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シーズン
第7ー19話 受け継がれる熱き夢
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広く大きな広場に集まるルーシーの職業軍人が、暖かく優しいそよ風に白い肌を撫でられながら真剣な眼差しを向けている。
空は彼ら彼女らの鉄の信念を応援しているかの様に、力強い日差しで照らす。
ユーリやゾフィアという英雄を見る民の眼差しは、純粋なまでに輝き全ての期待を美しき英雄に向けているのだ。
ルーシー大公国を栄光へと導いてくれと。
そんな英雄すらも忠誠心に満ちた表情で視線を向けている先には演説台があり、男が高級将校と共に立っている。
すると羨望の眼差しは英雄からその男へと向いた。
「親愛なる我が民よ!! 我らルーシーはこれより戦争へと突入する。 正義の戦争だ。 世界を平和にするためにルーシーの旗の下に入れるのだ」
凶暴で侵略だけが全てという印象は世界から見たルーシーだ。
内部ではルーシーは戦争のない天上界を築き上げるために戦っていた。
事実、ルーシーに吸収された国は大幅な発展をして今では共に戦うほどだ。
ローズベリーへの圧政は今が戦争中であるというだけで、日頃から彼らを苦しめているわけではなかった。
ユーリら英雄や将兵が真剣な表情をして聞いている演説の語り手は更に続けた。
「いずれ戦争が世界からなくなれば我らは人々に感謝され、皆の手本になるのだ。 今は我々にとって苦難の時だ。 世界は変化を拒む。 だが必ず勝利して人々が健やかに暮らせる世界を共に築こう」
そんな演説が終わる頃には英雄から民に至るまでが、歓喜して喜んでいた。
やがて男の演説が終わると、ユーリは相棒とも言えるゾフィアとその妹のエリアナと食事をするために基地の食堂へと向かった。
彼女らはその美貌と強さから将兵達の憧れの的であったが、当人らは先程語られた戦争がなくなった世界の実現のためにふくよかな胸の内を熱くたぎらせていた。
「最高指導者フキエは実に素晴らしい演説をするな」
「そうだな。 彼が描く人々が悲しまない世界のためには、我ら軍人が戦争に勝ち続ける他ない」
そう話すユーリとゾフィアは幼少期から共にルーシーで育った。
ユーリは幼少期の経験から今のフキエという演説をしていた最高指導者へ鉄の忠誠を誓っていた。
金髪を耳にかけてパンに滑らかな口を当てると、過去を思い出していた。
それはフキエが最高指導者に就任するよりも前の事だ。
ルーシー大公国は今の様な秩序ある国家ではなく、民は好き勝手に生活ができていた。
一見すれば、縛りもなく過ごしやすいかと思われるこの国家体制は民の道徳心を皆無にさせてしまった。
腹が減ったから食料を奪い取った。
美しい女がいたから襲ったなんて事は当然で、思想や仕事に対しても民は個人の主張を通していた。
文化は廃れ、秩序はなくなり略奪行為が国内で横行する様になったがルーシー大公国の軍部は助けにすら来なかった。
幼き日のユーリとゾフィアはその可愛さから大人からの暴力を何度も受けそうになっては、協力して撃退してきた。
「ゆ、ユーリ・・・私達はどうしてルーシーに生まれたのかな・・・」
「大人共が・・・いつか必ず殺してやる・・・」
「ユーリのお父さんは兵隊を連れてきてくれないのかな」
ユーリの父は腐敗した政権に対して何度も反対意見を述べていたが、聞き入れられる事はなかった。
民の意見はそれぞれの自由だと言う当時の最高指導者の考えは、良くも聞こえたが結果としては混沌と化した。
そんな国家の高級将校として仕えていたユーリの父セルゲイ・ザルゴヴィッチは遂に反乱を決意して、政権を奪い取った。
だがセルゲイは最後の戦いでの負傷で最高指導者に就任するよりも前に天上界から去ってしまった。
当時、セルゲイの隣で異彩を放っていたのが若き日のフキエだったのだ。
フキエが就任するよりも前にセルゲイの側近らが、何人も最高指導者を務めルーシー大公国は見違えるほど強力な国家へと発展した。
国内の治安は極めて高く、民は互いを思いやり軍部は彼らの手本となり他国から祖国を守り続けた。
そして今、嫌悪していた大人になったユーリとゾフィア姉妹らは当時の様な醜い人間にならない様に正しき道を歩んできたのだ。
