかし虫の生命力は侮れない。


全軍は警戒したまま野営地を設営した。


だが虎白や竹子達は何処かへ消えた。


ハンナは心配そうにそびえ立つオリュンポス山を見つめる。


竹子達はその辺りへと消えた。




「又三郎様・・・」
「案ずるな。 きっと虎白様が上手くやってくださる。 主を信じよ。」
「はい。 戦闘になると思いますか?」
「なるであろうな。」




冥府軍とは何度も戦った。


しかし今回は同じ天上軍。


アーム戦役で冥府を沈黙させたのにどうして戦うのか。


いつの日か虎白がハンナに言った「戦争のない天上界」なんて有り得るのか。


終始ハンナは浮かない表情だった。


しばらくオリュンポス山を見つめているとハンナは驚く光景を見る。


オリュンポス山に落ちる雷や怒号。


しまいには海の匂いまでしてきた。


その異変に一番警戒したのは獣王隊。


タイロンが又三郎とハンナの近くまで来ると毛を逆立てて警戒している。




「有り得ない。 海水が流れている・・・」
「何なら尋常ならぬ事が起きている様じゃな。」
「竹子・・・」




白陸軍は待つしかなかった。


命令が下されていない。


主が本当にあの山にいるかも確証はない。


とんでもない事が起きている事だけは間違いないが。


雷の爆音に混じって人の声だが人が出せるはずもないほど大きな声が響いている。


緊張が消えないまま1時間近くハンナ達はオリュンポス山を見つめていたその時だった。




「ふー。 危ねえ危ねえ。 あいつら頭おかしいだろ。」




虎白が現れたが姿は四足歩行の狐だった。


馬の様に大きいが確かに狐だ。


純白の毛をなびかせている。


そして虎白の背中から竹子達が降りてくる。


ハンナはたまらず虎白と竹子の元へ駆け寄った。




「おおハンナ。」
「虎白様! 竹子!」
「そんな怖い顔するなハンナ。 せっかくの美人が台無しだ。」




虎白は身体を狐の半獣族の様に二足歩行に戻すと尻尾をフリフリとさせてハンナに微笑む。


しかしハンナは落ち着けない。


一体何をして来たのか。


虎白が戻ってくると海の匂いも雷も聞こえなくなる。




「さてと。 全軍にはオリュンポスの都市を抑えてもらってるよな?」




確かにその命令は出ていた。


白陸の一般兵達はオリュンポスの都市へ向かっていた。


私兵だけがその場に残り主の帰りを待っていた。


そして主が戻ってきたわけだが。


この先何が起きるのか。


ハンナにはわからない。


いや又三郎やタイロンでさえも。


竹子の不安そうな表情は何を意味しているのか。


それでも信じるしかない。


天上史に残る天上大内乱の最終局面。


「何ですって!?」


ハンナは竹子の言葉に耳を疑う。


驚いたハンナの声は大きかった。


竹子は慌ててハンナの口に手を当てて指を縦にして自分の口元に当てる。




「声大きいよ。」
「そりゃ驚くよ! 天王様を殺す?」
「しっー! 虎白が言ってた。」



ハンナは動揺のあまり頭が回転しない。


天王暗殺。


万が一露見すれば虎白だけでなく竹子やその下の将校達まで殺されるかもしれない。


ハンナは虎白に対して尋常じゃない恐怖を感じた。


竹子がハンナの背中をさすっているとやがてハンナは落ち着きを取り戻す。




「ふうー。 いよいよ大変な事になるね。 虎白様はそのために南軍に遠征に行っていたのね・・・」




いつの日か虎白がハンナに言った戦争のない天上界。


その実現のためには現天王が邪魔だと考えた。


恐怖を感じたがハンナは虎白と何度も話した事がある。


聡明で仲間想い。


そして勇敢で気高い。


何よりも優しかった。


自分の知っている虎白はそんな皇帝だった。




「虎白様は言った。 戦争のない天上界を作るって。 まさかそれは自分が天王になるって事なの・・・」



そこまで本気なのか。


ハンナは何とか頭を働かせて考えている。


一歩間違えれば虎白は死ぬ。


そんな事は少佐のハンナでわかる。


賢い虎白がわからないはずもない。


大きく息を吸って大空を見る。


そして目を瞑ると思い浮かべた。




(リト・・・あなたでも驚くでしょ? 虎白様はそこまで覚悟を持たれていた。 私怖いよ。 でも虎白様や竹子様を信じてみる。 覚悟を決めるよ。 逆賊になる覚悟を。 勝てば逆賊じゃない!)




思い浮かべるリトや仲間達の顔。


みんなが生きていたらどう考えたか。


この行動はみんなのためになるか。


いつかまた会えたら。


この日の事を必ず話そう。




(大丈夫よ。 みんなを信じて。 ハンナ。 あなたなら大丈夫! 私の大事なハンナ。 さあ目を開けて。)




「えっ!?」




ハンナは目を開けると目の前には竹子が首をかしげている。


不思議そうにハンナを見ている。




「い、今何か言った?」
「いいえ。 何か聞こえたの? 第六感で?」
「確かに・・・今私の意識はリト達に向けていたの。 何だかリトの声にも聞こえた気が・・・」




竹子は優しく微笑んだ。


驚く事も不思議な事を言うハンナに呆れる事もなく。


まるで何か知っているかの様にただ優しく微笑んだ。




「案外リトの声かもね! 離れていてもずっとあなたの事を見守っているのね。」
「リト・・・また会いたい・・・でも・・・まだ会えない・・・リトに話さないと。 リトと別れてからの「それからの事」を。」




どうしてもリトを想うと涙が出る。


ずっと一緒にいられると思っていた。


別れはあまりに突然だった。


彼女の温もりが永遠に消えない。


いやリトだけではない。


冥府で命を落とした彼氏の事も。


肩を組んだ仲間達の温もりも。


しかしもう立ち止まったり嘆き続けたりしない。


先に旅立った仲間に「それからの事」を伝える。


だから立派に生きると決めた。




「すーうっ。 よし! 虎白様を信じよう! 私達は天王様の軍隊って事になる! 神軍ね!」




ハンナは意を決した。


逆賊となって戦う覚悟。


これは天上史に残る大事件。


そしてこの物語はその最前線にいた英雄の物語。


白神隊も白陸軍も。


虎白や竹子も。


そしてハンナや兵士達。


全員が逆賊となる覚悟を持った。


神に反旗を翻す時が来たのだ。
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