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第97章 俺らの兄弟
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虎白はウィルシュタインと話をしていた。
冷静な表情で話す虎白だったが少し声は暗かった。
馬上で話す2人は何やら真剣だ。
眼前では赤軍と中央軍が激しい戦闘を行っていた。
「これを持っていけ。」
「何だこれ?」
「あいつらの魂だ。」
ジャガーのお守りは魂だ。
何も知らないウィルシュタインにはただの布だが、このお守りにはもはや大勢の魂が込められていた。
敵味方問わず。
最前線から離れる事ができない虎白はこの魂をウィルシュタインに託した。
手に持つジャガーのお守りを胸にすっとしまったウィルシュタインは馬首を右翼戦線に向けた。
そしてゆっくりと歩みを進めたウィルシュタインが向かった先で待っていたのはクロフォードだった。
「出迎えご苦労。」
「・・・・・・宰相ウィル様。」
クロフォードが少し目をそらして一礼した。
ウィルシュタインが向かった先は獣王隊だった。
宰相の夜叉子は先の戦闘で重傷を負ってしまった。
指揮官不在の私兵獣王隊は右翼軍主力としての機能が停止していた。
虎白は夜叉子の代わりにウィルシュタインを派遣した。
獣王隊副官のタイロンも重傷を負った事で同じ副官のクロフォードが指揮していた。
「気に入らない事はわかる。」
「いえ・・・」
なおも目をそらしている。
しかしウィルシュタインの表情は冷静だった。
「気にするな」と冷静な表情のまま、右翼戦線の状況を確認していた。
敵を撃破するにはどうするべきかと地図を見たり、遠くの敵や街を見たりしている。
クロフォードの気持ちももっともだ。
主の夜叉子は自分達を「うちの子」と呼んで愛してくれる。
その愛の深さからクロフォード達も宰相と兵士の間柄を超えていた。
大好きな夜叉子が倒れ、代わりと言われても当然士気は上がらない。
それでも精鋭部隊の将校であるクロフォードはウィルシュタインの指示に従おうとしていた。
「ご命令は?」
「まあ見ていろ。」
「・・・・・・」
クロフォードは部下に命令を出そうと動いた時だった。
「待て」と声をかけてきて振り返るとジャガーの布を手に持っていた。
一目見て何かわかった。
「そ、それをどこで・・・」
「旦那から渡されたぞ。」
「そうなんですか・・・」
どうして虎白が持っていたのかと考えていたが、手に取るとクロフォードの手が震えていた。
ウィルシュタインは涙を流すと思い、ふっくらとした胸元から布を取り出して渡したが受け取らなかった。
不思議そうに首をかしげているとクロフォードは顔を上げた。
「殺してやる・・・」
その表情は生命体とは思えないほどに怒っていた。
瞳は縦に伸びて、眼球が飛び出るほどに目を見開いていた。
歯茎は剥き出しになり、鋭い牙が見えていた。
「冗談じゃない。」
クロフォードは思わず口にしてしまった。
お頭を守れず、姉妹も運ばれた。
弟分達も戦死して自分はここに立っている。
クロフォードは自分という存在の不甲斐なさに押しつぶされそうだった。
だが、ウィルシュタインは関心すら持たずにダブルブレードを抜くと足早に戦場へと向かった。
一言だけ言い放った。
「好きにしろ」とだけ。
ついてくるなら部隊として使うが、来ないならウィルシュタインは単身で敵軍を粉砕するつもりだった。
この傑物にはそれができるのかもしれない。
ウィルシュタインの隣を一生懸命ついていく宰相スカーレットも得体が知れない。
ただのか弱い女の子にしか見えないが宰相の地位を持っている。
立ち尽くすクロフォードは頭の中で倒れていった家族の顔を思い浮かべていた。
「お前ら・・・」
夜叉子も相棒のタイロンも生きているという報告があったのはウィルシュタインが参陣するよりも前の事だった。
そして今。
颯爽と敵に向かっていくウィルシュタインの背中を見て思う事。
お頭が無事なのは弟達が体張って守ったから。
私は何をしていた?
