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シーズン
第9ー11話 恋に華を咲かす
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周辺で宰相達が戦闘を始める中で恋華は僅かな護衛と共に白陸の城へ帰ってきていた。
虎白はオリュンポスの王都へ向かっている。
しかし恋華は1柱で城の地下へと歩いていった。
「・・・・・・」
厳重に保管されている何かを開けるために箱に顔を近づけると何やらセンサーの様なものが恋華の目を照らした。
そして次には恋華は指先を少しだけ短刀で斬ると、血液を箱に垂らした。
すると箱が開き、中には鍵が一つだけあるだけだった。
恋華は鍵を懐にしまうと上階へと上がっていった。
「ごきげんいかが?」
その声を聞いた途端に恋華は呼吸を荒くしてその場に女の子座りした。
尻尾は色っぽく、クルクルと円をかいて誘惑でもしているかの様だ。
女は恋華に近づいてくる。
周囲の衛兵達も同じ様に呼吸を荒くして狐の姿に戻っては男狐と女狐は互いを見つめ合っては今にも絡み合いそうにしている。
「アフロディーテだな・・・」
「正解よ。 可愛らしい恋華。 ちょっと楽しまない?」
現れたのは神話アフロディーテだ。
愛と美を司る神だ。
そしてオリュンポス12神だ。
呼吸を荒くする恋華の顔を舐めるほどの近さで誘惑している。
「旦那を愛しているのでしょう?」
「無論だ・・・」
「私と楽しんだら裏切る事になるでしょう?」
「敵だからな・・・」
敵じゃなければ楽しみたいのか。
恋華は自分の発言に驚いた。
完全に否定できずにいた。
家族以外とそんな関係を持つ事すら恋華の中ではあり得なかった。
しかし何故かアフロディーテに身を委ねたくなっている。
「夫や家族を愛している・・・」
「あら。 でも私の事だって。 そうでしょう?」
「・・・・・・」
すっと刀を抜いた。
しかし斬りかかれなかった。
アフロディーテの美しい肌を刀で貫く事なんてできなかった。
これはアフロディーテの第八感だ。
魅了する能力だ。
この世界の命ある全ての者が魅了され恋心を抱いてしまう。
例え神族であっても同様だった。
恋華は抑えきれないほどアフロディーテへ恋心を抱きかけていた。
必死に抵抗しているが誘惑は止まらなかった。
「みんなが戦っている間、何をしていたの?」
「ち、地下に鍵を取りに・・・」
「何の鍵?」
「い、言えない・・・」
するとアフロディーテは恋華の顔を優しく触って「教えてよ」と上目遣いで誘惑した。
恋華はたまらず懐に隠す鍵を取り出した。
必死に理性を保とうとしているが、体が言うことを聞かない。
嘘や隠し事をすればアフロディーテが傷ついてしまう。
彼女を傷つけたくないという衝動に負けそうになっていた。
何よりも白いペプロスと呼ばれる古代ギリシャの服の下にある美しい体の全てが見たくてたまらなかった。
冷静で感情の表現があまりない恋華でさえアフロディーテの誘惑には負けそうだ。
「無理しないで。 欲望に従うのは当然よ。 ただ鍵が何か知りたいの。 教えてくれたら好きにしていいわ。」
「ほ、本当か・・・」
地下から持ってきた鍵の秘密を話そうとした時だった。
アフロディーテの後ろに見えたのは愛する夫である虎白との写真だ。
ここで敵に情報を漏らせば夫が死ぬ。
恋華は夫の写真を見続けていた。
アフロディーテが振り返り、写真に気がつくとすっと体で隠した。
胸元を恋華に近づけて白い耳に口を近づけた。
「私は恋華が好きよ。」
「え?」
「教えて。 隠し事なしで絡み合いましょうよ・・・」
気がつけば恋華は鎧兜を外していた。
そして着物すらも脱ぎそうになっていた。
アフロディーテは自分の体を求めている。
