幻想戯作好色本「術師獣色珍事録」

じゃにまる

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第一話 〜種子集め〜

第十二幕 山小屋の娘 その二 ※十八色

 男たちは入ってくるなり、そのたぬき顔を寧々の身体に触れんばかりに近づけて、白い肌の織りなす起伏の美しさに見入っていた。
 とりわけ、白いももの付け根に秘められた濡れた茂みのその奥は、襖の向こうから見るに敵わなかったせいか、寄った三人、みな覗き込もうとする。

 寧々は、先ほどあのようなことを口走ってしまったが、いざ近くに寄って来られると、やはりなんとも恥ずかしい。恥ずかしいのに加えて、間近で見るその中年男たちのたぬき顔は、襖の隙間から見たときよりも、一段とはっきり見えて、それがなんともおぞましい。
 額の皺や滲む汗、ひくつく鼻の穴とそこから覗く鼻毛の束、口から覗く黄色い歯、その口元の白く泡立つ唾のかたまり、肌にあたる吐息の湿り気と、なんとも言えないその匂い……
 そんな顔が三つも並んで、そのすべて寧々に向けられているのだから、自然とその身体を閉じてしまう。

 身を強張らせる寧々を見て、近寄った店主が言う。
「そんなに緊張なさっては、手前どもとしても、なんとも申し訳ない。お気持ちよくなりたいのでございましょう? どうでしょう、ここはひとつ、手前どもにおまかせいただけませんでしょうか」
 へりくだったその態度とは裏腹に、そのたぬきのような顔には、卑猥な欲情がありありと浮かんでいる。いや、顔だけではない。視線を下ろせば、そのふんどしにも、卑猥な欲情が太く大きく、ありありと浮かんでいる。
 『おまかせ』とは片腹痛い。いかにも『お手間はかけませんよ』とこちらのことをおもんぱかっているように聞こえはするが、つまりは、自分たちの好きなように、あちらやこちらを見たり、舐めたり、触ったり、場合によっては、そのふんどしの奥のものも使ったりしますが、あしからず、ということなのだ。
 そんなことに騙されるこの寧々様ではない。
 『店主におまかせ』は高くつく。
 以前、琴乃がそう言っていた。質が下がることも多いとか。
 そんなときの断り方も、しっかり会得済みだ。

「……いや、いまの気分は、こっちのえだま……」
「いやいやいや、決して変な意味ではございません、いまのご気分を損なうことなく、手前どもの好きなように、その麗しいお身体のあちらこちらを見たり、舐めたり、触ったりするだけでございます。もちろん、場合によっては――」

――いやいやいや、それが変な意味でございます
 そう店主の言葉を遮ろうと寧々が口を開いた瞬間に、意識の中に薄皮の光の膜が広がる。

 山小屋で手慰みをしている娘とそれを覗く三匹の狸。先ほどと同じその情景が一瞬現われるが、それはすぐに、和紙がめくれるように、ばさり、と裏返り、また新しい情景が浮かび上がる。
 その情景では、三匹の狸たちが娘の肢体にへばりつき、そのぬめぬめした舌を白い肌の上に這わせていた。白い襦袢から剥き出された左右の乳房と太ももの付け根が、その舌の餌食になっている。
 狸の頭が小刻みに蠢くと、娘はその身をなまめかしく身をよじる。その逃げる肌を、狸の頭が追いかけて、また舌を這わせる。
 娘はそうやって、その肢体をくねらせているが、決して嫌がっている風ではなく、自分の肌を必死に追ってくる狸たちの様子を、どこか、楽しんでいるようでもあった。
 
 その情景が、ふっと消えて、寧々の意識が現実に戻ってくる。
 情景が見えたということは、『法の残骸」がこの状況に共振しているということだ。この店主の言葉に従う必要があるのだろう。
 そう考えて、寧々はそのおぞましさに身震いする。だが一方で、寧々の肌や股の付け根が、這いずり回る舌の感触を求めだしている。その疼きがさざなみとなって全身に広がり、寧々の理性を麻痺させる。
 この情景は、舌だったが、この先どうなるのか……。でも、もしそうだったとしても……。
 寧々は、ぶんぶんと頭を振る。
 大丈夫、この山小屋の情景は、きっとこれで終わりに違いない。
 舌まで。そこで終わり。そう信じるしか無い。根拠はまったくないのだけれども。
 だから――

