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33.通り魔
――――騎士団長室。
ヨルギスが駆け込んできて報告する。
「大変です、ヘンリー様の行方が判明しました! 奴隷商が見つけ出し、隣国の男娼宿で働かせているようです」
「そうか! 良くやった。ヘンリー様の名誉もある……それに身受けしようにも元王子であることが露見すれば、いくらふっかけられるか分からん。そのまま、そっと余生を送ってもらうのが一番だろう……」
俺は副長を手招きして、側に寄せた。
「他の騎士団長の誰かに報告はしたか?」
「いえ、まだですが……」
「そうか……では、少し発表は数日だけ遅らせてくれないか?」
「団長……一体、何を……」
「少し休暇をもらうぞ。ここのところ、休んでいないからな、はは」
「えっ!? そんな急に……」
慌てるヨルギスを余所に俺はハンガーラックに掛けた外套を取り、帰宅する。
結婚前に一人出掛けていた……アーシャに結婚指輪を買いに隣国へ行くと理由をつけて。
『楽には殺さんぞ!』……アーシャとヘンリーの面会で奴が最後に言い放った言葉。俺はそれがどうしても気になり……奴の姿を隣国まで追っていた。
エレオノーラを失ったときのようにまた、アーシャを失うなんてことはあってはならない……そんな焦燥感が身体を突き動かしていた……
「金を出せ!」
「何だ、貴様は!? 誰が俺のなけなしの金を……」
路地裏に男娼の仕事を終え、帰路につこうとしているところを捉え、路地裏に引き込んだ。
ズブリ……
「うぐっ」
ダガーを腹に突き立て、内蔵を抉る。口から血を吐いた男娼……
「お前に二度とアーシャを傷つけさせる訳にいかない」
「貴様!? ヴェ……」
ザクッ……
俺の名を呼ぼうとした瞬間に胸を刺した。俺の目深に被ったフードを掴む手は弱々しく崩れ落ちる。
「ただの男娼が通り魔に襲われ、死んだだけ。お前が手に掛けた者達に詫びを入れながら、地獄までの道のりを歩け」
脈が無くなったのを確認し、辱めに下着を切り裂き、陰部を晒しておいた。
「アーシャにあんな酷い言葉を吐いたことを後悔しながら、地獄に墜ちるがいい……」
スラムへ奪った金を投げ込み、その場を去ろうとしたときだった。泣き出しそうだった空は耐えることが出来ず、大粒の雨を降らしている。屑を洗い流すように……
魔物を屠るときすら、命を奪うことに良心が咎めるが、こいつだけは何の躊躇いもなかった。
あのまま幽閉されたままだとヘンリーを殺ることは出来なかった……だが、高望みさえしなければ、生きることは出来たものをこいつ自ら捨てたのだから。
俺が王都にたどり着き、騎士団長室に立ち寄るとジュール様が待っていた。
「ヴェル……キミの手を汚させてしまって済まない」
「ん? 何のことだ?」
「ヘンリーの件だ」
既にヨルギスはジュール様にヘンリーの居場所を伝えているのだろう。
「知ってたのか?」
「いや、はっきりは分からなかったがキミのすっきりした顔を見たらな。休暇なんて滅多に取らないのに急に休んで一人で旅に出るなんておかしいと思ったんだ」
「やっぱりジュール様は侮れないな」
「それはお互い様だろう?」
「「はははは」」
全ての憂いを取り払い、俺は愛するアーシャの下へ帰宅した。
「ヴェル、お帰りなさい!」
「アーシャ、ただいま」
小箱を取り出し、蓮色のサファイアの指輪を見せると……
「これをキミに贈りたい」
「そんな……指輪なんて高い物なんていらなかったのに……」
「いや、どうしてもキミに良い物を送りたかった」
「私はヴェルさえ居てくれれば、贅沢なんて望みませんから……」
「ありがとう、アーシャ」
彼女をしっかりと抱擁する。俺は最愛の女の名誉と命を守るために手を汚すことを厭わなかった。