従わなくてはこんな美女を傷つけてしまうと。
「わ、私は・・・」
その頃、レミテリシアと別れたナイツは虎白の援護のために王都へ進んでいた。
新しく仲間に加わったロシア人達はまだ信用には足らなかった。
しかしユーリは信じてもらいたいと行動で示しているのか、常にナイツの先頭を歩いている。
ゾフィアやゾフィもユーリの近くから離れようとしなかった。
エヴァは周囲を見ながら警戒していた。
しばらく進むと南側領土の中にある平地へ出た。
ナイツを止めてエヴァは考えた。
「開けているね。」
「迂回するか?」
「時間がないよー。 突っ切るかー。」
エヴァは早く虎白の元へ行こうと急いでいた。
平地を進んでいる間もゾフィは罠がないか警戒している。
しかしそんな時だった。
炎が風を切るヴォッ!!という音が聞こえ、エヴァが上を見ると火の玉が落ちてきた。
そして火の玉は実態となりナイツの前に立ちはだかった。
神話ヘパイストスだ。
「撃て!!」
エヴァの一声でナイツが一斉に銃撃したが、弾丸は全て貫通して意味をなしていない。
炎に銃弾なんて意味がなかった。
ヘパイストスは体を燃やしながら歩いてくる。
ナイツは下がりながら銃撃を続けるがまるで効果はない。
「各自距離を取って包囲!!」
「おいおい!! マジでヤベえぞこいつ!!」
ジェイクが仲間達を下がらせて間隔を開けて散ると、銃撃を続けた。
手榴弾を投げたがやはり効果はない。
ゾフィはユーリの腕を掴んでいるが逃げようとしなかった。
エヴァはその光景に驚いて叫んだがユーリは聞く耳を持たなかった。
「死ぬよ。」
「どうだかな。」
「白陸で共産主義を創るんじゃないの?」
ゾフィは淡々と問いかけている。
屈辱を乗り越えてここにいる。
本音を言えば悔しくてたまらない。
白陸に従う事だってまだ整理がついていなかった。
ユーリは思い返すと怒りに震えた。
「燃えてるよ。 私の怒りの炎だってこいつぐらい燃えている。」
「逃げないと。」
「いいや。 こいつをぶっ殺してやるよ。」
「は?」
ゾフィは立ち止まって動かないユーリを見てここが死地だと覚悟を決めた。
もはや何もユーリに言葉をかけず、ただ銃撃を続けた。
撃たれ続けているにも関わらず、ヘパイストスの体は炎のまま無力化していた。
エヴァはこの時思っていた。
「愛しの魔呂ちゃんさえいればワンチャンいけたわ・・・」
戦神魔呂の能力を無効化する力があれば燃え盛る炎を鎮火できたかもしれない。
だが魔呂はアレスと戦っている。
ここには兵士としては最高レベルのメンバーがいる。
しかし炎を止める術はなかった。
「消化器か!? 消化器でもぶっ掛ければいいのかー!!」
エヴァが困惑する中でもユーリだけは仁王立ちのまま、ヘパイストスを見ていると「そのとおりだエヴァ」と笑った。
ユーリは腰に装備する水筒の水を手に掛け始めると迫りくるヘパイストスの顔を殴った。
「おらあ!!」と雄叫びを上げるユーリはなんとヘパイストスを吹き飛ばしたのだ。
「単純なもんだろ。 燃えてるからって調子乗るんじゃねえよ。」
ユーリは神話を殴り飛ばしてみせた。
そして隣で絶句するゾフィを見て「必ず新しい共産主義創るぞ」と微笑んだ。
ユーリの手は手袋が溶けて、皮膚もめくれていた。
黒っぽく変色した血液がポタポタと流れているが自信に満ちた表情で倒れているヘパイストスを見ている。
「さあかかってこいよ。 もう神には負けねえ。 一度負けた。 もう十分だ。」
「すー。 本当に。 カッコいいね。」
「私は死ぬ気はない。 邪魔すんなら火の神だろうがぶっ殺してやるよ!!!」
この伝説の瞬間を見たエヴァはすかさず水筒をヘパイストスに向かって投げると空中で見事に撃ち抜いて破裂させた。
飛び散った水が体にかかるとエヴァは銃撃を続けた。
