超人ゾンビ

魚木ゴメス

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 見えない何者かによる大量殺戮──その情報は知った者全てに一月に起きた蛮神会潰滅事件、四月に起きた歴代Z務事務次官殺し、三週間前の大井コンテナ埠頭殺害事件を想起させた。

 まさか『世直し王子』の仕業か? 『イケメン大明神』がまたおっ始めたのか? 

 やっぱり奴はただの血に飢えた虐殺者だったのか? 

 その論調が息を吹き返すのは自然な流れと言えた。

 通報を受けた警察が駆けつける頃にはテレビでも速報が流れていた。

 それらはあくまでもミマヨたちのいたホテルからセンター街の突き当たりに立つビルまでの被害についてであった。

 ビルの向こうにあるセンター街ではジェロニモによる殺戮が続いていた。

 テンポよく順番に屠殺されていく人々──悲鳴を聞いても危険を感じず逆に好奇心を掻き立てられ声のするほうへ近付いて行こうとさえする。

 場所が場所だけに何か大がかりな悪戯が起きているとしか認識されなかったのだ。

 殺戮者ジェロニモの姿が見えないのだから人々がそう思うのも無理はなく──彼らはさながら人間を知らなかったばかりに上陸した人間に次々撲殺されていくアホウドリのようだった。

 センター街の建物内にいた者たちによって、ここでも虐殺が起きていることが情報として広まる頃には既に路上にいたほとんどの者が頸動脈けいどうみゃくを噛み千切られていた。

 センター街だけで二千体を超す死体の山を築いたジェロニモは間髪入れずスクランブル交差点に飛び出して行った。

 ジェロニモがホテルを脱出してからここまで約十分──

 ジェロニモは一人一人の頸動脈を噛み千切ると同時に毒蛇が牙から毒を注入するように正確に一定量の唾液を注入していった。

 さすがにそれは手刀で首をはねるようにはいかなかった。

 なぜそんな手間をかけたかといえば理由は一つ。

 自分がいつTに補食されるかわからない以上、自分が食われた後も人々を襲い続けるゾンビを増やしたほうが得だと考えたのだ。

 Tの目当てはこの自分だ。邪魔にならない限りTはゾンビを殺さない。
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