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いちねんとはじめてをいわう
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事故死だったとは思わず、悪いことを訊いたと暁斗は思った。母親は看護師で、夫を亡くしてから一人で隆史と妹を育て、4年制大学を卒業させたという。
看護師の給料は少なくはないが、2人の子を東京の大学に行かせるには、厳しかっただろう。それで隆史が妹のためにも、ゲイ専デリヘルでアルバイトをするという選択をしたというのは、想像に難くなかった。
山中は店員を呼ぶべく、テーブルの上のボタンを押した。
「桂山、食い物適当に選べ……それで、極端な年下と交際してる俺たちってショタコンな訳?」
暁斗はメニューを開き、奏人と隆史にも見せながら、否定した。
「俺は違います、今まで交際してきた女性も年齢は近かったです、奏人さんはたまたまです」
「何でそんな攻撃的に回答するんだよ」
店員が来ると、若い二人は、チーズ春巻きだのヤンニョムチキンだの、濃そうなものばかり頼んでいる。暁斗は刺身の盛り合わせとシーザーサラダを追加し、山中がビールを4つオーダーした。
「俺だって隆史はたまたまだ」
「でも山中さんが高校生の時に隆史さんが産まれたって考えると凄いですね」
暁斗の指摘に、奏人はうわぁ、と目を見開いた。隆史は何故か恥ずかしそうである。
「父親でもおかしくないんだ……」
「成人以降は年齢の差は関係なくなるんだよ」
山中はややぶすったれて言った。ああでも、と奏人は視線を上にやった。
「僕自分がゲイだって完全に自覚したのは高校生の時ですけど、小学6年生の時に大学4回生の男性に憧れたことがあるんですよ、成人してなくても年齢差は関係ないのかも」
暁斗は奏人の告白に仰天する。彼の「かなり年上好き」は確固たる指向なのだ。すると隆史も、やはり少し恥ずかしそうに話し始めた。
「僕は小学校5年と6年で初めて男の先生が担任になって、2年間うきうきして過ごしました……すっごいその先生のこと好きだったんですよね、今思えば男性への初恋でした」
「その時先生いくつぐらいだったの?」
「20代後半です、同窓会に一度いらしてて判明して、当時はお兄ちゃんみたいに思ってたから一人でびびりました」
暁斗はあ然とし、山中は手を叩いて爆笑した。
「おまえらほんとどうかしてるわ」
隆史の担任の話は、山中も初耳だったようだ。奏人は笑いながら山中に反論する。
「そんな変態じゃないですよ、女性だって20年上の男性に恋したりするじゃないですか」
「いやまあそりゃそうだけどさ」
暁斗は笑い声の中、複雑な感情を持て余す。奏人がこれまで本気で愛した男性の数は、暁斗の知る限りそんなに多くない。そのせいか、彼の小学生の頃の話は、憧れただけだとしてもちょっと引っかかる。今使っているこの店のオーナーが、おそらく奏人のかつての客で、今も何らかの繋がりがあるらしいことだって少々ショックだ。……とそこまで考えて、暁斗は自分が案外嫉妬深いことに気づかされる。
「よく考えたら父が生きてた頃にそれだったんですよね、僕の年上好きにファザコンは関係ないような気がしてきました……」
隆史がぽそっと言うのが可笑しくて、暁斗は自分の薄暗い感情に関する思索を止めた。自分も天然とたまに言われる暁斗だが、隆史はかなり天然のようである。
「素質にファザコンで上積みされたんだよ、きっと」
大真面目に答える奏人も可笑しい。その時料理がどっさりやってきて、若い2人はわぁっと盛り上がった。暁斗は店員の持つビールを受け取って、全員に回す。
「料理美味しいな」
山中は割とグルメなので、彼が言うなら間違いは無さそうだった。奏人もいろいろなものを小皿に取りながら、嬉しそうである。暁斗はビールをゆっくり飲む隆史に訊く。
「こっちのお皿で食べたいものあったら言ってくださいね」