すると先程の無敵状態が嘘の様に体を抑えて白い血を流していた。
「マジで効くわ!! みんな撃て!!」
ナイツの反撃が始まった。
誘惑に負けそうになっている恋華は虎白との時間を思い出していた。
桜が美しく舞う木の下で天上酒を飲む夫婦は永遠に続いてほしいと願いたくなる平穏な時間を満喫していた。
虎白は酒を飲んではつまみを食べている。
恋華は周囲を見ると家族達も同じ様に酒を飲んで楽しんでいる。
「貴方が創る世界はきっとこんな毎日なのでしょうね。」
「ああ。 俺らだけじゃねえ。 世界中がだ。 この天上界は一つになって平和になる。」
「ヒヒッ。 じゃあ私は世界を束ねた男の正室かあ。」
「当たり前だ。 お前がいたからここまで来たんだよ。」
恋華の膝に寝転ぶ虎白はぼんやりと満開の桜を見ている。
「お前がいたからここまで来た」とは竹子に対して言う言葉だと恋華は思っていた。
今の言葉は少し気になった。
今日まで白陸を率いてきたのは竹子だ。
「それは竹子に言ってあげたら?」
「俺よお。 っていうか俺達よお。 何か忘れてんだろうな・・・」
「確かに・・・神族達は頭痛が来る・・・」
頻繁に起きる頭痛は虎白だけではない。
恋華や白王隊の神族達、全員に訪れる出来事だった。
前触れもなく突如来る頭痛はあまりに激痛で気を失いそうになる。
虎白が口にする何かを忘れているという言葉は恋華も気になっていた。
「俺は竹子と白陸を創ってここまで来た。 だがもし忘れているだけでもっと昔からお前と何かを乗り越えていたとしたら。 白陸を創る所まで来られたのはお前のおかげなんだよきっと。」
恋華すらも覚えていないが虎白の言葉は深く胸に刺さった。
もしかしたらそうかもしれない。
何かを一緒に乗り越えてきたのかもしれない。
確証はないがそう考えると恋華は笑わずにはいられなかった。
「ヒヒッヒヒッ。」
「なんだよ?」
「もしそうなら。 こんな平和な時間が訪れるなんて当時は思わなかったでしょうね。」
「ヒヒッ!! ああ違いねえ。 愛してるぞ。」
虎白は妻達を愛している。
心から。
立ち上がると虎白は「お前ら愛してるぞー!!」と妻達へ飛びついていた。
恋華はそんな虎白を愛していた。
平等に種族も問わず、側室を愛せる虎白の器の大きさや戦争のない天上界を創りたい理由だって。
今日までに自分のために死んだ兵士のためになんて我が夫の他に誰がそんな事を考えられるか。
「貴方の妻で私は本当に良かったよ。 他なんてあり得ない。」
そして今。
恋華はあの日の記憶を思い出して笑っていた。
目の前にいる愛と美の神を倒さなくては。
恋華は刀を振るった。
「狂乱恋時(きょうらんれんじ)」
刀を上から振り下ろした一刀はアフロディーテを真っ二つに斬り裂いた。
その斬撃は壁を突き破り護衛の顔をかすめた。
驚いた護衛も我に返り武器を持ってアフロディーテへ襲いかかってきたが既に息はなかった。
恋華の奥義は神話の一角を一刀で落とした。
鞘に刀を戻すと短刀を抜いて自分の腹部に突き刺した。
「ケハッ・・・」
「れ、恋華様!! 何をなさっているのですか!!」
「い、一瞬でも夫の気持ちを裏切りかけてしまった・・・これは自分を殺したまでだ・・・弱い自分はせめて自害すべきだ・・・」
恋華は神族だ。
腹部を刺した程度で死ぬ事はない。
だが激痛が恋華を襲う。
その場に倒れ込んでいるが部下の手当を拒んで治癒するまで激痛に耐えた。
愛する夫を裏切りかけた自分へのけじめだ。
その光景を見た部下達も次々に腹部に短刀を刺した。
「な、ならば・・・主を守れなかった我らも・・・」
恋華と白王隊恐るべし。
恋華は治癒が終わると鍵を懐にしまったまま、部下を連れて虎白の元を目指した。
しかし部下達が恋華を見て驚いている。
息を呑んだ部下達は恋華を見ないように下を向いていた。