タイロンが倒れた時も部隊の立て直しに奔走していた。
将校だからね。
正しい事をしたんだって言い聞かせていた。
でも本当は違う。
そうじゃない。
私だって弟と一緒に残って戦うべきだった。
あの子達が死にゆく時間を使って後退した。
我ら獣王はお頭がいてこそ意味をなす。
お頭を守るためなら死ぬ事だって怖くないね。
弟達がそうやって体張った事はわかっているさ。
でも残された身としては苦しいものだよ。
いつだってそうだったけどね。
アーム戦役だってそうさ。
みんな未来とお頭の命を託して倒れていく。
それが背負うという事で生き残った私達がしなくてはならない事だよね。
宰相ウィルシュタイン。
何を考えているのか。
我ら獣王を舐めているんじゃない?
好きにしろだと?
じゃあ好きにさせてもらうさ。
クロフォードはしばらくの沈黙を破ると家族達へ言った。
「お頭以外に指揮られるのはしゃくだけどね・・・いいさ。 獣王の力を見せてやる。 いいかいみんな。 あのウィルシュタインを援護しろ。」
クロフォードが武器を持って走り始めると獣王隊はそれに続いた。
敵へ向かっていくウィルシュタインの口角は上がっていた。
不敵な笑みを浮かべて赤軍兵士を蹴散らした。
敵陣へ向かうウィルシュタイン率いる獣王隊は破竹の勢いで赤軍を蹴散らした。
1人敵を倒すたびにクロフォードの脳裏に蘇る可愛い弟達の顔。
くだらない言い合いをして取っ組み合いの喧嘩をしていた頃が懐かしい。
相変わらず馬鹿やっているなと呆れもしたが心のどこかであの兄弟の喧嘩を楽しみにしていた。
クロフォードは敵兵の頭蓋骨を叩き割ると足で踏みつけて進んだ。
自我を保って戦う訓練を長年受けてきた。
第六感や第七感まで習得した今ではもはやその辺の敵兵では相手にならなかった。
だがクロフォードは自我を失いかけていた。
「サガミ・・・ペップ・・・」
視界が段々と暗くなり、嗅覚だけが研ぎ澄まされていく。
物事を考える事ができなくなり、体が浮いているかの様に軽くなっていく。
クロフォードにはそれが何を意味しているかわかっていた。
「狂戦士になりそう・・・」
半獣族が狂戦士になると非常に危険だ。
それは異次元とも言える高い戦闘力が発動される。
だが、死ぬ寸前になるまで戦い続けて痛覚や疲労を忘れてしまう。
夜叉子という存在は狂戦士にならない様に獣王隊を訓練してきた。
屈強な半獣族の部隊なのに力押しを好まない理由はここにあった。
冷静に戦い、必要な時に爆発させる事が必要。
何も考えずに狂戦士になれば大勢が死んでしまう。
目の前で縦横無尽に戦うウィルシュタインという宰相は獣王隊の怒りに気づいているのか。
彼らの家族を失った怒りや悲しみを理解できているのか。
クロフォードですら自我を失いつつあった。
それほどまでに夜叉子や家族が倒れた事は衝撃的だった。
だがそんな時だった。
「獣王隊の小隊は左右に展開して挟撃の姿勢を取れ。 第4軍の兵士を支えろ。」
ウィルシュタインはダブルブレードを芸術的なまでに自在に操って周囲の獣王隊将校へ命令を下した。
クロフォードは我に返った。
「そうだ」と目を見開いて自分が私兵である事を思い出すとすかさずウィルシュタインの近くへ走った。
獣王隊の攻撃は各々が怒りを任せて動いていたがウィルシュタインはそれすらも利用して程よい所で将校達に「戦士」から「兵士」に戻れと言った。
爆発的な破壊力をみせた事で赤軍もたまらず崩れて、街へと逃げていった。
冷静さを取り戻した獣王隊を見てもなお平然としているウィルシュタインはクロフォードに市街戦での戦闘を命令した。
宰相ウィルシュタインは紛れもない傑物だった。
冷静な表情で話す虎白だったが少し声は暗かった。
