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スウィーツ・エキスパンド・アット・コーベ
13:00②
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奏人はほどなくして現れた。暁斗は嬉しくなって、思わずその華奢な姿に向かって手を振った。彼はその体には大きく見えるビジネスバッグを肩にかけ直し、マスクの上の目を笑いの形にして、暁斗のそばに来てくれた。
「ちょっと早めに着いてうろうろしてたんだ、でなかったら工事もしてるし、ほんとに分からなかったかも」
「正直助かったよ……」
暁斗は奏人と、行けるはずなどと言いながらJRの駅構内を突っ切った。阪神電鉄の乗り場をやっと見つけて、奏人が道順の確信を得たので、ホテルに荷物を置きに行った。大きな道に面したホテルだったが、中に入ると静かで、ロビーは落ち着いた雰囲気だった。今夜泊まる旨を告げると、フロントの男性は気安く2人の荷物を預かる手続きをしてくれた。
軽装になり再度JRの三ノ宮駅に向かった。さっき落ち合った場所の反対側にあたるが、そこのほうがより賑やかで、大きな交差点には、沢山の車やバスが行き交っている。暁斗はその場所が、かつてこの辺りに甚大な被害をもたらした大地震のニュースで、よく映し出されていたことを思い出す。今はその傷跡も見当たらず、真っ青な空がひたすら眩しかった。
食事をする場所が多そうなので、エスカレーターから地下街に入った。奏人が昼食にリクエストしたのは、うどんだった。
「関西の出汁を体験したい」
「ああ、なるほど」
地下街は人でごちゃごちゃしていたが、見つけたうどん店は昼のピークを過ぎていたらしく、すぐに入ることができた。暁斗は奏人と一緒に手を合わせていただきます、と言い、薄い色の出汁に浸かったうどんを口にする。つるっとした舌触りのうどんは、やや香ばしい匂いを纏っていた。かつおの出汁だろうか。暁斗は懐かしさに思わずため息が出る。
「以前大阪に出張に来た時に、部下がうどんかそばが食べたいって言ったんだ……その子は首を傾げてたけど、悪くないとあの時も今も俺は思う」
奏人はきれいな箸遣いでうどんを口に入れ、頷く。
「僕もこの味好き、井上さんに聞いたんだけど、薄口しょうゆを使うんだってね」
井上さんとは、大阪南部出身の奏人の同僚である。3月に結婚して清水さんになった。夫が暁斗の会社の人間なので、奏人と一緒に結婚式に呼んでもらった。
奏人は続ける。
「出汁の色が黒くなくて美味しそうに見えるよね、塩分は薄口のほうが高いらしいけど、かつおの出汁の風味とか残すなら薄口なんだって」
暁斗は噛みしめたうどんを飲み込み、言った。
「へぇ、繊細なんだなぁ」
「ネットでレシピ手に入るから、薄口しょうゆ使って関西風で煮物作ってみようかな」
「わ、期待する」
暁斗は出されたお茶を飲みながら、早くも幸せな気分になる。出汁の染みた薄いあげも柔らかく美味で、軽い昼食だったが、満足して店を出た。
そのまま地上に出ると、大きな商店街だった。奏人は並ぶ店には興味がなさそうで、商店街を抜ける。暁斗は強い日差しに少し俯きながら、彼に訊いた。
「行きたいとこあるの?」
「お菓子屋さん……ほんとは本店に行きたかったんだけど、ちょっと行きづらいみたいだから、元町方面の店舗に」
もうケーキを食べるのか。奏人がお菓子は別腹の人種であることは承知しているが、うどんを食べたばかりなのに。そう言うと奏人は、あっさりと答えた。
「だからお昼は軽い目にしたんだよ、ほんとなら炊き込みご飯のセットにしたかったけど」
奏人はスマートフォンの画面で地図を確認しながら、西に足を進めた。居並ぶ小洒落た喫茶店の前を素通りして、暁斗はふと、普段嗅ぐことのない匂いが微かに嗅覚をくすぐるのに気づく。
「……潮の香りがしたような……」
暁斗の言葉に、奏人はそうだね、と同意してくれた。
「こっち側が海だよ、見えないけどそんなに遠くない感じ」
奏人は地図を見ながら、細くて長い指を左側に向けた。繁華街を歩いているとそんな感じがしないのだが、神戸は港町なのだ。
「ちょっと早めに着いてうろうろしてたんだ、でなかったら工事もしてるし、ほんとに分からなかったかも」
「正直助かったよ……」
暁斗は奏人と、行けるはずなどと言いながらJRの駅構内を突っ切った。阪神電鉄の乗り場をやっと見つけて、奏人が道順の確信を得たので、ホテルに荷物を置きに行った。大きな道に面したホテルだったが、中に入ると静かで、ロビーは落ち着いた雰囲気だった。今夜泊まる旨を告げると、フロントの男性は気安く2人の荷物を預かる手続きをしてくれた。
軽装になり再度JRの三ノ宮駅に向かった。さっき落ち合った場所の反対側にあたるが、そこのほうがより賑やかで、大きな交差点には、沢山の車やバスが行き交っている。暁斗はその場所が、かつてこの辺りに甚大な被害をもたらした大地震のニュースで、よく映し出されていたことを思い出す。今はその傷跡も見当たらず、真っ青な空がひたすら眩しかった。
食事をする場所が多そうなので、エスカレーターから地下街に入った。奏人が昼食にリクエストしたのは、うどんだった。
「関西の出汁を体験したい」
「ああ、なるほど」
地下街は人でごちゃごちゃしていたが、見つけたうどん店は昼のピークを過ぎていたらしく、すぐに入ることができた。暁斗は奏人と一緒に手を合わせていただきます、と言い、薄い色の出汁に浸かったうどんを口にする。つるっとした舌触りのうどんは、やや香ばしい匂いを纏っていた。かつおの出汁だろうか。暁斗は懐かしさに思わずため息が出る。
「以前大阪に出張に来た時に、部下がうどんかそばが食べたいって言ったんだ……その子は首を傾げてたけど、悪くないとあの時も今も俺は思う」
奏人はきれいな箸遣いでうどんを口に入れ、頷く。
「僕もこの味好き、井上さんに聞いたんだけど、薄口しょうゆを使うんだってね」
井上さんとは、大阪南部出身の奏人の同僚である。3月に結婚して清水さんになった。夫が暁斗の会社の人間なので、奏人と一緒に結婚式に呼んでもらった。
奏人は続ける。
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暁斗は噛みしめたうどんを飲み込み、言った。
「へぇ、繊細なんだなぁ」
「ネットでレシピ手に入るから、薄口しょうゆ使って関西風で煮物作ってみようかな」
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