愛しいフランス

神奈川雪枝

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ma joie

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「私の趣味はね、洋太だよ。」


彼の腕の中でそう呟く。

返事がない。


彼は眠っているみたいだった。


寂しくて、

ぎゅっと抱きしめる。





出会ったのは、

料理教室だった。


男の人なのに、珍しいなって思った。


専業主夫になりたいから来ましたっていってた。


私も専業主婦になりたいからきたよっていったら、


僕たち、需要は同じだね。って笑った。


私たちたちは、

お互い求めるばかりで、

与える事が少なかった。


供給がないから、

寂しい。


お願い、この寂しさを埋めてよと、

彼の胸板をなぞるが、

すやすやと規則正しく寝息を立てている。


私ばかりが、眠れなかった。


私だけが彼の寝顔を知っている。


私だけが知っている。



料理教室には若い男性は洋太しかいなくて、

彼が話しかけられていると、

私はひどくもやもやした。


「あやめだけだよ。」と、
彼はベッドで囁いてくれるが、

そんなの信用ならないと思った。


ベッドでの言葉と、
夜の電話での言葉は、

信ぴょう性が低いと思う。


前はそんなでもなかったのに、

最近は私とあっていても、
スマホばかりを見ているね。


底知れぬ寂しさが、

私を襲う。

私の趣味は、洋太なの。

四六時中考えている。

洋太は違うの?


「俺はね、フットサルでしょ、ゲームでしょ、漫画でしょ、動画サイトでしょ、
 うまい飯も食いたいし、服だって好きだよ。」

前に洋太に趣味はあるのかと聞いたら、
いっぱいあると答えた。

私は?

私は洋太の趣味じゃないの?


洋太の好きなものじゃないの?


とひどく落ち込んだ。

「旅行も行きたいし、ジムだって楽しいしなぁ。」

埋めないで、

私以外のことで洋太の時間を埋めないで、


独り占めしたいよ。


掴めないと思った。

私だけが満たされなくて、
寂しいって思った。

だからなんか連絡とるの嫌になって放置してたら、

いきなり電話がかかってきて、

「寂しいじゃん。」って、
洋太がつぶやいた時は、
とても嬉しかった。


私だけが好きな訳じゃないと思った時が、
なによりの喜びだ。
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