馬上で話す2人は何やら真剣だ。
眼前では赤軍と中央軍が激しい戦闘を行っていた。
「これを持っていけ。」
「何だこれ?」
「あいつらの魂だ。」
ジャガーのお守りは魂だ。
何も知らないウィルシュタインにはただの布だが、このお守りにはもはや大勢の魂が込められていた。
敵味方問わず。
最前線から離れる事ができない虎白はこの魂をウィルシュタインに託した。
手に持つジャガーのお守りを胸にすっとしまったウィルシュタインは馬首を右翼戦線に向けた。
そしてゆっくりと歩みを進めたウィルシュタインが向かった先で待っていたのはクロフォードだった。
「出迎えご苦労。」
「・・・・・・宰相ウィル様。」
クロフォードが少し目をそらして一礼した。
ウィルシュタインが向かった先は獣王隊だった。
宰相の夜叉子は先の戦闘で重傷を負ってしまった。
指揮官不在の私兵獣王隊は右翼軍主力としての機能が停止していた。
虎白は夜叉子の代わりにウィルシュタインを派遣した。
獣王隊副官のタイロンも重傷を負った事で同じ副官のクロフォードが指揮していた。
「気に入らない事はわかる。」
「いえ・・・」
なおも目をそらしている。
しかしウィルシュタインの表情は冷静だった。
「気にするな」と冷静な表情のまま、右翼戦線の状況を確認していた。
敵を撃破するにはどうするべきかと地図を見たり、遠くの敵や街を見たりしている。
クロフォードの気持ちももっともだ。
主の夜叉子は自分達を「うちの子」と呼んで愛してくれる。
その愛の深さからクロフォード達も宰相と兵士の間柄を超えていた。
大好きな夜叉子が倒れ、代わりと言われても当然士気は上がらない。
それでも精鋭部隊の将校であるクロフォードはウィルシュタインの指示に従おうとしていた。
「ご命令は?」
「まあ見ていろ。」
「・・・・・・」
クロフォードは部下に命令を出そうと動いた時だった。
「待て」と声をかけてきて振り返るとジャガーの布を手に持っていた。
一目見て何かわかった。
「そ、それをどこで・・・」
「旦那から渡されたぞ。」
「そうなんですか・・・」
どうして虎白が持っていたのかと考えていたが、手に取るとクロフォードの手が震えていた。
ウィルシュタインは涙を流すと思い、ふっくらとした胸元から布を取り出して渡したが受け取らなかった。
不思議そうに首をかしげているとクロフォードは顔を上げた。
「殺してやる・・・」
その表情は生命体とは思えないほどに怒っていた。
瞳は縦に伸びて、眼球が飛び出るほどに目を見開いていた。
歯茎は剥き出しになり、鋭い牙が見えていた。
「冗談じゃない。」
クロフォードは思わず口にしてしまった。
お頭を守れず、姉妹も運ばれた。
弟分達も戦死して自分はここに立っている。
クロフォードは自分という存在の不甲斐なさに押しつぶされそうだった。
だが、ウィルシュタインは関心すら持たずにダブルブレードを抜くと足早に戦場へと向かった。
一言だけ言い放った。
「好きにしろ」とだけ。
ついてくるなら部隊として使うが、来ないならウィルシュタインは単身で敵軍を粉砕するつもりだった。
この傑物にはそれができるのかもしれない。
ウィルシュタインの隣を一生懸命ついていく宰相スカーレットも得体が知れない。
ただのか弱い女の子にしか見えないが宰相の地位を持っている。
立ち尽くすクロフォードは頭の中で倒れていった家族の顔を思い浮かべていた。
「お前ら・・・」
夜叉子も相棒のタイロンも生きているという報告があったのはウィルシュタインが参陣するよりも前の事だった。
そして今。
颯爽と敵に向かっていくウィルシュタインの背中を見て思う事。
お頭が無事なのは弟達が体張って守ったから。
私は何をしていた?