それはあまりに恋華が魅力的に見えていたからだ。
ある日虎白は桜火と石版の解読を行っていた。
世界中の文字や見た事のない文字が不規則に並べられている石版には何か大切な事が書いてある。
かつて咲羅花の一族は石版が読めたらしいが桜火には読めなかった。
しかし遺伝なのか、時間をかけて少しずつ読み解けていた。
「これはたぶん死って意味かなあ。」
「ああ俺もそう思う。」
「それでこれは神かなあ・・・」
「神が死ぬって意味か。」
難解な石版を飛ばしながら解ける文字だけ解いて文章にしていた。
今日読んでいるのは「神が死ぬ」という事についてだ。
虎白はその次に書かれる文字を見て考えていた。
「ロシア語かなあ」と頭を抱えているとユーリを呼び出して文字を見せた。
するとユーリは「継承」と言葉を放った。
「神が死に、継承する。」
「何を・・・」
「この次は読めねえなあ・・・」
ユーリはなんの事だかわからずに黙って石版を見ていた。
虎白が見ている文字は見た事もない文字だった。
ユーリは首を傾げて戻っていった。
するとユーリが慌てて戻ってきた。
「その文字あれじゃねえのか?」
「何か知っているのか?」
「古代北欧の文字だよ。 確かルーン文字って言うんだ。」
「北欧・・・」
そんな文字誰が読めるんだと落胆する虎白は頭を抱えていた。
「神が死ぬと・・・継承する」という大切な所がルーン文字で書かれていた。
これ以上は読めないと虎白は桜火と共に石版の元から離れた。
そして今、恋華はアフロディーテを討ち取った。
部下達が見て驚いているのは恋華が今まで以上に美しく色っぽく見えていたからだ。
不思議そうにしている恋華は刀を取り出して壁に向かって狂乱恋時を放った。
「な、なんですと!! こ、この威力!!」
アフロディーテへ放った威力の3倍はあるか。
壁は吹き飛ぶどころか、粉々になった。
斬撃はどこまでも進んでいった。
遠く離れている前線にまで届いてしまいそうな勢いだった。
「お前達は私をそんな目で見て。」
「も、申し訳次第もございません・・・し、しかしあまりにお美しく・・・」
「そうか・・・夫と桜火が言っていた神が死ぬと継承するとは神通力と能力であったか。」
ルーン文字は読めなかった。
しかし恋華は身を持って理解をした。
忠実な部下が自分を見る目はまるで恋人でも見ているかの様だ。
そして狂乱恋時の破壊力が3倍近く増していた事から理解した。
神は死ぬと殺した者に能力を継承されてしまう。
恋華は下を向いて笑っていた。
「では殺されるわけにはいかぬな。」
「左様です。 身命を賭してお守り致します。」
虎白と合流するために進んでいると突如地面が生きているかの様に動き始めた。
宙に舞った恋華と部下達は近くの建物に飛び移ると地面を見ていた。
すると動き続ける地面を平然と歩く女がいた。
高身長で杖を持って歩いている。
アフロディーテと同じ様にペプロスを着ている。
「また12神か・・・」
「恋華様をお守りしろ!!」
護衛が地面に降り立つと地面が突如めくれ上がり護衛達を叩きつけた。
刀で地面を斬り裂くが次々にまるで波でも押し寄せるかの様に地面が襲いかかってくる。
恋華は部下を建物に登らせるとじっと見ていた。
「我が名はデメテル。 大地を司る神よ。 この世界の地面は全て操れるの。」
アフロディーテを倒した直後。
恋華は2柱目の12神と対峙していた。
建物の上から見下ろす恋華だったが建物の下にある地面が波打ちだして吹き飛ばされた。
「護衛。 私はいいから夫の元へ行きなさい。」
「なりませぬ!! 鍵がありますぞ!!」
「では鍵を渡すから夫に渡して。」
部下達は鍵を受け取ると走り去った。
恋華は1柱でデメテルと対峙した。
お互い戦力は天上門に送っている。
純粋に能力のぶつかり合いになる。
恋華は少し高揚していた。
