1人で帰れるはずだった。

神奈川雪枝

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迎えなんていらないっ。

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「迎えに来なくて良いって言ったじゃん。」
彼はいつも定時上がりで、私よりも帰りが早かった。

傘を持たない私に、いつも傘を持って迎えに来る。

大雨の日だけじゃない、小雨でも、雨が降りそうだなって時にも持ってきた。

雨に濡れたら、風邪を引くようなか弱い女だと思っているのだろうか。

彼は迷惑そうでも、やめるタイミングが分からなくなっていやいや来てる訳でもなさそうだった。

照れ隠しでもあって、私はいつも彼に迎えに来なくて良いって言ったじゃん。と一言。
彼は何も言わないで、ただニコニコ私を見ていた。



この日は雨だった。
凄い大雨だった。

なのに、彼は来なかった。居なかった。

でもその時は別に、絶対残業がないって訳でもないんだろうし、仕事なんだと思ってた。

家に着いても、やっぱり彼は居なかった。

さすがに、0時になるのに連絡の一つもないなんておかしいと思い始めて、
ふと、傘を見たら、私の傘もなかった。

なんで?

彼の部屋に入って見ると、彼の仕事用の鞄があった。

突然、電話がなって。

電話は、彼からじゃなかった。
でも、彼についての電話だった。

病院に居るって言われて、急いで向かった。まだ雨は降っていた。

彼の両親もいて、
ひどく落ち込んでいたので、
さっきの電話の内容は嘘ではなかったと思わざるを得なかった。

彼は居た。

ただ、息はしていなかった。

傘が二本、汚れていた。

この謎の行為によって、彼は命を落としたんだと思うと、なんでもっと早くちゃんと、迎えはいらないと言わなかったんだと後悔した。

雨がなんだ。
雨が降った所で、一人で帰れる。
傘なんて買えばいい。

居たたまれなくなって、フラフラと外に出た。
傘を持っていないんだ、私は。
私の傘は、彼が持っていたから。

雨に濡れて、
「だから、迎えに来なくて良いって言ったじゃん。」って言ってたけど、もうその言葉を聞いてニコニコ笑う彼は居ない。

一人で帰れるはずだった。
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