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6歳の僕♢学園編 3♢

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王子が僕に会いに来て1週間ほどで、父様の忙しいのは落ち着いたらしく、また父様に連れられて偶に魔法の訓練をしに王宮に行けるようになった。
それでもやっぱり頻度はかなり少ないし、兄様達は変わらず忙しいので、僕は専ら家で読書か、リディと2人での秘密のお茶会か、母様とお茶を共にするか位しかしていない。
学園にももう卒業式まで行くことはなさそうで、自然と学園長室にも行っていないから、学園長さんと魔道具の話も出来ないでいる。
僕のこれから作ってみたい魔道具図案は、溜まっていく一方だ。
そんな皆が忙しい中でも、今年の僕の誕生日はいつも以上に豪華に、家族はもちろん使用人も総出でお祝いしてくれた。
寂しい思いをしている事に、皆気がついてくれているのかもしれない。
もう少し大人になれますように、と誕生日の日に願うお願いを心の中で呟いた。





そのあとも変わらず過ごしていたある日。
卒業式ももう目前という日に、父様が朝から僕の部屋を訪ねてきた。
朝食も終わって、いつもならもう王宮に仕事に行っている時間なので、不思議に思いながら出迎える。
父様は複雑そうな顔をして僕を抱きしめると、僕を王宮に伴って行くから支度させるように、とルーに指示を出した。
父様が事前に知らせずに予定を入れるのは珍しくて、僕は首を傾げて見上げてしまう。
父様は、心配要らないよ、とだけ言って僕の頭を撫で、支度が出来たら玄関エントランスに来るようにと言い置いて部屋を出ていった。



僕はそのままルーに連れられ衣装部屋でいつも王宮に着ていくものとは比較にならない位に豪華な衣装を着せられ、装飾品で飾られ、肩ほどまでに伸びている髪を撫で付け整えられ、あっという間に支度を終えた。
いつの間にこんな社交する為みたいな衣装を用意していたんだろう?と不思議に思いながらも、リディと手を繋ぎ、ルーにエスコートされながら廊下を渡り、階段を降り、父様の待つエントランスに向かった。
エントランスに既に居た父様は、先程朝食の場で着ていたものとは違う、こちらも繊細な意匠の社交用の装いをしていた。
夜会に行く時のものとは雰囲気が違うけれど、顔も整っていて格好良い父様には凄く似合っていた。
さり気なくお揃いの色使いをしていたり、ペアの装飾品を付けていたりと、僕を伴っての意味がエスコートの役割も含めているのだと知れて、俄に緊張した。



もしかして、今日いきなり僕は社交デビューさせられるのだろうか?
まさか、そんな、何の心構えもなく…?と内心混乱している僕を余所に父様は低く響くいい声で、それでは行ってくる、と使用人達に告げて、僕をエスコートし馬車に乗り込む。
馬車に隣合うように座り、不安げに見上げる僕の髪を、父様は髪型が崩れない様に優しく撫でてくるだけで何も言わなかった。
自然と父様とは反対隣に座っているリディの手をぎゅっと握ってしまう。
リディはそんな僕の手を、宥めるように撫でてくれた。
ベルとルーは、僕達の対面に座っている。
力関係上、父様が進路方向に向く形になる最奥に座り、僕がその隣、僕と手を繋ぐリディが自然と一番戸口側に。
使用人のベルとルーは、進行方向に背を向ける形で座り、この中で一番下にあたるルーが下座になる1番戸口側にいる。
父様の専属執事のベルと、恐らくだけどルーも今日の用向きを知ってるんだろう。
細かい指示がないのにこの衣装を迷うこと無く着せた位だから。
誕生日の日に大人になろうと決めたのだからと、不安に思う気持ちをルーに向けないよう、王宮に着くまでの時間をひたすら心を落ち着け、何があっても対処出来るようにと色々なパターンを想像しながら過ごした。




我が家の馬車は、王宮正門からノーチェックで通され、馬車用通路を回り、王宮の入口ではなく、王族も使用する奥まった場所にある発着口に停車した。
そこでは簡単な確認を受けているようで、馬車の出入口が開く迄には少し時間が掛かった。
王宮の従者が声をかけてきて扉を開き、まずルーとベルが順に降りて、僕より先に父様が降りていった。
それから僕をエスコートするように父様から出された手を取って、リディと共に降りる。
降りる時にリディが喉をクルクルと鳴らしているのに気がついて、人型の時にリディが言っていたことを思い出した。
リディも本当は僕のエスコートをしたいのだと。
でも竜体の時には大きさ的にも無理であるから、我慢しているのだと、それはそれは残念そうに言っていた。
喉を慣らしている今も、その様な事を考えているんだろうな、と思ったら心が凪いで、緊張に強ばった顔が解けた。
僕は今日もリディの存在に救われている。