「新たに手に入れた能力もある。 神通力も増えた。 誘惑して討ち取ってくれる。」
これは天上史に残る大事件だ。
虎白はオリュンポスの王都へ向かっている。
しかし恋華は1柱で城の地下へと歩いていった。
「・・・・・・」
厳重に保管されている何かを開けるために箱に顔を近づけると何やらセンサーの様なものが恋華の目を照らした。
そして次には恋華は指先を少しだけ短刀で斬ると、血液を箱に垂らした。
すると箱が開き、中には鍵が一つだけあるだけだった。
恋華は鍵を懐にしまうと上階へと上がっていった。
「ごきげんいかが?」
その声を聞いた途端に恋華は呼吸を荒くしてその場に女の子座りした。
尻尾は色っぽく、クルクルと円をかいて誘惑でもしているかの様だ。
女は恋華に近づいてくる。
周囲の衛兵達も同じ様に呼吸を荒くして狐の姿に戻っては男狐と女狐は互いを見つめ合っては今にも絡み合いそうにしている。
「アフロディーテだな・・・」
「正解よ。 可愛らしい恋華。 ちょっと楽しまない?」
現れたのは神話アフロディーテだ。
愛と美を司る神だ。
そしてオリュンポス12神だ。
呼吸を荒くする恋華の顔を舐めるほどの近さで誘惑している。
「旦那を愛しているのでしょう?」
「無論だ・・・」
「私と楽しんだら裏切る事になるでしょう?」
「敵だからな・・・」
敵じゃなければ楽しみたいのか。
恋華は自分の発言に驚いた。
完全に否定できずにいた。
家族以外とそんな関係を持つ事すら恋華の中ではあり得なかった。
しかし何故かアフロディーテに身を委ねたくなっている。
「夫や家族を愛している・・・」
「あら。 でも私の事だって。 そうでしょう?」
「・・・・・・」
すっと刀を抜いた。
しかし斬りかかれなかった。
アフロディーテの美しい肌を刀で貫く事なんてできなかった。
これはアフロディーテの第八感だ。
魅了する能力だ。
この世界の命ある全ての者が魅了され恋心を抱いてしまう。
例え神族であっても同様だった。
恋華は抑えきれないほどアフロディーテへ恋心を抱きかけていた。
必死に抵抗しているが誘惑は止まらなかった。
「みんなが戦っている間、何をしていたの?」
「ち、地下に鍵を取りに・・・」
「何の鍵?」
「い、言えない・・・」
するとアフロディーテは恋華の顔を優しく触って「教えてよ」と上目遣いで誘惑した。
恋華はたまらず懐に隠す鍵を取り出した。
必死に理性を保とうとしているが、体が言うことを聞かない。
嘘や隠し事をすればアフロディーテが傷ついてしまう。
彼女を傷つけたくないという衝動に負けそうになっていた。
何よりも白いペプロスと呼ばれる古代ギリシャの服の下にある美しい体の全てが見たくてたまらなかった。
冷静で感情の表現があまりない恋華でさえアフロディーテの誘惑には負けそうだ。
「無理しないで。 欲望に従うのは当然よ。 ただ鍵が何か知りたいの。 教えてくれたら好きにしていいわ。」
「ほ、本当か・・・」
地下から持ってきた鍵の秘密を話そうとした時だった。
アフロディーテの後ろに見えたのは愛する夫である虎白との写真だ。
ここで敵に情報を漏らせば夫が死ぬ。
恋華は夫の写真を見続けていた。
アフロディーテが振り返り、写真に気がつくとすっと体で隠した。
胸元を恋華に近づけて白い耳に口を近づけた。
「私は恋華が好きよ。」
「え?」
「教えて。 隠し事なしで絡み合いましょうよ・・・」
気がつけば恋華は鎧兜を外していた。
そして着物すらも脱ぎそうになっていた。
アフロディーテは自分の体を求めている。
従わなくてはこんな美女を傷つけてしまうと。
「わ、私は・・・」
その頃、レミテリシアと別れたナイツは虎白の援護のために王都へ進んでいた。
新しく仲間に加わったロシア人達はまだ信用には足らなかった。
