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早春の言祝ぎ
15:30
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プライベートでメトロの東西線を使うのは、久しぶりである。奏人は留学前に神楽坂の古いマンションに暮らしていて、彼の自宅を訪れる機会はそんなに無かったものの、いろいろな思い出がある土地になった。奏人と何度か行った小さな銭湯は、全面改装するときに、暁斗の会社にロッカーなどを特注してくれた。奏人が帰国してから1度しか一緒に行っていない(その時番台のお母さんが二人の関係を実は以前から察していたと告白したのが笑えた)ので、また顔を出さないといけないなと暁斗は思う。
早稲田駅の改札を出たところで、後ろから肩を叩かれた。振り返ったその場にいたのは、山中穂積企画部長補だった。相談室の立ち上げメンバーは、今日全員招待されていると聞いている。暁斗はつい職場モードで挨拶してしまう。
「おはようございます」
「業界挨拶するなよ、奏人は?」
山中はお洒落さんである。今日は前髪をほぼ全て上げて、すこし紫味のあるダブルのスーツを、上品に着こなしていた。普段のスーツ選びでは負けていないと暁斗は自負するが、礼装はちょっと勝てないなと思う。
人の連れ合いをなれなれしく呼ぶなと思いつつ、暁斗は答える。
「披露宴の余興のリハーサルで先に着いてます」
「え、奏人何するの?」
「清水くんから聞いてないですか? 歌の伴奏でピアノを弾くんです」
おお、いいね、と山中は楽し気に呟いた。大学の先輩でもあり、同性愛者としても人生の先達である彼に、暁斗はいろいろ世話になっているが、どうも素直にそれを認められない。暁斗が奏人と知り合ったのは、端的に言えば山中のおかげなのだが、暁斗には未だに弱みを握られているようにしか思えなかった。
「あいつバカじゃねえの、奏人にそんなことさせたら自分が霞むのに」
山中は新郎を罵りつつ笑った。清水は飲みの席でいつも何故か山中に絡み、酔っぱらって山中のマンションに転がり込むこともよくあったために、お互い気安い。
「歌うのは新婦さんのお友達です、奏人さんはそっちから頼まれたんです」
「へぇ……まあ奏人がどれくらい場を掻っ攫うか楽しみだわ」
山中の言葉は決して大げさではない。奏人は目立つのだ。端麗な容姿に、溢れる知性と意外性のあるオープンさ。それらは奏人が持って生まれたものだが、彼が努力して磨き上げたということを暁斗は知っている。暁斗はそんな彼が自慢である反面、自分が彼に相応しくないとたまに痛感させられるので微妙だ。
「桂山さん、山中さん! こんにちはっ」
エスカレーターを上がったところで、また後ろから声をかけられた。総務部長補の大平早希だった。山中と二人して目を見はる。「鉄の女」の呼称を頂く普段の彼女とは、随分趣が違ったからである。丁寧にアイメイクを施し、髪をきっちりと結い上げて、イヤリングとネックレスを煌めかせ、ボルドーの膝丈のドレスをコートから覗かせている。彼女が元々スタイルが良いことに暁斗は気づいていたが、普段地味なパンツに隠されている脚は、予想以上にすらりと美しかった。
「ちょっと、二人とも見惚れてる? マジですか? あなたたちがゲイでなかったら、だんなにクッソ自慢できるのに~」
大平のテンションが高い。暁斗は思わず言う。
「大平さん、既に飲んでます?」
「まさか、これから清水くんが良いお酒を出してくれるのに飲んでなんか来ないわよ」
「いや、お綺麗だとマジで思ったんですけど、テンションおかしいです」
暁斗が言うと、前半しか聞いていない大平は、暁斗の背中をばしばしと3度叩いた。結構力が強い。
「嬉しい、だってめっちゃ気合い入れて来たもの! 身内以外の結婚式にお呼ばれなんて12、3年振り? もっとかしら?」
「俺たちがゲイでも自慢したらいいじゃん、確かに成人した息子がいるとは思えないけど、ちょっと派手じゃない?」
山中はにやにやしながら言った。すれ違う人たちが、自分たち3人に生温い微笑みを送っている。すぐそこのホテルでこれから結婚式なのだな、と思われているのだろう。
「いいのよ、花嫁さんのドレスと色がかぶらないかちゃんと清水くんに確認したし」
「そういう問題ではなく……」
大平は山中の言葉をスルーして、急かすように先を行く。結婚式というのはどうも、新郎新婦だけでなく、出席者もハッピーにするものらしい。まあそうであるべきだろう。自分も飲み過ぎないようにしないと。暁斗は自戒した。
早稲田駅の改札を出たところで、後ろから肩を叩かれた。振り返ったその場にいたのは、山中穂積企画部長補だった。相談室の立ち上げメンバーは、今日全員招待されていると聞いている。暁斗はつい職場モードで挨拶してしまう。
「おはようございます」
「業界挨拶するなよ、奏人は?」
山中はお洒落さんである。今日は前髪をほぼ全て上げて、すこし紫味のあるダブルのスーツを、上品に着こなしていた。普段のスーツ選びでは負けていないと暁斗は自負するが、礼装はちょっと勝てないなと思う。
人の連れ合いをなれなれしく呼ぶなと思いつつ、暁斗は答える。
「披露宴の余興のリハーサルで先に着いてます」
「え、奏人何するの?」
「清水くんから聞いてないですか? 歌の伴奏でピアノを弾くんです」
おお、いいね、と山中は楽し気に呟いた。大学の先輩でもあり、同性愛者としても人生の先達である彼に、暁斗はいろいろ世話になっているが、どうも素直にそれを認められない。暁斗が奏人と知り合ったのは、端的に言えば山中のおかげなのだが、暁斗には未だに弱みを握られているようにしか思えなかった。
「あいつバカじゃねえの、奏人にそんなことさせたら自分が霞むのに」
山中は新郎を罵りつつ笑った。清水は飲みの席でいつも何故か山中に絡み、酔っぱらって山中のマンションに転がり込むこともよくあったために、お互い気安い。
「歌うのは新婦さんのお友達です、奏人さんはそっちから頼まれたんです」
「へぇ……まあ奏人がどれくらい場を掻っ攫うか楽しみだわ」
山中の言葉は決して大げさではない。奏人は目立つのだ。端麗な容姿に、溢れる知性と意外性のあるオープンさ。それらは奏人が持って生まれたものだが、彼が努力して磨き上げたということを暁斗は知っている。暁斗はそんな彼が自慢である反面、自分が彼に相応しくないとたまに痛感させられるので微妙だ。
「桂山さん、山中さん! こんにちはっ」
エスカレーターを上がったところで、また後ろから声をかけられた。総務部長補の大平早希だった。山中と二人して目を見はる。「鉄の女」の呼称を頂く普段の彼女とは、随分趣が違ったからである。丁寧にアイメイクを施し、髪をきっちりと結い上げて、イヤリングとネックレスを煌めかせ、ボルドーの膝丈のドレスをコートから覗かせている。彼女が元々スタイルが良いことに暁斗は気づいていたが、普段地味なパンツに隠されている脚は、予想以上にすらりと美しかった。
「ちょっと、二人とも見惚れてる? マジですか? あなたたちがゲイでなかったら、だんなにクッソ自慢できるのに~」
大平のテンションが高い。暁斗は思わず言う。
「大平さん、既に飲んでます?」
「まさか、これから清水くんが良いお酒を出してくれるのに飲んでなんか来ないわよ」
「いや、お綺麗だとマジで思ったんですけど、テンションおかしいです」
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