タイロンが倒れた時も部隊の立て直しに奔走していた。
将校だからね。
正しい事をしたんだって言い聞かせていた。
でも本当は違う。
そうじゃない。
私だって弟と一緒に残って戦うべきだった。
あの子達が死にゆく時間を使って後退した。
我ら獣王はお頭がいてこそ意味をなす。
お頭を守るためなら死ぬ事だって怖くないね。
弟達がそうやって体張った事はわかっているさ。
でも残された身としては苦しいものだよ。
いつだってそうだったけどね。
アーム戦役だってそうさ。
みんな未来とお頭の命を託して倒れていく。
それが背負うという事で生き残った私達がしなくてはならない事だよね。
宰相ウィルシュタイン。
何を考えているのか。
我ら獣王を舐めているんじゃない?
好きにしろだと?
じゃあ好きにさせてもらうさ。
クロフォードはしばらくの沈黙を破ると家族達へ言った。
「お頭以外に指揮られるのはしゃくだけどね・・・いいさ。 獣王の力を見せてやる。 いいかいみんな。 あのウィルシュタインを援護しろ。」
クロフォードが武器を持って走り始めると獣王隊はそれに続いた。
敵へ向かっていくウィルシュタインの口角は上がっていた。
不敵な笑みを浮かべて赤軍兵士を蹴散らした。
敵陣へ向かうウィルシュタイン率いる獣王隊は破竹の勢いで赤軍を蹴散らした。
1人敵を倒すたびにクロフォードの脳裏に蘇る可愛い弟達の顔。
くだらない言い合いをして取っ組み合いの喧嘩をしていた頃が懐かしい。
相変わらず馬鹿やっているなと呆れもしたが心のどこかであの兄弟の喧嘩を楽しみにしていた。
クロフォードは敵兵の頭蓋骨を叩き割ると足で踏みつけて進んだ。
自我を保って戦う訓練を長年受けてきた。
第六感や第七感まで習得した今ではもはやその辺の敵兵では相手にならなかった。
だがクロフォードは自我を失いかけていた。
「サガミ・・・ペップ・・・」
視界が段々と暗くなり、嗅覚だけが研ぎ澄まされていく。
物事を考える事ができなくなり、体が浮いているかの様に軽くなっていく。
クロフォードにはそれが何を意味しているかわかっていた。
「狂戦士になりそう・・・」
半獣族が狂戦士になると非常に危険だ。
それは異次元とも言える高い戦闘力が発動される。
だが、死ぬ寸前になるまで戦い続けて痛覚や疲労を忘れてしまう。
夜叉子という存在は狂戦士にならない様に獣王隊を訓練してきた。
屈強な半獣族の部隊なのに力押しを好まない理由はここにあった。
冷静に戦い、必要な時に爆発させる事が必要。
何も考えずに狂戦士になれば大勢が死んでしまう。
目の前で縦横無尽に戦うウィルシュタインという宰相は獣王隊の怒りに気づいているのか。
彼らの家族を失った怒りや悲しみを理解できているのか。
クロフォードですら自我を失いつつあった。
それほどまでに夜叉子や家族が倒れた事は衝撃的だった。
だがそんな時だった。
「獣王隊の小隊は左右に展開して挟撃の姿勢を取れ。 第4軍の兵士を支えろ。」
ウィルシュタインはダブルブレードを芸術的なまでに自在に操って周囲の獣王隊将校へ命令を下した。
クロフォードは我に返った。
「そうだ」と目を見開いて自分が私兵である事を思い出すとすかさずウィルシュタインの近くへ走った。
獣王隊の攻撃は各々が怒りを任せて動いていたがウィルシュタインはそれすらも利用して程よい所で将校達に「戦士」から「兵士」に戻れと言った。
爆発的な破壊力をみせた事で赤軍もたまらず崩れて、街へと逃げていった。
冷静さを取り戻した獣王隊を見てもなお平然としているウィルシュタインはクロフォードに市街戦での戦闘を命令した。
宰相ウィルシュタインは紛れもない傑物だった。
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