しかしユーリは信じてもらいたいと行動で示しているのか、常にナイツの先頭を歩いている。
ゾフィアやゾフィもユーリの近くから離れようとしなかった。
エヴァは周囲を見ながら警戒していた。
しばらく進むと南側領土の中にある平地へ出た。
ナイツを止めてエヴァは考えた。
「開けているね。」
「迂回するか?」
「時間がないよー。 突っ切るかー。」
エヴァは早く虎白の元へ行こうと急いでいた。
平地を進んでいる間もゾフィは罠がないか警戒している。
しかしそんな時だった。
炎が風を切るヴォッ!!という音が聞こえ、エヴァが上を見ると火の玉が落ちてきた。
そして火の玉は実態となりナイツの前に立ちはだかった。
神話ヘパイストスだ。
「撃て!!」
エヴァの一声でナイツが一斉に銃撃したが、弾丸は全て貫通して意味をなしていない。
炎に銃弾なんて意味がなかった。
ヘパイストスは体を燃やしながら歩いてくる。
ナイツは下がりながら銃撃を続けるがまるで効果はない。
「各自距離を取って包囲!!」
「おいおい!! マジでヤベえぞこいつ!!」
ジェイクが仲間達を下がらせて間隔を開けて散ると、銃撃を続けた。
手榴弾を投げたがやはり効果はない。
ゾフィはユーリの腕を掴んでいるが逃げようとしなかった。
エヴァはその光景に驚いて叫んだがユーリは聞く耳を持たなかった。
「死ぬよ。」
「どうだかな。」
「白陸で共産主義を創るんじゃないの?」
ゾフィは淡々と問いかけている。
屈辱を乗り越えてここにいる。
本音を言えば悔しくてたまらない。
白陸に従う事だってまだ整理がついていなかった。
ユーリは思い返すと怒りに震えた。
「燃えてるよ。 私の怒りの炎だってこいつぐらい燃えている。」
「逃げないと。」
「いいや。 こいつをぶっ殺してやるよ。」
「は?」
ゾフィは立ち止まって動かないユーリを見てここが死地だと覚悟を決めた。
もはや何もユーリに言葉をかけず、ただ銃撃を続けた。
撃たれ続けているにも関わらず、ヘパイストスの体は炎のまま無力化していた。
エヴァはこの時思っていた。
「愛しの魔呂ちゃんさえいればワンチャンいけたわ・・・」
戦神魔呂の能力を無効化する力があれば燃え盛る炎を鎮火できたかもしれない。
だが魔呂はアレスと戦っている。
ここには兵士としては最高レベルのメンバーがいる。
しかし炎を止める術はなかった。
「消化器か!? 消化器でもぶっ掛ければいいのかー!!」
エヴァが困惑する中でもユーリだけは仁王立ちのまま、ヘパイストスを見ていると「そのとおりだエヴァ」と笑った。
ユーリは腰に装備する水筒の水を手に掛け始めると迫りくるヘパイストスの顔を殴った。
「おらあ!!」と雄叫びを上げるユーリはなんとヘパイストスを吹き飛ばしたのだ。
「単純なもんだろ。 燃えてるからって調子乗るんじゃねえよ。」
ユーリは神話を殴り飛ばしてみせた。
そして隣で絶句するゾフィを見て「必ず新しい共産主義創るぞ」と微笑んだ。
ユーリの手は手袋が溶けて、皮膚もめくれていた。
黒っぽく変色した血液がポタポタと流れているが自信に満ちた表情で倒れているヘパイストスを見ている。
「さあかかってこいよ。 もう神には負けねえ。 一度負けた。 もう十分だ。」
「すー。 本当に。 カッコいいね。」
「私は死ぬ気はない。 邪魔すんなら火の神だろうがぶっ殺してやるよ!!!」
この伝説の瞬間を見たエヴァはすかさず水筒をヘパイストスに向かって投げると空中で見事に撃ち抜いて破裂させた。
飛び散った水が体にかかるとエヴァは銃撃を続けた。
すると先程の無敵状態が嘘の様に体を抑えて白い血を流していた。
「マジで効くわ!! みんな撃て!!」
ナイツの反撃が始まった。
誘惑に負けそうになっている恋華は虎白との時間を思い出していた。
桜が美しく舞う木の下で天上酒を飲む夫婦は永遠に続いてほしいと願いたくなる平穏な時間を満喫していた。
