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6歳の僕♢学園編 3♢
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文化祭が終わると、最終学年である僕達3年生は卒業試験一色に染まる。
必修科目はもちろん、選択科目もそれぞれに卒業試験や卒業課題があるから、試験日に向けての勉強や訓練、特訓、課題の制作等に皆必死に取り組んでいる。
必修科目は全て座学なので試験日は皆統一。
試験日も決まってるから皆その日に合わせた配分で勉強をする。
厄介なのが選択科目。
選択科目は試験日がそれぞれ異なるから、1日にいくつも試験が控えてる人もいれば、課題ばかり重なってる人もいる。
それぞれが上手く配分して試験に備えるのだ。
僕は選択科目も座学のものばかりなので、筆記試験か課題提出での評価になる。
今までの学園生活内容や試験結果も大事だけど、この卒業試験は特にこの先の就職に強く影響する。
過程での努力ももちろん大事だし、判断基準にはされるけど、最終的な実力、その実力を出さなければ行けない日に自分のベストを合わせる技量、上手く立ち回る為の判断能力等、色々な面でこの卒業試験は見られている。
国に仕える場合は特に厳しく判断されるのだろう。
今頃王宮側でも忙しくしているんだろうな、などと見知った顔の人達を思い浮かべていると、ルーがお茶を入れて邪魔にはならない、しかし目に良く入る位置に置いてくれた。
そろそろ休憩して欲しいと思ってる時の合図だ。
僕は集中すると時間を忘れてしまう事がよくある。
呼びかけても気が付かないこともあるから、ルーはいつからかこうして直接的に休憩させようとしてくるようになった。
多分声をかけてから置いてくれてるんだろうけど、また集中し過ぎていたらしい。
今日もその声かけには気付けなかった。
「ありがとう、ルー。いただくね。」
「はい、お菓子はこちらに。」
「うん、ありがとう。
今はもう大丈夫だから、また夕食の時間に呼びに来て?」
そう声をかけると、ルーは心配げな顔をしながらも、静かに礼をして部屋を出て行った。
僕は今、自宅で課題のレポートを書いている。
もう通常の授業は殆どないし、たまに選択科目に出たりするくらい。
だから最近は学園に通う日がほとんどない。
ミー兄様のいない日は常に家で学習している。
文化祭が終わると3年生は部活動も引退で、後輩に後を引き継ぐ事になっている。
生徒会の仕事も、例に漏れず次期生徒会メンバーに引き継がれた。
僕はミー兄様の補佐だったから、引き継ぎは全て兄様がしてくれたけれど、文化祭準備と並行して引き継ぎしてたから、大変だったと思う。
次期会長は僕達の代で副会長を務めていた侯爵家の人だ。
ディー兄様やミー兄様の様に特別な華はないけれど、質実剛健といった感じの、真面目で清廉な人だ。
教師陣からの信頼も厚い。
我が家とも浅からず繋がりがあるらしい。
生徒会の仕事もなくなったミー兄様は今、選択科目の遠征試験で一昨日から2週間ほど家を空けている。
昨年のこの時期にはディー兄様も何度か遠征試験には行っていたので、そういった試験があるのは知っていた。
ディー兄様も文化祭の翌日から仕事で3ヶ月ほど王都を離れると言って屋敷を空けている。
第3騎士団は王都内が管轄の筈なのに、なぜ?と思ったけれど、仕事なら仕方ない。
騎士の仕事は機密な事案も多いだろうし、詳しくは詮索できない。
いくら寂しくても、僕から我儘を言うことはできない。
それに兄様達が結婚し、僕も家を出れば、この兄様達が一緒じゃない日々が日常になる。
ミー兄様はあと12日で、ディー兄様も日程の変動があると言っていたけれどあとふた月半もすれば帰ってくるはずだ。
大丈夫、まだずっとお別れって訳じゃない。
それも分かっている。
頭では分かっているけれど、最近寂しさを紛らわせる為に、勉強や課題に一層のめり込むようになった。
自分でも自覚している。
ルーがそれを酷く心配してくれてるのも知っているけれど、何かしていないと酷く不安になってしまうんだ。
ルーが入れてくれた美味しくて温かい紅茶を、少し俯き飲み込みながら、暗く沈みそうになる心を何とか宥める。
最近何だか気持ちが落ち込む事が多くなってる気がする。
僕は卒業したらきっと家に戻るけれど、兄様達は2人とも王宮に勤めに出てしまうから、それがすぐそこに離れる日常が迫ってきているように感じてしまってるのかもしれない。
一昨日の夜、ベッドに1人で眠るのが初めてで、その心細さに思わず泣きそうになってしまった。
前世では1人で眠るのなんて当たり前だったはずなのに、僕はこんなに弱かっただろうか…。
今日も1人で眠るのか、と考えると途端に夜が来るのが怖くなった。
泣きたくなんてないのに、目に涙が浮かんでくる。
自然と体がふるり、と震えた。
カップの中身を零しそうになって、慌ててソーサーの上にカップを戻し、机に置く。
細かく震え出した手を膝の上で握り込むと、横から柔らかな鱗に覆われた手にそっと包み込むように重ねられた。
隣を見ると、リディが瞳を心配そうに陰らせて見上げてきている。
「リディ……」
リディが、大丈夫だよ、と言うように僕の手をそっと撫でる。
温かくて優しいその手付きにひとりじゃないよと言われているような気がして、先程とは違う涙が込み上げてきた。
ぎゅっとリディに抱きついて、込み上げる涙を見られないように目を固く瞑り、顔を隠すように埋める。
勉強机に座っている僕と、その隣に立っているリディは、今丁度同じくらいの高さだ。
リディの首元に擦り寄るようにして、必死に心を落ち着けようとしていると、閉じた瞼の向こうから光が弾けたのが見えた。
固く瞑った瞼の裏から感じる程の光に驚いてリディから体を離すと、目の前には浅黒い褐色肌の、綺麗な美少年が膝を付いて僕に肩を掴まれていた。
その瞳は漆黒。
肩下までの、少し硬そうな癖のある髪は鈍く紫にも光る黒。
彼は自身の姿を目線だけで確認すると、僕に視線を合わせてふわりと花が綻ぶように笑った。
「レティシオ、我が華よ。
やっとお前と言葉を交わせる。」
目の前の彼は、凛とした耳に心地よい声でそう言うと、僕の唇にそっと口付けてきた。
僕は驚きに声も出せず、抵抗もせずに彼の漆黒の吸い込まれそうなその瞳をただただ凝視する。
そんな僕の様子を気にも留めず、その程よく筋肉の付いた褐色の靱やかな腕で、彼は僕を閉じ込めるように抱きしめてきた。
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