超人ゾンビ

魚木ゴメス

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 この母乳横取り野郎はただでは殺さぬ。試割しわりでブロック二十枚以上は確実に砕くそれぞれの拳で滅多打ちにして、そのムカつくほどに美形な面を正視できないほどのグチャグチャの醜い肉の塊に変えてやる。眼球を破裂させ、鼻骨を陥没させ、全歯をへし折る。もちろん顔だけじゃない、均整のとれた手足の長い体中に正拳突き、ロー、ミドル、ハイキックをブチ込み、内出血で真っ黒のブヨブヨ状態にした上で、体中の関節という関節をゆっくり時間をかけてへし折ってやる。幸い非常ボタンはわしの背後の壁にあり、この女もそのことは知らん。そもそもわしに注意を払っとらんし、こっちの動きに気付いたところで自分たちを見たくないから後ろを向いたとしか思わんだろう。馬鹿女が。まして男のほうは壁とは反対側を向いていて巨乳にかぶり付いている。こっちの動きに気付くはずがない。いつまでもわしを差し置いて母乳プレイなんかさせとくかっ、クソが。さぁ、とっとと押してしまえ。

  蚊藤は背後の壁を向くとデフォルメして描かれた動物たちの中から白い兎の絵を探した。

 その兎の赤い目、その右目が非常ボタンであった。

 胡座あぐらをかいたまま腕を伸ばしても手が届く高さ、蚊藤が立ったときのへその位置に設置してあった。

 何かのはずみで押してしまわないように、また自分以外に気付かれないように、壁から飛び出ていず、一見すると平面に描かれた赤い丸そのもので、しかも強い力で三センチ押し込まないと作動しないようになっていた。

 兎はすぐに見つかった。

 それは蚊藤が壁に向かって今立っている場所から一メートルほど左前方に、壁全体で言うと中央からやや右手に描かれてあった。

 よしっ! 待っとれよこの野郎! 

 蚊藤はひとまたぎで壁に達すると右手人指し指でボタンを押さえた。
 悦子たちのほうに向き直ると再び怒鳴った。

「おいおまえらっ! こっちを向けっ! こっちを向かんかっ!」

 悦子が蚊藤を見ないで傍らの枕を取ろうとするのに被せて叫んだ。

「わしは今この部屋にある緊急ボタンに指を当てているっ!」
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