虎白は酒を飲んではつまみを食べている。
恋華は周囲を見ると家族達も同じ様に酒を飲んで楽しんでいる。
「貴方が創る世界はきっとこんな毎日なのでしょうね。」
「ああ。 俺らだけじゃねえ。 世界中がだ。 この天上界は一つになって平和になる。」
「ヒヒッ。 じゃあ私は世界を束ねた男の正室かあ。」
「当たり前だ。 お前がいたからここまで来たんだよ。」
恋華の膝に寝転ぶ虎白はぼんやりと満開の桜を見ている。
「お前がいたからここまで来た」とは竹子に対して言う言葉だと恋華は思っていた。
今の言葉は少し気になった。
今日まで白陸を率いてきたのは竹子だ。
「それは竹子に言ってあげたら?」
「俺よお。 っていうか俺達よお。 何か忘れてんだろうな・・・」
「確かに・・・神族達は頭痛が来る・・・」
頻繁に起きる頭痛は虎白だけではない。
恋華や白王隊の神族達、全員に訪れる出来事だった。
前触れもなく突如来る頭痛はあまりに激痛で気を失いそうになる。
虎白が口にする何かを忘れているという言葉は恋華も気になっていた。
「俺は竹子と白陸を創ってここまで来た。 だがもし忘れているだけでもっと昔からお前と何かを乗り越えていたとしたら。 白陸を創る所まで来られたのはお前のおかげなんだよきっと。」
恋華すらも覚えていないが虎白の言葉は深く胸に刺さった。
もしかしたらそうかもしれない。
何かを一緒に乗り越えてきたのかもしれない。
確証はないがそう考えると恋華は笑わずにはいられなかった。
「ヒヒッヒヒッ。」
「なんだよ?」
「もしそうなら。 こんな平和な時間が訪れるなんて当時は思わなかったでしょうね。」
「ヒヒッ!! ああ違いねえ。 愛してるぞ。」
虎白は妻達を愛している。
心から。
立ち上がると虎白は「お前ら愛してるぞー!!」と妻達へ飛びついていた。
恋華はそんな虎白を愛していた。
平等に種族も問わず、側室を愛せる虎白の器の大きさや戦争のない天上界を創りたい理由だって。
今日までに自分のために死んだ兵士のためになんて我が夫の他に誰がそんな事を考えられるか。
「貴方の妻で私は本当に良かったよ。 他なんてあり得ない。」
そして今。
恋華はあの日の記憶を思い出して笑っていた。
目の前にいる愛と美の神を倒さなくては。
恋華は刀を振るった。
「狂乱恋時(きょうらんれんじ)」
刀を上から振り下ろした一刀はアフロディーテを真っ二つに斬り裂いた。
その斬撃は壁を突き破り護衛の顔をかすめた。
驚いた護衛も我に返り武器を持ってアフロディーテへ襲いかかってきたが既に息はなかった。
恋華の奥義は神話の一角を一刀で落とした。
鞘に刀を戻すと短刀を抜いて自分の腹部に突き刺した。
「ケハッ・・・」
「れ、恋華様!! 何をなさっているのですか!!」
「い、一瞬でも夫の気持ちを裏切りかけてしまった・・・これは自分を殺したまでだ・・・弱い自分はせめて自害すべきだ・・・」
恋華は神族だ。
腹部を刺した程度で死ぬ事はない。
だが激痛が恋華を襲う。
その場に倒れ込んでいるが部下の手当を拒んで治癒するまで激痛に耐えた。
愛する夫を裏切りかけた自分へのけじめだ。
その光景を見た部下達も次々に腹部に短刀を刺した。
「な、ならば・・・主を守れなかった我らも・・・」
恋華と白王隊恐るべし。
恋華は治癒が終わると鍵を懐にしまったまま、部下を連れて虎白の元を目指した。
しかし部下達が恋華を見て驚いている。
息を呑んだ部下達は恋華を見ないように下を向いていた。
それはあまりに恋華が魅力的に見えていたからだ。
ある日虎白は桜火と石版の解読を行っていた。
世界中の文字や見た事のない文字が不規則に並べられている石版には何か大切な事が書いてある。
かつて咲羅花の一族は石版が読めたらしいが桜火には読めなかった。
