出来心、あるいは、必然。~デキる年下同僚を買ってしまった件~

穂祥 舞

文字の大きさ
32 / 82
12月

2-③

しおりを挟む
 晃嗣は朔にくすくす笑われながら、腕を引かれて浴室から出た。そして小さな子どものように、大きなバスタオルに包まれて、丁寧に水滴を拭いてもらう。向かい合う朔の、素っ裸の腰回りに視線が勝手に行こうとするので、晃嗣は無理矢理首を右にねじる。
 朔は晃嗣の肩にふわりとバスローブを掛け、手早く自分も身体を拭く。少しのぼせた晃嗣は、彼の腕の筋肉がしなやかに動くのを、見るともなしに視界に入れていた。

「はい、お待たせしました」

 朔は自分もバスローブを羽織り、晃嗣の手を取った。そして手を繋いだまま、ばかでかいベッドに直行する。晃嗣は言われるがまま、ベッドに座った。股間の収まりがはなはだよろしくなかったが、それを朔に悟られたくなかった。
 朔は小さな冷蔵庫に向かい、扉を開く。

「喉渇きましたよね」
「あ、ありがとう」

 朔はキャップを開けて、冷たいペットボトルを手渡してくれた。ふた口冷えた水を食道に通すと、自然と長い吐息が出た。朔も喉が渇いているだろうと思った晃嗣は、ペットボトルを彼に手渡し、左に座った彼が水を飲むのを眺める。

「美味しい、柴田さんもういいの?」

 朔に言われて、じゃあもうちょっと、と晃嗣は答えた。しかし彼は自分が水を口にした。もしかすると彼のほうこそ、さっきのキスで興奮したのではないかと思い、晃嗣は胸をきゅっとさせた。
 気を散らしていた晃嗣は、いきなり肩を掴まれ、そのまま柔らかい枕の上に押し倒されて、何が起きたのか咄嗟とっさに理解できなかった。

「えっ、う……っ!」

 朔は唇をぎゅっと晃嗣の唇に押しつけてきた。強い力でこじ開けられたかと思うと、冷たい液体が口の中に流れ込んでくる。晃嗣は本能的な危機感のようなものから、喉を鳴らして水を飲み込んだ。わずかにこぼれた水が、熱い頬の表面をついと撫でた。
 そっと唇を離し、目を細めた朔は、晃嗣の頬を指先で拭いながら満足気に言った。

「美味しいですか? じゃあもうひと口」

 再び水を口に含んだ朔は、今度はゆっくり唇を重ねてきた。彼の動きに合わせて口を開くと、さっきよりも沢山の水が口内に入ってくる。晃嗣はそれを零してしまわないように、ゆっくりと飲み下す。冷たくて美味しいと思う余裕があった。名残惜しげに唇が離れたと感じたのは、晃嗣自身がそう思っていたからかもしれなかった。

「……上手に飲めましたね、ご褒美に柴田さんのして欲しいことをこれからしますよ」

 まろい声で優しく囁かれ、晃嗣の胸のどきどきがまた大きくなる。柔らかくて冷たい唇が左の耳たぶをそっと挟み、首に伝い降りる。背筋がぞくぞくして、それだけで声が出そうだった。
 晃嗣が求めた訳でもないのに、朔はまた口づけしてきた。自分の唇を味わうように少しずつ唇をつけ直してくるのが気持ち良くて、晃嗣は積極的に彼に応じる。どちらからともなく口を開き、そのまま舌を絡め合った。
 こんなにキスに夢中になったのは、たぶん初めてだった。湿った音を聴きながら、晃嗣は朔の頬を両手で包む。愛おしい、もっと欲しい。唇が離れると、あっ、とつい不満気なな声が出てしまう。

「駄目ですよ、キスだけで時間いっぱいになっちゃう……」

 朔は何げに晃嗣の脚に自分の脚を絡めて来ながら言う。晃嗣は彼の頬を手で挟んだまま、彼の声を聞く。

「ちんちんときんたま、さっきめっちゃきれいにしてましたよね? 口でしてほしいからですか?」
「えっ! あっ、それは……」

 見ていたのか! ぱっと手を離して焦る晃嗣を見つめながら、朔は唇に笑いを浮かべた。

「ご希望を聞かせてください」
「ああ、その、えっと、お任せします」
「駄目です、教えてくれないとしません」

 晃嗣はこれまで出会ったネコの男性たちに、フェラチオをしてくれと頼んだことはない。自発的にしてくれると嬉しかったが、しなくても別に不満は無かった。
 確かに朔には口でしてほしいとずっと考えていたし、それを想像しながら手淫もしていた。しかし実際彼に自分から頼むなんて、羞恥のあまりうつむくしかない。

「どうしたんですか、柴田さんはお客様ですから、遠慮なく僕に命じてくだされば」
「めっ命じるだなんて、俺はきみを従えたい訳じゃなく」

 晃嗣が必死で繰り出した言葉に、ぷっと朔は吹き出した。

「これは僕の言い方が悪かったですね、では教えてください」

 むしろ朔が晃嗣に答えることを強いていた。どちらの立場が上なのか、さっぱりわからない。朔はにやにやしながら早く、と晃嗣を急かした。晃嗣は諦めて、彼から顔を背けつつ言った。

「口でしてほしいです……」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...