「……『店主におまかせ』、ひとつ……」
 寧々は視線を逸らして、小さく言った。

*****

 寧々の着ていた襦袢はすっかりはだけ、その白い肢体が、布団の上になまめかしく横たわっている。
 その惜しげもなく露わになった肌を、三人の男たちが寄ってたかって貪っている。

 痩せた男は、左の乳房の滑らかな肌を舐めまわし、
 ずんぐりしたのは、右の乳首の弾力をもてあそび、
 そして太った店主が、太ももの内側の花や蕾を愛でている。

「ああっ、そんなにいっぺんにっ……ああっ、もう……だめッ」
 寧々は、中年男の舌と指の絶技がもたらす快感に身悶えする。
 三人に同時に責められるなんて初めてのことだ。その快感から逃れるように身をくねらせるが、三枚の舌と六本の手がどこまでも付いてきて、寧々の肌に這いずり回る。
 
「いやいや、これは夢のようだ……」
 店主は、寧々の花蕊かずいの奥を覗き込む。
「そうだど、太兵衛たへえ、こんなべっぴんなのに、ここまで淫らなことをさせてくれるとは……。まるで夢でみた天女の姫君のようだど。この娘っこは、おらにとって理想の『姫君』だど」
 ずんぐりし男がそう言うと、痩せたのも、
「いや吉蔵きちぞうよ、こんな褒美をくれるとは、この娘殿は拙者にとっても『姫君』なるぞ」
と言い、それに対して店主が、
「いやいや、抜右衛門ぬきえもん。もっと大きな褒美があるかも知れぬ。私はそれが楽しみだ。どうだろう、ここはひとつ、手前ども全員の『姫君』となってもらうことにしよう」
 そうやって、三人は、寧々のことを「姫君」と呼びながら、下劣な情欲をむき出しにして、その高貴な肢体をむさぼり始めた。
 どんなに下劣な欲情があると分かっていても、そこに『姫君』という呼び名が付いてくるものだから、寧々としても悪い気はしない。おまけにこの男たちは、寧々のからだを貪りながら、その細部を褒めてくる
 色や形、硬さや柔らかさ、そして匂いや味……。
 寧々が見えない部分はもちろん、引け目を感じている部分さえ、言葉の限りを尽くして褒める。
 悪い気がしないどころか、気分が良い。自分が認められたような、気高くなったような、そして逆にもっと、この者たちを悦ばせたいような、不思議な感情が湧き上がる。
 その感覚に突き動かされて、さりげなく、みずから乳房を掴んで乳首を差し出してみたり、膝を立ててわずかに腰を浮かせてみたりする。
 男たちは、その寧々の与える褒美の上に舌やら指やらを這わせてくる。
「ああっ、いいっ……」

 しばらくそうしているうちに、やがて男同士の醜い争いが始まった。男たちも男たちで、寧々の身体を貪るのに必死である。
「これ太兵衛、早くそこを代われ。拙者にも姫君のその艶美な襞や蕾を拝ませろ」
 そう言いながらも、この痩せた男は、寧々の乳房を放さない。その丸みの下側や横側を、つつっと指でなぞったり、むにっと押してみたり、ぬむっと揉んでみたりして、その柔らかさを愉しんでいる。

それを聞いたずんぐりが、
「やい、抜の字、ちょっと待つど。お前はさっき舐めてたど。この姫君の股ぐらは、次はおいらの番だど」
 そういいながらも、寧々の乳首を放さない。その弾力を楽しむように、指先や舌で、ぷにりぷにりと転がしたり、つんつんと弾いたり、はむはむと甘く噛んだり、くにりくにりと押しつぶしたりしている。

「いやいや、ふたりとも、ちょっと待っていただこう。このひくつき具合、姫君がいくのはもうすぐだ。ここで止めたら、姫君からひどいお叱りを受けるはず。いま姫君をいかせるのが私の役割と言わざるを得ない。姫君が気を遣ったら代わるから、今しばらく待て」
 そういいながら、太った店主は、その寧々の花蕊かずいを広げる指に力を込めて、その陰裂にねろねろと舌を震わす。

「ああっ、喧嘩しないで……ああっ……いいっ……ッ」
 お世辞にもその見てくれは良いとは言い難いのだが、それでも三人もの男が自分を求めて争っているのだ。どうにかしてあげたくなってしまう。それに、めくるめくの快感に何度も何度も身体をくねらせた末に、寧々自身もからだの隙間を埋めて欲しくなっている。
 寧々のその白い手が自然と左右の男の腰に伸びる。少し湿り気を帯びたふんどしの股の布を寧々の白い指が這う。
「なんとっ」
「おおっ」
 男たちの恍惚としたたぬき顔が、なんともいやらしい。だが、可愛らしくも思えてきたし、もっといじめたくもなってくる。

 寧々は、左の手を、すすっとずらして、ずんぐりのふんどしからはみ出した大きな陰嚢ふぐりに柔らかく手ひらを添える。
「はうっ」とずんぐりした男が声を上げる。
 右の手のほうも、つつっと曲げて、痩せた男のふんどしの上から、硬いものを軽く握る。
「姫君殿っ、そんなっ」痩せた男も声を出す。
 寧々は、花蕊に這う舌に喘がされながら、その両手を動かす。
「あうっ」
「おうっ」

 ふたりの様子に気づいた店主が、歯噛みをするように叫んだ。
「いやいやいや、お主たち、それはずるい、ちと代われ」
「いや、お主は、姫君をいかせるのが役割じゃ、役割が拙者どもが引き受ける」
「そうだど、そうだど」
 ふたりは寧々の白い手を掴むと、自分たちの勃起をふんどしの上から握らせて、店主に見せつけるように、思い思いに寧々の手を動かす。
 寧々はうっとりとした表情で、なされるがままに左右の勃起をさする。

 店主は、寧々のその表情を見ながら、少しばかり思案する。そして、その太った身体をゆっくり起こし、
「いやいやいや、お前たち、姫君も我慢できなくなったようだから、そろそろ手前の念願の、あっちのほうを試していただけるか聞いてみたいと思うが、どうだ?」

 それを聞いた、やせたのとずんぐりが、ぴくり、と動きを止める。
「ほ、本当か?」
「おぬし、本気で申しているのか」

 寧々は、ごくりと喉をならす。いよいよだ。
――こんなに硬くなっている……これでこれから……
 左右の手で二つの陽物の硬さや大きさを確かめる。
 ひとつは口で、ひとつは手で、そしてもうひとつは……
 寧々の下腹部が、ずくんっと疼く。

 寧々の太ももの間に座る店主が、ニヤリと笑って寧々を見下ろす。
「姫君殿、そのお身体、手前どもの自由にできるということでございましたな」
 
 寧々は、顔を真っ赤に染めながら、こくりとうなずく。
 男たちが、一斉ににやける。
 
「それでは、まずは、四つんばいになってくださいませ」
「ふぇ……」
 店主の予想外の要求に寧々は戸惑う。
――そ、そんな……いきなり、『憧れの体位』で……
 戸惑う寧々に三人が無言で手を貸す。寧々は、まるで操り人形のように、起こされて正座の姿勢で座らされる。
 そのまま促されるように、寧々はゆっくりと布団に手をついた。
 男たちは、寧々の後ろに回り込む。
 三つの荒い息遣いが背後から聞こえる。ねっとりとした卑猥な視線が、寧々の背や尻の肌を這っているのがわかる。
 寧々は興奮を押さえるように深く呼吸をして、意を決したようにぎゅっと目をつぶる。そして腰をゆっくりと持ち上げ、その尻を男たちの前に晒す。
 その中心部の秘められた花蕊かずいが、くちゅっと淫らな音を立てながら、わずかに開いていくのが自分でも分かる。
 男たちの喉がごくりと鳴る音が、はっきりと聞こえた。
「いやいやいや、この姿勢で拝むのも、またいいものだ……」
「いや、なんとも、いやらしくも美しい」
「どんどん溢れてくるど、おおっ、垂れたど」
 口々にそんなことを言い合っている。

 やがて、店主は四つんばいの寧々の耳元へ口を近づけると、
「では、手前が永らく夢に見ていたことを、姫君殿にやってもらおうと思います。でも嫌なら嫌と、言ってくだされ。無理強いするものではありませぬ」
 寧々は、また、こくりとうなずく。