しかし遺伝なのか、時間をかけて少しずつ読み解けていた。
「これはたぶん死って意味かなあ。」
「ああ俺もそう思う。」
「それでこれは神かなあ・・・」
「神が死ぬって意味か。」
難解な石版を飛ばしながら解ける文字だけ解いて文章にしていた。
今日読んでいるのは「神が死ぬ」という事についてだ。
虎白はその次に書かれる文字を見て考えていた。
「ロシア語かなあ」と頭を抱えているとユーリを呼び出して文字を見せた。
するとユーリは「継承」と言葉を放った。
「神が死に、継承する。」
「何を・・・」
「この次は読めねえなあ・・・」
ユーリはなんの事だかわからずに黙って石版を見ていた。
虎白が見ている文字は見た事もない文字だった。
ユーリは首を傾げて戻っていった。
するとユーリが慌てて戻ってきた。
「その文字あれじゃねえのか?」
「何か知っているのか?」
「古代北欧の文字だよ。 確かルーン文字って言うんだ。」
「北欧・・・」
そんな文字誰が読めるんだと落胆する虎白は頭を抱えていた。
「神が死ぬと・・・継承する」という大切な所がルーン文字で書かれていた。
これ以上は読めないと虎白は桜火と共に石版の元から離れた。
そして今、恋華はアフロディーテを討ち取った。
部下達が見て驚いているのは恋華が今まで以上に美しく色っぽく見えていたからだ。
不思議そうにしている恋華は刀を取り出して壁に向かって狂乱恋時を放った。
「な、なんですと!! こ、この威力!!」
アフロディーテへ放った威力の3倍はあるか。
壁は吹き飛ぶどころか、粉々になった。
斬撃はどこまでも進んでいった。
遠く離れている前線にまで届いてしまいそうな勢いだった。
「お前達は私をそんな目で見て。」
「も、申し訳次第もございません・・・し、しかしあまりにお美しく・・・」
「そうか・・・夫と桜火が言っていた神が死ぬと継承するとは神通力と能力であったか。」
ルーン文字は読めなかった。
しかし恋華は身を持って理解をした。
忠実な部下が自分を見る目はまるで恋人でも見ているかの様だ。
そして狂乱恋時の破壊力が3倍近く増していた事から理解した。
神は死ぬと殺した者に能力を継承されてしまう。
恋華は下を向いて笑っていた。
「では殺されるわけにはいかぬな。」
「左様です。 身命を賭してお守り致します。」
虎白と合流するために進んでいると突如地面が生きているかの様に動き始めた。
宙に舞った恋華と部下達は近くの建物に飛び移ると地面を見ていた。
すると動き続ける地面を平然と歩く女がいた。
高身長で杖を持って歩いている。
アフロディーテと同じ様にペプロスを着ている。
「また12神か・・・」
「恋華様をお守りしろ!!」
護衛が地面に降り立つと地面が突如めくれ上がり護衛達を叩きつけた。
刀で地面を斬り裂くが次々にまるで波でも押し寄せるかの様に地面が襲いかかってくる。
恋華は部下を建物に登らせるとじっと見ていた。
「我が名はデメテル。 大地を司る神よ。 この世界の地面は全て操れるの。」
アフロディーテを倒した直後。
恋華は2柱目の12神と対峙していた。
建物の上から見下ろす恋華だったが建物の下にある地面が波打ちだして吹き飛ばされた。
「護衛。 私はいいから夫の元へ行きなさい。」
「なりませぬ!! 鍵がありますぞ!!」
「では鍵を渡すから夫に渡して。」
部下達は鍵を受け取ると走り去った。
恋華は1柱でデメテルと対峙した。
お互い戦力は天上門に送っている。
純粋に能力のぶつかり合いになる。
恋華は少し高揚していた。
「新たに手に入れた能力もある。 神通力も増えた。 誘惑して討ち取ってくれる。」
これは天上史に残る大事件だ。
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