「父の想いは側近らが受け継ぎ、私も受け継いだ。 必ず平和な世界を創るからね・・・お父さん」
「ゆ、ユーリ大変だ!! ゾフィアがアルデンに捕らえられた」
「すまない相棒・・・今は助けに戻れない・・・首都が危ない・・・」
馬の手綱を引き千切るほど強く握っているユーリは、相棒が捕まってしまったという怒りを堪えて祖国の防衛へと戻った。
既に連戦を経て満身創痍となっている彼女の表情からは疲れも垣間見えるが、青くて綺麗な瞳の中には闘志が満ちていた。
かつて父のセルゲイも自身の犠牲を顧みず、ルーシーを平和へと導いたのだ。
セルゲイが愛した最愛の娘の中にもその気高い血が、確かに流れていた。
「白陸は想像を超えるほど厄介な国だった・・・まさか三カ国も動かしてくるとは・・・」
「ユーリ!! エリアナから報告だ!! ローズベリーは内戦になったから手を引いた様だ!!」
ゾフィアの妹であるエリアナは、幼少期から物静かな性格であったが彼女は頭の回転が非常に早かった。
ローズベリーを完全に味方に引き込むために調略を続けていたが、白陸のレミテリシアと皇女アニャの邪魔だてによって計画は進まなかった。
しかしその代わりに内戦へと発展させる事で、ローズベリーは白陸にもルーシーにも味方する余裕はなくなったというわけだ。
かの薔薇の国で行える調略は既になくなったと判断したエリアナは、煙の様に姿を消していた。
ユーリの前で声を荒げて話す仲間は呼吸する事すら忘れる勢いで、更に続けた。
「エリアナは白陸とマケドニアの調略に成功したんだってよ!!」
「なんだって!?」
「半獣族の軍隊を動かしたんだとよ!!」
「ツンドラの残党共か!!」
フキエグラードに侵攻している虎白らを混乱へと陥れた凶報は、エリアナによる調略だったのだ。
ユーリは微かに笑みを浮かべると、相棒の妹の顔を思い浮かべていた。
幼少期から物静かであったが、やる事は必ずやり遂げていたエリアナは勇猛なユーリと姉のゾフィアの影の様な存在であった。
虎白で言うお初の様に。
やがてユーリが青い瞳を前に向けると、硝煙が立ち込める愛しき祖国の象徴であるフキエグラードが見えてきた。
「絶対に祖国を守る・・・そして戦争がない平和な世界を・・・お父さんの夢は今ではルーシー大公国の夢・・・到達点で見ていてねお父さん」
そして天上界を揺るがしている一大戦争は、遂に最終局面を迎えるのだった。
空は彼ら彼女らの鉄の信念を応援しているかの様に、力強い日差しで照らす。
ユーリやゾフィアという英雄を見る民の眼差しは、純粋なまでに輝き全ての期待を美しき英雄に向けているのだ。
ルーシー大公国を栄光へと導いてくれと。
そんな英雄すらも忠誠心に満ちた表情で視線を向けている先には演説台があり、男が高級将校と共に立っている。
すると羨望の眼差しは英雄からその男へと向いた。
「親愛なる我が民よ!! 我らルーシーはこれより戦争へと突入する。 正義の戦争だ。 世界を平和にするためにルーシーの旗の下に入れるのだ」
凶暴で侵略だけが全てという印象は世界から見たルーシーだ。
内部ではルーシーは戦争のない天上界を築き上げるために戦っていた。
事実、ルーシーに吸収された国は大幅な発展をして今では共に戦うほどだ。
ローズベリーへの圧政は今が戦争中であるというだけで、日頃から彼らを苦しめているわけではなかった。
ユーリら英雄や将兵が真剣な表情をして聞いている演説の語り手は更に続けた。
「いずれ戦争が世界からなくなれば我らは人々に感謝され、皆の手本になるのだ。 今は我々にとって苦難の時だ。 世界は変化を拒む。 だが必ず勝利して人々が健やかに暮らせる世界を共に築こう」
そんな演説が終わる頃には英雄から民に至るまでが、歓喜して喜んでいた。
やがて男の演説が終わると、ユーリは相棒とも言えるゾフィアとその妹のエリアナと食事をするために基地の食堂へと向かった。
彼女らはその美貌と強さから将兵達の憧れの的であったが、当人らは先程語られた戦争がなくなった世界の実現のためにふくよかな胸の内を熱くたぎらせていた。
「最高指導者フキエは実に素晴らしい演説をするな」
「そうだな。 彼が描く人々が悲しまない世界のためには、我ら軍人が戦争に勝ち続ける他ない」
そう話すユーリとゾフィアは幼少期から共にルーシーで育った。
ユーリは幼少期の経験から今のフキエという演説をしていた最高指導者へ鉄の忠誠を誓っていた。
