天冥聖戦 伝説への軌跡

くらまゆうき

文字の大きさ
5 / 171
シーズン1序章 消えた神族と悲劇の少年

第5話 私にできること

しおりを挟む
 短時間の間に、様々な事態が巻き起こった。竹子は、祐輝の死を受け入れることができず、連れられるがまま歩いている。

「大丈夫か竹子? 怪我はねえか?」

 そう平然と話している男は、着物姿だが明らかに人間ではなかった。腰から伸びている、毛皮は尻尾だろう。白髪の頭部から生えているのは、狐の耳だろう。そして白すぎる顔は、人間ではあり得ない色だ。
 背中から湧き出ている白いもやは、虹色に輝いている。竹子は、歩みを止めると男の顔を見た。

「虎白なんでしょ?」
「ああ。 祐輝を守れなかったからな......皮肉なことにこれで解放されたってわけだ」
「聞いてなかったよ......虎白その見た目......皇国武士じゃないの」

 竹子は、顔を強張らせてそう言った。「皇国武士こうこくぶし」という言葉を聞いた虎白は、不思議そうに首をかしげている。

「なんだそれ?」
「純白の装束に、狐と人間を混ぜたような外見。 そして二刀流の使い手。 この霊界を守る神の軍隊が、皇国武士だよ......虎白は狐の侍だったんだね」

 話しを聞いた虎白は、それでも首をかしげていた。しばらく顎に手を当てながら、何やら考えていると、疑問を竹子に問いかけた。

「霊界を守る? じゃあなんで祐輝はやられちまったんだよ? それに俺みたいな連中が他にもいるのか?」

 竹子は、「霊界を守る神の軍隊」と確かに口にした。しかし現在は、怨霊がうごめき、神の軍隊なんてものはどこにもいなかった。虎白からの問いかけに、さらに表情を強張らせた竹子は、小さな声で話しを始めた。

「今思えば不思議なことだった......祐輝殿の年齢は二十四歳でしょ? ちょうど二十四年前に、皇国武士はこつ然と姿を消してしまったの......」

 その言葉に困惑する虎白は、公園の長椅子に腰掛けると、空を見てため息をついた。肝心な二十四年前よりも前の記憶が、完全に消えているからだ。
 しばらくの間、天を仰いでいた虎白は、立ち上がると竹子の肩に手を置いた。

「何がどうなっているのかさっぱりわからねえ......だが、祐輝を死なせちまった今、俺達だけでも生き残らないと、答えにたどり着けねえな」
「う、うん......祐輝殿......虎白は、皇国武士だったし......突如援護射撃してくれた少女にも会えなかった......」

 祐輝が襲われて、胸に矢を受けて絶命するまでの僅か数分の間に、様々なことが起きた。竹子は、感情の整理ができずにうつむいている。
 そんな竹子を、哀れんだ目で見ている虎白は、隣に座ると背中を優しくさすった。

「ありがと......」
「祐輝を守護していた理由を聞かせてくれ」
「私は、あの日からずっと守護していたの......私が死んだ日から」

 声を震えさせて話す竹子は、虎白の白い手を握ると話しを続けた。

「私だって女武者だから。 戦いくさに出ていたけれど、力及ばず戦場に倒れたのね。 味方は大敗......負傷して倒れる私をかばう余裕なんてなかった。 だから戦場で命の灯火が燃え尽きる時を静かに待っていたんだ......」

 腕を組んで、静かに話しを聞いている虎白は、ある疑問を頭の中で考えていた。祐輝は、二十四歳だ。竹子が、戦に出ていた時は最低でも二百年前だ。祐輝を見守る理由には、関係ないのではないかと、眉間にしわを寄せた。

「カラスが敵味方の死肉を食べ始め、私にもその番が来るのだろうと諦めた時。 私の前に敵の武者が立っていたの。 でも、彼は私を戦場から連れ帰り、手当てまでしてくれた......傷は回復せずに、その後私は死んでしまったけれど心は満たされた......」

 その時、虎白は何が言いたいのかようやくわかった。竹子は、それから二百年もの歳月、見守り続けていた。

「あの日、私を拾って、最後まで隣にいてくれた祐輝殿の先祖に私ができる唯一の恩返しだったの......でも祐輝殿も、御子息も亡くなってしまった......私が不甲斐ないばかりに、気高い血筋が絶えてしまった......」

 虎白は、泣き崩れる竹子を静かに抱きしめた。頭を優しくなでながら、彼女の律儀さと健気さに感服している。
 やがて虎白がそっと竹子から離れると、手を差し出した。

「きっとまた会える。 俺と来い。 今は俺達が、進まねえと何もわからねえぞ」
「う......うん。 行こう虎白」

 竹子は、白い手を力強く握ると、長椅子から立ち上がり前を見た。一柱の神族と、一人の女は一歩前へ踏み出し、歩みを進めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。 自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。 「お前は俺の番だ」 番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。 一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。 執着と守護。すれ違いと絆。 ――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。 甘さ控えめ、でも確かに溺愛。 異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

処理中です...