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第1章

第10話 あなたが神か!?

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 お茶のおかわりを堪能し、リナさんの足の痺れが取れたのを確認してから、そろそろ僕を部屋に案内するということになった。神様を含め全員で執務室から、画面に齧り付いているOL風の女性陣が居る事務室に出た。

「そういえば、ここって人手が足りてないんですか?」
「人手と申しますか、私の力不足でこれ以上この事務室を大きく出来ないのです」

 聞けば神様にもランクがあるらしく、複数の世界を運営する神様もいれば、一つの世界だけ運営しているここの神様みたいな人も居る。当然ながら複数の世界を運営出来る力を持つ神の方がランクも上で、神としての力も世界を上手く運営する事にも長けている。そしてここの神様みたいにまだ若い神様は世界を運営してそれほど経っていなく、力も運営する事にも試行錯誤している状態だという。神としての力が蓄えることが出来たら運営スペースを拡大したり、複数の世界を運営出来るらしい。
 ただ、ここの神様は若手ではトップクラスの運営をしているらしく、パソコンを導入した実績も他の神々にも認められているそうだ。そうロマーナさんが胸を張りながら補足してくれた。デカイ。

「地上の方々はお陰様で徐々に増加しているのですが、まだここを広げられるほどの力が貯まった訳ではないのです。配下を増やす事は出来ても作業を行えるスペースが無ければ意味がありませんので」
「え、配下は増やせるんですか?」
「はい、この事務室を広げるということは世界を広げるということですので、それに比べたら力はかかりません」

 なるほど、確かに人一人増やすのと世界の面積増やすのどちらが大変かと言われたら世界の方が大変だろう。

「それで、ここの人達は現状どうしようもないから必死に頑張っていると」
「はい、みなさんには苦労を掛けております。ただ地上の人が増えると、どうしても罪人も増えますので、優秀な方からフロアへ栄転してもらうという制度を取っております」

 ミスもなく、沢山の処理を行った優秀な人から栄転する制度を導入してから、皆我先にフロアへ出ようと必死になっているらしい。それは皆一心不乱にもなるだろう。この地獄から出るためなら。

「まるでブラック企業のようだ」
「お兄様、お分かりになられましたか。ここは日本のブラック企業を参考にして運営しております」

 ええー。僕がドン引きしていると、神様がキョトンとして首を傾げる。何か問題でもと分かっていないようだ。

「神様、それは真似してはいけない悪い例ですよ」
「え、ですが調査によりますとブラック企業ほど少ない人手で会社を上手く運営していると報告が多数ありましたよ?」

 確かに端的な数字だけを見たらそう見えるのかも知れない。だけど、その報告にあった会社の社員は、ここのOLのように死んだ魚のような目をしているに違い無い。

「じゃあ質問ですけど、ミスとか増えてるんじゃないですか?」
「よくお分かりになられましたね。マルギット様の件以降、入力後のチェックを別の者が担当するようにしておりますが、希にミスが発覚することがあります」

 然もありなん。いくら栄転があるといっても、あくまで可能性だし、いつまでもこの調子じゃいずれ業務も滞るはずだ。ここの人たちは普通の人とは違う天界の人だとしても、無尽蔵の体力と精神力を持っていないことは、目の前の状況を見れば明らかだ。なので、日本でも問題になっていた事も含め神様に説明することにした。

「で、ではどのようにすれば」

 説明を終えると、このままでは大変なことになると分かり、神様は目に見えて動揺している。縋るような目で僕を見つめる神様に何とか応えたいと無い脳みそをフル回転させる。そういえば、魂の状態だから脳みそ無かった。

「えーと、多分だけどミスが増えるのは集中力が衰えてるからだろうし、その集中力が低下している原因は、仕事を詰め込み過ぎているから・・・だと思う。だから、配下を増やせるなら増やして、交代で休みを入れるように良いんじゃ無いかな」

 僕が頼りなげに提案した事を、神様は目を閉じ頷きながら解釈しているようだった。やがて目を開けたときには、先ほどの動揺が鳴りを潜めていた。

「左様で御座いましたか。確かにパソコンを導入する前にあった、配下達のゆとりが無くなっているようです。効率優先にしたせいで、ゆとりが無くなりミスが増えてきたということですね」

 僕の拙い説明でも神様は理解してくれたようだ。これで休暇が導入されたら、ここの人たちの目も死んだ魚から生きた魚の目になるだろう。想像してみたら怖かった。

「もし増員するとなれば、どの程度配下を増やした方が良いか、お兄様のお考えをお聞かせ頂きたく存じます」
「うーん」

 それを決めるには色々情報が足らない。まず現状のOL達が何人居るのか、そして配下はどれ位増やせるのか。休憩スペースが足りるのか、配下を入れて即戦力足るのか等々。

 思いついた範囲で神様に聞いてみたところ、OLの総数は50人。配下は運営に支障がない程度で増やすとなると最大で30人程になるらしい。また休憩スペースというものはなく、この天界には執務室や応接室を含むこの事務室と、客室が3つ、パソコンやスロットなどの開発やメンテナンスを行う開発室、カジノがある広間、そして寿命を終えたり禊を終えた人を迎え入れるベッドルームが複数。これが天界にある施設のすべてらしい。

