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シーズン1序章 消えた神族と悲劇の少年
第5話 私にできること
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短時間の間に、様々な事態が巻き起こった。竹子は、祐輝の死を受け入れることができず、連れられるがまま歩いている。
「大丈夫か竹子? 怪我はねえか?」
そう平然と話している男は、着物姿だが明らかに人間ではなかった。腰から伸びている、毛皮は尻尾だろう。白髪の頭部から生えているのは、狐の耳だろう。そして白すぎる顔は、人間ではあり得ない色だ。
背中から湧き出ている白いもやは、虹色に輝いている。竹子は、歩みを止めると男の顔を見た。
「虎白なんでしょ?」
「ああ。 祐輝を守れなかったからな......皮肉なことにこれで解放されたってわけだ」
「聞いてなかったよ......虎白その見た目......皇国武士じゃないの」
竹子は、顔を強張らせてそう言った。「皇国武士こうこくぶし」という言葉を聞いた虎白は、不思議そうに首をかしげている。
「なんだそれ?」
「純白の装束に、狐と人間を混ぜたような外見。 そして二刀流の使い手。 この霊界を守る神の軍隊が、皇国武士だよ......虎白は狐の侍だったんだね」
話しを聞いた虎白は、それでも首をかしげていた。しばらく顎に手を当てながら、何やら考えていると、疑問を竹子に問いかけた。
「霊界を守る? じゃあなんで祐輝はやられちまったんだよ? それに俺みたいな連中が他にもいるのか?」
竹子は、「霊界を守る神の軍隊」と確かに口にした。しかし現在は、怨霊がうごめき、神の軍隊なんてものはどこにもいなかった。虎白からの問いかけに、さらに表情を強張らせた竹子は、小さな声で話しを始めた。
「今思えば不思議なことだった......祐輝殿の年齢は二十四歳でしょ? ちょうど二十四年前に、皇国武士はこつ然と姿を消してしまったの......」
その言葉に困惑する虎白は、公園の長椅子に腰掛けると、空を見てため息をついた。肝心な二十四年前よりも前の記憶が、完全に消えているからだ。
しばらくの間、天を仰いでいた虎白は、立ち上がると竹子の肩に手を置いた。
「何がどうなっているのかさっぱりわからねえ......だが、祐輝を死なせちまった今、俺達だけでも生き残らないと、答えにたどり着けねえな」
「う、うん......祐輝殿......虎白は、皇国武士だったし......突如援護射撃してくれた少女にも会えなかった......」
祐輝が襲われて、胸に矢を受けて絶命するまでの僅か数分の間に、様々なことが起きた。竹子は、感情の整理ができずにうつむいている。
そんな竹子を、哀れんだ目で見ている虎白は、隣に座ると背中を優しくさすった。
「ありがと......」
「祐輝を守護していた理由を聞かせてくれ」
「私は、あの日からずっと守護していたの......私が死んだ日から」
声を震えさせて話す竹子は、虎白の白い手を握ると話しを続けた。
「私だって女武者だから。 戦いくさに出ていたけれど、力及ばず戦場に倒れたのね。 味方は大敗......負傷して倒れる私をかばう余裕なんてなかった。 だから戦場で命の灯火が燃え尽きる時を静かに待っていたんだ......」
腕を組んで、静かに話しを聞いている虎白は、ある疑問を頭の中で考えていた。祐輝は、二十四歳だ。竹子が、戦に出ていた時は最低でも二百年前だ。祐輝を見守る理由には、関係ないのではないかと、眉間にしわを寄せた。
「カラスが敵味方の死肉を食べ始め、私にもその番が来るのだろうと諦めた時。 私の前に敵の武者が立っていたの。 でも、彼は私を戦場から連れ帰り、手当てまでしてくれた......傷は回復せずに、その後私は死んでしまったけれど心は満たされた......」
その時、虎白は何が言いたいのかようやくわかった。竹子は、それから二百年もの歳月、見守り続けていた。
「あの日、私を拾って、最後まで隣にいてくれた祐輝殿の先祖に私ができる唯一の恩返しだったの......でも祐輝殿も、御子息も亡くなってしまった......私が不甲斐ないばかりに、気高い血筋が絶えてしまった......」
虎白は、泣き崩れる竹子を静かに抱きしめた。頭を優しくなでながら、彼女の律儀さと健気さに感服している。
やがて虎白がそっと竹子から離れると、手を差し出した。
「きっとまた会える。 俺と来い。 今は俺達が、進まねえと何もわからねえぞ」