金髪を耳にかけてパンに滑らかな口を当てると、過去を思い出していた。
それはフキエが最高指導者に就任するよりも前の事だ。
ルーシー大公国は今の様な秩序ある国家ではなく、民は好き勝手に生活ができていた。
一見すれば、縛りもなく過ごしやすいかと思われるこの国家体制は民の道徳心を皆無にさせてしまった。
腹が減ったから食料を奪い取った。
美しい女がいたから襲ったなんて事は当然で、思想や仕事に対しても民は個人の主張を通していた。
文化は廃れ、秩序はなくなり略奪行為が国内で横行する様になったがルーシー大公国の軍部は助けにすら来なかった。
幼き日のユーリとゾフィアはその可愛さから大人からの暴力を何度も受けそうになっては、協力して撃退してきた。
「ゆ、ユーリ・・・私達はどうしてルーシーに生まれたのかな・・・」
「大人共が・・・いつか必ず殺してやる・・・」
「ユーリのお父さんは兵隊を連れてきてくれないのかな」
ユーリの父は腐敗した政権に対して何度も反対意見を述べていたが、聞き入れられる事はなかった。
民の意見はそれぞれの自由だと言う当時の最高指導者の考えは、良くも聞こえたが結果としては混沌と化した。
そんな国家の高級将校として仕えていたユーリの父セルゲイ・ザルゴヴィッチは遂に反乱を決意して、政権を奪い取った。
だがセルゲイは最後の戦いでの負傷で最高指導者に就任するよりも前に天上界から去ってしまった。
当時、セルゲイの隣で異彩を放っていたのが若き日のフキエだったのだ。
フキエが就任するよりも前にセルゲイの側近らが、何人も最高指導者を務めルーシー大公国は見違えるほど強力な国家へと発展した。
国内の治安は極めて高く、民は互いを思いやり軍部は彼らの手本となり他国から祖国を守り続けた。
そして今、嫌悪していた大人になったユーリとゾフィア姉妹らは当時の様な醜い人間にならない様に正しき道を歩んできたのだ。
「父の想いは側近らが受け継ぎ、私も受け継いだ。 必ず平和な世界を創るからね・・・お父さん」
「ゆ、ユーリ大変だ!! ゾフィアがアルデンに捕らえられた」
「すまない相棒・・・今は助けに戻れない・・・首都が危ない・・・」
馬の手綱を引き千切るほど強く握っているユーリは、相棒が捕まってしまったという怒りを堪えて祖国の防衛へと戻った。
既に連戦を経て満身創痍となっている彼女の表情からは疲れも垣間見えるが、青くて綺麗な瞳の中には闘志が満ちていた。
かつて父のセルゲイも自身の犠牲を顧みず、ルーシーを平和へと導いたのだ。
セルゲイが愛した最愛の娘の中にもその気高い血が、確かに流れていた。
「白陸は想像を超えるほど厄介な国だった・・・まさか三カ国も動かしてくるとは・・・」
「ユーリ!! エリアナから報告だ!! ローズベリーは内戦になったから手を引いた様だ!!」
ゾフィアの妹であるエリアナは、幼少期から物静かな性格であったが彼女は頭の回転が非常に早かった。
ローズベリーを完全に味方に引き込むために調略を続けていたが、白陸のレミテリシアと皇女アニャの邪魔だてによって計画は進まなかった。
しかしその代わりに内戦へと発展させる事で、ローズベリーは白陸にもルーシーにも味方する余裕はなくなったというわけだ。
かの薔薇の国で行える調略は既になくなったと判断したエリアナは、煙の様に姿を消していた。
ユーリの前で声を荒げて話す仲間は呼吸する事すら忘れる勢いで、更に続けた。
「エリアナは白陸とマケドニアの調略に成功したんだってよ!!」
「なんだって!?」
「半獣族の軍隊を動かしたんだとよ!!」
「ツンドラの残党共か!!」
フキエグラードに侵攻している虎白らを混乱へと陥れた凶報は、エリアナによる調略だったのだ。
ユーリは微かに笑みを浮かべると、相棒の妹の顔を思い浮かべていた。
幼少期から物静かであったが、やる事は必ずやり遂げていたエリアナは勇猛なユーリと姉のゾフィアの影の様な存在であった。
虎白で言うお初の様に。
やがてユーリが青い瞳を前に向けると、硝煙が立ち込める愛しき祖国の象徴であるフキエグラードが見えてきた。
「絶対に祖国を守る・・・そして戦争がない平和な世界を・・・お父さんの夢は今ではルーシー大公国の夢・・・到達点で見ていてねお父さん」
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