 また地上の人口増加に伴ってベッドルームが不足しがちになり、貯まった神様の力は優先的にそちらを増設するために使っていて事務室の拡張を疎かにしてしまった結果が今の現状になる一因にもなったみたいだ。

 そして最後に即戦力になるのかだけど、配下を増やすには天女を召還するのでその際ある程度の知識を与えることで、あとは実務に数日今居る天女から教えるだけで戦力となると言われた。

 ついでに聞いた話では、ここの神様は功績により人族から神族に迎え入れられた神の血族なので、基本的には人の形をした天女が配下として加わるそうだ。そして天女召還といっても元々どこかに居る天女を召還する訳では無く、神様の力で天女を作り上げているらしく、ある意味天女は神様の娘たちとも言えるそうだ。上司であり親であり何より神様であれば、それはこんな環境でも逆らうことも出来なかっただろう。 また天女は基本的に睡眠や食事など必要なく、神様や天界に蓄えられた力で活動するので、自分の主の神様が死んだりしない限りは永遠と働けるそうだ。どうやらそれも原因の1つみたいだ。

 最後に入力情報のチェックをしているのが、人手が足りないのでリナさんや専属バニーをしている人たちだそうだ。専属の人たちは罪人を送り出した後は、基本的には暇になるので、戻ってくるまでの間はチェックを担当するらしい。ちょっと疑問に思っていたリナさんの事が少し分かって嬉しかった。

 主に神様と補足説明をロマーナさん達に教えて貰った情報を元に、神様と相談しながら以下の取り決めをした。
 ・召還する人数はまず10人。
 ・召喚した天女が戦力になった時点で、10人ごとに休憩すること。
 ・休憩スペースがないので仕事量を減らしてカジノフロアに出てもらうこと。
 ・2日間フロアに出たら休暇を取っていない事務室の天女と交代すること。

 その後はローテーションで全員に休暇をした上で効率が上がっているのなら今後も実施するという形になった。いずれ人口増加が落ち着いたら休憩ルームの設置も検討したいと神様は言っていた。
 
「ありがとう存じます、お兄様。やはり早く私の親族になって補助をしていただく訳にはまいりませんか?」
「んー、ごめんなさい。でも正直に言うと楽しそうだなとは思うんだけど、自分に自信がないので当分保留にしてください」
「そう仰られてしまっては、無理強いは出来ませんね。では、いずれということでお願い致します」

 なんだか少し外堀を埋められた気がしたが気のせいだと思うことにした。そして神様はロマーナさんに事務室にいる天女たちの作業を一時中断して、こちらに注目して貰うよう指示を出した。

「皆さん、一時作業を中断しハナ様のお話をお聞き下さい!」

 OL風の天女たちが一斉に手を止め、立ち上がり神様に注目した。これで全員が死んだ魚の目をしたままなら怖かったんだろうけど、不思議と先ほどよりはマシな表情をしていた。でも目はまだ若干濁っている気がする。

「皆さん、ご苦労様です。皆さんには労いの言葉を掛けるくらいしか今まで出来なかった事をお詫びします」

 神様は天女たちに軽くお辞儀をし、そのせいで少しザワついた天女達に手のひらを肩くらいまで上げて場を鎮め、言葉を続けた。

「この度、配下を10名ほど増やし、皆さんに少しでも休息を得て頂けるよう体制を見直すことになりました」

 そして先程取り決めた内容を天女達に伝え、伝えられた内容が頭に浸透したのか見るからに笑顔を浮かべ天女達は共に喜び合っていた。今度は暫くしてから再び神様により場を鎮められた、それでも彼女たちは嬉しそうな顔を止めることが出来ていないでいた。

「これほどまでに喜ばれるとは・・・私は悪い上司だったようです。今後は皆さんと共に私も精進していこうと心に決めました。皆さん、これからも宜しくお願いします」

 神様がまたお辞儀をし、そして天女たちも神様に深くお辞儀を返した。いい話だなーと僕は他人事のように傍観していたら、神様が僕へ近づいてきた。

「最後に、皆さんの休暇に関する提案をして頂いたのが、こちらにいるお兄様・・・マサト・カナエ様です。皆さん、マサト様に感謝の気持ちをお願いします」
「「「「「「あなたが神か!?」」」」」」
「いえ、あなた方の神は僕の隣に居ますよね?」
「気が早いですよ、皆さん。今はまだ神ではありません」
「え、今はまだって何?」

 確実に外堀をせっせと埋められている気がしてしょうがない。僕はこれ以上やらかしたくないから神様になんかなる気はないぞ。

「先の事など、神ですら見通せませんよ?お兄様」

 僕の考えていることを読んだのか、神様は茶目っ気のある笑顔で僕にそう言った。
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