天冥聖戦 伝説への軌跡

くらまゆうき

文字の大きさ
115 / 171
シーズン

第8ー4話 疑惑と不可解な停戦

しおりを挟む
 民衆の声で包まれる中をゆっくりと歩いている姿は、優雅で気高い。


 人々からの羨望の眼差しは、祖国を窮地から救ってほしいという切な願いが込められている。


暖かい風が光り輝いても見える金髪を撫でていく。


 そして人々からの眼差しに敬礼をして返す英雄は、宮殿の中へと入っていった。


「大丈夫かゾフィア?」
「あ、ああ・・・あの野郎結構やる」
「そりゃ赤き王だからな。 私が相手した神族とやらと将軍達もだ」


 スタシアのアルデン王と三日間にも渡って、激闘を繰り広げたもう一人の英雄であるゾフィア・ペテレチェンコは赤き王と相討ちとなったのが事の顛末だ。


やがて負傷から回復したゾフィアは、妹のエリアナの介助を受けながら立ち上がり復讐を誓った。


 闘志溢れる相棒の瞳を見て、微かに微笑んだユーリは病室を後にした。


 そして宮殿内にある自身の部屋へ入ると、遠くの景色を静かに眺めている。


「お前は純粋だから英雄か・・・鞍馬はフキエ様と何を話したのだろう」


 ルーシーと白陸連合軍が停戦して間もなく一週間が経過する。


しかしあの停戦時の出来事が頭から離れずにいた。


 敵の総大将とも言える鞍馬虎白は、何故悲痛の表情で自身を抱きしめたのだろうか。


 そして何か悟った表情で、語りかけた内容の意味は。


「お前は知らなくていい・・・何を聞いたんだ・・・」
「お邪魔するよ」


 部屋の扉から顔を覗かせるのは、茶色い髪の毛の毛先を緑色に染めている女だ。


ゾフィアの妹にして、ルーシーの諜報活動の最高司令官でもあるエリアナはユーリへと近づいた。


 すると顔を見合わせる二人は、静かに口づけをした。


 そして激しく抱き合うと、寝室へと倒れ込んだのだ。


しばらくの間、愛に満たされるとシーツを体にかけて話しを始めた。


 停戦時に虎白から聞かされた謎の言葉について。


「実はユーリ」
「どうした?」
「属国のローズベリーである事を聞いた」


 エリアナはローズベリーを完全に吸収するために、アト皇帝を操っていた。


その諜報活動の中で気になる事を耳に入れたエリアナは、しばらくの沈黙を保った。


 早く話せと美しい顔を接近させるユーリは、内容が気になって仕方ない様子だ。


 やがて沈黙を破り、声を発したエリアナの口から出た言葉を聞いた北の英雄は表情を一気に曇らせた。


「酒屋で半獣族が話していた。 ルーシーから亡命したと」
「馬鹿な・・・我らの祖国から亡命する理由なんてないだろう」
「近づいて話しを聞こうとしたけど警戒されてね」


 ルーシー大公国には正式に、居住権を持っている半獣族も微かに存在した。


しかしその誰もが、忠誠心に満ちあふれている。


 生活水準は極めて高く、亡命する理由なんてものは存在しなかったのだ。


 ユーリはエリアナの美しい顔を撫でながら、しばらく考え込んでいた。


 頭の中によぎるのは、敵総大将の悲痛の表情だ。


「そんな事あるわけないか」
「亡命が本当なら私達に、追わせるよね?」
「その通りだ」


 万が一にでも無断で、国を出たのなら軍部へ知らせが入るはず。


何かの勘違いだろうと、話しを終えたユーリは職務へと戻った。


 しかしエリアナは、自身の耳で確かに聞いた内容だったがために更に調べる事にした。


 姉のゾフィアにも恋人のユーリにも話さずに、宮殿内を徘徊すると最高指導者のフキエが衛兵と共に歩いてきた。


「我が影よ」
「フキエ様、何かご命令は?」
「そうだな・・・ユーリは元気か?」
「早く白陸と戦いと話していました」


 それを聞いたフキエは、満足気に笑うと立ち去ろうとしている。


腰の後ろで手を組んで歩いている最高指導者の背中を刺すほど鋭い視線で、見つめるルーシーの影は何か謎に迫れないかと考え始めた。


 しかしそれは国家を裏切るに等しい行為だ。


 最高指導者を疑い、国家機密を詮索するなどあってはならない。


 だが、エリアナは様々な事から疑わう他なかったのだ。


「あそこまで勢いに乗っていた白陸が停戦を受け入れるはずがない・・・あの将軍らが・・・」



 廊下で立ち尽くし、フキエの背中を見つめている彼女は停戦直前に起きたローズベリーと白陸の戦闘を思い返していた。


アト皇帝が即位すると、皇女アニャはレミテリシア将軍と共に反乱を決意した。


 反乱を後押ししたのは、白陸軍の援軍の存在だ。


 まるで反乱が起きると、事前に知っていたかの様に現れた白陸軍に驚きを隠せなかったエリアナは、配下の諜報員を監視として残していた。


 エリアナ自身はマケドニアと宮衛党の調略に向かったが、頻繁に入る報告を聞いていたルーシーの影は驚きを隠せなかった。


 反乱軍こと白陸軍と志願した市民らは、ローズベリー帝国軍と平原で開戦したと知らせが入っていた。


 しかしそれから僅か一時間も経たずに、帝国軍が降伏したと聞かされたのだ。


 あまりの衝撃を前に、マケドニアと宮衛党への調略を不十分のまま終わらせると、ローズベリーへと急いで戻った。


「だから絶対に停戦なんてするはずがない・・・たった数人で帝都を制圧できる将軍がいるのに・・・」


 事の次第が気になったエリアナがローズベリーへ戻ると、帝都の城には白陸の国旗が風に吹かれていたのだ。


 一部始終を見ていた配下の諜報員に尋ねると、夜叉子という将軍が制圧したと話していた。


 エリアナは当時の事を思い出すと、美しい顔を青ざめさせて部屋へと戻っていった。


質素だがどこか落ち着く部屋へ戻ると椅子に座って机に頬杖をついたまま、当時の異常事態を冷静に思い返したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。 自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。 「お前は俺の番だ」 番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。 一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。 執着と守護。すれ違いと絆。 ――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。 甘さ控えめ、でも確かに溺愛。 異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。

処理中です...