灰色の暗雲に包まれて

神奈川雪枝

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言えない

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その日は雨だった。
まだ午前中だというのに、
灰色のどんよりした空だった。

♪~

着信がなる。

ざぁー。

雨なのか、
ノイズなのか、
ざぁーという音だけが耳に聞こえる。

「もしもし?」
ざぁー
「あの、もしもし?聞こえてます、か?」

「うん。」

「外にいるの?」

「いや、車だよ。
 休憩してた。」

テレクラを始めたのは、
2週間前からだ。
うまく話せたためしがない。

「仕事、何してるの?」
「……。」

ノイズが大きくて聞き取れない。
わかってる。
こういう話がしたくて電話してきてるわけじゃないのは、
わかってる。
どうやって、
そういう流れにもっていっているのか、
私にはわからない。

「なぁ、なにしよん?」

聞きなれない言葉。
しよん?

「家事、してたっ。
 方言、かな?
 どこの人、なの?」

「 徳島。」

イントネーションが違う。

「そっちは、東京?」

「あ、うん。」

嘘ついちゃった。
本当は群馬。

「ええなぁ、東京。」
「遊びきたりしないの?」
「金ねぇーもんな。」

「何歳なの?」
「俺?19だけど?」
「わかいね。」って言った瞬間、やばいと思った。
私もプロフ19歳にしてたかもしれない。
本当は23なのに。

若い方がモテますって説明にあったから、
ほんの出来心だった。

「なぁ、なにしよん?」

「えっと。」

ざぁー。
このノイズに頭がくらくらする。

恥ずかしくて言えない。
下品な言葉は、恥ずかしくて言えない。
とても、声に出せない。

「名前はなんていうの?」

「俺?貞夫。」
「さだお、くんか。」

「なあ。」

「ん?」

ツーツー。

突然無音になって、
電話は切れていた。

30円。

お金ほしくて始めたけど、
とても稼げない。

電話が終わると、
私の心の中も灰色の暗雲が立ち込めるのは、
なんでだろう?
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