「う......うん。 行こう虎白」
竹子は、白い手を力強く握ると、長椅子から立ち上がり前を見た。一柱の神族と、一人の女は一歩前へ踏み出し、歩みを進めた。
「大丈夫か竹子? 怪我はねえか?」
そう平然と話している男は、着物姿だが明らかに人間ではなかった。腰から伸びている、毛皮は尻尾だろう。白髪の頭部から生えているのは、狐の耳だろう。そして白すぎる顔は、人間ではあり得ない色だ。
背中から湧き出ている白いもやは、虹色に輝いている。竹子は、歩みを止めると男の顔を見た。
「虎白なんでしょ?」
「ああ。 祐輝を守れなかったからな......皮肉なことにこれで解放されたってわけだ」
「聞いてなかったよ......虎白その見た目......皇国武士じゃないの」
竹子は、顔を強張らせてそう言った。「皇国武士こうこくぶし」という言葉を聞いた虎白は、不思議そうに首をかしげている。
「なんだそれ?」
「純白の装束に、狐と人間を混ぜたような外見。 そして二刀流の使い手。 この霊界を守る神の軍隊が、皇国武士だよ......虎白は狐の侍だったんだね」
話しを聞いた虎白は、それでも首をかしげていた。しばらく顎に手を当てながら、何やら考えていると、疑問を竹子に問いかけた。
「霊界を守る? じゃあなんで祐輝はやられちまったんだよ? それに俺みたいな連中が他にもいるのか?」
竹子は、「霊界を守る神の軍隊」と確かに口にした。しかし現在は、怨霊がうごめき、神の軍隊なんてものはどこにもいなかった。虎白からの問いかけに、さらに表情を強張らせた竹子は、小さな声で話しを始めた。
「今思えば不思議なことだった......祐輝殿の年齢は二十四歳でしょ? ちょうど二十四年前に、皇国武士はこつ然と姿を消してしまったの......」
その言葉に困惑する虎白は、公園の長椅子に腰掛けると、空を見てため息をついた。肝心な二十四年前よりも前の記憶が、完全に消えているからだ。
しばらくの間、天を仰いでいた虎白は、立ち上がると竹子の肩に手を置いた。
「何がどうなっているのかさっぱりわからねえ......だが、祐輝を死なせちまった今、俺達だけでも生き残らないと、答えにたどり着けねえな」
「う、うん......祐輝殿......虎白は、皇国武士だったし......突如援護射撃してくれた少女にも会えなかった......」
祐輝が襲われて、胸に矢を受けて絶命するまでの僅か数分の間に、様々なことが起きた。竹子は、感情の整理ができずにうつむいている。
そんな竹子を、哀れんだ目で見ている虎白は、隣に座ると背中を優しくさすった。
「ありがと......」
「祐輝を守護していた理由を聞かせてくれ」
「私は、あの日からずっと守護していたの......私が死んだ日から」
声を震えさせて話す竹子は、虎白の白い手を握ると話しを続けた。
「私だって女武者だから。 戦いくさに出ていたけれど、力及ばず戦場に倒れたのね。 味方は大敗......負傷して倒れる私をかばう余裕なんてなかった。 だから戦場で命の灯火が燃え尽きる時を静かに待っていたんだ......」
腕を組んで、静かに話しを聞いている虎白は、ある疑問を頭の中で考えていた。祐輝は、二十四歳だ。竹子が、戦に出ていた時は最低でも二百年前だ。祐輝を見守る理由には、関係ないのではないかと、眉間にしわを寄せた。
「カラスが敵味方の死肉を食べ始め、私にもその番が来るのだろうと諦めた時。 私の前に敵の武者が立っていたの。 でも、彼は私を戦場から連れ帰り、手当てまでしてくれた......傷は回復せずに、その後私は死んでしまったけれど心は満たされた......」
その時、虎白は何が言いたいのかようやくわかった。竹子は、それから二百年もの歳月、見守り続けていた。
「あの日、私を拾って、最後まで隣にいてくれた祐輝殿の先祖に私ができる唯一の恩返しだったの......でも祐輝殿も、御子息も亡くなってしまった......私が不甲斐ないばかりに、気高い血筋が絶えてしまった......」
虎白は、泣き崩れる竹子を静かに抱きしめた。頭を優しくなでながら、彼女の律儀さと健気さに感服している。
やがて虎白がそっと竹子から離れると、手を差し出した。
「きっとまた会える。 俺と来い。 今は俺達が、進まねえと何もわからねえぞ」
「う......うん。 行こう虎白」
竹子は、白い手を力強く握ると、長椅子から立ち上がり前を見た。一柱の神族と、一人の女は一歩前へ踏み出し、歩みを進めた。
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