ヨルギスが駆け込んできて報告する。
「大変です、ヘンリー様の行方が判明しました! 奴隷商が見つけ出し、隣国の男娼宿で働かせているようです」
「そうか! 良くやった。ヘンリー様の名誉もある……それに身受けしようにも元王子であることが露見すれば、いくらふっかけられるか分からん。そのまま、そっと余生を送ってもらうのが一番だろう……」
俺は副長を手招きして、側に寄せた。
「他の騎士団長の誰かに報告はしたか?」
「いえ、まだですが……」
「そうか……では、少し発表は数日だけ遅らせてくれないか?」
「団長……一体、何を……」
「少し休暇をもらうぞ。ここのところ、休んでいないからな、はは」
「えっ!? そんな急に……」
慌てるヨルギスを余所に俺はハンガーラックに掛けた外套を取り、帰宅する。
結婚前に一人出掛けていた……アーシャに結婚指輪を買いに隣国へ行くと理由をつけて。
『楽には殺さんぞ!』……アーシャとヘンリーの面会で奴が最後に言い放った言葉。俺はそれがどうしても気になり……奴の姿を隣国まで追っていた。
エレオノーラを失ったときのようにまた、アーシャを失うなんてことはあってはならない……そんな焦燥感が身体を突き動かしていた……
「金を出せ!」
「何だ、貴様は!? 誰が俺のなけなしの金を……」
路地裏に男娼の仕事を終え、帰路につこうとしているところを捉え、路地裏に引き込んだ。
ズブリ……
「うぐっ」
ダガーを腹に突き立て、内蔵を抉る。口から血を吐いた男娼……
「お前に二度とアーシャを傷つけさせる訳にいかない」
「貴様!? ヴェ……」
ザクッ……
俺の名を呼ぼうとした瞬間に胸を刺した。俺の目深に被ったフードを掴む手は弱々しく崩れ落ちる。
「ただの男娼が通り魔に襲われ、死んだだけ。お前が手に掛けた者達に詫びを入れながら、地獄までの道のりを歩け」
脈が無くなったのを確認し、辱めに下着を切り裂き、陰部を晒しておいた。
「アーシャにあんな酷い言葉を吐いたことを後悔しながら、地獄に墜ちるがいい……」
スラムへ奪った金を投げ込み、その場を去ろうとしたときだった。泣き出しそうだった空は耐えることが出来ず、大粒の雨を降らしている。屑を洗い流すように……
魔物を屠るときすら、命を奪うことに良心が咎めるが、こいつだけは何の躊躇いもなかった。
あのまま幽閉されたままだとヘンリーを殺ることは出来なかった……だが、高望みさえしなければ、生きることは出来たものをこいつ自ら捨てたのだから。
俺が王都にたどり着き、騎士団長室に立ち寄るとジュール様が待っていた。
「ヴェル……キミの手を汚させてしまって済まない」
「ん? 何のことだ?」
「ヘンリーの件だ」
既にヨルギスはジュール様にヘンリーの居場所を伝えているのだろう。
「知ってたのか?」
「いや、はっきりは分からなかったがキミのすっきりした顔を見たらな。休暇なんて滅多に取らないのに急に休んで一人で旅に出るなんておかしいと思ったんだ」
「やっぱりジュール様は侮れないな」
「それはお互い様だろう?」
「「はははは」」
全ての憂いを取り払い、俺は愛するアーシャの下へ帰宅した。
「ヴェル、お帰りなさい!」
「アーシャ、ただいま」
小箱を取り出し、蓮色のサファイアの指輪を見せると……
「これをキミに贈りたい」
「そんな……指輪なんて高い物なんていらなかったのに……」
「いや、どうしてもキミに良い物を送りたかった」
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「ありがとう、アーシャ」
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