魔法をかけて

俺の気持ち

長谷川梨花。

知ってたよ、中学で同じクラスになったときから。

教室で背筋を伸ばして、
静かに本を読んでる女の子だった。


父親は単身赴任してるもんだと思ったら、
もう一つ家庭があって、
どうやらそっちが本当の家庭みたいなのだと、

母親が泣いていたのを聞いた。


そっちの家庭にばれたらしく、
こっちにくると、

私は好きだから受け入れちゃってごめんねと謝られた。


仕方ない、
どうしようもできないと思った。


同い年の娘さんも連れてくると言われた。


家に来たのは、
長谷川梨花だった。

俺は頭の中が真っ白になった。


名前が出てこず、
とっさに物覚えの悪いふりをした。


それから俺たちは一つ屋根の下で暮らすことになった。

けどとくにこれといって変化はなくて、

家でたまに長谷川と話すくらい。


自分がここまで恥ずかしがりやだとは思わなかった。


学校じゃ話さないようにしようというと、
長谷川はすぐにうなづいた。


父親の話で、
俺たちは傷付きたくなかった。


長谷川の作る料理はおいしくて、
よく作っていたと話していた。


最後の日くらい、
一緒に帰りたかったけど、

周りに人がいて、
とても声をかけられる状況じゃなかった。


とぼけて渡したけど、
本当は知ってたよ。

第二ボタンの意味。


知ってて渡したんだ。


よかった、
受け取ってくれて。


本当は高校も同じところにいきたかったけれど、
俺はサッカーで推薦のとれた学校に進むことにした。


どうせ家は同じだからいいだろうと思ったのだ。