豪奢で広い回廊を進む。
この辺りに来るのは初めてだな、と思いながら歩く。
度々王宮には来るけれど、ここは王族の居住区にも近しい気がする。
限られた人しか入れない区域だろう。
父様の執務室の辺りの雰囲気に似ているから、そうなのではないかと察した。
暫く歩いて辿り着いたのは、大きく荘厳な両開きの扉の前。
扉前には、その場を守るようにして宮廷騎士の制服を纏った騎士が2人。
その騎士に案内してくれていた従者が、僕達の来訪を告げると共に、中への謁見を求めた。



『謁見』



その言葉で薄らと察してしまった。
ここは国王陛下への謁見場の中のひとつなのだろう。
どれ程の規模の部屋なのかは入ってみないと分からないけれど。
僕と陛下が公的に謁見する用向きには未だに検討もつかないけれど、どうやら父様も一緒に入ってくれるようだし、用向きや実際に言葉を交わすのは父様なのだろう、と。
そこまで考えて、自分に大丈夫、大丈夫、と言い聞かせた所で、騎士が扉をゆっくりと開いた。




扉から見える室内奥には数段分の階段があり、その高台の上に玉座が見えた。
扉から玉座のある高台の階段までを、質のいい幅広のカーペットが道を作っている。
その両サイドにはこの国の重鎮や高位権力者達。
玉座の傍には宰相さん。
玉座寄りの両サイドには学園長さんや魔道士団長さん、総括騎士団長さんもいる。
その他の騎士の人は各団長さんだろうか?
あっ、総括騎士団長さんの隣にディー兄様、宰相さんの近くにミー兄様もいる。
他の重鎮だろう方々は見た事もない方が多い。
社交デビューもしていない僕は限られた人しか知らない。
父様にエスコートされるまま、カーペットの上を進み、そっと現状把握に努めた僕は、ここに居るのが凄い顔ぶれなんだろう事は直ぐに分かったが、ますます用向きが分からなくなった。
でも、この雰囲気は社交デビューではない事は確かだろう。



カーペットの中程より少し前方辺りで止まり、跪く形で礼をとり、陛下が来られるのを待つ。
謁見自体も初めてなので、習った礼儀作法通りに顔も伏せ、目線だけで隣の父様を伺うが、父様も顔を伏せているので、目線で会話する事もできない。
父様も兄様もいるこの場で、僕の不利益になる事は起こらないだろうと半ば自己暗示をかけつつ待つと、程なくして宰相さんが、陛下の登場を告げた。
ちなみに、リディはルーとベルと一緒にここに来る途中にあった控えの客室にいる。



空気の動く気配で、陛下が玉座に腰掛けたのを感じると、直ぐに面を上げるようにと告げられた。
言われた通り、顔を上向ける。でも視線は下げたままを保つ。
今日はいつも以上に慎重に、礼節ある態度と所作を心掛ける。



「よい、2人とも楽にせよ。
マガリット公爵よ、そちの末息子は相変わらず聡明だの。」


「お褒め頂き光栄です、陛下。」



陛下が父様をマガリット公爵、と呼んだ。
僕もいる時点で分かってたけど、やっぱりこれは仕事ではなくて公爵家としての謁見らしい。
そして父様は、今日も謙遜は無しらしい。
どこまでも父様だ。そのブレなさに、何だか少し気持ちが落ち着いた。



「うむ。今日はその聡明なそちの末息子の、この国に対する多大な貢献を称え、勲章、並びに栄誉ある地位を与えようと思う。」


「ありがとうございます。」




父様が、惑うことなく感謝を述べたその陛下の発言に、軽く俯き目線を下げたままの僕は激しく混乱した。
国への貢献って何?
陛下からの恩賞を賜るって事だよね?何で?
訳が分からないままの僕に、陛下は優しく語りかけてくる。



「レティシオよ。」


「はい、陛下。」



僕にお声をかけられたので、顔と共に目線も上げる。
目は直接見ずに、口元辺りで目線を止めると、陛下が苦笑いしたのが分かった。



「そちにはこれからも国の為に尽くして貰いたい。
詳しいことは帰ってから公爵に聞くといい。
また会う時まで壮健に過ごせよ。」


「身に余るお言葉、有難く存じます、陛下。」



僕に何も知らせてなかったのは、陛下の意思によるものだったんだろうか。
分からないけれど、何とか恥にならないよう言葉を返し、また頭を下げる。
陛下はそのまま、それではな、と告げて謁見の間から出て行かれた。
父様に促されるまま手を取り従者の先導の元、父様のエスコートでリディ達が待つ客室に向かう。
僕の頭の中は今、邸を出た時よりも増えたハテナでいっぱいだ。





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