隆史はあ、と言いながら、遠慮がちに春巻きとサラダを所望する。彼はきっと体調が良くない頃は、まともに食べることもできなかったのではないかと思う。暁斗は2枚の取り皿に、チーズの春巻き、そしてシーザーサラダのドレッシングがしっかりかかった部分を取り分ける。
看護師の給料は少なくはないが、2人の子を東京の大学に行かせるには、厳しかっただろう。それで隆史が妹のためにも、ゲイ専デリヘルでアルバイトをするという選択をしたというのは、想像に難くなかった。
山中は店員を呼ぶべく、テーブルの上のボタンを押した。
「桂山、食い物適当に選べ……それで、極端な年下と交際してる俺たちってショタコンな訳?」
暁斗はメニューを開き、奏人と隆史にも見せながら、否定した。
「俺は違います、今まで交際してきた女性も年齢は近かったです、奏人さんはたまたまです」
「何でそんな攻撃的に回答するんだよ」
店員が来ると、若い二人は、チーズ春巻きだのヤンニョムチキンだの、濃そうなものばかり頼んでいる。暁斗は刺身の盛り合わせとシーザーサラダを追加し、山中がビールを4つオーダーした。
「俺だって隆史はたまたまだ」
「でも山中さんが高校生の時に隆史さんが産まれたって考えると凄いですね」
暁斗の指摘に、奏人はうわぁ、と目を見開いた。隆史は何故か恥ずかしそうである。
「父親でもおかしくないんだ……」
「成人以降は年齢の差は関係なくなるんだよ」
山中はややぶすったれて言った。ああでも、と奏人は視線を上にやった。
「僕自分がゲイだって完全に自覚したのは高校生の時ですけど、小学6年生の時に大学4回生の男性に憧れたことがあるんですよ、成人してなくても年齢差は関係ないのかも」
暁斗は奏人の告白に仰天する。彼の「かなり年上好き」は確固たる指向なのだ。すると隆史も、やはり少し恥ずかしそうに話し始めた。
「僕は小学校5年と6年で初めて男の先生が担任になって、2年間うきうきして過ごしました……すっごいその先生のこと好きだったんですよね、今思えば男性への初恋でした」
「その時先生いくつぐらいだったの?」
「20代後半です、同窓会に一度いらしてて判明して、当時はお兄ちゃんみたいに思ってたから一人でびびりました」
暁斗はあ然とし、山中は手を叩いて爆笑した。
「おまえらほんとどうかしてるわ」
隆史の担任の話は、山中も初耳だったようだ。奏人は笑いながら山中に反論する。
「そんな変態じゃないですよ、女性だって20年上の男性に恋したりするじゃないですか」
「いやまあそりゃそうだけどさ」
暁斗は笑い声の中、複雑な感情を持て余す。奏人がこれまで本気で愛した男性の数は、暁斗の知る限りそんなに多くない。そのせいか、彼の小学生の頃の話は、憧れただけだとしてもちょっと引っかかる。今使っているこの店のオーナーが、おそらく奏人のかつての客で、今も何らかの繋がりがあるらしいことだって少々ショックだ。……とそこまで考えて、暁斗は自分が案外嫉妬深いことに気づかされる。
「よく考えたら父が生きてた頃にそれだったんですよね、僕の年上好きにファザコンは関係ないような気がしてきました……」
隆史がぽそっと言うのが可笑しくて、暁斗は自分の薄暗い感情に関する思索を止めた。自分も天然とたまに言われる暁斗だが、隆史はかなり天然のようである。
「素質にファザコンで上積みされたんだよ、きっと」
大真面目に答える奏人も可笑しい。その時料理がどっさりやってきて、若い2人はわぁっと盛り上がった。暁斗は店員の持つビールを受け取って、全員に回す。
「料理美味しいな」
山中は割とグルメなので、彼が言うなら間違いは無さそうだった。奏人もいろいろなものを小皿に取りながら、嬉しそうである。暁斗はビールをゆっくり飲む隆史に訊く。
「こっちのお皿で食べたいものあったら言ってくださいね」
隆史はあ、と言いながら、遠慮がちに春巻きとサラダを所望する。彼はきっと体調が良くない頃は、まともに食べることもできなかったのではないかと思う。暁斗は2枚の取り皿に、チーズの春巻き、そしてシーザーサラダのドレッシングがしっかりかかった部分を取り分ける。
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