48 / 58
『ピンク』が出た side A
しおりを挟む王宮事務官になってそろそろ一年になる。私のいる領地情報管理室は情報を探す指示がこない限り、室長が初めに言ったようにそれほど忙しくない。その指示も王太子殿下からがほとんどなのでそう多くはない。
今日も他の部署を廻ってせっせと情報を集めている。のんびりしたものだ。
のんびりと言えば、最近休日ものんびりしてるのよね。
婚約してから頻繁に休日は会いに来てくれた彼が、最近来ないことが増えた。あのお茶会のあとは特に毎週のように会ってたのに、冬休みが明けた頃からほとんど来ない。
進級に備え研究をまとめる必要があると言ってたけど、最近その言い訳がやけに具体的なのよね……。
以前は「大学の用があって」くらいだったのが、最近では「〇〇と△△の為に□□に行かないといけない」と王宮パーティーで一度だけ会ったことのある方の名前を出してきたりするのだ。そこまで聞いてないのに。
冬休みも私ひとりで領地に帰った。彼は春の花祭りにあわせて行こうと言ってくれてたけど、今はどうなのかしら……?
私がもやもやと考えながら歩いていると、正面からエイデンが歩いてきた。眉間のシワも健在だ。というか成長してるかもしれない。相変わらずいきなり要件を話しだした。
「次の休日うちで茶会をしないか」
「何故」
エイデンとお茶会、想像できない。
「婚約者がお前に会いたがってる」
「行くわ」
即答した。眉間のシワも愛する婚約者様に会ってみたいと思ってたのよ。にっこり笑うとエイデンは誘ったというのに舌打ちでもしそうな顔をした。
早速次の休日にウェスティン伯爵家のタウンハウスに向かった。暇なので。婚約者のご令嬢も同席するとは言え男性の家なので、今日はマリも一緒だ。
伯爵家に着くとサンルームに通された。明るい室内にエイデンとご令嬢が待っていた。
黒髪黒眼のエイデンとふわふわした薄茶色の髪の綿菓子のようなご令嬢は、雰囲気が全く違うけど並ぶと何故かお似合いだ。ご令嬢はメリッサ様と名乗りながらキラキラした眼差しを向けてくる。
「伝説のアリシア様についにお会いできましたわ!」
1歳しか違わないのに伝説呼ばわりされてしまったわ。困惑しているとエイデンが珍しくフォローした。
「お前は学園で高位クラスの令嬢達をまとめ上げ派閥の壁をなくした存在だからな」
なにそれ知らない。なんて言う隙もなくメリッサ様が畳みかけてくる。
「そうです!私達後輩は先輩方に憧れて、学園にいる間だけでも家の柵から離れて学園生活を楽しもう!と思うようになったのです!」
「そうね……、楽しんだ方がいいわよね」
私が何とか相槌を打つと、メリッサ様は「そうですよね!」と明るく言ったあと、急に表情を暗くした。
「なのに、私の憧れの素敵なアリシア様をあんな、悲しませるようなヤツが!あの、『ピンク』が!」
メリッサ様、可愛らしい雰囲気とは程遠い物言いになってきたわ。それより『ピンク』はメリッサ様が付けた呼び名で間違いなさそうね。
言われている意味が理解できずにいると、エイデンが眉間にシワを深くして話しだした。
「今の『ピンク』の狙いはネオルト男爵子息らしい。最近はよくふたりでいる所を見られている。特に王都の西区に出没するそうだ」
出没……。西区といえば以前私も行ったロブさんのいる雑貨店の辺りね。なるほど……。
一言も発しない私にメリッサ様が気遣わしげに声をかけてくれる。
「申し訳ありません。アリシア様にとって耳にも入れたくないお話だとは理解しているのですが、それでも放って置くことはできませんでした」
「……いえ。私も知れた方がよいので。ありがとうございます。納得しました。『ピンク』様の存在はともかく、要は彼は私に『飽きた』ということなんでしょうね」
私がやけに冷静に言うと、背後からギギギと変な音が聞こえてきた。後ろにはメイドらしい佇まいのマリしかいない。何処から出してるの?
気を取り直して言葉を続ける。
「実は秋頃、価値観の違いもあって私の方から婚約解消を申し入れたことがあるのです。その時は彼に頼まれて、お互いに歩み寄るよう努力しながら婚約を続けることになったのですが……」
私がそこまで言って自嘲気味に微笑むと、メリッサ様が代わりに涙を流してくれた。優しい方だ。
私はメリッサ様が落ち着くのを待ってから、ふたりにお礼を言って屋敷を出た。
ウェスティン伯爵家からの帰り道、人を殺しそうな目をした笑顔のマリの提案で西区を通って行くことにした。出没すると言ったって野生のピンクには早々出会わないと思うわよ、と言いながら外を眺めていたら、いた。
「本当にいましたね」
「それだけ頻繁に会ってて、隠すつもりも無いってことでしょうね」
窓を覗くために顔を寄せているマリからまたギギギと変な音が漏れてきたので、マリの手を握った。
街なかでも目立つ金髪とピンクの髪のふたりは、どう見ても恋人同士の距離感で歩いている。お互いに顔を覗きあう笑顔も輝いている。
……最近はあの笑顔を向けられたことは無かったわ。
「もう、いいでしょう」
心が冷えていくのを感じる。
私はそのまま屋敷に戻り、初めて両親に相談する手紙を書いた。
24
あなたにおすすめの小説
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります
恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」
「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」
十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。
再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、
その瞬間に決意した。
「ええ、喜んで差し上げますわ」
将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。
跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、
王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。
「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」
聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。
MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。
記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。
旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。
屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。
旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。
記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ?
それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…?
小説家になろう様に掲載済みです。
婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね
ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。
失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。
幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す
MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。
卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。
二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。
私は何もしていないのに。
そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。
ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。
お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。
ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる