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第1章表 神隠し
村の若人
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「やるか?」
納刀し、俺は周囲を取り囲む山賊たちに聞こえる程度の音量で静かに告げる。場が緊張しているのか、家屋の燃えるパチパチという音が鳴り響いていた。誰かが息を飲み、足に力を入れる。
「うおおおおお———」
「まず1人」
左下から斬りあげ、胴体を切り裂く。抜刀術の神速の技は斬られた者の意識すら置き去りにした。
「…に、に、逃げろー!」
山賊の1人が背を向けて走り出す。それに釣られて他の山賊も続々と村から逃げ始めた。
「…ふぅ」
肉を斬る感触。何故か嫌悪感が湧かない。人を殺してなお正常な状態とも言える自分は、もしかしたらおかしくなっているのかもしれない。
生き残りはいるだろうか。
村中に転がる死体は山賊というよりは村人のものが多い。視界に入るだけでも10人は殺されている。村を見て回っていると遠くから刀のぶつかり合う音を耳が拾った。
「右!…あそこか」
村はずれの大きな家が一軒。そこで交戦している音がする。俺は瞬時にその方面へ足を運ぶ。200mほど離れた場所だ。だが、10秒もかからずに到達する。俺は勢いそのまま障子戸を突き破り、襖に刀を差し込んだ。
時は少し前——。
村が山賊に襲われた。
初めは村に来ていた浪人が人斬りをしたと思っていたが、他に2人も斬られた。山賊の村への襲撃だった。身なりの良い山賊が村へ侵入し、警鐘を破壊。狩猟に出ていた一部の男がいない時間帯の攻撃だ。その後、村付近まで近づいていた山賊全員が襲撃を開始。最初の3人のうち2人は倒したが、もう1人を倒す前に山賊の侵入を許してしまった。
「柊!皆を頼む」
妹の柊も含め、村の女子供を村長の家に匿い、最後の防衛戦になっている。待ち構える戦える男も若い衆ばかりだ。
「兄ちゃんはどうするん!?」
「俺は戦う」
「私も15や、戦うで」
「14だろうが嘘つくな。お前も隠れてろ!」
「嫌や!」
「いうことを聞け!」
「嫌や!!」
柊は昔から男子のように剣術の修行をし、なまじ才能があったからやめることなくこの歳まで刀を振るっていた。兄の歩いた道を真似して剣術に打ち込んだせいで戦えると自称する。間違いなく柊は戦えるだろう。山賊相手にも負けることはない。だが、1対1なら確実に勝てても2対1になれば確実に負ける。ましてや、今回の襲撃は戦える男の数では断然山賊の方が多い。
「おい榎、言い合いしてる時間はねえぞ」
「悪い、正太郎。玄関で待っててくれ」
「わかった。来ないならお前の手柄ももらっておくぜ」
この家で戦えるのは4人。心もとない人数だ。本当は猫の手を借りたいほど追い詰められている。だが、妹には柊には戦って欲しくない。
「兄ちゃん。私は戦う」
「おまっ、その刀!?」
「村長から借りた」
「あのハゲ!」
翔太郎とのやり取りの間に奥の部屋で、村長から刀を借りていた。村の大人、特に老人は柊に甘く、しかも柊の実力しっかりと知っている。戦える戦力として刀を貸し出すのは何もおかしいことではない。
「………」
「兄ちゃん、行くよ」
「死ぬなよ、柊」
「うん!」
怪我ひとつ負うなよ。嫁入り前の娘なんだ。傷つけたら死んだ親父に顔向けできないだろう。俺たち兄妹は村長宅の玄関先に向かい、そこで残虐な光景を目の当たりにした。
「正太郎…」
「ああ、みんな殺された…」
「そんなっ!?」
家屋が燃え始め、村長宅に避難しなかった人が家から這い出ては殺される。隣の口うるさいおばちゃんも殺されてしまった。村の高台にある村長宅からは村の悲惨さをすべて知ることができてしまった。そして村の広場で大立ち回りをする巨漢の男。槍を振るえば2人の大人を串刺しにし、刀で背後からの奇襲すら防ぎ、そのまま、刀ごと斬り落とす。
化け物だ。
「あいつらこっちに来るぞ」
正太郎とは別の同い年の友人、周三が声をあげる。10人ほどの山賊がこちらを目指して向かって来ていた。手が汗をかいている。手練れ、それも相応の手練れだろう。だが、この村には強い侍がいる。その門下生はとても優秀だ。
「おいおい、兄ちゃんら刀持って物騒じゃな」
「てめえらがっ!」
正太郎が敵陣にまっすぐ斬りかかる。
「この人数に単身で突っ込んで来る阿呆がおると———」
正太郎は縮地を使い、距離を詰め、風と土の性質変化の合わせ技で敵の刀を錆びつかせる。
「な!?」
「くたばれ!」
錆びついて脆くなった刀を斬り裂き、山賊の腹を斬る。
「ぐふっ」
「気をつけろ。属性持ちだ!」
属性持ちか。
落ちぶれた連中のよく使う言葉だ。
「狭い道じゃ、効くだろ」
俺は火の性質変化を刀に纏わせ、高さを活かして飛びかかる。
「おらあ!!」
火の太刀の長さは20尺。山賊の隊の中央にいた連中は逃げ遅れた。これで4人は始末した。あと6人だ。左右に分かれた賊は、それぞれが連携して、攻撃を仕掛けてくるが、練度の低さが瞬時にわかる。
「緩いな」
正太郎は右の3人を相手取り、後ろから村長宅防衛の陣営の4人目の浩太が援護に回る。俺と正太郎は火を使った反動でしばらく属性技は撃てないが、まだ3人の属性攻撃が残っている。
「柊」
「任せて」
柊が光の属性攻撃を刀と自身に纏わせる。光の剣術は単純な能力上昇。身体能力の上昇と刀の斬れ味、耐久性の向上。地味だが、とても強い能力だ。しかも持続時間も長い。
「はあ!」
「小娘も属性持ちか!?」
左の3人に斬りかかり、最初の1人を簡単に斬り伏せ、2人目は鍔迫り合い、7回の斬り合いで相手の刀を斬り落とした。
「ふっ、もらった!」
「柊!下がれ!」
俺は咄嗟に縮地で距離を詰め、柊と3人目の賊の間に体を入れ込んだ。前もってわかったのは同じだったからだ。こいつも火の性質を持っていやがる。
光の性質変化は地味で長期戦の力。短期的な力であれば、他の属性が上回る。
「ぐあああああ!」
斬撃は防げても半身を焼かれてしまう。
痛ぇ!
身が焦げようとも、刀からは手は離さんぞ!
「兄ちゃん!?」
「馬鹿な、これを止めるだと!?」
相手の賊も防がれるのは想定していなかったようだ。
視界が霞む。
焼けた左半身が動かねえ。
「止められるのは想定外だが、これで終わりだ!」
「させんよ」
周三が背後から賊2人を立て続けに斬りつける。
「大丈夫か、榎」
「悪りぃ、動かねえわ」
「無理するからだ」
周三は柊を見る。しばし無言だが、言いたいことをは伝えたらしい。柊は相手が1人なら十分に集中できるが、多対一の戦いには慣れていなかった。正直足手まといだろう。連れて来てしまった俺にも責がある。
「柊、榎を連れて戻れ」
「でも!」
「二度は言わんぞ」
「うっ…」
向こうはどうだろうか。正太郎と浩太は押していたし、問題はないだろう。そう思って様子を見たとき、風を切る音とともに——、
けたたましい轟音が背後から鳴り響く。
「え?」
背後を振り返れば、正太郎と浩太が槍の串刺しになっていた。
「頭は、二槍武人と、呼ばれた男。風の投擲槍の、攻撃だ。はっ、ざまあ、ねえな」
満身創痍の賊が口を開いた。周三が瞬時に最後の賊を斬り捨てる。
「正太郎っ」
「逃げ…、ろ」
正太郎の最後の言葉だった。
「ちっ、使えねえ連中だったな。属性持ちで見込みがあると思ったが」
「頭、槍拾いに行きましょうか?」
「ああ?後でいいだろ。大した連中もいねえ。雑魚が何人いようと雑魚は雑魚だ。時間はいくらでもある。ゆるりと奪えばいい」
俺は死体を集め、椅子がわりに使う。この村の連中はなかなかに骨があった。見込み通り、最近増えすぎた使えねえ連中を処分するのにもちょうどいい、食い扶持を減らせるし、食料も女も手に入る。うめえ話だ。
「あそこにたくさんいるな」
俺はこの村で一番でかい家を眺める。先ほど投擲した家だ。
「おい」
「へい」
「一軒一軒きちんとお恵みもらってから火をつけろよ」
「了解しやした」
いかにも三下だな。あいつもついでに殺しておくか。結構でかい村だ。まだ2割ほどしか物色してねえが、先陣切らせた3人で生き残ったのは1人。村の門の制御と警鐘を鳴らされないなかったのは上出来だが、戦える連中の多くを逃したな。
味方連中を眺める。
まだ多いな。
投擲したのは失敗だったかもな。もう10人ほど削ってくれた方が良かったかもしれん。そういう意味では先陣切ってやられた2人は最高の働きだったな。
「北の入り口が騒がしいな。こっちに来るか?」
「頭?」
「なんでもねえよ。あの家、お前らで見てこい」
俺はさらに10人ほどを集め、村一番の大きさの家に向かわせる。ついでに半分以上遣られてこい。俺は近づいて来る強者の匂いに心が昂ぶっていた。一目見て、奇妙な若造だった。まず第一に村の人間じゃねえ。
「ああ?誰だてめえ」
「…お前が山賊の頭か?」
「だからなんだ?」
頭か。そりゃ、俺を殺せれば、この一味は崩壊するなら、頭だろうな。目の前の珍妙な若造は背後からの奇襲を防いでいた。
血が滾るぜ。
俺は柊に抱えられながら、村長宅に戻る。
「くそっ、抜けねえ!」
周三は2人を殺した相手の武器を奪って壊そうと考えたみたいだが、完全に石垣に槍が食い込んでしまっている。血もかかっているから抜けないだろう。
「ちくしょうっ!」
周三は泣きながら槍をどうにかしようとしていた。
「周、先行くぞ」
「…ああ」
半身を焼かれたからか、涙が出ない。
辛い。
痛い。
悲しい。
叫びたい。
心が悲鳴をあげてても枯れた声を出すのが限界だ。
「お札あるから、符術で治せるからっ」
柊も涙を流していた。
ああ、泣くな柊。兄ちゃんはまだ戦える。
意識はしっかりしているんだ。
村長宅に入り、足を引きずりながら、最奥の部屋にたどり着く。襖を開ければ女たちが色々な武器を構えていた。俺と柊だと気づいて武器を下ろす。
「榎、大丈夫か!?」
「村長、今から治療に入ります」
「治療用の札は用意してある」
軒先でまた戦闘音が聞こえる。周三無理はするな。そして足音が聞こえる。
「ここか?」
「何!?」
まだ周三が戦っている音は聞こえる。
「周三が!?」
「あ?あの坊主なら囲んでボコれば十分だろ」
良かった。まだ、周三は死んでない。こいつら戦力を見誤ったな。だが、こっちも属性攻撃を切らした柊と手負いの俺、武器は構えるが戦うことはできない女性陣。
まだだ。まだ、右手と右足は動く。
刀を持って立ち向かう。
「おうおう、勇ましいねえ兄ちゃん。俺は優しいから楽に逝かせてやるよ」
「させない!」
俺の前に柊が立つが、3人の連携攻撃を受け、刀の攻撃は防いでいたが、蹴り飛ばされてしまう。
「あんまり傷つけんなよ」
「くそっ」
「その体じゃ止まってるぜ。刀がよ。」
片手持ちの刀で簡単に受け止められてしまう。下卑た目で皆を見やがって、少しでも1人でも多く、潰すんだ!
血が舞っていた。
斬られたのか!?
…いや、俺の血じゃない。
襖に近いところにいた山賊の頚動脈が斬られている。襖から刀が伸びていた。
「村人じゃねえよな。間違えたとは思わんが」
刀を戻し、襖を開けて変わった服を着た男が出てきた。
そいつは何気ないものを斬ったという感じで、何の抑揚もない喋り口調で、さも世間話を話すかのように喋っていた。
「邪魔だし、斬るぞ」
そして次の瞬間、目の前が赤く染まった。
納刀し、俺は周囲を取り囲む山賊たちに聞こえる程度の音量で静かに告げる。場が緊張しているのか、家屋の燃えるパチパチという音が鳴り響いていた。誰かが息を飲み、足に力を入れる。
「うおおおおお———」
「まず1人」
左下から斬りあげ、胴体を切り裂く。抜刀術の神速の技は斬られた者の意識すら置き去りにした。
「…に、に、逃げろー!」
山賊の1人が背を向けて走り出す。それに釣られて他の山賊も続々と村から逃げ始めた。
「…ふぅ」
肉を斬る感触。何故か嫌悪感が湧かない。人を殺してなお正常な状態とも言える自分は、もしかしたらおかしくなっているのかもしれない。
生き残りはいるだろうか。
村中に転がる死体は山賊というよりは村人のものが多い。視界に入るだけでも10人は殺されている。村を見て回っていると遠くから刀のぶつかり合う音を耳が拾った。
「右!…あそこか」
村はずれの大きな家が一軒。そこで交戦している音がする。俺は瞬時にその方面へ足を運ぶ。200mほど離れた場所だ。だが、10秒もかからずに到達する。俺は勢いそのまま障子戸を突き破り、襖に刀を差し込んだ。
時は少し前——。
村が山賊に襲われた。
初めは村に来ていた浪人が人斬りをしたと思っていたが、他に2人も斬られた。山賊の村への襲撃だった。身なりの良い山賊が村へ侵入し、警鐘を破壊。狩猟に出ていた一部の男がいない時間帯の攻撃だ。その後、村付近まで近づいていた山賊全員が襲撃を開始。最初の3人のうち2人は倒したが、もう1人を倒す前に山賊の侵入を許してしまった。
「柊!皆を頼む」
妹の柊も含め、村の女子供を村長の家に匿い、最後の防衛戦になっている。待ち構える戦える男も若い衆ばかりだ。
「兄ちゃんはどうするん!?」
「俺は戦う」
「私も15や、戦うで」
「14だろうが嘘つくな。お前も隠れてろ!」
「嫌や!」
「いうことを聞け!」
「嫌や!!」
柊は昔から男子のように剣術の修行をし、なまじ才能があったからやめることなくこの歳まで刀を振るっていた。兄の歩いた道を真似して剣術に打ち込んだせいで戦えると自称する。間違いなく柊は戦えるだろう。山賊相手にも負けることはない。だが、1対1なら確実に勝てても2対1になれば確実に負ける。ましてや、今回の襲撃は戦える男の数では断然山賊の方が多い。
「おい榎、言い合いしてる時間はねえぞ」
「悪い、正太郎。玄関で待っててくれ」
「わかった。来ないならお前の手柄ももらっておくぜ」
この家で戦えるのは4人。心もとない人数だ。本当は猫の手を借りたいほど追い詰められている。だが、妹には柊には戦って欲しくない。
「兄ちゃん。私は戦う」
「おまっ、その刀!?」
「村長から借りた」
「あのハゲ!」
翔太郎とのやり取りの間に奥の部屋で、村長から刀を借りていた。村の大人、特に老人は柊に甘く、しかも柊の実力しっかりと知っている。戦える戦力として刀を貸し出すのは何もおかしいことではない。
「………」
「兄ちゃん、行くよ」
「死ぬなよ、柊」
「うん!」
怪我ひとつ負うなよ。嫁入り前の娘なんだ。傷つけたら死んだ親父に顔向けできないだろう。俺たち兄妹は村長宅の玄関先に向かい、そこで残虐な光景を目の当たりにした。
「正太郎…」
「ああ、みんな殺された…」
「そんなっ!?」
家屋が燃え始め、村長宅に避難しなかった人が家から這い出ては殺される。隣の口うるさいおばちゃんも殺されてしまった。村の高台にある村長宅からは村の悲惨さをすべて知ることができてしまった。そして村の広場で大立ち回りをする巨漢の男。槍を振るえば2人の大人を串刺しにし、刀で背後からの奇襲すら防ぎ、そのまま、刀ごと斬り落とす。
化け物だ。
「あいつらこっちに来るぞ」
正太郎とは別の同い年の友人、周三が声をあげる。10人ほどの山賊がこちらを目指して向かって来ていた。手が汗をかいている。手練れ、それも相応の手練れだろう。だが、この村には強い侍がいる。その門下生はとても優秀だ。
「おいおい、兄ちゃんら刀持って物騒じゃな」
「てめえらがっ!」
正太郎が敵陣にまっすぐ斬りかかる。
「この人数に単身で突っ込んで来る阿呆がおると———」
正太郎は縮地を使い、距離を詰め、風と土の性質変化の合わせ技で敵の刀を錆びつかせる。
「な!?」
「くたばれ!」
錆びついて脆くなった刀を斬り裂き、山賊の腹を斬る。
「ぐふっ」
「気をつけろ。属性持ちだ!」
属性持ちか。
落ちぶれた連中のよく使う言葉だ。
「狭い道じゃ、効くだろ」
俺は火の性質変化を刀に纏わせ、高さを活かして飛びかかる。
「おらあ!!」
火の太刀の長さは20尺。山賊の隊の中央にいた連中は逃げ遅れた。これで4人は始末した。あと6人だ。左右に分かれた賊は、それぞれが連携して、攻撃を仕掛けてくるが、練度の低さが瞬時にわかる。
「緩いな」
正太郎は右の3人を相手取り、後ろから村長宅防衛の陣営の4人目の浩太が援護に回る。俺と正太郎は火を使った反動でしばらく属性技は撃てないが、まだ3人の属性攻撃が残っている。
「柊」
「任せて」
柊が光の属性攻撃を刀と自身に纏わせる。光の剣術は単純な能力上昇。身体能力の上昇と刀の斬れ味、耐久性の向上。地味だが、とても強い能力だ。しかも持続時間も長い。
「はあ!」
「小娘も属性持ちか!?」
左の3人に斬りかかり、最初の1人を簡単に斬り伏せ、2人目は鍔迫り合い、7回の斬り合いで相手の刀を斬り落とした。
「ふっ、もらった!」
「柊!下がれ!」
俺は咄嗟に縮地で距離を詰め、柊と3人目の賊の間に体を入れ込んだ。前もってわかったのは同じだったからだ。こいつも火の性質を持っていやがる。
光の性質変化は地味で長期戦の力。短期的な力であれば、他の属性が上回る。
「ぐあああああ!」
斬撃は防げても半身を焼かれてしまう。
痛ぇ!
身が焦げようとも、刀からは手は離さんぞ!
「兄ちゃん!?」
「馬鹿な、これを止めるだと!?」
相手の賊も防がれるのは想定していなかったようだ。
視界が霞む。
焼けた左半身が動かねえ。
「止められるのは想定外だが、これで終わりだ!」
「させんよ」
周三が背後から賊2人を立て続けに斬りつける。
「大丈夫か、榎」
「悪りぃ、動かねえわ」
「無理するからだ」
周三は柊を見る。しばし無言だが、言いたいことをは伝えたらしい。柊は相手が1人なら十分に集中できるが、多対一の戦いには慣れていなかった。正直足手まといだろう。連れて来てしまった俺にも責がある。
「柊、榎を連れて戻れ」
「でも!」
「二度は言わんぞ」
「うっ…」
向こうはどうだろうか。正太郎と浩太は押していたし、問題はないだろう。そう思って様子を見たとき、風を切る音とともに——、
けたたましい轟音が背後から鳴り響く。
「え?」
背後を振り返れば、正太郎と浩太が槍の串刺しになっていた。
「頭は、二槍武人と、呼ばれた男。風の投擲槍の、攻撃だ。はっ、ざまあ、ねえな」
満身創痍の賊が口を開いた。周三が瞬時に最後の賊を斬り捨てる。
「正太郎っ」
「逃げ…、ろ」
正太郎の最後の言葉だった。
「ちっ、使えねえ連中だったな。属性持ちで見込みがあると思ったが」
「頭、槍拾いに行きましょうか?」
「ああ?後でいいだろ。大した連中もいねえ。雑魚が何人いようと雑魚は雑魚だ。時間はいくらでもある。ゆるりと奪えばいい」
俺は死体を集め、椅子がわりに使う。この村の連中はなかなかに骨があった。見込み通り、最近増えすぎた使えねえ連中を処分するのにもちょうどいい、食い扶持を減らせるし、食料も女も手に入る。うめえ話だ。
「あそこにたくさんいるな」
俺はこの村で一番でかい家を眺める。先ほど投擲した家だ。
「おい」
「へい」
「一軒一軒きちんとお恵みもらってから火をつけろよ」
「了解しやした」
いかにも三下だな。あいつもついでに殺しておくか。結構でかい村だ。まだ2割ほどしか物色してねえが、先陣切らせた3人で生き残ったのは1人。村の門の制御と警鐘を鳴らされないなかったのは上出来だが、戦える連中の多くを逃したな。
味方連中を眺める。
まだ多いな。
投擲したのは失敗だったかもな。もう10人ほど削ってくれた方が良かったかもしれん。そういう意味では先陣切ってやられた2人は最高の働きだったな。
「北の入り口が騒がしいな。こっちに来るか?」
「頭?」
「なんでもねえよ。あの家、お前らで見てこい」
俺はさらに10人ほどを集め、村一番の大きさの家に向かわせる。ついでに半分以上遣られてこい。俺は近づいて来る強者の匂いに心が昂ぶっていた。一目見て、奇妙な若造だった。まず第一に村の人間じゃねえ。
「ああ?誰だてめえ」
「…お前が山賊の頭か?」
「だからなんだ?」
頭か。そりゃ、俺を殺せれば、この一味は崩壊するなら、頭だろうな。目の前の珍妙な若造は背後からの奇襲を防いでいた。
血が滾るぜ。
俺は柊に抱えられながら、村長宅に戻る。
「くそっ、抜けねえ!」
周三は2人を殺した相手の武器を奪って壊そうと考えたみたいだが、完全に石垣に槍が食い込んでしまっている。血もかかっているから抜けないだろう。
「ちくしょうっ!」
周三は泣きながら槍をどうにかしようとしていた。
「周、先行くぞ」
「…ああ」
半身を焼かれたからか、涙が出ない。
辛い。
痛い。
悲しい。
叫びたい。
心が悲鳴をあげてても枯れた声を出すのが限界だ。
「お札あるから、符術で治せるからっ」
柊も涙を流していた。
ああ、泣くな柊。兄ちゃんはまだ戦える。
意識はしっかりしているんだ。
村長宅に入り、足を引きずりながら、最奥の部屋にたどり着く。襖を開ければ女たちが色々な武器を構えていた。俺と柊だと気づいて武器を下ろす。
「榎、大丈夫か!?」
「村長、今から治療に入ります」
「治療用の札は用意してある」
軒先でまた戦闘音が聞こえる。周三無理はするな。そして足音が聞こえる。
「ここか?」
「何!?」
まだ周三が戦っている音は聞こえる。
「周三が!?」
「あ?あの坊主なら囲んでボコれば十分だろ」
良かった。まだ、周三は死んでない。こいつら戦力を見誤ったな。だが、こっちも属性攻撃を切らした柊と手負いの俺、武器は構えるが戦うことはできない女性陣。
まだだ。まだ、右手と右足は動く。
刀を持って立ち向かう。
「おうおう、勇ましいねえ兄ちゃん。俺は優しいから楽に逝かせてやるよ」
「させない!」
俺の前に柊が立つが、3人の連携攻撃を受け、刀の攻撃は防いでいたが、蹴り飛ばされてしまう。
「あんまり傷つけんなよ」
「くそっ」
「その体じゃ止まってるぜ。刀がよ。」
片手持ちの刀で簡単に受け止められてしまう。下卑た目で皆を見やがって、少しでも1人でも多く、潰すんだ!
血が舞っていた。
斬られたのか!?
…いや、俺の血じゃない。
襖に近いところにいた山賊の頚動脈が斬られている。襖から刀が伸びていた。
「村人じゃねえよな。間違えたとは思わんが」
刀を戻し、襖を開けて変わった服を着た男が出てきた。
そいつは何気ないものを斬ったという感じで、何の抑揚もない喋り口調で、さも世間話を話すかのように喋っていた。
「邪魔だし、斬るぞ」
そして次の瞬間、目の前が赤く染まった。
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