 店主が、その太った身体を苦しそうに持ち上げる。
――ああっ、いよいよ、後ろから……
 だが、その予想は裏切られ、店主はそのまま歩いて襖の向こうに消えた。

――えっ、なんで……
 寧々は戸惑いながら、四つんばいのまま、肩越しに襖のほうを見る。
 やがて、その襖の向こうから、ハッ、ハッ、ハッという息づかいが聞こえてきた。
 聞き覚えのある息づかいだ。

「……ま、まさか……嘘でしょ……」
 そう呟いた寧々の視界、店主が姿を表した。
 となりにいるのは、あの野良犬だ。
 店の中では一緒にいたのに姿が見えなくなった。そう言えば、店主に「お前はこっちにこい」と連れられていったが……。

「こんな美しい姫君殿を、こんな犬ごときにやらせるとは……お主、まだ諦めきれぬか。たいがいよのう」
 痩せたぬきが、心底呆れたように、しかしその目に期待と興奮の光を宿っていた。

「まぁ、そういうな抜右衛門、こいつが言うには、姫君とはもう、まぐわったことがあるそうだ」
――な……っ!

 店主は、四つんばいの寧々の耳元に顔を近づける。
「ですよね、姫君殿」
 寧々の顔が真っ赤になる。はたから見て恥ずかしいほどあたふたとする。そんなの、誰も知るはずがないのにっ。

「なんと……っ」
「嘘だどっ、ほんとか……っ」

「な、な、な、なんでそのこと、知ってるのよ……ッ!」
 言ってから、そこは否定すべきところだったことに気づく。
「あ……いや、その……よくも、そんな根も葉もなくて、尾ひれはひれだらけの、ひらひらの噂を……」
 いや、違う。そんなの噂すら立っていない。いやいやそれよりも、そもそも『こいつが言うには』っていうのがおかしい。なんで犬がしゃべるのよっ。
 そこで寧々は思いついた。これは店主がかまを掛けているだけだ。何も根拠はない。
 ここは毅然とした態度できっぱり言ってやる……。

「そんなでたらめ――」
「しかも、ひと晩じゅうつがいになって、よがられたらしいですな、姫君殿」
「いやぁあっ、言わないでえぇえ」 
 姫君、姫君と持ち上げられてせっかくいい気持ちになっていたのに、一気に奈落に突き落とされる。『姫君』という、高貴こうきものに対する畏敬いけいの念が込められたはずの呼び名が、異形いぎょう男根ものでよがる女への好奇こうきの念が混じった呼び名に聞こえてしまう。

 しかし、店主は慌てた様子で、ぱたぱたと顔の前で手を振る。
「いやいやいや、姫君殿、誤解されたら申し訳ない。決して軽蔑しているわけではございません。先ほども申し上げたように、私どもはそれを見るのが夢だったのです」
 見ると残りの二人も、寧々のことを蔑むようには見ていない。
「姫君が、そんな……雅なご趣味があったとは……いとをかし、いとをかし」
「ああっ、本当の姫君だど、ああっ、早くしてみるど」
 そんなことを言いながら、尊いものを崇めるような表情で寧々のことを見ている。
 店主の言葉に嘘はなさそうだとはわかったが、三つのふんどしは三つともさらに高く盛り上がっている。犬とまぐわう寧々の姿を思い描いてそうなっているに違いない。いま彼らの頭の中で、寧々は犬に犯されよがり狂わされているはずだ。事実、夜を通して野良犬とつがいになり絶頂の波に揉みくちゃにされたわけだから、彼らがどんな淫らな姿を思い浮かべたとしても、あながち間違った想像にはならないはずだ。そう思うと余計につらくて恥ずかしい。だがいくら想像と違わないとしても、実際に男たちの目の前でそんな姿を晒すわけにはいかない。

 店主の顔が耳元に近づいた。
「どうですかな、姫君殿、ぜひ手前どもの目の前でも……」
 詰め寄るとも懇願するとも取れるような口調で聞いてくる。
 寧々は起き上がって、きっ、と店主を見返した。
「そんなの、できるわけ――」
 そこまで言いかけた寧々の意識の中に、また薄皮の光の膜が広がった。



~ 第十二幕 了 ~
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